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第八話:おっさんはオアシスでくつろぐ

おかげ様で年間総合一位です! 本当にありがとう。

【砂の運河】という砂漠のダンジョンを探索している最中、運よくオアシスを見つけた。

 オアシスはランダムで出現するため滅多なことでは会えない。


「ルーナ、水だよ水」

「ん。涼しそう」


 オアシスの中央にある湖にエルフ美少女のティルとキツネ耳美少女のルーナが向かっていく。

 服を脱ぎ捨て、下着姿になった二人が湖に飛び込む。


「気持ちいいね。それっ」

「冷たいっ。仕返し」


 ティルとルーナが水をかけあう。

 下着姿で水をかけあう美少女二人はなかなか絵になる。


「私も水浴びしたくなるわ。でも、ユーヤの前で肌を晒すのは恥ずかしいわね」


 姫であるセレネはティルやルーナほど、自由奔放にはできないようだ。

 暑さにやられており、本心では今すぐに湖に飛び込みたいのだろうが恥じらいがある。

 後ろから、誰かに目を手でふさがれる。


「ユーヤ、見ちゃだめです」


 犯人はフィルだった。

 声色に微妙な嫉妬が混じっている。

 ……フィルは妹よりも胸が小さいことを気にしている。

 妹の下着姿が見られることよりもコンプレックスからの行動だろう。そういうところも可愛らしい。

 胸の大きさなんて気にすることはないのに、むしろ今ぐらいのサイズが可憐なフィルには良く似合っている。


「その、あれだ。俺は向こうで夕食の準備とテントの設営をしているから、フィルとセレネも水浴びを楽しんでくれ。心配しなくても覗きなんてしない」


 本心ではフィルとセレネも水浴びを楽しみたいはずだ。

 俺の目が気になるのであれば、距離を取るぐらいの分別はある。


「ユーヤ、一緒に水浴び!」

「ほらほら、ユーヤ兄さんも暑いでしょ」


 そんな遠慮を無視して、いつの間にか陸にあがっていたお子様二人組が俺の手を引いて走っていき、湖に引きずりこまれる。


「ぷはっ、いきなり何をするんだ」

「ユーヤも一緒に遊ぼ」

「うんうん、楽しみたい人だけ楽しめばいいよ。恥ずかしがってる人なんか気にしないでさ」


 フィルとセレネには悪いが確かに気持ちいい。 

 火照った体が冷やされていく。


 湖のなかで、ルーナとティルが纏わりついてくる。

 ……この子たちには羞恥心がないのだろうか。保護者としてちょっとだけ心配になる。


「もう、我慢できないわ。私も行く」


 セレネが動いた。

 皮鎧と服を脱ぎすて下着姿になると、湖に飛び込む。

 鍛え抜かれてすらっとした魅力的な体に目が奪われる。


「ほんと、気持ちいいわね。恥ずかしいけど、この気持ち良さには代えられないわ」

「セレネ、おまえはお姫様だろ、いろいろと問題ないか」

「問題がないとは言わないけど、ユーヤおじさまならいいわ」


 恥じらいながらもセレネが微笑む。お子様二人組にはない色気があった。


「うわぁ、お姉ちゃんのライバルだ。お姉ちゃん、そんなところでもたもたしてると、ユーヤ兄さんがセレネに取られちゃうよ」


 ティルの一言で、フィルのエルフ耳がぴくぴくと震える。

 覚悟を決めた顔で、フィルは勢いよく服を脱ぎ捨てる。


「もう、こうなればやけです。私も行きますよ!」


 そして下着姿で湖に飛び込む。

 フィルとはなんども愛し合って、その裸体は見慣れているが、太陽の下でみる姿は新鮮味があった。


「うんっ、気持ちいい。湖で水浴びなんて久しぶりです」


 フィルが笑う。


「……みんな、今後のために言っておくが、もし、俺以外の男とパーティを組むことになったら気をつけろよ。普通の男は俺ほど紳士的じゃないからな。油断すると襲われるぞ」


 冒険者の男なんて、みんな女に飢えている。

 こんな美少女たちが無防備に肌をさらせばすぐに襲い掛かる。ちょっと優しくすれば、自分に気があるのではないかと勘違いするのが男というものだ。


「だいじょーぶ、ルーナはユーヤとずっと一緒」

「うんうん、ユーヤ兄さん以外の男の人と一緒に冒険することなんてないしね」

「私も同意見よ。ユーヤおじさまだから一緒に旅をすると決めたの」

「ユーヤは愛されていますね。私も同じ気持ちです。あなたと一緒だから、また冒険しようと決めたんです」


 ……嬉しいことを言ってくれる。この子たちは本当にいい子たちだ。ずっと一緒に冒険していたいと思う。

 それと同時に不安になった。

 もし、俺が居なくなればどうなるのだろうか? 悪い考えはよそう。ずっとそばにいて守り続ければいい。


「ありがとう。……それと、湖でひと泳ぎしたら晩飯の調達だ。せっかく、オアシスに来たんだし、ここでしか食べられないものを食べるぞ!」


 みんなが元気よく返事をしてくれる。

 この勢いなら、晩飯は豪勢になりそうだ。


 ◇


 湖で遊び終わり、野営の準備を始める。

 このパーティでダンジョン内で夜を過ごすのは初めてだ。

 俺とフィルの魔法のテントを展開する。


 魔法のテントは便利だ。ダンジョン産の魔法道具で、普段は小さなカプセルに収納されているが、ボタンを押して投げると一瞬で二人用の小さなテントになるし、片付けるときにはワンクリックでカプセルに戻る。


