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そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 作者:月夜 涙(るい)

一章:おっさんはやり直す

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第二十二話:おっさんは若者を導く

 ルーナの大会が終わった。
 ルーナは見事優勝した。今すぐ抱きしめてたっぷりと褒めてあげたい。
 残念ながら今すぐ控室に行く必要があるし、ルーナは表彰式でしばらくは帰ってこれない。
 後髪を引かれる思いで、俺はこの場を後にした。

 ◇

 控室に移動した俺は一緒に戦うメンバーと顔合わせをし、ルールの説明を受けている。

「我がルンブルクの冒険者が優れているかを示す機会です。日頃の鍛錬の成果を発揮してください。そして、いくつかの禁足事項があります……」

 話を聞きながら、協力してキラーエイプと戦う若者をたちを横目で見る。
 事前にティルから聞いていたとおり、一緒に参加する二人は若者らしい野心に満ち溢れていた。
 彼らは自分が活躍することしか頭になく連携などは一切考えない。
 一人は戦士。かつて救ったケビンの兄であるニコル。
 もう一人は武闘家。名前はイザルクというらしい。
 ある程度の武術を身に着けているのは歩き方を見ていればわかる。

「おっさんは足引っ張るなよ。端でじっとしてろ。魔法戦士には、キラーエイプは無理だぜ」
「ニコルどの。どちらが仕留めるか勝負でござる」
「俺に勝てると思うなよ」

 戦士ニコルと武闘家イザルクは俺を置物と考えているうえに、二人で協力する気もない。
 一応しっかりと連携しないとまずいと忠告をし、キラーエイプと戦う際の注意点もアドバイスしておく。
 予想通り、聞き流された。
 ため息が出る。

 ルーナやティルがどれだけありがたい存在かを改めて理解する。あの子たちは言うことをしっかり聞いてくれる素直さがある。

「魔法禁止か、客は殴り合ったほうが喜ぶのはわかるがひどいハンデだ」

 魔法がないとどうしても火力が足りない。
 キラーエイプを剣だけで倒す。
 なかなか難しいがやれなくはない。俺は戦いが始まるまで集中力を高めていた。

 ◇

 リングに出る。
 戦士ケビンと武闘家イザルクは観客たちに手を振る。目立ちたがりやな性分が見てとれる。

「ユーヤ、がんばれ!」
「いいとこ見せてね!」

 観客たちの歓声の中でも、あの子たちの声はしっかりと聞こえた。そちらに向かって俺も手を振り返す。
 あの二人と話したせいで心労が溜まっていたか、少し楽になった。

 観客たちの声がひときわ大きくなる。
 俺たちの敵が現れた。
 ミスリルの檻に入れられたキラー・エイプだ。
 俺より五割まし巨体を持ち紫の体毛をもつゴリラ。
 あの体毛はただの毛ではない。
 鋼以上の固さを持ち、柔軟で衝撃を殺す上に、脂まみれで良く滑るので斬撃を流す。

 腕が異様なまでに肥大化している。見た目を裏切らない筋力の持ち主だ。
 それでいて、非常に素早く奴には知恵がある。
 油断したら即死もありえる。

「これより、結界を起動します」

 リングの上で半円型の結界が起動する。
 キラーエイプが逃げて観客を襲わないようにする配慮。
 それは俺たちがキラーエイプから逃げられないということを意味する。

 スタッフが俺たちに香料を振りかけた。
 目に見えて、キラーエイプが興奮する。
 奴の敵意をあおるための物だ。あれがないと結界内のスタッフに真っ先に襲い掛かる可能性がある。

「では、これより本日のメインイベント。魔物と冒険者の熱い戦いをご覧くださいませ!」

 スタッフが声を張り上げ、キラーエイプの檻をかけた。
 怒り狂ったキラー・エイプが飛び出してくる。
 さあ、戦いの始まりだ。

 ◇

 真っ先に武闘家イザルクが飛び出していく。武闘家の補正があるため、素早さはこの場の誰よりも上。
 俺は彼の少し後ろに陣取った。もしものときにサポートするためだ。

 武闘家イザルクがそれなりに武術ができるのはわかっていた。
 それが彼を増長させている。
 完全な素人よりも中途半端に鍛えている奴のほうがよっぽど性質たちが悪い。己の実力を過信するのだ。
 見ている限り、即死するほど防御力が低いわけでもなさそうなので、無理に止めはしない。

 格闘家イザルクはステップを踏みながら近づく。
 キラーエイプの剛腕を躱し、懐に入る。
 いい動きだ。

「あちゃちゃちゃちゃやああああああああああああ」

 そして、拳の連打。
 スキルも併用している。格闘家のスキル。【鉄拳】。
 一定時間、拳を鉄のように硬質化して威力を高めるスキルだ。

「ウホアアアアアアアアアア」

 キラーエイプが叫ぶ、悲鳴ではない。怒声だ。
 まるで拳が効いていない。いくら拳を固くしたところでキラーエイプの剛毛がクッションになり威力が殺されている。

 あいつの剛毛の上からダメージを与えるなら、渾身の力を込めた強力な一撃が有効と待合室でアドバイスをしたが聞いていなかったらしい。

 こんな連打、いくら放とうと意味がない。
 キラーエイプの振り回した腕がぶち当たって、格闘家イザルクが吹き飛ばされる。
 まずいな頭から落ちる。滑り込んで受け止める。

