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第十四話:おっさんは隠しダンジョンに挑む

 若干のトラブルがあったが、世界樹に隠された隠しダンジョン、【雷竜の聖域】にやってきた。


 世界樹に隠されたダンジョンだけあって、大樹林が広がっている。

 しかも世界に一本しかないはずの世界樹が群生し終わりが見えないという凄まじい光景が広がっていた。

【雷竜の聖域】は、前半分が大樹林となっており、そして後半部分は実に雷竜の住処に相応しくなっている。


「きゅいっ、きゅいっ! きゅうううううう!」


 エルリクが興奮した様子で飛び回っている。

 ふわふわの翼をはためかせて、うれしそうだ。

 そういえば、エルリクの卵を拾った神樹の森とここは似ている。

 きっと生まれ故郷のことを懐かしんでいるのだろう。


「エルリク、楽しそう」

「でも、エルリク。あんまり遠くに行っちゃだめだよ!」

「きゅいっ!」


 エルリクが戻ってきてルーナとティルに頬ずりする。

 心温まる光景だ。小動物と美少女が組み合わさると、とてつもない魅力を放つ。


「これだけ、世界樹があると素材を取り放題じゃないかしら?」


 そんなファンシーな光景とは対象的に、セレネが現実的なことを言う。

 冒険者として上級ポーションすら凌駕する特級ポーションを入手できることに真っ先に興味を持つのはむしろ当然だ。


「そこまで甘くないさ、あれは世界樹の苗木だ。まだ、成長しきっていないせいで、その力は薬草や霊木と大差がない。でかく見えるが、ここに来るときに世界樹を見ただろう? あれと比べたら子供だ」


