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第十三話:おっさんは肉で釣る

 ギルドに足を踏み入れる。

 出発前に【死蠍の劇薬】の収集クエストの報告をすませ、ついでにクエストを受注しておくためだ。

 ルーナたちにはギルドの併設されている酒場で待ってもらい、俺は受付に向かう。


 フレアガルドのダンジョンは最低でも適正レベルが30からだ。それゆえに、ここに来る冒険者たちは、最低でも中堅クラスで物腰からして違う。

 そのせいか、独特の張り詰めた空気が流れている。

 宿の世話や、【死蠍の劇薬】のクエストを紹介してくれた受付嬢の前に座る。


「ユーヤさん、お帰りなさい。【砂漠の運河】に行くと聞いていたので心配しておりました」

「なんとか、帰ってこれたし、クエストも達成できた。指定の数の【死蠍の劇薬】だ」


【死蠍の劇薬】を魔法袋から出して広げる。

 それは猛毒を持つサイレント・デススコーピオンのドロップアイテム。

 中位以上のポーションや解毒薬、高級な香水の原料になるため、需要も値段も高い。

 受付嬢がポーションを検品していく。


「よく、短期間でこれだけの数が揃えられましたね……というより、よく生きて戻れましたね。サイレント・デススコーピオンの群れにでも会わない限り、こんな数揃わないですし、サイレント・デススコーピオンの群れに会えば全滅するパーティも少なくありません」

「群れを一掃したら、一気に数が揃ったよ」

「きっと、パーティに範囲攻撃を使いこなせる魔法使いがいらっしゃるのですね」


 結局、【黄金のピラミッド】をクリアするまでに、サイレント・デススコーピオンの群れに三回遭遇した。

 俺たちじゃなければ死んでいたかもしれない。

 ルーナの【ドロップ率向上】スキルのおかげで、一度目の群れで規定数は集まっていたのに、さらに二回も群れに遭遇したせいで大量の【死蠍の劇薬】が魔法袋の容量を圧迫していた。


「生きて帰ってこれてなによりです。こちらが報酬です」

「ありがとう」


 高額の報酬を受け取る。

 ただでさえ高価な【死蠍の劇薬】がクエストで割り増しになっているためかなりの金額になる。


「ユーヤさん、あの、言いにくいのですが。実は、最近、ポーションと解毒薬の需要が、上がっていまして、それなのに、なかなかみんな、サイレント・デススコーピオンと戦ってくれなくて【死蠍の劇薬】の数が不足しているんです」

「サイレント・デススコーピオンとの戦いは命がけだ。一つ間違えれば、毒にやられて生きながら食われるからな」


 ああいう、一発もらってしまえば死に繋がる魔物を冒険者は避ける。

 命あっての物種だ。

 ましてや、隠密性に優れて群れで行動する相手なんて冗談じゃない。


「それでですね。クエスト、別の業者から来ちゃったんです。それも緊急クエストで。ギルドとしてはできないとは言えなくて……。【砂の運河】以外にも、サイレント・デススコーピオンが出るダンジョンを紹介するので、集めてきてくれませんか」

「わかった。そのクエストを受けよう」

「助かります!」


 ギルド嬢がクエスト内容を記された紙を提示してくる。

 内容は、クリア報告したものとほぼ同等。

 ただ、緊急クエストのおかげで買い取り価格がさらに割り増しだ。


「ふむ、この量なら余りで十分だ」


 魔法袋から、クエスト報告した分とは別の【死蠍の劇薬】を取り出す。


「へっ?」


 ギルド嬢が目を丸くする。


「これでクエスト達成だな」


【ドロップ率上昇】は本当に便利だ。

 ルーナのように最高レベルまで上げていると、ドロップ率は二倍以上。

 レアドロップも手に入りやすいし、数を集めるものも楽になる。

 一つの群れで、規定数が集まっていたのだ。その後に二回も群れに襲われて必要数がないはずがない。


「あっ、ありがとうございます。あの、ユーヤさん。まだ、あるようなら【死蠍の劇薬】を買い取りますよ」


 ギルド嬢がにこやかに問いかけてくる。


「じゃあ、あと二つだけ余っているから売っておこう」

「二つだけ……ですか。では二つ目のクエストと合わせて清算処理をしますね」


 残念そうに受付嬢が俺が最後に渡した二つの【死蠍の劇薬】を見る。ギルドとしても【死蠍の劇薬】の収集クエストを多く受けるのでストックしておきたかったのだろう。


 実は二つしかないというのは嘘だ。

 あと一回クエストを達成するだけの【死蠍の劇薬】が残っている。

 ポーションという需要が多い消耗品の素材は、クエストに出る頻度が多い。


 ほぼ間違いなく、この街に滞在している間にあと一回ぐらいは収集クエストが出される。

 通常価格で売るのはバカらしい。クエストが出たときのために取っておくと、クエスト価格で買い取ってもらえるし、ギルドポイントも加算されるのだ。


「それと、今からまた別のダンジョンに潜ろうと思う。行先は、【紅蓮の火山】。そこで達成できるクエストを紹介してほしい」

「それなら、いくつかいいものがありますよ。再配置からずいぶん経っているので、魔物が倒されているかもしれませんが、あそこにいる、あった、あった。牛肉(並)の収集クエストです。レッド・ホーンを倒せば集められますよ」


