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第二十話:おっさんは雷竜に挑む

 轟雷竜テンペストとの戦いが始まった。

 翼と手が一体化した正統派の飛竜は、その見た目を裏切らず空を自由自在に舞っている。

 オールラウンダーの炎帝竜、防御力に特化した氷盾竜に対して、轟雷竜は速さと攻撃力に特化している。


 轟雷竜テンペストはゲームでは人気が高かった。

 鋭利なフォルムと獰猛でありながらも、どこか気品を漂わせている。

 加えて、強い。

 強いというのはそれだけで人を惹きつける。


「ユーヤ、すっごい高いとこ飛んでる。ぜんぜん届かない」

「最初は二人に任せるしかないわ」

「そうだな、奴には飛行する魔物に共通する弱点がない。まず、空から叩き落さないとどうしようもない」


 飛行する魔物には、共通する対処法がある。

 いくら空を自由自在に飛べるとはいえ、向こうからの攻撃手段は限られる。

 直接攻撃するためには、こちらまで降りてこなければならないし、遠距離攻撃をするにしても飛行しながら当てるというのは思いの他難しく、多くの魔物は空中で制止して狙い打ってくれるし、その射程もたかだか、二十メートル程度の場合が多い。


 直接攻撃してくれるのならカウンターで迎え撃てばいいし、遠距離攻撃の場合も二十メートルまで近づいて制止してくれるのであればやりようはある。

 だが……轟雷竜テンペストは違う。


「うわっ、あぶないよ。すっごい近くに落ちた」

「高度も速度も落とさず、一方的に攻撃とは嫌になりますね」


 奴の基本攻撃は落雷。

 天から降り注ぐ雷の射程はほぼ無限、そして狙いをつける必要すらなく、絶え間なくこちらを削ってくる。


 ……せめてもの救いは、ここまでくる際にさんざん見てきた落雷と同じく、落雷予想地点が青く輝いてくれること。

 これがあるからぎりぎり避けられる。

 ルーナとセレネの視線がフィルとティルに向く。

 轟雷竜テンペストはとある条件を満たさない限り、落雷攻撃を止めない。


 飛び疲れて羽を休める、あるいはしびれを切らせて直接攻撃に切り替えたりなんてことはない。

 この状況を変えられるのはフィルとティルだけ。

 だが、フィルとティルは戦いが始まってから一本も矢を放っていない。

 いつもの彼女たちなら、開戦と同時に矢の雨を降らせるのに。

 もちろん、それには理由がある。


「ティル、私は覚えました……いけますか?」

「もちろん! って言いたいけどもうちょっと待って」

「成長しましたね。以前のティルなら、ここで強がっているところです」


 エルフ姉妹の瞳は、翡翠の輝きを放ちながらただずっと天を舞う轟雷竜テンペストを睨んでいた。

 轟雷竜テンペストとの距離は五十メートル。


 遠く離れているが、フィルとティルなら必中距離。……相手が轟雷竜テンペストでなければ。

 奴は超高速で飛行する。つまるところ、矢が五十メートル飛来するまでの間にかなり動くのだ。


 未来位置を予測できなければ絶対に当らない。

 なのに、轟雷竜テンペストはあの速さで異常なまでに小回りが利き、複雑な軌跡を空に描いており、予測は非常に難しい。

 だが、実のところパターンが非常に多いだけで、規則性は存在する。


 フィルとティルは矢を放たず、轟雷竜テンペストの飛行パターンを見抜くことだけに集中し続けていたのだ。

 ティルの顔は怖いぐらいに真剣だ。

 しかし、ちょっと入り込みすぎだ。

 ティルの足元が青く光る。なのに、まだ動き始めない。


 青いイナヅマが落ちる。

 そのときになって、ようやくティルが狙われていたと気付いて、表情を硬くするが雷速故にもう回避は間に合わない。

 しかし……。


「ティル、ルーナがサポートしてる。あれを落とすのに集中して」


 ピンク色のラバースーツを着たルーナが庇った。

 ルーナには戦闘前から、ティルを守るように依頼していた。

 いい、反応だ。

 どや顔をしているが、ピンクのぴちぴちな格好な上、静電気で尻尾の毛がすごい勢いで逆立っていて、いまいちかっこつかない。


「ふう、助かったよ。また、悪い癖がでちゃった……でも、読み切った! お姉ちゃん、行くよ!」

「ええ、あの蜥蜴を空から叩き落しましょう」


 フィルとティルが矢を番える。

 フィルが【魔力付与:炎】により二人の矢に炎を纏わせる。

 そして、俺はフィルの肩に手を触れた。


