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第三話:おっさんはエビしゃぶを満喫する

4/28にMノベルスから発売された書籍一巻もよろしくお願いします!

 カヌーを半日以上漕ぎ続けてようやく浮島へとたどり着いた


「ユーヤ、地面がある!」

「もう水の魔物に怯えないでいいね」


 さっそくルーナとティルがはしゃいでいる。

 船での移動はかなりストレスがあったようだ。


「二人とも油断はするな。島にだって魔物がいる」

「ユーヤ兄さん、地面の上なら遅れはとらないよ」

「ん。ばっちり【気配感知】で警戒してる」


 俺は苦笑し、魔法袋の中から上着を取り出して二人に羽織らせる。

 そろそろ日が暮れている。水着姿じゃ肌寒いだろう。


 ◇


 浮島には巨大な砂浜が広がっていた。

 ここで野営をすることにする。

 砂浜の奥には熱帯雨林が広がっており、その中へと進んでいくのは明日以降にする。


 熱帯雨林の魔物は強い。それに、見晴らしが悪く木が密集していて身動きがとりにくい。

 砂浜にも魔物は出現するのだが、これだけ視界が広がっていると容易に見つけられる。

 ルーナのキツネ耳が動いた。


「魔物、三匹近づいてくる! エビの魔物。ルーナぐらいの大きさ」

「ねえねえ、ユーヤ兄さん、それってユニーク食材を落とすエビ?」

「違うな。ユニーク食材を落とすエビは、俺の二倍以上でかいし、こんなところには出ない。もっとやばいところに出る」

「ユーヤおじさま、その大きさって本当にエビと言っていいの?」


 セレネがあきれ顔で言ってくる。

 魔物だから、なんでもありだ。


「残念。……でも、エビ肉(上)にもすごく興味ある」

「うんうん、さあ早く倒してこよ!」


 ルーナとティルが走って行った。

 このダンジョンはレベル30後半。

 二人でも十分倒せるだろう。


 ◇


 二人を追いかけていると、すでに戦闘は始まっていた。

 ティルが弓を射るが、それがエビの甲殻に弾かれる。


「かたいよ!」


 エビの魔物は、ルビー・シュリンプ。

 名前の通り、甲殻はルビーのように光り輝く宝石だ。

 宝石の外殻は伊達ではなく物理攻撃に対しては異常に強い。

 ティルは弓での狙撃を諦めて、走って近づく。

 狙いは一つしかない。


「物理に強いなら、魔法だよ!」


 上級雷撃呪文【神雷】が発動した。

 広範囲に、雷が降り注ぐ。

 水辺の魔物の例に漏れず、ルビー・シュリンプも風(雷)が弱点だ。


 弓すら弾く甲殻も、雷には意味をなさない。外殻は無事だが、電流は体内を蹂躙していく。

 ダメ押しで、同じ魔法をティルが放つと、三匹はまとめて動かなくなり、青い粒子に変わっていく。

 ティルがどや顔をして、決めポーズをする。

 この子たちは謎ダンスを開発するのと同時に、最近は決めポーズを作り始めたのだ。

 その横に立ち、口を開く。


「物理と魔法、どちらかに強い敵はいくらでもいる。だが、両方に強い敵はそうそういない。その両方を使いこなせるのはティルの強みだ」


 魔法と物理、両方とも使いこなせるクラスは、魔法剣士と精霊弓士のみ。

 中途半端なステータスの魔法剣士の俺からみると、両立している精霊弓士はうらやましい。


「これからも、頼ってくれていいよ。こんな可愛いくて強いティルちゃんを手放すなんてありえないよね! 恋人のふりに協力しても損はないよ」


 今がチャンスだとばかりにアピールしてくる。

 そんなことをしなくても、恋人の振りはともかく、ティルを連れ戻させたりはしないつもりだ。


「お肉! エビ肉(上)が一つだけある!」


 ルーナの明るい声が響く。

 三体のルビー・シュリンプはドロップアイテムを落としていた。

 エビ肉(並)と、ルビー、それにエビ肉(上)。


「それは素敵ですね。今日のメインはそれにしましょう」

「フィルさんがどんな料理を作るか楽しみだわ」


 追いついてきたフィルとセレネが微笑む。

 たしかに、フィルがどう調理するかが楽しみだ。エビフライ以上のものを作ってくれるかもしれない。


 ◇


 野営用にテントが設置され、その横で焚火を囲んでいる。

 焚火の傍で塩を振ったあと串に刺された川魚が地面に突き刺され、炙られており、香ばしい匂いが漂っていた。

 フィルとルーナが暇つぶしで釣りをしたもの。


「そろそろお魚が食べごろですね。メインが出るまで、それを食べていてください」


 携帯調理セットで料理を続けるフィルの声に、お腹を減らしたルーナとティルが串を引き抜いてかぶりつく。

 行儀が悪いが、これが一番美味しく食べる方法だ。

 エルリク専用の皿に、焼き魚を置くと頭から骨ごとばりばりと食べ始め、丸一匹食べると幸せそうな鳴き声をあげた。


「二人とも、あんまり食べすぎるとメインが食べられなくなるぞ」