 受付嬢がいくつかクエストを紹介してくれる。

【死蠍の劇薬】の通常買い取りはできなかったものの、厄介なクエストを二つ消化したおかげで、かなり親切な対応だ。

 この世界はギブアンドテイク。

 ギルドも、ギルドに貢献する冒険者には手厚くサポートしてくれるのだ。

 それにしても牛肉か。レッド・ホーンは通常ドロップでは、牛肉(並)だが、滅多に出ないレアドロップで牛肉(上)をドロップする。

 牛肉(並)ですら、極上のうまさだ。牛肉(上)になればどれほどうまいのだろうか?

 何度か手に入れたことがあるが、貴族や大商人が金に糸目をつけずに買ってくれるのですべて売ってしまっていた。

 ルーナの【ドロップ率上昇】があれば、一つぐらい手に入るかもしれない。

 今は金銭面で余裕がある。

 手に入ったら、みんなで美味しくいただこう。


 ◇


 クエストを受注して、ルーナたちを待たせている酒場へと向かう。

 なかなか、実入りのいいクエストがあった。この調子でいけばフレアガルドにいるうちに、銀等級の冒険者になれるかもしれない。

 銀になるとギルドの利用料を割り引いてもらえるし、ギルドの推薦で通常では受けれないクエストも受けられる。

 さらに金等級になると世界が変わる。早くランクを上げたいものだ。


「みんな、待たせたな。クエストの報告が終わった。次に行くダンジョンも決まったぞ」

「ユーヤ、次のダンジョン、楽しみ」

「砂漠以外だったらどこだっていいよ。暑いのはしんどいよ」


 お子様二人組が残っていたジュースを一気に飲み干す。

 俺は苦笑する。俺がいつも一人で受付にいくのには相応の理由がある。

 今回の交渉でも、ルーナがいれば俺が所持数を間違えていると思って、【死蠍の劇薬】がまだあると言ってしまっただろうし、そうでなくても他にも俺たちにはいろいろと秘密がある。


「砂漠じゃない。次は【紅蓮の火山】だ。フレアガルドにある唯一のボスが登場するダンジョンだが、とっくにボスは倒されている。今回はレベル上げとボス争奪戦のための下見だ。しっかり道と地形を覚えろよ。ボス争奪戦は時間との戦いだ」


 みんなこくりと頷く。


「名前からして暑そう」

「フレアガルド、こういうダンジョンばっかだよぅ」


 ここはそういう街だ。土と鉱石と炎の街。

 グリーンウッドが快適過ぎたのだ。

 キツネとエルフ、この二つの種族は寒さには強いが暑さには弱い。

 こういうときは、餌で釣ろう。


「そんなことを言っていいのか。適正レベル30を超え出すと、レアドロップで信じられないほどうまい肉がドロップする。今までの(並)じゃなくて(上)だ。常識を超えたうまさだぞ。そして、【紅蓮の火山】には牛肉をドロップする魔物がいる」


 どこか気の乗らなさそうだったルーナとティルがぱーっと目を輝かせる。


「がんばる! ルーナは牛肉が大好き。今まで食べた牛肉よりずっとずっと美味しいなんて楽しみ! 気合をいれて狩りつくす」

「ユーヤ兄さん、それを早く言ってよ。今宵の三日月は血に飢えてるよ!」


 ルーナとティルはそれぞれの得物を手入れし始めた。

 現金な子たちだ。


「ユーヤ、ルーナちゃんの【ドロップ率上昇】があれば牛肉(上)は手に入るかもしれませんが、売ればすごい金額になるのに食べちゃっていいんですか?」

「まあな、昔と違って金に余裕がある。俺も楽しみたいし、おまえたちにも楽しんでほしい」


 最近、そう思うようになった。ただ強くなるだけじゃだめだ。楽しんで笑いながらみんなで強くなっていきたい。


「エルリク、おまえは初陣だな。しっかりとサポートしてくれよ」

「キュイッ!」


 ルーナの肩の上に乗っているフェアリー・ドラゴンが元気よく返事をする。

 そこがお気に入りの場所らしい。

 さあ、行こうか。新たなダンジョンへ。きっちりとボス争奪戦の準備をしつつ強くなる。そして、ご馳走を手にいれるのだ。

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