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第五話:おっさんは仲間たちと合流する

 ロックゴーレム狩りを終えたあとは宿に戻り、体を休めた。

 狩りでの実演とフィルの説明でドルイドの能力が明らかになっている。


 ステータスの補正は、体力・防御力にマイナスがかかり、攻撃力・魔力・素早さにプラスの補正がある。

 スキルは狩人の弓の中級スキルまでと僧侶の回復スキル。加えて【魔力付与エンチャント】をはじめとしたドルイドの専用スキルを使える。


 ベースとなった狩人や僧侶と比べると弓の上位スキルと探索スキルが使えない点、僧侶の強力な付与魔法が使えない点で劣る。


 だが、それを補ってあまりある魅力がある。

 魔力付与エンチャントは強力だ。物理攻撃を任意の属性に変えられる上に、最大レベルまで上げれば攻撃力に1.2倍の補正がかかる。弱点属性の魔力付与エンチャントをかければダメージは跳ね上がる。


 試してみたのだが、俺の攻撃倍化魔法【パワーゲイン】カスタム、【神剛力】との併用も可能だった。これは非常に大きい。

 高位の魔物になってくると再生能力を持っているものが出てくる。そういう魔物を相手にする際には極限の瞬間火力が求められる。必ず役に立ってくれるだろう。


 俺はベッドから体を起こしカーテンを開ける。すでに夜が明けていた。一日でも早くフレアガルドにたどり着くためには、ゆっくり眠っていられない。そろそろ起きて支度しないと。


