挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 作者:月夜 涙(るい)

一章:おっさんはやり直す

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

18/48

第十七話:おっさんは雷を放つ

 今日は適正レベルが25の海底ダンジョンに来ていた。
 初心者ダンジョンじゃない普通のダンジョン。ここではベテランの冒険者たちも狩りに精を出している。
 だからこそ来た。魔物を減らしてもらい安全性を高めてもらう。

 こんな高レベルなダンジョンにレベル11の俺たちが来るのは自殺行為だ。
 俺は優秀な装備のおかげでレベル+5、さらに転生ボーナスでさらにレベル+5の力があるが、それでもまだ足りない。
 だが、とある魔法を使うことでなんとかぎりぎり、このレベルで出来る狩りがある。

 レベル差があるほど、経験値にボーナスが入る。レベル差が一つにつき5%の加算がある。14レベル差であれば1.05の十四乗。つまり1.97倍もの経験値。
 元より、レベルが高い魔物ほど経験値が高い。それが二倍になるのだ。一気にレベルがあがることが期待できる。

「さて、ルーナ、ティル行こうか。ちゃんと帰還石は持ったな」
「ん。ばっちり」
「お姉ちゃんがせっかくくれたんだもん。大事にしなきゃな」

 二人が青い宝石を見せてくる。
 そして、ポケットにしまった。
 冒険者は、深いポケットが複数ある服を愛用する。二人にもそれを勧めていた。
 ポケットがあるといろいろと便利だ。

「本当は腰に括り付けておいたほうがいいんだがな」

 取り出しやしさを重視するなら、腰のベルトにアタッチメントをつけて固定するのだが、非常に高価な帰還石を見せびらかすようなことをすれば、欲深い連中が寄ってくる。

「さて、準備もできたし行こうか」
「ん。……でも、やっぱりユーヤの格好が気になる」
「本格的な魔法使いって感じだもんね」
「まあな。いつもは魔法も使える戦士として戦っているが、今日は剣も使える魔法使いのつもりで戦う」

 かなり魔法使いよりだ。剣は持っているが腰につるし、手には両手杖、身にまとうのは皮鎧ではなくローブ。

 このレベル差でも、俺の腕前であれば敵の攻撃は捌ける。
 ぶっちゃけた話、ここにいる魔物の攻撃力であれば装備で防御力を上げたところで誤差にしかならない。
 直撃を受ければ終わりだ。なら、防御力を上げるより呪力を上げて魔法の威力を上げる。
 今着ているローブには呪力を上げる効果がある。
 剣ではなく杖をもっているのも呪力を上げるためだ。今日の装備は魔法攻撃力に特化していた。

「ユーヤの魔法、超近距離型しか見たことがない。そんな装備で前に出るのは危ない。剣がないから受け流しもできない」
「それしか使ってなかったからな。だけど、今日はようやく新しい魔法を見せられる。そっちはちゃんと魔法らしい魔法だ」

 マジックカスタムによって作られた特化型魔術は、中級火炎魔術【炎嵐】カスタム、【爆熱神掌】だけじゃない。
 今回使うのは中級雷撃魔術【雷嵐】のカスタム。

「ルーナ、ちゃんと言ったとおり【気配感知】はレベル10にしたか?」
「ばっちり」
「よくやった」

 スキルのレベルは最大10だ。
 とはいえ、レベル5から先はうま味が少なくなりレベル5止めが安定する。
 しかし、【気配感知】はレベル10まで取ったほうがいいスキルだ。

 レベル5の段階で、敵の数と位置までわかるが、レベル10にすると敵の姿まで脳裏に浮かび、なにより魔物が誰に敵意を持っているかがわかる。

「ティル、今回はお前の”釣り”が一番重要だ」
「ふふふ、任せてよ。私の弓は必中だからね!」

 作戦はきっちり、二人に説明している。
 基本はルーナが見つけて、ティルが”釣り”、俺がとどめを刺す。
 この流れ通りにいけば、安全に狩りができるだろう。

 ◇

 海底ダンジョンはその名のとおり、海のそこにある洞窟だ。
 天井が透明で光が差し込み視界が確保されており、道が非常に広いこともあって、洞窟特有の難しさは存在しない。おかげで、それなりの冒険者がここに狩りに来る。

 昨日のうちにあらかた魔物が狩られており、ルーナの【気配感知】で魔物を避けて進むのもたやすい。

「うわぁ、広い道がずっと長く続いてるね」
「そういうダンジョンだから来たんだ」

 地下迷宮は再配置されるたびに地形は変わるが、基本的なコンセプトは変わらない。長い直線と広い道があることは重要だ。
 ルーナに限界まで敵を避けるためのルートを探ってもらいつつ、巨大ヤドカリ型の魔物を探してもらい先へと進んでいく。
 ルーナのキツネ耳がぴくぴくと動く。

