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そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 作者:月夜 涙(るい)

二章:おっさんは上り詰める

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第三話:おっさんでも怒るときはある

 新たな拠点となるグリーンウッドにやって来た。
 ここには適性レベルが20~30までのダンジョンが存在する。
 レベル30になるまではこの街のダンジョンでレベル上げをする予定だ。
 ここに来たのはそれだけが目的じゃない。使い魔を得るためでもある。

「空気が美味しい」
「うん、エルフの里を思い出すよ」

 街に入るなり、ルーナとティルがはしゃぎ始めた。
 その気持ちはわからなくもない。俺も新たな街に踏み入れるときは高揚感がある。
 ここは自然と街が一体化している。清涼な水が流れる水路が張り巡らされ、肥えた土と美しい水を活かした畑が一面に広がっている。

「ユーヤはこの街に来たことはある?」
「ないな。だけど、よく知っている」

 ゲームとしてプレイしていたときには何度も訪れたが、冒険者になってから訪れたことがない。
 神樹のダンジョンで使い魔の卵を得られることは冒険者たちにとっては有名な話だ。

 ラルズール王国の首都に王命で呼び出され、クエストを達成した後に使い魔狙いでグリーンウッドにも立ち寄ろうと当時の俺たちも考えた。
 しかし、いかんせん狙っている冒険者が多すぎる上に一か月に一つしか卵は現れない。
 本気で入手しようとすると何年かかるかわかったものではない。
 結局、グリーンウッドに何か月も張り付くぐらいなら、もっと稼ぎがいいダンジョンで狩りをしたほうがいいという結論になった。

「この街のことを知っているなら安心。ユーヤ、宿は美味しいご飯があるところがいい」
「うんうん。朝ご飯は宿のお世話になることが多いし。ごはんがまずいと辛いよね」

 そこを気にするのか。
 思わず苦笑してしまう。

「安心しろ。フィルがおすすめの宿を教えてくれた。まず、間違いはないさ」

 ギルドには多数の冒険者が訪れ受付嬢はもっとも冒険者たちと触れ合う。
 自然と街の外にも詳しくなる。
 フィルは料理がうまいので、ルーナたちのように食事も重要視しているだろう。
 フィルのアドバイスを素直に聞き入れば食事面でがっかりすることはない。

 ……まあ、ラプトルを預かってくれるところって時点でかなり限られるんだがな。
 ラプトルを使う機会は少ないが大事な相棒だ。手放せない。

「ユーヤ、いこ。お腹空いた」
「私も。ちゃんとしたご飯が食べたいよ。もう、固いパンもチーズも干し肉も飽きちゃった」
「俺もだな。キャラバンの旅は安全だが食事は寂しかった。久しぶりにごちそうを食べよう」

 三人で宿屋に向かう。
 食事が美味しければいいのだが……。

 ◇

 結果から言うと宿の食事はうまかった。
 グリーンウッドは豊かな自然に囲まれているだけあって野菜がうまい。

 普段は肉ばっかり食べるルーナも美味しそうに野菜を食べていた。肉のほうは普通だが、美味しい野菜と組み合わさることで実力以上にうまく感じるから不思議だ。
 荷物を置いて、しばらく休憩してから宿を出た。

「こんな贅沢な旅、俺が駆け出しのときは考えられなかったな」
「ユーヤのときは、もっと辛かったの?」
「ああ。冒険者を始めたばっかりのときは金がなかった。武器を買うこともできなかったし、宿なんてとれなかった」

 俺は孤児だった。
 親の顔も知らない。孤児院では十二までは養ってもらえるが、それが終われば一人で生きていくしかない。
 孤児の場合、まともに職を得ることは難しい。冒険者を選ぶのは必然だった。

「ユーヤ、武器がなかったら魔物を倒せないし、宿がないとどこで寝ればいいの?」
「いろいろさ。俺の場合は最初は石を使ったな。投げるのもいい、頭に叩きつけるのもいい。案外便利だぞ? そのうち、ダンジョン探索中にたまたま目の前で冒険者が死んで、そいつの武器と防具をかっぱらってまともな狩りができるようになった。宿のほうは、それこそいろいろだ。馬小屋に忍び込んで寒さをしのいだり、教会を頼ったりな」

 宿を使えるなんて贅沢は一流の冒険者の特権だ。
 日本に例えるなら、毎日ホテル暮らしのようなもの。
 安全で温かく柔らかいベッドが待っている場所で過ごすことができる。そんな冒険ができるルーナたちは恵まれている。

「そんなの全然知らなかった」
「……言われてみれば当然だよね。稼ぐためには、いろいろといるもん。宿になんてお金は使ってられないよ」

 その通りだ。
 金を得るには魔物を倒さないといけない、魔物を倒すには武器がいる、武器を手に入れるには金がいると堂々巡り。
 最底辺から抜け出すのが一番難しい。
 最底辺から脱出するには快適な暮らしを捨てて、ひたすら強い装備を得るために金を溜めるしかなかった。その過程で何人もの冒険者が死んで行く。

