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第十二話:おっさんはエルフを仲間にする

 ダンジョンでルーナの必殺技を鍛えつつ、クエストを達成した。

 意気揚々とギルドに帰ってきたら、美少女エルフの姉妹の喧嘩に巻き込まれてしまい、フィルに正体を知られてしまった。


 ただ、少しうれしくも感じている。

 俺が置き去りにした仲間たち……弟子のレナード、長い付き合いのライルと共に置き去りにしてしまった娘のように思っていたフィルとゆっくりと話せる。


 酒場に向かう。

 美少女が三人いるだけあって、周りの注目を集めていた。

 フィルは見た目は十代後半、フィルの妹とルーナは十代半ば。

 そして、三十六のおっさん一人。


 かなり、俺は浮いてしまっている。

 途中で何度か、そんなおっさん放っておいて俺たちと遊ぼうなんて言う冒険者が現れたがフィルが睨むと去っていった。

 可憐な容姿だが、フィルはレベル上限に到達した超一流の元冒険者、数多の修羅場を潜り抜けてくれた本物だ。

 並みの冒険者なら、フィルに敵意を向けられただけで本能が警鐘を鳴らして去っていく。


「昔のフィルは、もっと大人しかったと思うぞ」


 男が苦手で、こうやってナンパされると俺の背後に隠れるような性格だった。


「いったい、何年前の話をしているんですか。女一人で生きていくには強くならないとダメだったんです。いつも守ってくれたユーヤは手紙一つで黙っていなくなっちゃいましたし。悲しかったんですよ。何日も泣いちゃいました」


 女一人か、うすうすと勘づいていたがフィルもパーティを抜けてしまったらしい。

 その経緯もあとでしっかりと聞いておこう。


 ◇


 フィルの案内で彼女が町一番という酒場に来た。

 凄まじい熱気、これは味にも期待できそうだ。

 酒場につくと、それぞれ飲み物を注文する。俺はエール、フィルは蜂蜜酒、フィルの妹とルーナはぶどうのジュースを頼んだ。


 エルフだから見た目はあてにならないが、フィルの妹は見た目通りの年齢かもしれない。

 エルフは十代半ばから急激に老いなくなるという不思議な特性を持っている。


「それで、ユーヤはなんでレベルが低くなって、新人冒険者をやっているんですか」


 フィルがさっそく直球で聞いてきた。


「野良ダンジョンに潜っていたんだが、見たこともない巨大な芋虫の魔物と遭遇した。……驚いたことにそいつは【レベルドレイン】なんて使ってきた」

「【レベルドレイン】、そんなものが実在するんですか?」

「あるから、こうしてレベル1からやり直す羽目になった。このことは他言無用で頼む。死人がでる。やり直したいやつなんてくさるほどいるが、中級ダンジョンでレベル1なんてなったらどうなるかわかるだろ?」


 隠し部屋のことは隠す。

 レベルリセットは危険すぎる。フィルを信じていないわけではないが、情報を持っているだけで危ない。


「大変だったんですね。せっかく上げたレベルがなくなっちゃうなんて」

「……俺の場合はそうでもないけどな」


 フィルが複雑な顔を浮かべる。

 彼女はずっと、俺の隣で低いステータスに苦しんでいるところを見てきた。

 俺が弱音を吐ける数少ない相手だった。


「フィル、そんな顔をしないでくれ。今回のことはチャンスだと思っているんだ。やり直すためにルンブルクに来た。前回は最悪の数字を引き続けたせいか、今回はすごいぞ」

「いつもユーヤは前向きですね」


 フィルが小さく笑う。

 飲み物が来た。

 つまみをいくつか見繕う。ここの名物のフィッシュ&チップスを頼んだ。ソースが絶品で酒が進むらしい。


「そういうフィルは、どうして受付嬢なんてやってるんだ? レナードたちと一緒に旅を続けていると思ってたんだがな」


 レナードとフィルは俺からみても素晴らしい冒険者だった。

 ステータスにも恵まれ、ステータスに頼らない強さも持っている。

 二人は俺の弟子だ。だから、当時教えられるものはすべて教えた。技量でも俺に近しいものを持っている。


「ユーヤがパーティを抜けたあと、私も抜けました」

「驚いたな。てっきり俺はレナードとフィルは何があっても離れないと思っていたんだ」


 レナードはフィルと一緒に行動するようにしてから、パーティに加わった。

 最初は、口先だけで、やたらと無謀に前へ出たがるどうしようもない奴だったがどんどん成長していき、俺を超えた。

 奴は口には出してないが、レナードがフィルに恋をしていたことも知っている。

 俺が手紙だけ残して去っていったのは、フィルが俺についてくると言い出しかねないからだ。

 こんなおっさんより、若く才能があるレナードと一緒にいるほうがフィルは幸せになれると思った。


「……ユーヤがいなくなってからすぐ、レナードにプロポーズされたんです。だから、私もパーティを抜けました」


 エールを噴出しかけた。

 いずれはそうなると思っていたが、思ったより早い。


「プロポーズを断ったからってパーティを抜ける必要はないだろう」

「ユーヤがいなくなってからいろいろあったんです。あれ以上、レナードと一緒にいるのが怖かった。それに、ユーヤがいなくなったら、急に頑張る気力を無くして……しばらくゆっくりと旅をしました。ある日、ユーヤに助けてもらったように今度は自分が困った人を助けられるようになりたいって思って、受付嬢になりました。今では天職だと思ってます」


