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第五話:おっさんは魔法戦士になる

 宿で一晩明かし、ルーナと二人でギルドにやってきた。

 ルンブルクではクラスを得られると言っても毎日やっているわけではない。

 週に一度、希望者を集めて冒険者としての基礎知識を叩き込む講演を行ってから、希望したクラスを与えていく。今日はたまたまその日だった。

 国が冒険者の支援をするために補助金を出しているからこそ可能なことだ。


「ルーナ、眠そうだな」

「昨日、ユーヤにもらった本が面白くて、ずっと読んでた」


 ルーナは記憶喪失だ。

 知っていて当たり前のことを知らないというのは危険なので、冒険者向け、それも初心用の本を買い与えた。


 ルーナは勉強熱心で、本をきっちりと読みこみつつ、色々と質問をしてきた。

 その質問の仕方が、自身が冒険者になったときのことを想定している質問で感心したものだ。

 こういう子は伸びる。


「今日の講習は本で学んだことの復習にもなる。よく聞くように」

「ん。ただで学べるチャンス。しっかり活かす」


 ……そして、この子は結構ケチというか金銭面でしっかりしている。


「だな。それがこの国のためでもある」


 冒険者がダンジョンから持ち帰るもので、人々の暮らしは良くなる。

 野良ダンジョンから溢れた魔物たちが野生化して繁殖した場合、駆除が必要だ。

 その際には冒険者が必要となる。こういう理由から、国は補助金を出してまで冒険者を支援している。


「さあ、着いたぞ」

「ここがギルド、立派な建物」

「街や村によって違うが、ここは聖地だけあって大きいほうだ」


 ルーナはギルドを見上げて、おおうっと変な声を漏らしている。

 そんなルーナの手を引いてギルドの中に入る。


 今日は、講習会の日ということもあり人が多い。

 中には酒場が併設されていて、講演会が始まるまでそこで時間を潰しているものもいた。


「おいおい、おっさん。その年で冒険者になるつもりか? やめとけやめとけ。それになんだよ、ぼろぼろの皮鎧。ほら、俺の鎧見てよ。魔法金属を使ったオーダーメードだぜ」

「ケビン、言ってやるなよ。あのおっさんが可哀そうだろ」

「いやいや、冒険者になっての垂れ死ぬほうが可哀そうだって」

「ちがいない」


 酒場のほうから下卑た笑い声が聞こえる。

 そちらを見ると、十代半ばの少年たちが酒を飲みながらこちらを見ている。

 この世界では、他人のステータスを見ることはできない。だが、相手が自分以下のレベルなら、そのレベルを見ることができる。


 レベルリセットした俺のレベルは、同じくレベル1の彼らにも見えている。

 ああいう連中には拘わらないほうがいい。

 軽く会釈して通り過ぎようとする。


「おっさん、待てよ。俺の忠告が聞けないってか」


 道を塞いできた。

 やたらと高価な剣や防具を見せびらかすようにしている。


 金持ちのぼんぼんだろう。レベルを上げておくと何かと有利なので、金で優秀な装備を固めて安全を確保しつつ、ダンジョンに向かわせる親も少なくない。

 面倒だ。


「すまないが、俺には俺の考えがあってここに来た。それを君に止める権利はない」

「ああん? せっかく心配してやってんのによう。……うん? 連れの子は可愛いな。感謝しろよ。俺のパーティにいれてやる。その子は俺が引き取ってやるから、おっさんは帰りな」


 ルーナを舐め回すように少年が見ている。

 ルーナは美少女だ。こういう目を向けられるのも無理はない。彼女は怯えた顔で俺の背中に隠れて、警戒した眼差しを向けている。


「その気持ちだけ受け取っておこう。俺は帰らないし、この子も君とは行きたくないみたいだ」

「いっちょまえに、上から見てんじゃねえよ。どうせ食い詰めて、冒険者になるしかないような、落伍者だろ!」


 少年が殴りかかって来る。

 反射的にその手をとり、ひねり投げてしまう。少年が背中から叩きつけられて悲鳴をあげる。

 体に染みついた動きだ。……反射的にやってしまった。


「ケビンがやられた!?」

「おい、おっさん! 何してくれてるわけ!」


 少年の仲間の二人がやってくる。

 二人ともレベル1。動きを見る限り、脅威ではない。

 十秒以内に叩きのめせるだろう。

 とはいえ、ギルドでこれ以上騒ぎを起こしたくない。

 どうしたものか……。


「ギルド職員です。全員、大人しくしなさい。ギルド内での暴力行為は禁止です! 出入り禁止にしますよ」


 ギルド職員がやってきた。

 エルフの少女。

 ……見覚えがある顔だ。なぜ、おまえがここにいる!?