「ユーヤ、ルーナは恥ずかしい。自分が楽してることすら気付かなかった。ちゃんと、みんなと同じ苦労をする。宿じゃなくて馬小屋で寝る!」
「その気持ちだけ受け取っておく。ルーナみたいに可愛い女の子を外で寝かせられるか。俺が不安で眠れない」

 そう言うとルーナが顔を赤くした。

「ティル、ユーヤがルーナのこと可愛いって」
「うわぁ、お姉ちゃんに言いつけてやろう。浮気だ浮気」
「……そういう意味で言ったわけじゃない。ティルが馬小屋で寝ると言っても同じことを言ったぞ」
「やった、これで愛人二号! ルーナ、一緒にがんばろうね」

 ルーナは首を傾げている。
 意味がよくわかっていないみたいだ。
 そして、ティルも冗談で言っているのだろう。

 この子は耳年増だがいざ攻められると逃げるタイプだ。
 これ以上からかってくるなら、一度はほどほどに痛い目を見せたほうがいいだろう。
 俺が相手ならいいが、他の冒険者に同じことをしたら取り返しがつかないことになりかねない。

 ◇

 ギルドにたどりついた。
 ルンブルクほどではないが賑わっている。

 使い魔の卵を求めてやってくる冒険者が多い。
 使い魔を戦力としてほしがっている者たちだけでなく、転売目的のものもいる。
 ぶっちゃけた話、ただ使い魔の卵を手に入れるだけであれば転売目的のやつはかなりの確率でオークションに出すので、セリ落とすほうが早い。
 ただ、それでは面白くない。
 全力で争奪戦に挑みたいと思っている。

「ルーナ、ティル。パーティ登録をしてくる。酒場で大人しく待っていてくれ」

 このギルドにも酒場が併設されている。時間を潰すにはもってこいだ。

「わかった。待ってる」
「早くもどってきてね」

 パーティ登録は義務ではないが、やっておくといろいろとメリットがある。
 クリアしたクエストが記録に残り、指名クエストなどを受けやすくなるのだ。
 拠点を移したタイミングで登録しておくのが基本だ。

 ◇

 受付にやってきた。
 受付嬢は平均よりは上と言った女性だ。それに態度も事務的で淡々としている。
 ずっとフィルに相手をしていたから物足りなさを感じる。

「魔法戦士……ですか?」

 申請の際に俺のクラスを書き込むといぶかし気な顔をした。
 魔法戦士が外れ職業なのは、この街でも常識らしい。

「ああ、だがうまくやっている。ルンブルクでの達成クエスト一覧だ」

 フィルが用意してくれたものだ。
 手続きをすることで、他の街での実績を引き継げる。
 それなりに手間のかかる手続きだが、俺たちのためにがんばってくれた。

「うそっ、このレベルでこんなに。すごい達成ペースですね」
「嘘じゃない。ちゃんとギルドのサイン入りだ」
「失礼しました。緊急性が高いクエストが発生した場合、相談させてください」
「可能な限り力になる」

 ギルドはクエストの達成率を少しでも上げたい。
 受付嬢の仕事は冒険者を導くこともあるが、能力のある冒険者に優先的にクエストを割り振り、ギルドに依頼がきたクエストの達成率を上げることがメインだ。

 まあ、最後は俺がやっていたように専属冒険者が出っ張ってくるが、彼らにも限度はある。

「さっそく、適正レベル25以下のダンジョンで達成できるクエストを教えてもらえないか?」

 まだ、初日だががんがん行こう。
 使い魔の卵争奪戦に向けて少しでも強くなっておきたい。

 ◇

 なかなかいいクエストが余っていた。
 使い魔の卵が得られる神樹の森のクエストで都合がいい。実は神樹の森には、まともな冒険者なら気付けないほど巧妙に使い魔の卵が、いつ、どの神樹に実るかのヒントが隠されている。
 早いうちに行っておきたいと思っていた。
 クエスト報酬もいい。貯金はかなりあるが、宿ぐらしをしているだけで金は飛んでいく。少しでも稼いでおきたい。
 手続きを終えて併設されている酒場に向かう。
 ……そこでは、ある意味お約束の光景が繰り広げられていた。

「君たち可愛いしそこそこレベルがある。特別に仲間にしてあげるよ」
「俺たちさ、ちょうど二人いなくなって苦労してたところなんだ」

 ルーナとティルがガラの悪そうな中堅冒険者たちからパーティ勧誘を受けていた。
 酒場ではありがちな光景。
 二人はいなくなったと言ったが、おそらくそれは死んだということだろう。ぼかして言う場合はだいたいそうだ。
 仲間が二人死んだから、代わりに入ってくれなんて言われて勧誘を受ける冒険者なんていない。
 冒険者にとって無能と同じパーティになるほどの危険はないのだ。

