エピローグ:竜殺しの称号と新たな目的地
4/28にMノベルス様から単行本一巻が発売されました! 書き下ろしもありますのでそちらも楽しんでください!
激闘のすえ、氷盾竜アルドバリスを打倒した。
全員がレベル50のパーティですら、全滅しうる相手であり、
奴に勝てたことで文句なしに【夕暮れの家】は超一流のパーティとなった。
ルーナとティルがエルリクを交えて、謎ダンスを踊っているのを眺めていると、変形し坂になった螺旋階段がもとに戻り、さらには谷底の中央が揺れて、隠し階段が解放された。
「ユーヤ兄さん、あの先にボスを倒したご褒美があるのかな?」
「そうだ。お決まりのパターンだな」
「やった! ボスを倒したあとのお宝はすごいのが多いから楽しみだよ」
たしかに、上位ボスを倒したあとの宝箱は超高確率で有用なアイテムや装備が手に入る。
「それより、まず自分のステータスを見てみろ。今回得た称号を確認すれば驚くぞ」
俺の言葉に全員がステータスを確認する。
【竜殺し:炎】の隣に【竜殺し:水(氷)】が並んでいる。
【竜殺し:水(氷)】は、保持しているだけでわずかに防御力と水(氷)耐性に上昇補正がある。【竜殺し:炎】では攻撃力と炎耐性が上がったのと対照的だ。
「ちゃんとある! ユーヤ、ルーナはまた強くなった!」
「竜殺しってかっこいいよね。この調子でコンプリートしたいよ」
「ええ、そうね。風の竜と戦うのが楽しみだわ」
「……それに、見るからに竜殺しを三つ揃えると何かありそうな感じがしますね」
「さすがはフィル、鋭いな。竜殺しの称号が三つ集まると、新たな称号に変化する」
ゲームのときはやり込み要素の一つだった。
やり込み要素だけに、揃えるのに苦労するが、今の俺たちならできる。
「ねえねえ、ユーヤ兄さん、三つ集めるとどうなるの?」
「秘密だ。手に入れるまでのお楽しみってところだな」
「うー、気になるよぅ」
うらめしそうにティルが見ているが、教えてやらない。
きっと、こうしたほうがみんなやる気がでる。
◇
その後は、氷盾竜のドロップ品を回収し、隠し階段を下っていく。
【銀竜の宝玉】という、強い魔力を秘めた宝玉を手に入れた。
炎帝竜コロナドラゴンを倒した際に得られた【紅竜の宝玉】と同じく、単体ではただの観賞用。
だが、三竜の宝玉をすべて集めたときにすごいことが起こる。
ついに宝玉も残り一つ。風の竜が持つ【翠竜の宝玉】のみとなった。
さらに強靭なアルドバリスの鱗、【氷盾竜の硬鱗】。それに至高の回復アイテムと言われる【竜の血】を手に入れた。
【竜の血】はすさまじい。
なにせ、飲めば体力・魔力が全回復し状態異常を回復し、さらには一定時間、攻撃力・防御力・魔法攻撃力・魔法防御力・状態異常耐性が上昇する。
その代わり、三竜からしかドロップせず……もったいなくて、なかなか使えない。
「ユーヤ、竜の素材を使った装備は作れそう?」
「鱗を使って防具を作れば、最高ランクの装備は作れるが、温存する。この鱗を指定素材にした装備があってな。それを作るには、他にも素材が必要なんだ」
【氷盾竜の硬鱗】の素材ランクは最高。これさえ使えば、強い装備にはなる。だけど、そのさらに上を目指したい。
「楽しみ!」
「うんうん、すっごく硬い鱗だったもん。絶対すごい装備ができるよ」
ティルの推測は間違っていない。
間違いなく、最高性能の装備だ。
階段を下っていくと、厳かな扉が現れた。
扉を開くと、そこにあったのは光の粒子を放つボスを倒したあとだけに得られる特別な宝箱と帰還の渦があった。
「ルーナ、さっそく解錠を頼む」
「ん。任せて」
宝箱の鍵が開き、その中にあったものは……。
「これ、なに?」