「【神剛力】」


 効果時間を限界まで圧縮したことで、攻撃上昇倍率を十倍にまで高めた、攻撃力倍化魔法が発動する。

 二人のエルフが矢を放った。

 轟雷竜テンペストは、超高速で、まるでイナズマのようにジグザグと物理法則を無視した飛行を見せている。

 だが、フィルとティルはそのパターンを見抜いている。

 故に、数瞬後にいると予測した場所に矢を放ち、その予測は現実へと変わる。


「KYUAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 轟雷竜テンペストが悲鳴を上げてバランスを崩し、錐もみ回転しながら落ちてくる。ただ、矢を当てただけではああはならない。

 奴の弱点を的確に突いたからこそこうなった。翼の根元、飛行時にあそこへ一定以上のダメージを与えるとああなる。


「ティル、この状況でも当てれますよね」

「今度こそ言えるよ。”もちろん”」


 次々に矢が飛来する。

 錐もみ回転しているにも関わらず、右翼の根元をピンポイントで貫き続けていた。

 わざわざ、そんな小さな的を狙い続けるのには大きな意味がある。


「俺たちも行くぞ!」

「ん。待ちわびた」

「もう、飛ばせないわ!」


 前衛組が、竜の墜落地点に走り出す。

 地面に落ちたところを狙うのは当然だが、それだけじゃない。

 目の前で雷竜が墜落し、土煙が舞う。

 その土煙を突き抜け、スキルを放つ。


「【バッシュ】!」


 扱いやすい上段からの振り下ろし、もちろん狙いは翼の付け根。

 俺の一撃を目印にして、ルーナとセレネがそれぞれの必殺を放つ。


「【アサシンエッジ】」

「【シールドバッシュ】!」


 ルーナのナイフが煌めき、クリティカル音が鳴り響き、轟音と共にセレネの盾からスパイクが射出され肉を抉る。


「KYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 奴を中心に雷を纏った嵐が巻き起こり、三人とも吹き飛ばされた。

 さらには、フィルとティルの矢までもが弾き飛ばされる。


「ちっ、足りなかった」

「うううっ、矢が届かないよ」

「まずいですね。また空に逃げられます」


 嵐を盾にしながら、奴が翼を広げた。

 集中攻撃を受けた右翼は半分ちぎれかけていた。

 俺たちが狙っていたのは翼破壊。


 雷竜は翼を失えば飛べなくなる。そうすれば、一方的に落雷攻撃を受けるパターンから逃げ出せるのだ。

 雷竜が羽ばたく。

 フィルとティルは矢を打ち続けているが、やはり嵐に逸らされる。

 あれを抜けるには矢ではだめだ。もっと大きな質量がいる。

 だから、少々強引に行く!

 さきほど、貴重な回復アイテムを使ってから詠唱を始めていた。使った回復アイテムは【リキャストポーション】。

 一部のスキルには使用後一定時間使えないという制限がある。

 俺の【神剛力】もそういうスキルの一つだ。 

 だが、この【リキャストポーション】を使えば、即座に再使用可能だ。

 ダンジョンの宝箱からしかでない貴重品で、ストックはあまりない。それでも、今が使い時だ。


「【神剛力】」


 詠唱が完成する。

 そして、爆発的に得た筋力で、思いっきり剣をぶん投げる。

 嵐の壁を剣が突き抜ける。

 矢とは比べ物にならない剣の質量、そして【神剛力】で得た常識外れの筋力がそれを可能にした。


 嵐を突き抜けた剣はそのまま、ぎりぎり繋がっていた状態だった右翼の根元に突き刺さり止めを刺した。

 根元から絶たれた右翼がちぎれ飛んで、血しぶきが舞う。


「ユーヤ、それ、かっこいい。今度、ルーナもやりたい!」

「ああ、私が翼をちぎるつもりだったのに」

「騒ぐのは後ですよ。……これからが戦いの本番ですから」


 その言葉の通り、強烈な殺気を持って轟雷竜テンペストがにらみつけていく。

 さきほどまでは、羽虫を追い払う程度の認識であり、俺たちのことを敵とすら思っていなかった。

 だが、ここからは違う。

 翼を失ったとはいえ、本気の轟雷竜テンペストは非常に危険な存在だ。

 それに、やつはまだ飛べる。

 奴が立ち上がり、そしてその本気の証である黄金の雷を纏っていた。


「全員、油断するなよ。油断すると……死ぬぞ」


 俺はそれだけ告げると、予備の剣を引き抜き、走り出した。

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