 日の光が部屋の中に差し込む。

 ベッドがもぞもぞと動き始めた。フィルが起き上がる、彼女は裸だった。昨日、愛し合ったからだ。エルフの肌は非常に滑らかで美しい。


 あまり胸は大きくないが、フィルの可憐な肢体にはこのサイズが一番似合っているとひそかに思っている。


「ユーヤ、おはようございます」

「おはよう。急いで支度を整えて出発しよう」

「ちょっと眠いです」


 フィルが目をこする。

 夜遅くまで狩りをしてから愛し合い、早い時間の起床だ。眠くても仕方ない。

 ベッドから抜け出したフィルは俺のところまでくるとキスをする。

 そして、フィルが窓の近くにつるしていた、戦闘服を手に取って頬を膨らませた。


「ユーヤのバカ、やっぱり乾かなかったじゃないですか! こうなるから嫌だったのに」

「その、悪かった。どうしても、してみたくてな」


 フィルの緑を基調にした露出が多い戦闘服はまだ濡れている。

 ……久しぶりに見たフィルの戦闘服が、非常に可愛く、そそるものがあって、それを着たままでお願いし、いろいろと汚してしまい、洗う必要が出てしまったのだ。


 フィルの持っている防具で一番性能がいい服を乾くまで装備できないのは、戦力ダウンであることは間違いない。

 だが、後悔はしていない。

 思った通り、この服を着たフィルと愛し合うのは最高だったのだ。


「まあ、いいです。今日は予備の服を使います。これがあれば、即死はしないですし」


 フィルが魔法袋から赤い宝石が着いた首飾りを取り出して装備した。


「冒険者を引退したときに売らなかったのか。売ればひと財産だっただろうに。受付嬢には必要なかったはずだ」

「冒険者時代のレアアイテムは全部残していますよ。いつか、またユーヤと冒険できるって信じていましたから」


 にかっと明るい笑顔を俺に向けてくれる。

 フィルは本当に可愛い。

 フィルの首飾りは、【戦天使の加護】だ。


 防御力と魔法防御力に若干の補正があるが、そちらはおまけにすぎない。

 本命の能力は自動蘇生。死亡時に蘇生され低位の回復魔法がかかり、【戦天使の加護】は砕け散る。

 数あるダンジョン産のマジックアイテムの中でも最上位のアクセサリーだ。


 ダンジョンでは一歩間違えれば即死だ。そして、人間には蘇生魔法なんてものは使用できない。死ねば終わり。

 一度きりで使えば砕けてしまうとうはいえ、その死を回避できるのは大きい。誰もが欲しがるアクセサリーだ。


 ただ、フィルは冒険者時代はほとんど身につけていなかった。

 死んだときにだけ発動するアクセサリーよりも、ステータスの上昇幅が大きいアクセサリーのほうが普段の狩りの効率はいい。


【戦天使の加護】を身に付けたのは、低レベルで命の危険が高いからだろう。


「それがあるなら、フレアガルドまで安心して行けるな」


 強い魔物の群生地帯を避けることも考えていたが、【戦乙女の加護】があるなら多少の無茶はできる。


「ええ、私のことは気にせず最短距離で駆け抜けましょう」

「そうさせてもらう。それと、フィル。聞いておきたいことがある。フレアガルドでは、ダンジョン内で夜を明かすことになる。魔法のテントを売らずに残しているか?」

「もちろん。ただ、五人だと私のだけじゃかなり狭いですよ。ユーヤも持っていますよね?」

「ああ。フィルが売らずにとって置いてくれて助かった。あれは二人用だからな」

「五人で一つはすっごく窮屈ですからね……」


 魔法のテントがあるなしで、野営の難易度は大きくあがる。

 というより、魔物がうろちょろするダンジョンで魔法のテントなしで夜を明かすのは自殺行為だ。


「フィルが売っていれば、死ぬほど窮屈でも無理やり五人で一つのテントを使ったかもな。そういう連中もけっこういるぞ」

「安全には代えられないですからね」


 魔法のテントは便利なのはいいが、ダンジョン産かつ高価なアイテムで入手が非常に難しい。

 中堅どころのパーティだと、なんとか全財産をはたいて一つだけ手に入れて、二人用のテントを四人で使うことも多い。というか、そっちのほうが主流だったりする。


「ユーヤ、さきほどから私のほうをちらちら見て、変ですよ」


 ほう、おまえがそれを言うか。

 なら、素直に俺も思っていることを言おう。


「フィル、いい加減服を着ろ、裸に首飾りと靴下だけなんて、マニアックすぎるぞ」

「きゃっ、ユーヤ、もっと早く言ってください」


 フィルは冷え症らしく、愛し合って眠る前に膝まで覆う靴下だけは履いてから布団に入った。

 そして、俺に見せるために【戦乙女の加護】を身に付けたため、かなりおかしな格好になっている。ある意味、裸よりもエロい。寝ぼけて、自分が服を着ていないことすら彼女は忘れていたようだ。


 フィルがいそいそと予備の戦闘服を身に着ける。

 俺も着替えよう。フィルの着替えを横目に見て楽しみながら、皮鎧を身に着け始めた。


 ◇


 早朝からやっている店で、いくつか消耗品を補充してからルンブルクを出発した。

 ラプトルは相変わらず、フィルから借りた風の首飾りの加速で上機嫌だ。


「フィル、昔、フレアガルドに行ったときのことを覚えているか」

「もちろんです。温泉、気持ち良かったですよね。また、入りたいです」

「それも楽しみだが本命は別だ。フィル、わかっていて言ってるだろ。……きっちりリベンジをするぞ」

「ええ、負けっぱなしは嫌ですからね」


 かつて、俺たちのパーティはフレアガルドに向かったことがある。

 目的はボス魔物の討伐。

 フレアガルドのボスは隠し部屋までの道筋が判明しているボスのため、ボスに挑む前に冒険者たちによる争奪戦がある。


 かつて、俺たちはボス争奪戦で負けて別のパーティにボスをかっさらわれた。

 勝てなかったのには理由がある。そのパーティはボスの恩恵を独占するべく、複数のパーティで連結パーティ……クランを結成して協力プレイをしている。クラン内で勝ち役のパーティを選び、他のパーティにはクランに含まれていない冒険者たちの妨害を行う。


