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そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 作者:月夜 涙(るい)

三章:おっさんは手を伸ばす

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第十六話:おっさんは肉を食らう

【紅蓮の火山】のボス争奪戦に向けて裏口を確認しにいったが、無事見つかって良かった。あれがないとかなり強引な手を使うことになった。

 ボス占有クラン、【紅蓮の猟犬】どもの手口はかなりやくざだ。
 人数が多いことをいいことに数日前から交代で扉の前に居座って場所を確保し、本隊がそいつらと後から合流する。
 そして、クリア役の数組のパーティを先に行かせ、残りはほかの冒険者が扉の先へ進むのを妨害するのだ。
 性質たちが悪いのは強引にどかそうとすると、急に被害者面をしだすし、そもそも竜の扉の前に最低で四パーティ、十六人は残していく。

 数の力は厄介だ。
【紅蓮の猟犬】は冒険者としては一流半~二流どまりだが、四倍の人数相手に勝負する気にはならない。
 一度、正義感の強いパーティがいくつかのパーティと結託して挑んだことがあるが、争っている間に先に行った【紅蓮の旅団】にボスを取られた上に、その後はダンジョンの内外問わずに嫌がらせを受け続け、フレアガルドから出ていく羽目になった。

 今回のボス争奪戦での理想は、裏口から迷路に入って、あいつらと顔を合わさないままにボス部屋にたどり着くこと。
 ……まあ、たぶんそれは無理だな。
 なにせ、トップを走るということは誰より多くの魔物と遭遇するということ、二番手以降は一番手が魔物を倒しているから進行速度が速い。かならずどこかで追いつかれる。
 手を考えないとまずいな。

「ユーヤ、お腹空いた!」

 考えを中断する。
 宿のベッドに寝転がっていた俺の腹の上にルーナが乗っている。そのまま、もふもふのキツネ尻尾を振るものだからくすぐったい。
 牛肉(上)への期待でいっぱいの表情だ。

「お姉ちゃん、あのお肉を使ってどんな料理を作るのかな」
「楽しみね。フィルさんはなんでもうまくこなして憧れるわ」

 今は宿に戻っており、フィルの料理の完成を待っていた。

「ルーナ、男の上に乗るなんてはしたないぞ。降りなさい」
「ん? でも、フィルもユーヤの上に乗ってた。裸で」

 冷汗が流れる。
 ……砂漠のテントに忍び込んだときのことをルーナはしっかりと覚えているようだ。
 横目でティルとセレネを見てみる。
 ティルは口元を押さえ、にっしっしと変な笑いをしており。
 セレネは顔を赤くして目を背けていた。

「ユーヤとフィル、楽しそうだった。ルーナにも同じことして!」

 おそらく天然だろう。
 ルーナはあのとき、俺が何をしていたのかを分かっていない。

「その、だな、あれは恋人同士じゃないとやったらダメなことなんだ」
「じゃあ、ルーナもユーヤの恋人になる」
「……それはできない。恋人を作っていいのは十六からだし、恋人は一人までと決まってる」

 記憶喪失のルーナの年齢はわからない。ただギルドの冒険者登録などで年齢が必要だったため、便宜上十四歳にし、俺と出会った日を誕生日としていた。

「残念、あきらめる。年齢、十六歳にしとけば良かった」

 ルーナが俺のお腹から下りて、膝を抱えて座りこみ、キツネ尻尾をぺちんっぺいんっとベッドに叩きつける。ちょっと拗ねたときの反応だ。本人は不機嫌なのだろうが、その仕草は可愛い。

「ユーヤ兄さん、その誤魔化しかた無理があるよ」

 その横で、ティルが口を押えて笑い転げていた。なかなかいい性格をしている。
 とりあえず、ルーナがあきらめてくれてよかった。
 何も知らない幼気な少女に手を出すような外道になるつもりはない。
 扉が開く、フィルが大きな鍋を持って上がってきた。

「いったい、何があったんですか?」

 膝を抱えてキツネ尻尾をベッドに叩きつける不機嫌そうなルーナ、笑い転げているティルを見て、フィルが不思議そうにつぶやく。

「……あれだ。ルーナがわがままを言ってな、そのわがままが面白くてティルのツボに入ったらしい」
「そうなんですか。面白そうですね。あとで話を聞かせてください」

 優しくフィルが微笑み、それがさらにティルのツボに入る。

「まあ、そのうちな。それより夕食にしようか。牛肉(上)なんてご馳走、冷ましてしまうのはもったいない」

 肉という言葉で、ルーナの不機嫌は吹き飛び、ティルの笑いも止む。

「ユーヤ、早く席について」
「お姉ちゃん、お料理まだ下にあるよね。配膳手伝うよ」

 あまりの変わり身の早さに呆然とする。ルーナとティル、彼女たちは色んな意味で自由だ。

 ◇

 いい部屋を借りたので、大きな机と人数分以上の椅子が備え付けられており、食事をするのに困らない。
 全員が席につき、フィル特製料理が並んでいた。

「香ばしい匂い!」
「美味しそう!」
「ええ、見ているだけでお腹が空くわね」

 フィルが用意したのは牛肉料理二種類に、付け合わせのサラダとスープだった。

「あまりにもいいお肉だったので、変に手を加えずに、肉の味が素直に味わえるステーキとローストビーフにしました。食べてみるとわかりますが、このお肉は美味しいだけじゃなくて面白いですよ。三種類のソースを作ってあるので、それぞれ好きなソースを使ってくださいね」