「情けないぞ、イザルク。やっぱり、今日のヒーローは俺のようだな!」

 そんなことをしているうちに、もう一人戦士ニコルが飛び込んでいった。
 あの剛毛は硬い上に滑る。
 斬撃ではなく突き。それも毛の間を潜り抜けるように放てとアドバイスをしていたが。

「くらえ、【バッシュ】!」

 上段からの力任せの斬撃。
【バッシュ】は俺も使う使い勝手のいいスキルだ。
 キラーエイプは避けもしない。当然のように脂ぎった固い剛毛で剣は滑って地面に叩きつけられる。

「いってええええええええええええ」

 戦士ニコルは剣を取り落とし悲鳴をあげる。
 全力の一撃を石畳をたたきつければそうなる。
 キラーエイプが腕を振り上げ、彼の顔面を殴りつける。戦士ニコルは勢いよく吹き飛んだ。
 あの勢いで叩きつけられればまずいことになる。走り込んで戦士ニコルを受け止め、そのまま回転受け身で衝撃を殺す。

「ウホオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 キラーエイプは激しく胸を叩いてドラミング。
 俺は戦士ニコルと武闘家イザルクのほうを見る。

「第一ラウンドは手ひどくやられたな。さて、リベンジと行こうか」

 二人は震えていた。
 青い顔をして、キラーエイプの咆哮を聞かないように耳を塞ぐ。
 気持ちが折れかけている。たった数秒の戦闘。
 だが、自分たちの攻撃が一切効かなかったうえ、俺が助けなければ大けがをしていた。
 何より、圧倒的な実力差を見せつけられて心が折れかけていた。身に付けた武術と優れた装備のおかげで死ぬかもしれない戦闘など経験がなかったのだろう。
 勝利を積み重ねて、増長し続け、初めての敗北。
 あまりにも精神的なダメージが大きい。彼らはもう使い物にならない。

 一人でキラーエイプに勝つことはできる。
 それではダメだ。
 このまま戦いが終われば、こいつらにとってトラウマになる。二度と勇気をもって魔物に立ち向かえないかもしれない。
 自業自得と言えばそれまでだ。
 だが……俺はこいつらを見捨てられない。
 若いうちは、失敗し、そして学べばいい。失敗して終わりなんてもったいなすぎる。

「お前たちがやらないなら、俺一人で倒してしまうぞ?」
「無理だ。こんなの」
「拙者たちのレベルじゃ、歯が立たないでござるよ……」
「なら、見ていろ」

 前に出た。
 そして、新たに習得しておいたスキルを使う【ウォークライ】。
 敵のヘイトを集めて、攻撃を一手に受けるためのスキルだ。前衛役にとっての必須スキル。

「ウホオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 キラーエイプが、倒れた二人に目もくれずに俺に襲い掛かり両手を使った連撃。器用なことにたまに足も使ってくる。
 いつものように攻撃を流す。
 重い一撃だ。しかもゴーレムなどとは違い、上からだけではなく横から、下から、バリエーションのある攻撃パターン。
 だが、さばけないほどでもない。初動が丸見えだ。数秒先を予測し、一撃一撃を丁寧に流していく。

 魔法を封じられた今、有効打はない。
 だから、チャンスができるまで待つ。
 座り込んだままの二人が目を見開きながら俺のほうを見ていく。

「すげええ。なんつう腕前だ」
「あのおっさん何者でござるか?」

 キラーエイプは大振りのテレフォンパンチを放った。
 隙が出来た。しかも腰を落としてくれている……これなら届く。

 受け流したキラーエイプの拳が後方に流れていくのを見ながら距離を詰めて、突きを放つ。狙ったのは右眼だ。
 奴も顔までは剛毛で覆われていない。何より柔らかい。

「ウギャアアアアアアアアアアアアアアア」

 血を流しながら、悲鳴をあげてキラーエイプが距離をとる。
 攻撃が通らないほど固い敵と戦う場合、目を狙うのは常套手段。敵の戦力を大幅に落とす効果もある。

 キラーエイプが距離をとり威嚇をする。その威嚇にはどこか怯えが含まれていた。
 そろそろいいか。

「ニコル、イザルク、いつまで寝ているつもりだ? 見ていただろう。奴は倒せる。おまえたち、このまま俺に任せたまま戦いが終われば一生負け犬だ。二度と強い敵に立ち向かえなくなるぞ。それでいいのか?」

 さあ、チャンスはやった。
 ここで立ち上がらないようなら、俺一人で決めてしまおう。

「おっ、俺はまだやれる。俺は負け犬なんかじゃない」
「拙者だって」

 二人は震える足で立ち上がる。
 ちゃんと前に向かおうとしている。
 小さく頬を吊り上げる。こういう連中は嫌いじゃない。
 キラーエイプがドラミングをし、突っ込んできた。