「ルーナたちにはユーヤがいる。だからだめ」
「そうそう、それにおじさんたちエッチな目で見るしね。ちょっと怖いよ」

 二人は断るがかなりしつこく言い寄られている。
 下心が丸出しだ。あんな男どもと一緒にダンジョンに潜ろうものなら、人気のないところで即座に押し倒されるだろう。
 冒険者という職業の性質上、こういう奴らは多い。
 嘆かわしい。大の大人が美少女とはいえ、13、14ぐらいのルーナやティルに欲情するのはどうなんだ? いつの間に冒険者がロリコンだらけになったのか。
 まずは二人を助けないと。

「それぐらいにしてもらおうか。二人は俺の仲間だ」
「ユーヤ!」
「もう、遅いよ」

 二人が俺の背中に隠れる。
 二人は怯えていた。
 見たところ、単純な強さではルーナやティルのほうが上だ。
 それでも男に言い寄られるのは少女にとって恐怖だろう。

「ああん? 俺たちの勧誘の邪魔すんなよ。おっさん」
「おっさんがユーヤか。おっさんが抜ければ、ちょうど四人じゃん。これ、名案じゃん。おっさん、さっさとパーティ抜けろよ」

 二人の男はげらげらと笑う。
 息が酒臭い。
 忠告だけで済ませるつもりだが、話が通じなければ実力行使しかない。

「俺はこの子たちを手放すつもりはない。大事な仲間だ。君たちも冒険者なら、簡単に仲間を手放さないことぐらいわかるだろう?」
「わかるかよ、おっさん!」

 殴りかかってくる。
 簡単に避けられはする。だが、喧嘩になるなら先に手を出してもらったほうが都合がいい。
 ……俺は自分のことならいくらでも我慢できるし、若さの至りだろうと笑って許せる。

 だが、こいつらはルーナとティルを怖がらせた。許すわけにはいかない。報いを受けさせる。
 ほほに拳があたる、その瞬間首の力を抜いて後ろに力を逃がしつつ、自分から首をひねり衝撃を逃がす。

 いい音がなる。
 見た目は派手だが、ダメージはほぼない。これで正当防衛は成立した。さあ、お仕置きだ。

 そう思い構えた瞬間だった。周囲の温度が数度下がった。凄まじい殺気。
 目の前の男の鳩尾に誰かの拳がめり込んだ。男が弾丸のように吹っ飛ぶ、机をいくつか巻き込んで壁に叩きつけられた。
 男が血を吐き白目をむく。
 完璧な一撃だ。クリティカル音が鳴っている。
 その音をしたほうを見ると、ルーナが拳を振り切っていた。
 驚いた。拳の使い方なんて教えてないのに急所に渾身の力を叩き込んだようだ。

「ルーナのユーヤを傷つけた。許さない」
「ひっ!?」

 もう一人の男が情けない声を上げる。
 ルーナの眼には殺意が満ちていた。
 このままでは本当に殺してしまいかねない。
 俺は苦笑し、彼女の頭に手を乗せる。

「落ち着け、あんな一撃をまともに喰らうわけがないだろう。ちゃんと流してる」
「ユーヤ!」

 ルーナが飛びついてきた。
 俺が怪我をしたとでも思っていたのだろう。

「うちのルーナがやりすぎたみたいだが、そっちが先に手を出した。これで痛み分けってことにしてくれないか……そちらがやる気なら続けてもいいが、不毛だろう?」

 男の仲間に声をかける。かなり動揺しているが言葉は通じているみたいだ。

「あっ、ああ」
「あいつからまずい音がした、病院に連れて行ってやれ」

 男はルーナにおびえた視線を向けたあと、失神した男を連れて去っていった。

「変な奴に絡まれたてしまったな。……気を取り直して冒険に行こう。どんどん強くなるぞ」
「ん。任せて。なんか今の一撃で掴んだ気がする。コツみたいな?」

 教えていない打撃でいきなりクリティカルを出した。
 ルーナはもしかしたら、ルーナは武術の根幹に近い何かを身に付けたのかもしれない。

「それはすごいな。今日はルーナメインで狩りをしよう。その感覚を叩き込め」
「ばっちこーい」

 絡まれたのは不快だが、ルーナの糧になったのならそれでいい。

「それとな、俺のために怒ってくれてありがとう」
「ん。ルーナはユーヤのことが好きだから当然」

 得意げにルーナは胸を逸らす。褒められたのが嬉しいのかキツネ尻尾をぶんぶんと振る。
 そんな彼女の態度がおかしくて、俺は笑ってしまった。
 もう、今のトラブルなんてどうでもよくなってしまった。
 さあ、記念すべきこの街での最初の狩りを見事に成功させてみよう。そして、使い魔の卵の情報を得て本番の争奪戦に備えるのだ。
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