「お人形の家みたいだね。でも、妙に精巧だよ」
「……まさか、【パーティハウス】が出るとはな」
「これを売ったら一生遊んで暮らせますね」
高額で取引される迷宮アイテムの中でも、ひと際高く取引されるものだ。
「驚きね。良く出来ているけど、ただの模型に見えるのに」
「模型じゃなくて本物の三階建てで豪華な屋敷だ。一定以上に広い土地で使うと、巨大化して家になる。すごいぞ、部屋数は多い、センスも造りもいい。ありとあらゆる便利な魔法の家具があり、家妖精で優秀なシルキーが家事をしてくれるから管理に手間はいらないし、常に掃除も行き届き、劣化しない」
世界観ぶっ壊しの滅茶苦茶な家具の数々。
……元の世界で言う、完全なオール電化ならぬオール魔力化、水道・水洗トイレ・浄水保温機能付きの風呂・冷蔵庫・洗濯機・システムキッチン・冷暖房・ウォーターベット・マッサージチェアetc。
めちゃくちゃ住み心地が良く、メイド妖精まで完備で家の保全、掃除、調理までありとあらゆる面倒を見てくれる。
三階建てで一階は、パーティルームや応接間など客をもてなすための部屋が多く、二階、三階は生活空間で部屋が多く。三十人ぐらいは生活できる。
ゲームでは、お遊びに作るマイルームのようなものだが、こっちの世界では貴族たちがこぞって欲しがる。
なにせ、こっちの世界で元の世界並みに快適な生活が送れるうえに、劣化もしない一生ものだ。
「ユーヤ、すごい。お家!」
「売るのはもったいないよ。みんなで住んじゃおう!」
「ただな豪邸だけにバカでかいスペースが必要で訪れた街やダンジョン内じゃまず使えない、こうして旅をする冒険者には不向きだ」
「そうですね。私たちには使う機会がないです」
売ってしまうのが一番いいだろう。
路銀に困ることがなくなるし、装備やアイテムを買い放題だ。
需要は多く、伝手を遣えばすぐに買い手は見つかる。
ルーナとティルがこちらに背中を向けて、何やら小声で話している。
作戦会議をしているようだが、それを後目にセレネが口を開く。
「今は必要なくても、今後はどこかを拠点にするかもしれないわ。そのときにあれば便利よ。……それに、ユーヤとフィルさんが結婚したら、新居にも使えるわ。売るのはもったいないと思うの」
セレネの一言に、フィルが頬を赤く染める。
結婚と小さく呟いている。
背中を向けて作戦会議をしていたお子様二人組が勢いよく振り向く。
「うんうん、いつかそうなるよ。最高の家はとっておくほうがいいって」
「ルーナも賛成。別にお金には困ってない。無理に売ることはない」
「だが、いいのか。これを売って山分けにしなくても」
全員でわけてもすさまじい金額になる。さすがに悪い気がする。
「そんなのいいよ。こうして冒険していると楽しいし、お金なんてあっても使い道わかんないし」
「ん。今でもユーヤからもらっているお金がありあまってる」
「ええ、私もそう。だから、それはとっておいて。上級ボスの宝箱から手に入るものなんて、二度と手に入らないかもしれないわ」
胸の奥がじんとする。
たしかに、いつかどこかで必要になるかもしれない。
「フィルもそれでいいか?」
「うれしいです。その、みんな、ありがと」
こうして、将来のために家を手に入れた。
旅をやめ、どこかを拠点と定めるというのも冒険者としては王道だ。
レベルが上限までいくと、世界各地を回る必要がなくなり、稼ぎがいいダンジョンのある街に留まることが多い。
……今日はいつも以上に奮発しよう。
俺たちのために気を遣ってくれたみんなに感謝をするためにも。
そんなことを考えていると、ルーナとティルがこそこそ話をしていた。耳がいいので聞こえてしまった。
