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第十五話:おっさんは新たな戦闘スタイルを目指す

 ティルが加わってから初めての探索になる。

 今回は草原のダンジョンを選んだ。


 ティルの射撃能力を見たい。それには岩山のような高低差のある地形やジャングルのような射線を遮る木々が多い地形は不適切だ。

 その点、草原のような見通しが良く遮蔽物が少ないフィールドは狙撃能力を十二分に生かせる。


 二百メートル以内なら必中という弓の腕を見せてもらおう。

 実のところ、弓使いにとって最大のハードルはちゃんと矢を当てられるかだ。


 ステータスがあがり、クラスごとの適正武器をきっちり装備すれば威力はあがる。

 ……だが、当てるには技術が必要となる。

 弓は剣や槍と違って振り回しさえすれば一定の効果があるわけじゃない。


 まっすぐ飛ばすだけで苦労し、ましてや遠くの的に当てるなんて一流でないと不可能だ。一流と呼ばれる弓兵になるまで”最低”で五年と言われている。

 一流の弓使いというのはかなり数が少ない。

 弓使いのほとんどは威力と連射性能と射程を犠牲にして誰にでも使えるクロスボウを選ぶ。


 まじめに何年も弓を修行なんてしていられない。

 しかし、一流の弓使いというのは非常に強力だ。遠距離から雨のように剣士の渾身の一撃に匹敵する威力の矢の雨を降らせられる。弓とは全クラスの中でもっとも技量を求められ、使い手次第で最弱にも最強にもなりえる武器だ。


「ルーナ、敵を探してくれ」

「ん、やってる」


 ルーナが【気配感知】を使い敵を探し始める。

 全方位に150メートルの索敵をしながら歩く。非常に便利だ。

 敵の奇襲を防げるうえに、索敵に使うことで狩りの効率が格段にあがる。


「いた。ユーヤ、ティル、ルーナの指さした方向の140メートル先、兎の魔物がいる。草むらに隠れてる」


 膝上まで伸びた草に隠れて見えないが、言われてみれば草が不自然な動きをしている気がする。

 ティルの空気が変わった。


 陽気な美少女から、熟練の狩人へ。

 矢をつがえた。


「ティル、見えてるのか」

「うん、エルフの名家。エーテルランスの眼は特別製なんだ。ちゃんと揺れる草の隙間から可愛い兎が見えてるよ」


 翡翠色の眼が輝いている。

 フィルに聞いたことがある。エルフの中でも、祖先の血を色濃く受け継いだ者は凄まじく遠くを見る力、若干の透視能力、数秒先の未来予測、人間とは比較にならない動体視力を持っている。

 ステータスでは見えない強さであり、すべての弓使いが喉から手が出るほど欲しがるもの。


 ティルが矢を放つ。それも一発じゃない。確実に仕留めるために、一呼吸で三連射。凄まじい速射だ。

 弓の素人の俺が見ても一目ですごいとわかる完成されたフォーム。

 ひどい横殴りの強風が吹いており矢はまっすぐ飛ばない、大きく弧を描く。

 100メートル以上も強風にさらされれば、どこに着弾するかなんてわからない。

 普通なら。だが、エルフたるティルは風と一つになれる。風がどう矢を運ぶかが感じ取れる。


「ピギャアアアアアアアアア、ピギュ、ピ」


 魔物の悲鳴が聞こえ、途絶えた。

 体に力が流れ込んでくる。経験値を得たとき特有の感覚だ。


「うん、いい感じだね。三発全部当たったよ。すごいでしょ」

「弓の腕はフィル並みだな」

「師匠が同じだからね。お姉ちゃんがいなくなってからは、ずっと大会で一番なんだ! 言ったじゃん二百メートル以内なら必中だって。七割でいいなら三百メートル先だってなんとかなるよ!」