 フィルほどの実戦経験と強さを兼ね備えた受付嬢なら、冒険者たちも頼りにするだろう。

 それに、フィルは頭がいいし口も回る。何より優しい。

 受付嬢にはもってこいだ。フィルが受付嬢になることで救われる命はたくさんある。


「うわぁ、お姉ちゃん。かっこつけてる。手紙で、すっごい泣き言を書いてるのに」


 フィルの妹がにやにやとしながら口を挟んできた。


「それは面白そうだ。聞かせてくれ」

「サービス残業が多いとか、上司のセクハラが辛いとか、先輩受付嬢の嫌がらせがひどいとか、三日に一回は冒険者にプロポーズされたり、帰り道によく待ち伏せされているとか、お姉ちゃん大変みたいだよ」

「受付嬢も大変なんだな」


 冒険者とはまったく別の苦労だ。

 彼女のことを心配するべきだが、フィルの強さなら安心できる。


「もう、この子は余計なことを言って。大変だけど、やりがいはちゃんとあります。ユーヤは心配しないでください」

「そこは心配してない。フィルならうまくやれるさ」


 俺とフィルは笑いあう。

 それから、お互いに別れたあとの話をする。

 フィルは受付嬢になってから本当にがんばっているようだ。


 元気にしていて良かった。

 ずっと気にはなっていたが、【試練の塔】から逃げ出したこともあり、会わせる顔がなかったのだ。


 ルーナがちらちらと俺の顔を見ている。

 もしかしたら、俺をフィルに取られるとでも思っているのかもしれない。


「今更だけど、自己紹介をしようか。知らない顔もいるしな。俺はユーヤ。かつてフィルと一緒に旅をしていた。この子はルーナ。今の俺のパーティだ」

「ルーナはルーナ。ユーヤと一緒に戦ってる」


 主に、フィルの妹に向けて挨拶する。


「私はフィル・エーテルランス。ユーヤの昔のパーティメンバー。今はギルドの受付嬢」

「私はティル・エーテルランス。お姉ちゃんの妹で、冒険者になるためにルンブルクに来たの」


 フィルはどちらかというと大人しめな感じだが、妹のティルは活発な印象を受ける。

 二人とも、金色の髪、翡翠色の眼、エルフ耳というエルフの特徴をもった美少女だ。


「ティルはいくつなんだ? エルフの見た目はあてにならない」

「今年で十四になったよ!」

「見た目通りか。冒険者になってもいい年齢だが……あまり勧められない。とくに女の子にはな。ダンジョンという閉鎖空間で君みたいな可愛い子を見つけた男は獣になる。下手な魔物より、よっぽど怖い」


 女性だけのパーティは非常に危険だ。

 ましてや女性の一人旅など自殺行為。

 ダンジョン内は力が支配する治外法権なのだから。


「お姉ちゃんと同じことを言うんだね」

「私はティルだから反対したわけじゃないです。女の子が一人でやってきて冒険者になりたいなんて言ったら止めます。……ティルが思っている以上に、ずっとずっとダンジョンも魔物も冒険者も怖いものです」


 実際、そういう意味でフィルは苦労し続けてきたからな。

 あの子はよく狙われている。

 俺とレナードで必死に守ったものだ。

 今思えば、レナードのプロポーズを断ったフィルがパーティを抜けたのもわかる気がする。

 ……ダンジョン内でレナードに襲われればどうしようもないし、そのチャンスはいくらでもある。


「だから、クエストを依頼するの。ユーヤ、お願い。私のクエストを受けて」


 ティルが頭を下げてきた。

 そういえば、さきほどエルフの宝物をあげるかわり一人前になるまでパーティに入れてほしいと言っていたな。


「だめ、ティル。ユーヤだって男だから。いつ襲われるかわからないです」


 ひどい言いようだ。

 しかし、ティルはひるまない。


「大丈夫だよ。だって、お姉ちゃんみたいなすっごい美人と一緒に冒険して、冒険以外も二人っきりで暮らしてたのに、ずっと、ずっと、手を出さなかった人だよ? 安全に決まってる」