 ステーキとローストビーフか。確かにいい肉があるならこれ以上の調理法はない。
 ソースが三種類あるのも気が利いている。
 それぞれに好みがあるし、それぞれを味わうことで飽きないで済む。

「じゃあ、食べようか」
「わーい!」
「やっとありつけるよ」

 俺の言葉と同時に、お子様二人組ががっつき始めた。
 俺も食べよう。
 まずはステーキから手を付ける。分厚く切られたステーキにナイフを落とすとストンと抵抗なく切れる。なんて柔らかさだ。

 レアに焼き上げられており、表面は焼けているが中はピンク色。
 口に入れると、肉が溶けていく。
 肉と脂の甘味が口いっぱいに広がる。脳にしびれがくる。凄まじい多幸感。それでいて、まったく口の中がしつこくならない。
 柔らかい肉なんて表現だとまだ甘い、これは飲める肉だ。
 これはもはや快楽だ。
 手と口が止まらない。

 いつもは賑やかなルーナとティルの二人も無心で食べ続けていた。
 こんな肉があるとは驚きだ。貴族や商人どもが大枚はたくのも頷ける。
 気が付いたらステーキが消えていた。

 次はローストビーフに向かう。
 美しいルビー色に輝いている。
 違和感があった。あのステーキからすると、脂身がたっぷり入った霜降り肉だと思ったが、ローストビーフを見る限り、良く運動して健康的に引き締まった上質の赤身肉を思わせる。これはどういうことだろう?

 考えるのは止めよう。食べてみればわかる。
 むっちりとした歯ごたえが心地よい。適度が歯ごたえがあるのに、しっかりと噛み切れる。
 濃厚な肉の味。さきほどの脂の甘さとはまったく違う肉そのものの旨味だ。
 こちらも悪くない。いや、いい。野性的でありながら上質。
 肉を喰らう充実感はステーキを上回る。
 気が付けばローストビーフもなくなっていた。

 ……合計、400g食べたのに、まだまだ食べたいと思ってしまう。
 普段は付け合わせのパンやサラダ、スープとバランスよく楽しむのだが、我を忘れて肉ばかり食べてしまった。
 それはみんなも同じようだ。
(上)でこのレベルか。(特上)ではどんな肉だろう……。このレベル帯では手に入らないが、いずれ口にしたいものだ。

「ユーヤ、すっごく、すっごく美味しかった。また食べたい!」
「不思議なお肉だったね。ステーキもローストビーフも美味しかったけど、まるで別のお肉みたいだった。ねえ、ルーナはどっちが好きだった?」
「うーん……どっちも大好きだけど、ローストビーフ。お肉って感じがした! ティルは?」
「私はステーキのほうかな。ステーキのほうが幸せって感じがしたもん」

 二人がユーヤは? と目で聞いてくる。
 難しい問題だ。

「そうだな、俺はどちらかというとローストビーフかな。理由はルーナと同じで肉を食ってるって気がする。それにしても不思議だ。フィル、いったいこれはどういう肉だったんだ?」

 調理したフィルに問いかける。
 この違いは調理で出せるものじゃない。

「私も驚いたのですが、ちょうど真ん中で上質な赤身肉と霜降り肉に分かれているんです。だから赤身はローストビーフ、霜降り肉はステーキにしました」

 いい判断だ。
 霜降り肉をローストビーフにしてもあまり美味しくないし、逆に赤身肉をステーキにしたら固くなりすぎてしまう。

「ティルに料理を任せて良かった。どっちの肉にも適した調理法だ」
「ありがとうございます。これだけいいお肉ですから、調理にも緊張しました」
「お姉ちゃんはさすがだね。ユーヤ兄さん、お姉ちゃんはいいお嫁さんになるよ。さっさと結婚しちゃいなよ。お姉ちゃんだって三十になるまでに結婚したいでしょ?」
「もう、ティル! からかわないでください!」

 フィルが顔を真っ赤にして妹に向かって怒る。

「ティルの言うことも一理あるな。冒険がひと段落したら結婚するのもいいかもな」
「ユーヤ、ほんとですか」
「こんな嘘をつくわけがないだろ。まあ、フィルの気持ち次第だが」
「もちろんしたいです!」

 フィルが立ち上がり、大きな声をあげる。
 そして、恥ずかしそうに顔を押さえながら座る。
 普段はしっかりしているのに、こういう可愛らしいところを時折見せてくれるのが好きだ。
 視線を感じる。