 魔法袋の容量を圧迫しないし組み立てに時間がかからない。

 さらに隠れた機能が二つある。

 一つ目は、半径五十メートル以内に魔物が入れば、中にいる人間をアラームで起こす機能。

 もう一つは、どんな攻撃であろうと三発までは耐えてくれる機能。三発以降は普通のテントと同じ耐久力だが、三発耐えている間に外に出て魔物を迎撃できる。

 これがあるだけで、ダンジョンで夜を過ごすのが格段に楽になる。


「ユーヤ、水を汲んできた!」

「たくさん果物をとってきたよ、ユーヤ兄さん!」


 食料の調達に向かっていたルーナとティルが戻ってくる。

 オアシス料理には、湖の周辺に実っている果実を使う。

 オアシスに実っている果物は二種類、バナナとココナッツ。

 バナナのほうは、皮を剥いてから切って、塩を振り、チーズをたっぷり乗せて焼きバナナにする。

 甘い果実だが、こうすることで立派なおかずになるし栄養価もたっぷりだ。

 ココナッツのほうは、まずは叩き割って中のジュースをコップに注ぎ、皮の内側にある白い果肉を剥がしてからスライスする。これがなかなかうまい。魚醤につけて食べると微かな甘みとこりっとした食感、たんぱくでコクがある味を楽しめる。まるで生臭さがなく旨味が強いイカの刺身といった塩梅で絶品なのだ。


「みんな、飯ができたぞ」


 焼きバナナとココナッツの刺身、付け合わせに干し肉と野菜のスープが並ぶ。

 とれたてのバナナとココナッツなんてオアシスではないと楽しめないメニューだ。


「ユーヤ、美味しそう!」

「甘くていい匂い」


 お子様二人組は、涎を垂らしてる。


「さっそく夕食にしよう。……オアシスなんて、滅多に見つからないからな。今日は、オアシスを見つけた喜びを噛みしめよう!」


 俺がそう言うとみんながこくりと頷き、そして楽しい夕食が始まった。


「ココナッツのお刺身気に入ったわ。美味しいわね。甘みとコクのバランスがいいわ」

「焼きバナナも美味しいですね。とろっとしたチーズとあつあつの果肉がたまりません。普通の料理なら負ける気がしませんが、ユーヤは昔からサバイバル料理が上手ですよね」


 セレネとフィルが俺の料理を褒めてくれる。


「気に入ってもらえてうれしいよ。駆け出しのころは食料を現地調達でがんばってたしな。現地調達品を調理するのには自信があるぞ」


 魔法袋なんて、金があまりだした冒険者にだけ許される贅沢だ。俺も昔は普通のリュックで冒険をしていた。

 そうなれば、ダンジョンに持ち込める食料の量なんてたかが知れている。


 だからこそ、現地調達で手に入る食料の調理技術が伸びた。

 普通の冒険者は高く売れるダンジョン産のアイテムは手に入り次第、売り飛ばして金に換える。

 そうしないと生きていけなかった。


 俺もその例にもれず、高く売れるアイテムはすべて売り払っていた。……魔法袋、帰還石、魔法のコンパス。あれば便利とわかっていても、自分の装備すらろくに揃えられず、売る以外の選択肢はなかった。