「ふふふ、作戦通りだね。旅が終わったあとも安心だよ」
「部屋いっぱいの家なら、理由をつけて転がり込める」
「うんうん、さすがに二、三部屋しかないアパートとかだと無理だからね」
「これで、旅が終わってもユーヤとずっと一緒」
「きゅいっ!」
聞かなかったことにしよう。
いろいろと抜けてるティルだが、変なところで頭が回る。
まあ、旅が終わったあと一緒に暮らすのも悪くはない。
むしろ、最上級ダンジョンのある街に屋敷を建てて、パーティで冒険を続けるのなら、一緒に住んだほうがいい。
……それに、この屋敷は部屋の防音が完璧。今のように気を遣わずに済む。
◇
氷盾竜との戦いで疲れ果てていた俺たちは、そのまま渦で帰還した。
その後は、酒場でとびっきりの贅沢をした。
ダンジョン産の食材が軒並み入荷したことで、今まで頼めなかった料理が復活していた。
そのなかでも、特別料理であるモンスターピザというのがやばかった。
薄いカリカリのピザを六枚、チーズとたっぷりの特産品をメインとした具材を挟みながら重ねてふちをベーコンで巻いて固めてさらに焼く。
ケーキのようにカットして食べるのだが、階層ごとに具材もチーズの種類も違い、味が複雑に変化し、しかもその六枚が絶妙なバランスで、ボリュームも味も超一級品。はじめ見たときは、五人でも食べきれないと思ったが、気が付けば食べきっていた。
チーズ好きのルーナなんかはすっかり夢中になって、毎日でも食べたいと興奮して尻尾を振っていたぐらいだ。
◇
翌日はギルドに来た。
「あの、ほんとうに、氷盾竜アルドバリスを倒したのですか!?」
「ああ、このドロップ品がその証拠だ」
ギルドでクエストの達成報告をし、氷盾竜討伐の報告をすると、ちょっとした事件になった。
氷盾竜がいること自体は、ギルドは知っていたようだが、討伐記録は二年前に英雄レナードのパーティが倒したときのみ。
初見殺し技のオンパレード、レベル50パーティでも全滅する相手、無理もないだろう。
アイスグランド・ジェネラル討伐で中心的な働きをしたことと合わせ、俺たちの評価はうなぎのぼり。
今、ギルドの中央部にこれだけの実力があるパーティが銀級なのはもったいない、金級にしないかと掛け合っているらしい。
金級でないと受けられない特殊クエストがあり、実力のあるパーティを銀級で遊ばせてはおけないという判断らしい。
金級になれば、有用な特権がいくつか手に入る。
断る理由がない。
ただ、その結果が出るのには一、二週間かかるとのことなので、今日はこの場を後にする。
受付嬢が、フィル宛てに届いた手紙を去り際に渡してくれた。
「また、手紙が届いたのか。最近、多いな」
「えっ、まあ、その。……ちょっと、これはまずいですね」
フィルが顔をしかめる。
そう言えば、クリタルスに向けて出発するときも妙に手紙を見てそわそわしていたな。
ティルが手紙を覗き込み、フィル以上に慌て始めた。
「お姉ちゃん、これちょっとまずいどころじゃないよ! これ以上無視してたら、追っ手、世界樹の守護者が来ちゃうよ! ユーヤ兄さんに正直に話しちゃおうよ!」
「えらく物騒なことを言ってるな」
追っ手? まるで犯罪者のようだ。
フィルがしばらく葛藤し、手紙を渡してくる。
「えっと、実家からの手紙です」
中身を読む。
すると、頭が痛くなってきた。
「……えっと、フィルとティル、二人にエルフの里に戻って婚約者と結婚してさっさと子供を作れと書いてるな。これ以上無視したら、無理やりでも連れ戻すと。ティルはともかく、フィルは恋人がいることは説明しているんだろう」