「なっ、なっ、なっ、なんてことを言うんですか!?」

「うん? ユーヤはお姉ちゃんに手を出したの」

「「出されて(出して)ない」」


 フィルと二人で否定する。

 俺たちはそういう関係ではない。彼女は俺にとって娘のようなものだ。


「なら大丈夫だね! あとはユーヤが受けてくれるかだけど」


 フィルは俺が知る限り唯一のエクストラクラスを取得した冒険者だった。

 おそらく、あれはエルフ限定クラス。


 ティルもそのクラスを選べると考えるべきだろう。選べるのであれば、戦力的には申し分がない。

 もともと理想的な人数である四人に届いていなかった。

 早めに仲間を増やしたいと思っていた。


「一応、聞いておくが。報酬のエルフの宝物ってなんだ」

「えっと、これ。世界樹の雫。エルフの乙女しか作れない特産品、一瓶造るのに五年もかかるんだよ」

「まさか、老化をとめるあれか」

「人間は毎日一舐めするだけで、飲んでる間老いないらしいね」


 ティルがどや顔している。

 わりと有名な薬だ。

 ……そして、これのせいでエルフの里が狙われたこともある。


 老いないというのは人間にとってそれだけの魅力がある。

 この一瓶、毎日ひと舐めなら二年ほどは持つ。二年間老いない。それは今の俺にとっては喉から手がでるほど欲しいものだ。

 俺の年齢は三十六。そろそろ衰えが出始める。それを止められる。


 ティルを仲間にすれば、なかなか得ることができなかった新たなパーティメンバー、それも強力なエクストラクラスを取れる強者を得られ。老いからも解放される。

 受けたい、受けたいが……。


「よし、決めた。フィルが許可をしたら、パーティに入れよう。家出娘を受け入れるわけにはいかない。家族の許可をとれ」


 この子の暴走を後押しするわけにはいかない。

 全員の視線がフィルに集まる。


「ティル、どうして冒険者になりたいか聞かせて。それ次第で決めます」


 まっすぐにフィルは妹の眼を見た。


「お姉ちゃんがすっごく楽しそうだったから。そんなお姉ちゃんに憧れてたの。だから、成人したらエルフの里を出るって決めてた。私もお姉ちゃんみたいに外の世界を見たい! お姉ちゃんが手紙で語る世界は、怖いけど、きれいで楽しそうだった。世界は広いのに、せまいエルフの里にずっといるなんてつまらないもん!」


 いい理由だ。

 その好奇心こそ冒険者の原動力だと言える。

 フィルが笑った。


「わかりました。ユーヤもいいと言ってくれるので、ユーヤと一緒に冒険をしなさい。ユーヤの言うことをよく聞くんですよ」

「お姉ちゃん、大好き!」


 ティルがフィルに抱き着く。

 美少女エルフ姉妹の抱擁は非常に絵になる。


「講習はユーヤと一緒に冒険するなら免除します。明日、特別にクラスをもらえるように手続きしますからギルドに来なさい……。ユーヤ、妹を頼みます。それから、ギルドの受付嬢としてあなたのパーティを全力でサポートしますので、いつでも相談してくださいね」


 フィルが頭を下げてきた。


「任せておけ。ティルは俺が守る」


 フィルに頼まれた以上、絶対に悪いようにはしない。

 ルーナは面白くなさそうだ。


「ルーナ、そう膨れるな。ティルが来たからって、俺がとられるわけじゃない。むしろ友達が増えたって思えばいい」

「……本当に、ティルが来てもルーナのこと、かまわなくならない?」

「約束する」

「ん、ならいい。ティル。よろしく」

「よろしくね。ルーナちゃん」


 少女たちが握手した。

 さて、これで問題は解決だ。

 料理を追加注文する。


「今日は俺のおごりだ。新たな仲間が増えた祝いだ。遠慮せずに食べてくれ」


 これで、パーティは三人になった。

 今まで以上に、さまざまなことができるだろう。

 明日はさっそくティルがクラスを得る。ティルがクラスを得たらダンジョンに潜り、その力を見せてもらおう。


 エルフだけに許されたエクストラクラスは強い。ゲーム時代にも存在したが、強力なNPC限定でうらやましく思っていたものだ。 何より、俺の新たなマジックカスタムとの相性がいい。

 今から、明日のダンジョンが楽しみだ。

 酒と飯が進んでいく。ついつい酒場に長居してしまった。


「どーして、ゆーやは、わたしをおいていったんれすか」

「それはレナードと一緒のほうがフィルが幸せになれると思って」

「うー、かってきめないでくらさい、いつもユーヤはそう。わたしがすきなのは、れーなどじゃらいれす。ずっと、ずっといっしょにいたかったのに、なんで」

 

 ……酒が進みすぎてフィルがダメな大人になっている。

 少女二人が、微妙に引いてる。

 あっ、つぶれた。フィルが寝息を立て始める。


「ルーナ、宿への道はわかるな?」

「だいじょーぶ」

「なら、ティルと一緒に先に帰れ。俺はフィルを送っていく。明るい大通りを通るんだぞ、間違っても近道だからって暗い道を通るな」

「わかった」


 とりあえず、明日の冒険より先にフィルをなんとかしよう。起こして彼女の部屋まで運んでやらないと。

 フィルが酔いつぶれるところなんて初めて見た。大人になったと思ったのに、まだまだ手のかかる子供のようだ。


 

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