 頼もしい。

 これだけの遠距離攻撃を使えるなら一方的な狩りができる。【気配感知】で見つけた敵を近づけすらさせずに射殺す以上に安全な戦法はない。

 他にも”釣り”に使える。


「弓の技術はわかった。最初のスキルポイントはちゃんと割り振ったか」

「うん、言われたとおりにしたよ。三ポイントは【矢生成】に使うんだよね」

「それがないとあっという間に弾切れだ。MPがそのまま矢の在庫になる。しかも本人のステータスに比例して強い矢が作れる。最終的には、市販の矢よりずっと強い矢になるしMPに余裕があるときに作り溜めできる。弓使いの必須スキルだ」

「へえ、それはすごいね。今作ったのはちょっと質が悪いって感じたけど、ちゃんと良くなるんだ」

「保証する。残り二ポイントはわかってるな?」

「うん、ちゃんとあれをとったよ」

「いい子だ」


 精霊術士の最大の強みを得るには、必要なスキルがある。

 さて、狩りを続けようか。


 ◇


 それからの狩りも順調に進んでいた。

 ティルは眼がいいので敵を素早く見つける。すぐれた視力というのはそれだけで強力な武器になる。


 隠れている敵もルーナの【気配感知】で見落とさない。

 射線が通っていれば、近づかれる前に一方的に狙撃で倒す。

 ティルは命中精度だけでなく、連射速度も特筆するものがあり、連射速度は火力へと繋がる。


 魔物の数が多いときは、何体か接近を許してしまうが、そのときは俺とルーナが片付ける。

 今までは敵の数が多すぎれば戦闘を避けていたが、ティルが接敵までに数を減らすことを計算に入れて挑むことができている。


 ティルのレベルが順調にあがっていく。今はレベル3になった。 二つレベルが上がって得たスキルポイントは例のスキルの強化に回した。

 とりあえずはこれでいい。

 そろそろ草原の最奥、奥にいくほど強い魔物が出現する以上、大物が来る頃だ。


「ユーヤ、すっごく大きい敵が近づいてる。地面の中からすごい速さで!」


 ルーナが叫ぶ。

 来た。

 今までの敵は防御力が低すぎて、精霊弓士の真価を発揮できなかったが、こいつなら見せてもらえそうだ。

 十メートルほど先の大地が爆発する。地下から近づかれたため遠距離から攻撃を加えることができずに接近を許した。


 穴から出てきたのは俺の身長を優に超える二足歩行の穴熊。

 マッド・ベアーだ。

 草原のダンジョンでは一番の難敵。

 ロックゴーレムほどではないが、初心者には荷が重い敵だ。圧倒的な筋力と鋭い爪による攻撃力、刃を通さない分厚い毛皮による防御力を兼ね備えている。


「俺が前衛。ルーナは距離を取りつつ確実に当てれるときだけ、アサシンエッジを急所に叩き込め。やつの急所はわき腹だ。ティルは後衛に回れ」

「任せて」

「わかったよ」


 それぞれが配置に着く。

 こうして、フォーメーションを作ると、本格的にパーティ戦闘らしくなり、どこか嬉しくなる。


 今回はティルのための戦いだ。

 俺の魔法は封印し壁に徹する。敵の攻撃をさばきつつ足止めするのだ。

 マッド・ベアーは鋭い爪の一撃を振り下ろしてくる。

 この程度なら、余裕でさばける。

 剣を盾にしてはじき、受け流していく。マッド・ベアーは怒り狂い、連続で攻撃してくる。速いだけの単調な攻撃など苦にはしない。


「……相変わらず、ティルはいい腕をしている」


 そこに矢の雨が降ってきた。

 ティルが援護をしてくれている。……前衛で戦う俺を避けつつ、しっかりと獲物に命中させる。敵だけに矢を当てるには、数秒先の位置が見えている必要がある。


 矢で両目を貫かれたマッドベアーが悲鳴を上げて後退する。ティルは三十メートルほど後から矢を放っている。そこから、ピンポイントで目を狙ったようだ。信じられない腕前。

 ティルは想像以上の逸材だったようだ。


 マッド・ベアが後退するとき、飛び込んできた影がいる。

 ルーナだ。確実に当てられるだけの隙を見つけたのだ。


 全力の突進から大きく踏み込み、必殺のアサシンエッジを放つ。毎日自主的に特訓していることもあり、より動きは洗練していた。

 急所である脇腹に短剣が突き刺さり、クリティカル特有の甲高い音が鳴り響く。


「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 アサシンエッジの特徴。クリティカル時のみの超倍率の一撃がマッド・ベアの表情を苦悶に歪める。