 少し、情報を集めてみたのだが、そいつらはメンバーを変えながら今も同じことをしているようだ。

 彼らを出し抜いてボスを倒すことは難しいだろうが譲るわけにはいかない。

 どうしても、欲しいアイテムをフレアガルドのボスモンスターはドロップする。


「ユーヤ、勝算はあるんですか?」

「もちろんだ。おっさんは勝算がない戦いはしない」


 今の俺の知識と頼もしい仲間たちがいれば、あのクランを出し抜くこともできるだろう。


「楽しみです。……昔の私たちで出来なかったこと、一つずつやっていきましょう」

「そうだな。きっと、今の俺たちならなんだってできるさ」


 フィルの抱き着いてくる腕にぎゅっと力がこめられる。

 俺は小さく笑い、ラプトルの手綱を引いた。


 ◇


 数日間、野営を行いながら走り続けた。

 魔法のテントを使うのは久しぶりだが、ちゃんと機能してくれた。フィルの分も大丈夫だ。


 これで、ダンジョンで夜を明かすことに不安はなくなった。

 道中で何度も魔物の襲撃を受け、そのたびに撃退することでフィルに経験値が入っている。


 気が付けばフィルのレベルは13まで上がっていた。

 レベルリセット特典とステータス上昇幅最大、フィルの優れた防具があればおそらく、フレアガルドのダンジョンでも一撃だけなら耐えられる。


 さらに、【戦乙女の加護】があるのでもう一発。

 これなら、適正レベル30のダンジョンにも連れていける。


「そろそろフレアガルドが見えてくるころですね」

「ああ、思ったより早く着いたな」


 周囲の景色が変わっている。

 フレアガルドの周囲は火山と鉱山が広がっている。緑は消えて、無機質な風景になる。


 整備された街道に出て、一時間もすればフレアガルドにたどり着く。

 前を大規模な馬車の編隊が走っていた。

 もしかして、あの一団は……俺は馬車の一団に近づいていくと、その答えはすぐに出た。


「ユーヤの匂いがする! あっ、ユーヤ。ユーヤ! こっち!」


 元気な声と共に一台の馬車の窓が開き、キツネ耳美少女が体を乗り出して思いっきり大きく手を振る。

 俺はラプトルを加速させて、馬車に追いつくとペースを押さえて並走する。

 どうやら、ルーナたちが乗ったキャラバンだったようだ。


「ルーナか。どうやら、追いついてしまったようだな」


 予定では、二日か三日はフレアガルドで待たせると思っていたが、フィルがラプトルに貸してくれた首飾り、そしてレベルリセットとレベル上昇幅固定を一日で行えたことで追いついてしまったらしい。


「ユーヤ、寂しかった。ずっと会いたかった」


 ルーナが涙目になりながら、それでいて嬉しそうな声で叫ぶ。

 ティルもひょっこり、窓から顔を出す。ティルはフィルと目が合うと、手を振ってから口を開く。


「ユーヤ、ちゃんとお姉ちゃんを連れてきたみたいだね。良かった。……でも、大変だったんだからね。ルーナがユーヤ、ユーヤって、夜泣きまでしてずっと宥めていたんだよ」

「ティル、それは言わない約束」


 ルーナが顔を赤くして、恥ずかしそうに顔を逸らした。


「悪かったな。寂しがらせた分、フレアガルドについたらたくさん遊んでやる」

「うーん、五十点。ここは今すぐ抱きしめてやるぐらい言わないとね。というわけで……ユーヤ、受け止める準備をしてね」


 ティルがルーナの首根っこを持つ。

 あいつ、まさか。

 お子様二人組がこそこそと内緒話を始め、ルーナが期待に目を輝かせて、もふもふのキツネ尻尾をぶんぶん振り始めた。

 嫌な予感しかしない。


「そのラプトルなら、追加でルーナ一人ぐらいならなんとかなるよね。じゃあ、ルーナ、また後で」

「ん。ティル、行ってくる。ありがと」


 ティルが馬車の窓からルーナを投げ、ルーナの小さな体が宙を舞う。

 めちゃくちゃしやがる!?

 ルーナを受け止め、俺とラプトルの首の間に座らせる。


 ラプトルは衝撃と重さに驚き鳴き声を上げたものの、すぐに持ち直す。

 ラプトルは成人男性二人ぐらいならなんとかなる。

 体重の軽いルーナとフィルなら二人で成人男子一人分だ。

 馬車のほうを見るとティルがにやにやと笑い、その奥にいたセレネが苦笑している。


「ユーヤ、ユーヤ、ユーヤ」


 ルーナはコアラのように俺にしがみついて頬をすりすりしてくる。

 ダメだ。怒るつもりだったのに、こんな風にされたら怒れないじゃないか。


「まったく、困った子だ。……なにはともあれ、ルーナ、ただいま」

「ユーヤ、おかえり!」


 とりあえず、フレアガルドに着くまではたっぷり甘えさせてやろう。

 ……そして、フレアガルドについたらティルと一緒にお説教だ。

 すごく寂しがっているし、甘えさせてやりたいが、それはそれ、これはこれというやつだ。

 大人として、お子様二人組に教育してやらないといけない。

 そんな俺の内心を知らず、ルーナは俺の胸に顔を埋めて、ずっと尻尾を振り続けていた。


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