「ユーヤの言ってる魔物がいた。ヤドカリ、すっごく大きい」
「よし、今回はそいつだけを倒しに来た」

 全長三メートルを超える巨大ヤドカリ型の魔物、ハーミット・クラブ。
 見た目の通り、とてつもない防御力を持っており攻撃力が高い。そのくせ、めちゃくちゃな突進力を持っている。
 動き自体はたいして速くないのだが、射程が長く、高威力、超速の突進スキルを持つ。
 それは後衛にすら届く。魔法使いが詠唱中に突進で吹き飛ばされるなんてことが頻繁に起こる。

 ハーミット・クラブには弱点がある。魔法に対する防御力は極めて低い。……ただし、炎、水(氷)に対しては非常に強い抵抗力を持ち、結果的に風(雷)魔法のみが弱点となっており唯一の有効だとなる。
 その癖、魔法使いの詠唱に反応として、高射程・超速・高威力の突進をかましてくるのだから手に負えない。

 ハーミット・クラブは風(雷)の力を持つ魔法使いがパーティにいて、しかもよほどのレベルの差がない限りは逃げるべき魔物だ。
 あいつに殺された冒険者の数は数えきれない。

 そのおかげで、再配置からしばらく経っているのに冒険者たちに倒されずにダンジョンを闊歩している。……リスクが高すぎて冒険者は奴に挑めないのだ。

「でも、ハーミット・クラブの周りに敵がたくさんいる。半魚人に、大きな貝、それに虫も」
「あいつの周りには自然に魔物が集まってくるからな」

 どういう理屈かはわからないが、ハーミット・クラブは周囲に魔物を侍らせている。そういう魔物は何種類かいる。ゲーム時代には中ボスと呼ばれている連中だ。
 それがまた、討伐を難しくしていた。
 取り巻きと一緒に、あの化け物と戦うなんて冗談じゃない。
 しかし、俺たちのパーティにはティルがいる。

「だからこそティルの腕が重要になる。ルーナ、ゆっくりとそいつらのいるところに近づく。ヤドカリ以外が敵意をこっちに向けたら教えてくれ。全力で逃げるぞ」
「わかった。注意しておく」

 俺たちはゆっくりと進む。
 ルーナがハーミットクラブとの距離を読み上げる。

「ユーヤ、ティル、ここが二百」

 長い長い直線の行き止まりに魔物たちがたむろしていた。
 それが俺にも見えた。

「よし、次はティルだ。俺が合図したら矢を放て、間違ってもハーミット・クラブ以外には当てるなよ」
「わかってるよ。私の腕を信じて」

 さあ、始めようか。
 一点特化した、必殺のスキルでの大物食い。
 俺がハーミット・クラブを選んだのにはいくつか理由がある。

 まず、非常に経験値が高いこと。適正レベル25のダンジョンの中でもひときわ高い。おそらくはその強さ故だろう。

 次に、突進スキル以外は鈍重であることと風(雷)が弱点であり魔法防御が極めて低いこと。十分な火力の風(雷)属性かつ、高威力の魔術なら一撃で倒しえる。

 普通の魔法使いなら、そうはいうものの一般的な魔法使いの射程30メートルをカバーする突進スキルを恐れて挑むことができないだろう。
 だが、俺はマジックカスタムにより、普通じゃない射程の魔法が使える。

「さあ、ヤドカニ退治だ。ルーナ、ティル。気を引き締めろよ。失敗すれば即死だ」

 二人は真剣な顔でうなずくのを見て、詠唱を開始する。

 魔力が高まっていくのを感じる。
【炎嵐】をカスタムした【爆熱神掌】は、威力以外のすべてを捨て去った技だった。

 だが、今から放つ中級雷撃魔術【雷嵐】をカスタムした魔法は違う。
 複数の敵を巻き込むだけの威力を雷の弾丸まで圧縮、さらに限界まで詠唱時間を長くしている。今の俺が使うと詠唱だけで一分程度かかる。
 こんなくそ長い詠唱時間だ。まともな戦闘では使えない。
 だが問題ない。

 この魔術は狙撃に使うために開発した魔術。
 観測主たる【気配感知】持ちが敵を発見し、敵に気付かれない距離から狙撃手たる俺が狙い撃つ。
 それならば、長い詠唱時間はデメリットにならない。

 範囲と詠唱時間を犠牲にした分は、威力だけでなく射程距離に回している。
 マジックカスタムによって、複数の敵を打ち払う雷の雨は雷のライフルへと変わった。その射程は約百メートルを誇る。