 さて、そろそろか。

 先ほどから矢を雨のように放っているティルは、矢を放つ以外にも仕事をしている。


 魔法の詠唱だ。

 魔法の詠唱中にも動くことはできる。

 とは言っても、一度に使用できるスキルは一つ。魔法使いであれば詠唱中に動けたとしても後衛からの攻撃手段はない。

 弓が扱える精霊弓士だからこそ、詠唱中に有効な遠距離攻撃が可能なのだ。


 魔法が完成する。

 上級雷撃魔術【神雷じんらい】。

 低レベルのティルが広範囲・高威力を両立した代わりに詠唱時間が長い上級魔法を放つためずいぶんと時間がかかった。

 

 今のティルのMPでは一発きりしか打てないが、十分な威力を持つ。

 巻き込まれないように、バックステップ。

 マッド・ベアが崩れ落ち、青い粒子に変わっていく。


「やっぱり、精霊弓士はずるいな」


 精霊弓士の最大の強みは物理攻撃と魔法攻撃を使い分けられることではない。”同時”に使えることだ。


 詠唱しながら矢を放つことで手数を二倍にできる。詠唱中に弓のスキルは使えないが、弓は通常攻撃でも十分すぎる威力を持つ。

 ティルの姉のフィルは、魔法スキルと弓のスキルはパッシブ(常時発動)の強化を取り続けた。


 はっきり言って反則な強さだ。

 風(雷)属性しか使えない点で対応範囲で魔法使いに劣るし、探索スキルしか使えない点で利便性で狩人に劣る。だが、その程度は気にならないほどのアドバンテージ。

 今回のパーティでもその精霊弓士の強さに頼れるのは助かる。


 ……そして同時に俺の目指すスタイルも見えた。

 ティルが詠唱中も弓を放ち続けたように詠唱中に戦士として鍛えた技を振るう。前線で魔法を使える魔法戦士の強みだ。

 それはゲーム時代ではできなかったこと。ゲーム時代には詠唱中は攻撃コマンドが選べなかった。現実だからこそ実現可能になった戦闘スタイル。

 楽しくなってきた。

 俺も、俺のパーティもどんどん強くなっていく。

 戦いが終わり、ティルとルーナが集まってくる。


「ユーヤはお姉ちゃんが言ってたとおり、すごい剣の腕前だね。熊さんの嵐のような連撃、全部受け流しちゃうんだもん。ルーナもすごいよ! すっごく身軽だし、とんでもない一撃を放ってた」

「ん。ユーヤに教えてもらった自慢の技。でも、ティルの弓はもっとすごい。びゅんびゅんやってるのに全部当たってる。その上、魔法まで使うなんてずるい」


 ティルとルーナがお互いに褒め合っている。

 こうして力を見せ合ってこそ結ばれる友情もある。

 この分だとティルとルーナはすぐに仲良くなるだろう。

 空を見上げると日が落ち始めた。とはいえ、ルーナもティルもやる気満々だ……限界まで狩りをして連携と友情を深めよう。


「二人とも、今日はぎりぎりまで稼ぐぞ! この三人ならまだまだいける!」

「ん、任せて。今の一撃気持ちよかった! もっとアサシンする」

「私もがんばるよ!」


 俺たちは魔物を探す。

 こんなにわくわくした狩りはいつ以来だろう。

 この三人なら、かつて届かなかったところに手が届く。

 全員一緒に上にいける。

 そんな確信があり、ついつい予定より長く狩りを続けてしまった。

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