 被っていた帽子をより深くかぶる。


「すまなかった。その少年に殴りかかられて反射的に投げてしまったんだ。反省している」

「なるほど、あなたは正当防衛をしたわけですね」


 良かった。気付かれてはいない。

 向こうもレベルは見えているわけで、まさか俺がレベル1だとは思わない。他人の空似だと思っているのだろう。


 どうして、この子がギルドの職員なんてやっているんだろう。


 少年たちはぎゃーぎゃー、先に手を出したのはおっさんだと言っているが、周りの冒険者たちが俺の無実を証言してくれた。

 実のところ、一番嫌われるのは調子に乗ったルーキーだ。彼らが俺をかばうのも当然と言える。

 今後、少年たちはギルドではやりにくくなるだろう。


「状況はわかりました。えっと、あなたは被害者みたいですし、無罪放免にします。そっちの子たちは反省文を書くか、減点を受けるか好きなほうを選んで。減点二回でギルドに出入り禁止」


 少年たちはすごく嫌そうな顔をするが、言い逃れはできないことを理解する程度の頭はあり、エルフの少女に連れていかれた。


「今日も、元気がいいね。フィルちゃん」

「さすがは俺の女だぜ」

「うるせえ、フィルちゃんは俺が嫁にするって決めてんだ」

「全員だまりなさい。私は誰のものでもありません。あんまりうるさいと、実力をもって黙らせますよ」

「「「ごめんなさい」」」


 エルフの少女は、冒険者たちに親し気に話しかけられている。

 かなり人気がある受付嬢で、同時に恐れられてもいるようだ。……あの子の美しさと強さを考えれば当然か。


「あの子、すごい。ルーナよりちょっと年上なだけなのに大人。ちゃんと働いてる」

「いや、エルフの見た目年齢は当てにならん。たしか今年で二十五のはずだ」


 エルフは十二歳までは人間と同じように成長するが、その後はゆっくりと成長していく。

 あの子……フィルの見た目は、十六、七というところだが実年齢は二十五歳。

 立派な大人だ。


 エルフの村を追放されたところを俺が拾って面倒を見ていた少女。

 俺が最強を目指していたころのパーティメンバー。一番弟子であるレナードと同じぐらい才能があった。

 あの子は、パーティに残って【試練の塔】にレナードたちと共に向かったと思っていたが、なんでこんなところでギルド嬢なんてやっているのか。


 ほとんど喧嘩別れになったから、フィルとは顔を合わせたくない。見つからないように注意しよう。


 ◇


 講演会が始まった。

 今回の受講者は二十名ほど。その中にはさきほど、もめた少年たちもいて、俺を睨んでいる。

 さすがに、俺のような中年はいない。この年で冒険者を始めるものはマレだ。

 冒険者になるものは、基本は十代のうちにクラスを得る。


 この講演会を受けられるのはレベル1の冒険者だけだ。

 冒険者の基本、さらにクラスの説明を半日かけて行う。

 まともに聞いている者は少ない。たいていはクラスを得るために仕方なく参加しているような連中だ。


 そもそも、やり直しがきかない一生に一度のクラス決定を、ここの講習の説明を聞くだけで決めてしまうものはいない。

 それぞれ、ちゃんと事前に勉強している。

 講演が終わると、教官役の男が口を開く。


「五分の休憩を終えれば、クラスを与える。クラスを与えたあとは、パーティメンバーを募集するといい。同時期に冒険者になったものが集まることなどそうそうない」


 教官の言う通り、コネや知り合いがいない冒険者にとって、この場はチャンスでもある。ここでパーティが組めればのちのち楽になる。


 人数がいるほどダンジョン踏破は楽になる。

 一人だと、麻痺や毒をもらっただけで終了だ。仲間がいれば、動けない間に魔物を倒してくれるし、治療薬を飲ませてもらえる。


「ユーヤも、仲間を探す?」

「……探してもいいが無駄に終わるぞ」


 ルーナの問いかけに苦笑しつつ返事をする。

 ルーナは理解しきれていないのだ。俺がなろうとしている魔法戦士がどれほど必要とされていないのかを。


 ◇


 クラスを得るのは簡単だ。

 神の力を宿した石造のまえに立つと、自らが選択しうるクラスが脳裏に浮かぶ。


 俺の場合は、戦士、武闘家、魔法戦士、魔法使い、僧侶、盗賊、狩人の基本職業。


 ごくまれにエクストラクラスが発現する者もいるが、俺は一人しか実例を見たことがない。

 あとは、望むクラスを口にするだけ。


「俺が望むのは魔法戦士だ」


 これで俺は魔法戦士になれた。これからは魔物を倒せばレベルが上がるし、スキルポイントを割り振って魔法戦士のスキルがとれる。


「あのおっさん、バカじゃね? 何も知らねえのかよ」