 高価で売れるアイテムをとっておくなんて、余裕のある冒険者の特権だ。


「ユーヤ、ココナッツのジュース美味しい」

「水の代わりに水筒に詰めたいよね!」


 お子様二人組はココナッツのジュースに夢中だ。


「そんなに気に入ったのなら、食後にココナッツを集めろ。そしたら、ココナッツのジュースを水の代わりに魔法袋に詰めておく。明日以降も飲めるぞ」


 俺がそう言うと、二人とも目を輝かせた。きっと食後の運動にココナッツ狩りをしてくれるだろう。

 ココナッツのジュースは水分補充と同時に栄養補給になる。残りの砂漠の旅にきっと役にたつ。

 楽しい食事が過ぎていく。たくさん作った焼きバナナもココナッツの刺身とジュースもみんなの胃袋に消えていた。


「ルーナ、ちょっとこっちに来てくれ」

「わかった」


 ルーナがちょこんと俺の膝の上に乗る。そこまでしろとは言っていない。

 俺は苦笑しつつも、魔法袋から青い宝石のついた首飾りをルーナの首にかける。


「きれい。ユーヤ、これは何?」


 ルーナは目を輝かせて聞いてくる。


「ルーナと出会ったダンジョンの隠し部屋に行ったときに見つけたんだ。ルーナが閉じ込められていた水晶があった場所に落ちていた。ルーナの持ち物だと思って持ってきた」


 ブルー・クリスタル。

 深い青の宝石。不思議な力を感じる。


「懐かしい……見ていると、とっても落ち着く。ユーヤ、ありがと」


 ルーナが頬に口づけをする。

 ティルがきゃあきゃあ言って、フィルが頬を膨らませた。


「喜んでもらえて良かった。記憶を取り戻す手がかりになってくれればいいんだがな」

「ん。もし、何か思い出したらユーヤに話す」


 ルーナが抱き着いて尻尾を振りながら頬をすりすりとする。

 気が付けば夜が更けていた。


「これから自由時間だ。だが、早く寝ろよ。今日は、初めての砂漠で思ったより進めなかったからな、明日は取り戻すためにハードな旅になる!」


 みんなが頷く。

 疲れがとれて元気が戻って良かった。

 きっと、明日は今日以上に距離が稼げるだろう。


 ◇


 昨晩は、何度か魔物の襲撃を受けたものの、無事撃退できた。

 やっぱり、魔物が半径五十メートル以内に近づくと起こしてくれる魔法のテントは便利だ。


 たたき起こされるのは辛いが眠ったまま殺されるよりよっぽどましだ。

 昨晩は魔物の襲撃以外にもトラブルがあった。

 テントの人数割りでもめた。

 俺とフィル、残り三人でと提案したのだが、ルーナが反対した。

 テントの割り振りは戦力のバランスで決めたわけじゃない。どっちみち、魔物が近づけば全員たたき起こされてテントから出るので、そこで悩む意味はない。

 ただ、俺がフィルと愛し合いたかったから俺とフィルが二人になるようにした。


 ティルは空気を読んで賛成してくれたし、セレネは任せると言ってくれたのだが、ルーナが俺が一緒がいいと騒いだ。

 しぶしぶ折れてくれたが、まさか忍び込んでくるとは……それも行為の最中に。誤魔化すのに苦労した。


「さて、出発前に、オアシスのお宝を確保するぞ!」


 声を張り上げる。

 昨日のうちに、水と果物は補給したが、オアシスには隠された宝がある。その回収がまだだ。

 湖の底に隠し宝箱があるのだ。

 湖を泳いでいると、不自然なことに気付く。

 湖であり水流はないのに、水が吸い込まれている場所があるのだ。


 水の流れをたどれば、隠しアイテムにたどり着く。昨日のうちに回収したかったが、午前中だけのイベントなので、今からの回収となった。


「ユーヤ、ルーナが行く!」


 昨日の水浴びで一番泳ぎがうまかったルーナが手をあげる。

 この湖には魔物がいない。一人でも大丈夫だ。


「なら、任せていいか?」

「ん。行ってくる!」


 ルーナが下着姿になると湖に飛び込んだ。

 事前に水流については教えてある。

 残ったみんなで水面を注視する。

 しばらくするとルーナが浮かんできた。


「見て、ユーヤ、お宝!」


 ルーナの手には瓶につまった霊薬があった。


「お手柄だ。なかなか、いいアイテムだぞ」


 霊薬の正体はテリア。

 その効果はすべての状態異常を回復すること。人の手でも、各状態異常を癒すポーションは作れるが、どんな状態異常でも回復できる万能ポーションなんてものはダンジョン産の宝箱からじゃないと手に入らない。

 加えて、市販の薬では治せない状態異常にも対応するので、重宝する。


「あと、変な声が頭に聞こえた」

「変な声?」


 そんなイベントは知らない。

 オアシスでは、隠し宝箱以外にはイベントはないはずだ。


「えっとね、オアシスの底で、『月に祝福された子よ。三つの祈りを束ねよ。蒼の涙に光が満ち、新たな扉が開かれん』って言われた!」


 その言葉を聞いてもピンとこない。こんなセリフは知らない。

 ルーナの首にまいたブルー・クリスタルを見る。透明な青い宝石には見たことがない紋章が浮かんでいた。


「ルーナ、その首飾りはどうしたんだ?」

「変な紋章が浮かんでる。どうしてだろ?」


 今回のイベントで変質したのか。

 ……水晶に閉じ込められていたルーナが特別な存在ではあると思っていたが、この首飾りを手にしたことで本格的にイベントが動き始めたようだ。


 三つの祈りを束ねろ……と声は言った。

 面白そうだ。この言葉を気にしつつ冒険を続けよう。

 ルーナを湖から引き上げて体を拭いてやる。彼女の着替えが終わったのを見届けてから、声を張り上げる。


「さあ、出発だ。今日も頑張ろう」


 砂漠の最奥まであと二日。

 ここから先には、砂漠という天然の障害物以外にもいろいろなギミックが待ち受ける。

 気を引き締めていこう。厳しい冒険になるが、俺たちなら超えられるはずだ。


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