 本家は高層ビルぐらいの高さがあるのだ。

 あれと比較すると、これらは赤ちゃんに見えてくる。


「あれで苗木なの? 残念ね、世界樹の葉がたくさん手に入ると思ったのに……」


 もっとも、ここに並んでいる苗木から世界樹の葉を手に入れることはできないが、このダンジョンであれば世界樹の葉を手に入れる方法がある。


 そして、今後のために世界樹の葉を集めるつもりではいた。

 いつものようにルーナのキツネ耳がぴくぴくと動く。敵を見つけたぴくぴくだ。

 それなのにルーナが首を傾げた。


「おかしい、【気配感知】で魔物の気配がするのに。全然魔物が見えない。ほんの二十メートル先にいるはず。視界もちゃんと通ってるから、見えてないとおかしいのに」

「ちゃんといるさ。俺には見えてる」

「うそ。だって、たくさんの木しか見えない」

「ルーナ固定概念を捨てて、【気配感知】を信じるんだ」


 ルーナが俺の言う通りに目を閉じる。

 それから、何かに気付いて駆け出した。


「わかった。敵はちゃんといる! 微妙に回りと色が違うし、根がおかしい!」


 ルーナが【災禍の業火刀】を鞘から抜き、世界樹の苗木に突き立てた。

【災禍の業火刀】のアビリティが発動して、刃が赤熱し炎が吹き荒れる。

【業火】。炎が弱点の相手に刀身が触れると炎属性の追加ダメージを与える力だ。


「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああ!」


 世界樹の苗木が悲鳴を上げて、根っこがうごめき、絡み合い足となって立ち上がった。

 ……そう、魔物は目の前にいたのだ。

 無数にある世界樹の苗木に偽装して、目の前に獲物がくるのを待ち構えていた。


【気配感知】がなければ、気付かず近づいて不意打ちを受けていただろう。

 奴の名は、ユグドラシル・トレント。

 トレントの中でも上位種に当たる存在だ。

 凄まじい生命力があるようで、炎を振り払いルーナに襲いかかる。


 無数の枝が触手のように伸びて、ルーナに殺到した。

【ドレイン・ランス】。

 触手の先端は槍のようにとがっており、あれに貫かれると体液と魔力を吸われてしまう。

 ルーナは、その触手を刃で受けながら後ろに下がっていく。

 ルーナでも、あの数に対応するのは難しく下がるしかなかった。


「ん。ちょっと面倒。これじゃ近づけないし、枝をいくら切り払っても、ダメージがなさそう」

「うわぁ、ルーナが付けた傷があっという間に塞がっていくよ。切り払った枝も、そっこう生えてる」

「弓もあまり効果がありませんね」


 フィルとティルはただ観戦していたわけじゃない。

 弓矢を浴びせるように放っている。

 だが、奴は世界樹の苗木サイズ。つまりは大樹並みにでかい。

 しかも、植物ゆえに急所らしい急所はなく、凄まじい回復力で治っていく。


「こういう敵の場合、倒す方法は一つしかありませんね」

「ああ、そうだ。再生が追いつかないほどの火力を一気に叩き込むしかない」

「でも、遠距離攻撃手段がない、私とルーナは厳しいわね。あの無数の触手をどうすればいいのかしら」


 最大火力を叩き込む際にはそれが壁になる。

 しかも、ぐずぐずしていると他の魔物が合流する可能性があり、時間的な猶予もない。


 ……こういうときは、カスタムしていない【炎嵐】が欲しくなるな。

 あれは、威力自体は低いが、本体はともかく触手を焼くぐらいの威力はある。

 触手をまとめて焼き払えたら、楽に近づけるのだ。

 だが、ない物ねだりをしても仕方ない。

【炎嵐】がなくてもやりようはある。


「ルーナ、セレネ。大技を放つから時間をかせいでくれ」

「任せて」

「ユーヤおじ様には指一本触れさせないわ」


 二人が壁になり、襲い掛かる木の触手から俺を守ってくれる。

 これなら、詠唱に専念できそうだ。

 詠唱を始める。

 それは、中級氷結魔法【氷嵐】カスタム。

 威力をほぼゼロにまで落とし詠唱時間を長くした代償に、射程と範囲・効果時間を延長した魔法。


 その名は……。


「【永久凍土】」


 冷気の嵐が吹き荒れる。

 威力を犠牲にしているためほとんどダメージはない。

 だが、これでいい。

 詠唱が終わった俺は、今まで守ってくれた二人の前にでて、奴の触手攻撃を切り払う。

 先ほどまでは、触手を叩き切ったところですぐに再生した。

 しかし、今度は切ってもなかなか生えてこない。


「ユーヤ、これなら前に進める!」

「ええ、再生しないし、目に見えて動きが遅くなったわ」


 ここまで再生速度が落ちれば、前衛組は簡単に距離を詰められる。

 ……奴の再生というのは、樹木の成長に他ならない。

 樹木というのは、極寒の中では成長を止める。

 それは魔物ですら例外ではない。

 この、【永久凍土】はダメージを与えるためではなく、奴の再生ペースを落とすためだけに使ったのだ。

 前衛組が、それぞれの必殺スキルの射程まで距離を詰めた。


「いくぞ!」

「ん。おっけー」

「こっちもいいよ!」

「合わせます」

「準備はいいわ!」

「放て!!」


 全員が必殺スキルを使う。

 俺の【爆熱神掌】が、ルーナの【アサシンエッジ】が、セレネの【シールドバッシュ】が、フィルとティルの矢が同時にユグドラシル・トレントへと殺到する。


「ぴぎゅあああああああああああああああ」


 再生スペースを落とされたうえの集中砲火。

 さすがに、ユグドラシル・トレントでも耐えきれはしない。

 体の大部分を失い、青い粒子になって消えていく。


「いきなり、強敵だったわね」

「いや、こいつの場合は擬態されて不意打ちを食らう危険性が高いのと、倒しにくいというのが問題なだけで、攻撃力もさほど高くないし、速さもない。このダンジョンの中ではまともなほうだな。……対処も楽だ、ぶっちゃけた話をすれば、倒すのが面倒なら逃げればいい。たぶん、【世界樹の守護者】連中はそうしている」


 そう、何も倒さなくてもいい。

 こいつらが擬態して獲物を待ち構えているのは、速さがなく、そうでもしないと獲物を捕らえられないからだ。

 擬態がうまいとはいえ、見分けるポイントがあり、それを知っていれば不意打ちを受けることもない。


「なら、ユーヤ兄さんはどうして、こんな苦労をしてまで倒したのさ!」

「経験値が欲しかったのもあるが、こいつが欲しかった」


 ユグドラシル・トレントがドロップしたアイテムを拾う。


「あっ、それって世界樹の葉っぱ!」

「世界樹の苗木からは手に入らなくても、こうして世界樹の力を受けて進化した樹木系のモンスターがドロップする。この機会に集めておかないともったいないだろう?」


 そう、だからこそ苦労してでも奴を倒すと決めたのだ。


「ん。わかった! なら、ルーナはいっぱい、世界樹に化けた魔物を見つける」


 ルーナが気合を入れて、キツネ耳をピンと伸ばす。


「ああ、頼む。世界樹の葉を手に入れられる機会なんてそうそうないし。……ここから先、上級ポーションじゃ回復が間に合わなくなるからな」


 三竜を倒し、そしてレベル50に届けば【試練の塔】に挑むことも視野に入る。

 そのときには、特級ポーションを山のように用意したい。


「……ん。みつけた!」


 さっそく、魔物を見つけたルーナが走っていく。

 このペースなら、帰るまでに腕がいっぱいになるぐらいの世界樹の葉が集まりそうだ。

 特級ポーションのレシピは複雑だ。

 今のうちに思い出しておこう。

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