「二人とも、俺の後ろにいろ。かならず隙を作ってやる。タイミングを見て全力の一撃を叩き込め、手数はいらん。渾身の一撃だ!!」
「おう!」
「はい!」

 戦いが始まる前にも言ったアドバイス。
 さきほどは、二人とも無視をした。
 しかし、今度はちゃんと聞き入れてくれたようだ。今度は俺の少し後ろで隙を伺いつつ力を溜めている。
 いつかの攻撃力上昇スキルを使っているようだ。

 片目を潰されたキラーエイプは怒り狂っている。さきほどよりもずっと、一撃一撃の回転が速い。しかし、単調だ。
 恐怖に突き動かされての一心不乱のラッシュ。

 そうなれば終わりだ。速いだけの攻撃など見飽きている。
 無茶をした代償がきた。キラーエイプが息切れして、バランスを崩す。背後に回り、露出したかかとを斬る。

「ウギャアアアアアアアアアアアアア」

 キラーエイプが足の腱を斬られて、膝をついた。機動力が一気に削がれた。

「さあ、絶好のチャンスだ。決めて見せろ!」

 俺が叫ぶと、二人が飛び出してきた。
 戦士ニコルの剣が耀き、武闘家イザルクの体が湯気に包まれる。

 ニコルは戦士の突進スキルを放つ。【ストライクインパクト】。溜が大きいが速度と突進距離に優れた使いやすいスキル。
 毛と毛の間をかき分けキラーエイプの肉を抉る。

 武闘家イザルクは距離を詰めて武闘家の高火力スキルを放った。【寸勁】、全身の力を集約させた肘打ち。衝撃を内側に叩きこむ。これなら剛毛も意味をなさない。

 二人の強力なスキルを受けて、キラーエイプが倒れた。
 青い粒子が立ち上り始める。……少し粒子に変換されていくのが遅い。気のせいか?

「俺、俺たち勝ったんだよな」
「拙者たちの勝ちでござる」

 二人ともいつのまにか震えは止まっていた。
 トラウマを抱えずに済んだようだ。

「お疲れ様、おっさんの言うこともたまには役にたつだろう?」

 二人に笑いかけるが、なかなか返事がない。
 申し訳なさそうに二人は顔をそむける。

「俺たち、失礼なこと言ったのに助けてもらって、おっさんのことバカにして、すみませんでした」
「拙者も思いあがっていたでござる。あなたの技に比べたら拙者の技など……自分が恥ずかしいでござる」

 根は素直な子たちだったらしい。
 助けて良かったと思う。

「そんなのは後だ。生きてさえいればいくらでもやり直しは効く。今は勝利を喜ぶときだ。強敵に勝ったら笑って拳をぶつけ合う。それがパーティだろう」
「「はい!」」

 拳を掲げる。
 ニコルとイザルクも顔を上げて拳をぶつけ合って、微笑む。
 なんとか無事に乗り切った。

 そう思った時だった。
 背筋に悪寒が走る。
 二人を突き飛ばし、勘だけで剣を構える。凄まじい衝撃。

 死んだはずのキラーエイプだ。
 さらに筋肉が盛り上がり、するどい爪が生えて体毛の色が銀色に変わる。
 なんて馬鹿力。膝を突いてしまう。キラーエイプはもう一度腕を振り上げた。
 慌てて、転がって回避。石のリングが割れた。

「魔物が、成長したっていうのか」

 キラーエイプの変質は続く。
 成長なんて生易しいものじゃない。これはもう進化だ。
 こいつはなんだ?
 全力で挑んで、なお勝てないかもしれない。それほどの魔物になってしまった。

「ここからは私たちが戦う!」
「君たちは下がってくれ!」

 結界内にいたスタッフたちが剣を抜き、キラーエイプだった何かに襲い掛かる。
 スタッフたちはもしものために控えている高レベル冒険者でありキラーエイプなどものともしない。だというのに。

「うがっ」
「があああ」

 キラーエイプだったものが振る回した腕で吹き飛ばされ、結界に叩きつけられて血を吐く。
 ……やばいな。これは。
 どうしたものか。
 そんなことを考えると放送設備が起動する。

『皆様、第一ラウンドは冒険者の勝ちでした。ですが、ここからが本番です。これより第二ラウンドが始まります。皆様は初めて魔物の進化を目にした幸運な方々だ。冒険者などに頼る時代に終わりが来たのです。さあ、我々の秘術によって支配し、進化した魔物の力を目に焼き付けてください』

 この声、聞き覚えがある。ギルド長の声だ。
 ただ、わかったのは。
 この化け物をどうにかしないといけないということだ。
 骨が折れる。だが、やらないと。今は結界があるからいいが結界がなくなれば大惨事。

 フィルがどこかに連れていかれている。こいつが結界の外に出れば始まりの街にいる冒険者でこいつを止められるものはいない。

 ……第二ラウンドは魔法を使おう。
 ルール違反だが、先にルールを破ったのは向こうだ。
 レベル20に至るまで魔力量の絡みで使えなかったマジックカスタムがある。
 魔法戦士の力の最奥を見せるとしようか。
 
+注意+
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