 セレネが何か言いたそうな顔で俺を見ていた。
 そちらを見ると視線を逸らす。
 もしかしたら……。いや、言葉にするのは止めよう。
 それは野暮だ。

「ごほんっ、恥ずかしいところを見せてごめんなさい。サラダとスープがしっかり食べてくださいね。それが片付けば、デザートを出します。久しぶりにケーキを焼きました」
「やった、お姉ちゃんのケーキすっごい美味しんだよ!」
「ケーキ! ルーナは甘いもの好き」

 フィルの手作りケーキは久しぶりだ。
 お子様二人組ほどではないが、俺もはしゃぎたくなる。
 付け合わせを全部食べてしまおう。
 そして、恋人のケーキを楽しむのだ。

 ◇

 食後は休憩してから、日課である夜の訓練でルーナとセレネを鍛えた後は、体を清め眠りについた。
 寝つきが悪かったので、ベッドを抜け出し窓際で椅子に座り、月を見ながらグラスを傾ける。

 二人の成長は速い。
 ルーナはすでに九種の斬撃のうち三つをマスターした。刺突、横薙ぎ、切り上げ。
 この三種があれば、大抵の状況に対応できる。

 低身長のルーナであれば、残り六種が求められるのは特殊な状況だ。九種のマスターを優先するより、動く敵の急所に当てるほうへと訓練をシフトしたほうがいい。
 セレネは、俺の受け流し技術を六割ほどマスターしていた。彼女の場合は実戦で動きが硬くなりすぎなのがネックだ。
 そちらもフォローしないと。

 ……この才能ある二人なら、たぶん一年もするころには教えることがなくなるだろう。
 レベル上げも順調だ。
 レベル上限に到達するまで、並みの冒険者なら十年以上かかるが、冒険で得た経験と、ゲーム知識を組み合わせれば、レベル上限に到達するまで二年と見込んだ。

 だけど、今のパーティ、才能がある彼女たちとなら一年でたどり着いてしまうだろう。
 本当になんて成長速度だ。
 剣術やレベルによる強さだけじゃなく、ルーナたちは探索技術や魔物知識もどんどん吸収し、本当の意味で一流の冒険者になりつつある。

「なーに、たそがれているんですか」

 後ろからフィルが抱き着いてくる。
 ルーナたちが眠っているせいか大胆だ。

「ルーナたちの成長について考えていた。……フィルとレナードも天才だと思ったが、この子たちも負けていない」
「そうですね。受付嬢を十年やっていましたが、こんな冒険者たち見たことがないです。ユーヤの教え方がいいんですよ」

 フィルが椅子を持ってきて俺の前に座り、グラスに酒を注ぐ。

「……今だから言えるが、レナードやフィルを育てながら、俺はひどい劣等感を抱えていた。あっという間に俺を追い越して、届かないところまで行ってしまうおまえたちを見ていると悔しかったんだ。同時にそんな小さな自分が惨めで嫌いで、死にたくなった……パーティを抜けたのは、足を引っ張ることを恐れたからだけじゃない。おまえたちが眩しすぎたからだ」

 レナードとフィルは才能の塊で素人同然だったはずなのに、すぐ俺の技と知識を吸収してしまい、ステータスもどんどん伸びていき俺よりも強くなった。
 初めは弟子の成長を素直に喜べていたし、師匠と慕う二人を愛おしく思っていた。
 だけど、どうしても嫉妬の炎が胸を焦がす。
 どうして、俺はこの子たちとは違う? なぜ、俺にはステータスがない。
 ……弟子の成長を喜ぶ気持ちは存在したが、同時に胸の内には黒い感情が渦巻ていた。

「気づきませんでした。いつもユーヤは優しくて、厳しくて、私たちを導いてくれていたから」
「大人だからな。そう簡単に本音は見せないさ」

 俺にもプライドはある。師匠と慕う奴らの前でかっこ悪い感情を表に出せない。

「なら、今もルーナちゃんたちに嫉妬しているんですか?」

 俺は薄く笑いグラスを傾ける。

「いや、人並み以上のステータスを手に入れた今は、ただ弟子の成長を無邪気に喜べる。……それが、どうしようもないほどにうれしいんだ。自分を嫌いにならずに済む」

 ルーナたちを見てももう嫉妬しない。
 あの頃抱いたぐしゃぐしゃで黒い気持ちがない。
 ステータスが低いという呪いからやっと俺は解放されたと実感がわく。

「ふふっ、ユーヤが弱さを見せてくれるなんて初めてかもしれない」
「弟子に、こんな恥ずかしいこと言えるわけがないだろ」
「なら、なんで私にこんなことを言ってくれたんですか?」
「今のフィルは弟子じゃなくて恋人だからな。対等な相手なら、かっこ悪いところも見せられる」
「うれしいです」

 そう言うとフィルが唇を押し当ててくる。

「明日も早い、そろそろ寝ようか」
「はい、そうしましょう」

 フィルと二人手を繋いでベッドに戻る。
 長年ため込んだ毒を吐いて気が楽になった。
 フィルという対等な存在には救われている。こんなことルーナたちには絶対に言えない。
 心が軽くなった。これで明日からも頑張れそうだ。

 
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