「ん、余裕。これぐらいの魚は前菜」

「私たちの胃袋を舐めてもらったら困るよ!」


 さすがは成長期だ。

 おっさんとは違うらしい。


「さあ、メイン料理ができましたよ」


 フィルが携帯調理セットごと料理を運んでくる。

 出汁がたっぷりと張った鍋には、たくさんのキノコが浮かんでいる。今日は鍋か。

 肝心のエビはどこに消えたのかと探すと、鍋の中ではなく、フィルが新たにもってきた皿に盛りつけられていた。

 エビの巨大なブロック肉だからこそ、刺身にして盛り付けられる。厚めに切っており食べ応えがありそうだ。

 刺身は白く透き通っており、皿の模様まで見える。ふぐ刺しのような薄さならわかるが、この厚さでこうなるとは信じられない。


「きれい、きらきら光ってる」

「透き通っているわね。美味しそう」

「お姉ちゃん、早くエビを鍋に入れちゃってよ」

「だめです。これは特別なお鍋なんです。東のほうの料理で、煮るんじゃなくて泳がせるお鍋。食べ方を教えるのでちゃんと見ていてくださいね」


 フィルは茶碗に、茶褐色のタレを注ぐ。

 そして、厚めに切ったエビ肉をフォークに突き刺すと、鍋にくぐらせる。一回、二回、せいぜい二秒ぐらい。

 それをタレにつけて口に運ぶ。

 フィルの顔がにやける。そして、軽く首を振る。


「うううん、あまくて、とろけちゃいます。思った通り、半生が一番美味しいですね。火を通しすぎるのは勿体ないって思って、この料理法を選びましたが大正解でした」


 これはいわゆるしゃぶしゃぶだ。

 新鮮なエビのしゃぶしゃぶ。なんて贅沢なのだろう。

 もう、我慢できそうにない。


「ルーナも、ルーナもやる!」

「お姉ちゃん、タレ頂戴!」

「……急いで食べないと、二人にぜんぶ食べられちゃいそうね」

 他のみんなもフィルの様子を見て騒ぎ始めた。

 タレを受け取るとすぐに大皿に盛られたエビ肉の刺身を取り、鍋に泳がせていく。


 まずは火を通さずに、刺身として食べる。

 咀嚼するととろけて行くほどの柔らかさで、とろけて極上の甘みが広がる。

 生臭さはなく、とてもいい香りだ。

 伊勢エビと甘エビのいいところを合わせたとでも表現するべきだろうか。

 エビフライもいいが、こうして生で食べると繊細な風味を殺していたと気付く。


 いよいよ鍋だ。

 心の中で、しゃぶしゃぶと言いながら鍋にくぐらせる。

 透明な刺身がうっすらと白くなり湯気がでる。

 口に運ぶ。火を通すととろっとした食感がぷりぷりに変わり、さらに甘みと旨味が強くなる。

 だけど、中はレアでとろっとして、エビの良さは死んでいない。

 出汁とタレとの調和も抜群。

 これはいい。生の良さと火を通したときの良さ、その両方が楽しめる。

 いくらでも食べられそうだ。


「ん、美味しい! フィル、もっとエビを用意して!」

「手がとまんないよ!」

「信じられないくらい美味しいわね。極上の料理よ」


 次々と、エビがしゃぶしゃぶされていく。

 フィルはその場で、まだ半分残っていたエビ肉のブロックを刺身にして盛り付ける。


 貴重なものなので、二回に分けて使おうとしたのだろうが、これは自制できない。

 すでに一皿が消えていた。まだ二切しか食べていないのに……。ルーナとティルを甘く見ていた。早く食べないと、あっという間に二皿目も空になってしまうだろう。

 これが二切しか食べられないのは辛すぎる。今日は大人げなく行こう!


 ◇


 予想通り、エビ肉(上)は瞬殺され、それでも食べ足りないルーナたちのために、フィルが出汁とグランネルの米を使ってリゾットを作ってくれた。

 エビ肉の姿はないが、旨味は出汁に溶けだしていてそちらも絶品と言える出来だった。


 食べ終わったあとは各自のテントに戻る。

 ……そして、魔法のテントの防音機能によるお子様対策と、敵の接近でのアラーム機能で安全確保をした上でフィルと愛し合う。

 終わったあと、フィルが囁きかけてくる。


「ティルのこと、どうするつもりですか?」

「まだ答えが出ていないんだ」

「私のことを気にしているなら、その必要はありません。あの子の幸せが第一ですから」

「フィルのことも気にしているが、俺は恋人の振りをするのがティルのためになるのかと悩んでいてな。もっと、他にいい方法があるんじゃないかと思えてならない」

「ユーヤは優しいですね。私も考えてみます。……そろそろ寝ましょう、明日も早いですからね」

「そうだな」


 愛し合っていたおかげでもう遅い時間だ。

 お休みのキスをして、俺は静かに目を閉じる。

 早く答えを出さないといけない。

 状況は待ってくれないのだから。

 どんな手段を取るにしろ、ティルがこのパーティからいなくなることだけは絶対に避ける。俺はそう決めていた。

いつも応援ありがとうございます

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