 詠唱が始まって三十秒経った。
 そろそろ頃合いだ。

 ティルに合図を送る。
 すると、ティルは矢を射る。ここからハーミット・クラブまでの距離は二百メートル。並みの弓士なら当てるどころか届かせることすら難しい。

 だが、ティルの腕なら容易に当てられる。
 矢の雨がハーミット・クラブに着弾。
 本来、魔物たちはすべてアクティブラインという範囲が設定されている。
 魔物ごとに違いはあるが、最長で百メートル、最短で五メートル。その範囲に入らないかぎり、魔物は冒険者たちに気付けない。
 さらに攻撃がヒットした瞬間。無条件にこちらの位置を知るという仕様が存在する。
 その二つの仕様を利用することで、”釣り”ができる。

「ユーヤ、ティル。ヤドカニはティルに敵意をもった」

 そのことをルーナが報告してくる。
 その直後、ハーミット・クラブがこちらに向かって突進してくる。
 それこそが狙いだ。ハーミット・クラブの取り巻きどもはアクティブラインに入っていないため、こちらに気付いていない。だが、ハーミット・クラブは攻撃を受けたことで俺たちの位置を知り飛び込んでくる。これこそが”釣り”だ。

 ハーミット・クラブだけが孤立した。数分すればその特性で取り巻きを呼ぶが、それまでに倒す!

 詠唱完了まであと二十秒。
 宝石を付いた杖の先端をまっすぐにハーミット・クラブに向ける。
 ティルは矢の雨を降らすが、ハーミット・クラブの防御力の前に毛ほどのダメージを与えられない。
 同レベル帯ですらまともにダメージを与えられないのだから当然だ。

 矢の雨の中を突き進みどんどん距離を詰めてくる。凄まじい迫力だ。
 冷汗がにじむ。
 ハーミット・クラブに距離を詰められると、有効打の風(雷)属性の魔法を使える魔法使いですらやばい。
 ハーミット・クラブの突進技の射程である30メートル以内に入られれば即死だ。

 あいつを安全に倒すには、超遠距離で仕留めるしかない。
 残り距離百十メートル。
 俺の詠唱が完成した。読み通りのタイミングだ。
 構えた杖の先に帯電する魔力弾が生まれ唸り声を上げ始める。
 中級雷撃魔術【雷嵐】カスタム。
 その名は……。

「【超電導弾】!」

 杖から雷の弾丸が放たれた。
 その速度は雷速。眼には映らない。

 範囲と詠唱時間を犠牲にすることで生まれた超火力遠距離射撃、雷の特性で圧倒的な速度まで得ており回避すら許さない。
 狙撃魔術にカスタムするのに【雷嵐】が選ばれたのは、この速度があるからだ。炎や氷ではこうはいかない。

 雷の弾丸は、ハーミット・クラブをたやすく貫いた。
 大穴が開き、雷に焼かれて黒く焦げている。
 あまりの速さと威力で貫かれたものだから、ハーミット・クラブは自らが死んだことすら気付かずに数メートル進んでから、崩れ落ちた。青い粒子に変わっていく。

 威力だけでなく射程を強化した分【爆熱神掌】に威力は劣るが、それでもぶっ壊れと言えるほどの威力。いくらレベル差があろうが魔法防御が弱く、風(雷)が弱点であるハーミット・クラブが耐えられるはずがない。
 大量の経験値が流れ込み、一気にレベルが上がる。
 力が湧いてくる。

「さすがに、このレベル差の大物を倒すと、一気にレベルがあがるな」
「すごい、レベルが3つもあがって、14になった」
「お姉ちゃんは、レベルが11からは一気にレベル上げが厳しくなるって言ってたのに」
「フィルは嘘は言っていないさ。こんなことができるほうがおかしい」

 レベル11まではとんとん拍子にあげられる。
 レベル10刻みで、一気にレベル上げに必要な必要経験値が増える。レベル10→11とレベル11→12は別次元だ。
 通常なら三日で一つ上げられるかどうかというところだろう。

「さあ、二人とも次に行こう。ルーナが見つけて、ティルが釣って、俺が仕留める。この流れなら、まだまだいける」
「がんばる。もっと強くなりたい」
「しょうがないな。ユーヤが頼りにしてくれるんなら、力を貸してあげるよ」

 やる気をアピールしてくる。
 この子たちの前向きなところは見習いたい。

「行こうか、俺たちはもっと強くなる」

 レベルがあがったおかげで、【超電導弾】は六発までは撃てる。
 もしものために一発分の魔力は取っておくとして、あと四匹を速やかに仕留めよう。
 このペースならあっという間にレベル20まであがる。
 レベル20。それは一つの区切りだ。そこまでたどり着けばいっぱしの冒険者だ。そこに一か月もかからずたどり着こうとしている。
 間違いなく、歴代最速。
 今、俺たちはとんでもないことをしているのだ。




+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