「魔法戦士って、正気かよ」

「うわぁ、魔法戦士とか初めてみた」

「講習でも止めとけって言ってたのにね」


 同じ部屋にいる新人冒険者たちが、陰口をたたいている。

 まあ、そういう反応だろうな。俺だって、前世の知識がない状態で魔法戦士なんて選べば、馬鹿にしていた。


 なんでもできて、なんにもできない外れ職業。


 しかし、レベルリセット特典によって、人より20ポイントものスキルポイントがあること、そしてある隠し要素を利用することで一転して魔法戦士は最強へとなる。


 ルーナの番が来た。

 彼女が俺のほうを見てくる。


「ルーナの頭に浮かんだのユーヤから聞いてたクラスだけ」

「そうか、ルーナならもしかしたらエクストラクラスが獲れるかもと思ったんだけどな。なら、予定通り盗賊を選べ」

「わかった。ルーナが望むのは盗賊」


 ルーナの体が光る。

 これで彼女は盗賊だ。

 そうして、全員のクラス選定が終わる。


 全員、誰がどのクラスを選んだかを見ていたのでスカウト合戦が始まる。

 人気職は極端に偏る。


 まずは、盗賊と狩人。この二つは探索スキルを持つ。探索スキルは必須でパーティに一人は必要だ。

 しかし、戦闘職と比べて戦闘力が落ちるため、自分がなろうとするものは少ない。だからこそ、彼らには人気が集まる。


 次点で、戦士や魔法使い、僧侶あたりが人気だ。

 戦士は純粋な壁としては防御力が高い分、武闘家か盗賊よりも優秀だ。

 魔法使いは物理攻撃が効きづらい魔物を魔法で倒せるし、範囲攻撃ができる。

 僧侶がいれば補助による強化や魔法による治療ができて継戦力が上がる。


 パーティ数には限界がある。

 四人までだ。とある隠しアイテムを使えば五人に増やせるが普通は四人。それを超えると、経験値が入らなくなる。


 四人という限られた枠に役立たずを入れるスペースはない。理想を言えば、前衛、探索、魔法攻撃、回復。


 壁にならない、魔法攻撃力は微妙、補助魔法は使えても回復ができない魔法戦士の席は四人という枠にはない。

 だれも、魔法戦士である俺を誘いに来ないし、俺が誘っても断られるだろう。


「ユーヤと一緒なら、仲間になってもいい」


 ルーナがさきほどから、スカウトを受けるたびにそう言っているが、俺が魔法戦士だと気付くと、みんな去っていく。


 ……こういうのを見ているとルーナに悪い気がしてきた。

 今まではルーナの面倒を見る必要があったが、この機会にどこかのパーティに入れば、自立できる。

 俺の都合で彼女をこれ以上縛りつけていいのだろうか?

 ルーナがしょんぼりした顔で戻って来る。


「残念。誰も味方になってくれなかった」

「俺が魔法戦士なせいだな。このままだと俺とルーナは二人きりでダンジョンを探索することになる。ルーナ、義理で俺に付き合うことはない。好きなパーティに入っていいんだぞ? 四人で探索したほうが効率がいいし、安全だ」


 唯一のパーティにして探索スキル持ちを失うのは痛い。

 だけど、彼女をだまして縛るのは不公平だ。ちゃんと、ルーナにそういう道があることを教えてやる。


「好きなパーティに入っていいの?」

「ああ、盗賊なら引く手数多だ。まだメンバーを探している連中なら、きっと仲間にしてくれる」


 ルーナはこくんと頷く。


「わかった。じゃあ、ルーナは好きなパーティに入る」


 そう言われた瞬間、寂しいと思ったが、同時に仕方ないとも思う。

 彼女が自分の意思で選んだのだから。俺に引き留める資格はない。

 だが、ルーナはどこにも行かない。

 そして……。


「ユーヤのパーティにルーナを入れて。ルーナはユーヤと一緒がいい」


 手をまっすぐに伸ばしてくる。


「いいのか、二人だけだぞ」

「ん。ユーヤはいい人。ルーナは一緒にいたいって思う。だからいい」


 ルーナは笑う。

 ……まったく可愛い奴だ。

 俺を選んでくれた彼女を絶対に後悔させない。そう決意する。


「わかった。じゃあ、よろしくな。改めてパーティ結成だ」

「よろしく。ユーヤ。まずはドラゴンの財宝でも横取りしにいこ!」

「……死ぬから止めとけ」


 ドラゴンはどれだけ弱い奴でもレベル30はないと死ねる。

 ルーナの頭を撫でてやると、ルーナが気持ちよさそうに目を細めてキツネ尻尾を振る。


 そんなルーナを見ながら、俺は今日は酒場でご馳走を頼んであげようと決めた。


 明日になったら、早速ダンジョンに潜る。

 この街に来た最大の理由。レベル上昇時のステータス上昇率の最大固定のために。

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