「ええ、それはそうなんですが、その、昔から婚約者と結婚しろってしつこくて、十年ぐらい前から、ユーヤが恋人だって言い張ってまして……ついに十年も結婚しない、子供も作らない、そんな相手とは別れろって騒ぎはじめまして」
通りで、ルンブルクで初めてティルと会ったときに、お姉ちゃんの恋人と俺を見て叫んだわけだ。
「私のほうはとばっちりだよ! お姉ちゃんがそんなんだから、おまえは行き遅れにならないように、今すぐ結婚して子供作れって! うちの親っていうか、エルフの里って、割と過激で、このままじゃ無理やり連れ戻されちゃう。あの事件のせいで、エルフの数を増やさないとって、長老たち必死だもん!」
二人が前の手紙で変な反応を見せた理由がようやくわかった。
エルフの里に戻れば、婚約者とやらにくっつけられるから、帰りたくない。
だが、今回の手紙では無理やり連れ戻すことを匂わせており、無視もできない。
「やれることは一つしかないだろう。エルフの里に行って、きっちり話す。どっちみち世界樹の守護者がやってきたら逃げられないし、最後の風の竜はそこにいる」
それしかない。
エルフの里の追っ手は洒落にならない。
エルフの里は隠しダンジョン以外はダンジョンがなく、隠しダンジョンは知られていない、基本的にフィルやティルのように里を出るものはごく稀であり、住民たちはレベルを上げていない。
……だが、ゲーム時代の都合が反映されているせいか、とある事情により、異様なまでに強い世界樹の守護者という集団がいる。
そうでなければ、とっくにエルフの里は人間に滅ぼされている。
長年、多数の種族に狙われていたエルフの里が無事だったのには、たやすくは落とされない戦力があったからだ。
「ユーヤ、ご面倒をおかけします」
「恋人のためだ。面倒でもなんでもない」
フィルを婚約者とやらにやるわけにはいかない。
そして、問題はティルのほうだ。
どうやって、ティルの両親とエルフの里の面々を説得するか……。
ティルがなにやら、意を決した顔で俺の手を引っ張る。
「ユーヤ兄さん、私を恋人にして!」
大きな声で叫び、周囲の視線が俺に集まった。
気のせいでなければ、他の冒険者からロリコンとか、そういう不愉快な声が聞こえる。
「エルフの里にいる間、演技だけでもいいから! このままじゃ、みんなと引き離されて、無理やり結婚させられちゃう」
「……そのだな、誤魔化すためとはいえ、恋人の振りは無理はないか」
「エルフの里は重婚OKだし! ユーヤ兄さん、子供扱いするけど、もう結婚できる年齢だよ! お願い! お礼はするから」
ティルが勢いよく頭を下げる。
この年で、望まぬ相手と結婚させられ、子供を産めと強要されるのは可哀そうだ。それに大事な仲間を失いたくない、なんとかしてやりたいが、恋人の振りはどうだろう?
「少し考えさせてくれ。エルフの里に向かう。それまでに答えは出す」
「つまり、それまでご奉仕して、機嫌を取れってことだね! がんばるよ」
「だれもそんなことは言ってない」
ティルが腕を絡ませてくる。わざとらしく胸を押し付けて、どうだどうだとドヤ顔しているのが、ちょっといらっとする。
なぜか反対側でルーナも同じようにしている。……この子の場合、羨ましくなったから、もしくはノリでそうしているのだろう。
こうして、エルフの里に向かうことになった。
もともと風の竜を倒すためにいくつもりだったが、思わぬミッションが増えた。
フィルとティルを失うわけにはいかない。
二人を失わないために今からしっかり策を練ろう。
今日で五章が終了となります! ここまでの評価を画面下部からしていただけるとがんばっていく励みになります!
そして、第六章もお楽しみに! 六章はエルフの里が舞台。レナードや四章で出てきた組織とか、いろいろと動き出す章です