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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第9話

流れ落ちる砂に足を絡ませ、暗闇の中へと飛び込むと、意識が朦朧とするくらいの浮遊感が全身に伝わる。

しかし、ちゃんと地に足が着くと分かっていたので安心は出来る。

先の事が分かるというのは、ここまで心に拠り所を作ってくれるものなのだと、僕は改めて自らの力に感心した。

そんな事を思っていると、予知通り僕らは砂の上に無事着地し、地下への潜入に成功した。


しかし、問題はここからだ。

地上からの光はほとんど届いておらず、辺りは真っ暗闇だった。これでは神殿がどこか分からない。


(暗い……な)


すると、どこかで物音がして、背後にポンと軽い衝撃が伝わってきた。


「ペッ、ペッ! 口に砂が入ったアン……これは、ツバサかアン?」

「そうだよ」


口癖と気配から、ペロだと認識する。

残るはリヒトだが、暗闇を見まわしていると、パシュッという音がして、小さな赤い光が僕らの視界を闇から解放してくれた。リヒトが、マッチを擦ってくれたようだ。


「行くぞ」

「ツバサ、ペロが食べられないように守るアン!」

「ペロこそ……僕にちゃんと掴まって。絶対離れないでね……!」

「お前らビビり過ぎだろ……」


リヒトは近くに転がっていた棒に火を移すと、先導して奥へと進んだ。



神殿は思っていたよりも近くに存在した。

砂の上を歩いているはずなのに、足に手応えを感じ、少し掘ってみると石造りの床が広がっている。

その道に沿って進んでみると階段が現れ、目の前には巨大な柱が並ぶ建物が築かれてあった。


「ここが……ラーソの眠る神殿?」


中に入ると長い廊下が続く。

驚く事に、神殿の壁にはたいまつが並び、ゆらゆらと今もなお燃える炎が、神殿の中を静かに照らしていた。何十年、いや、何百年も人のいないこの神殿に、未だ光が灯されているのだ。


「これもラーソの力なのかな……?」

「実際に見て確かめないとな」


たいまつの灯りを頼りに、黄色い床を進んで行くと、だんだん道が開けてきた。

さらに、土や石で造られていた空間が徐々に輝き始める。


「すごい……これ、『金』で出来てるアン!」


ペロは興奮し、僕らは今まで経験した事の無い異世界へと迷い込む。

道から大広間へと辿り着くと、周囲には見た事の無い量の金塊が山積みになっている。

そして、中央には巨大な像が金塊の上に眠るように安置されていた。


「あれが……」


不思議な目をした仮面で顔が隠され、胡坐をかいた状態で両手を膝上におき、そして背中からもいくつもの手が伸びている。

背から出ている手をよく見ると、その形は一つ一つ違っており、中には指が本来人間が持つべき本数でないもの、あり得ない角度に折れ曲がっているものも見られた。

人間ではない事を強調しているかのような、いかにも神と呼ぶにふさわしい姿だ。

しかし、リヒトは言い伝えられてきた伝説を目の当たりにしたにも関わらず、どこか納得がいかない表情でその像を眺めていた。

周囲に他の像が見当たらない事から、この像こそがあの太陽神ラーソだと思われるが……


「どうしたの?」

「あれ、おかしいぞ」


首を傾げる僕達に、リヒトは鋭い目つきでラーソを指差し話す。


「他の物は金で出来ているのに、何故神と称えられるものが、銅で出来ている?」

「え……」


言われてみると、確かにそうだった。

周囲の煌びやかさで盲目になっていたが、改めてその像を見ると、ラーソだけ何故か周りとは違う物で出来ており、本来ラーソが周囲に輝きを与えるもののはずなのに、何故か周囲の輝きを受けて光っている。

すると、急にラーソの体から黒いオーラが放たれ、オーラに身を包まれたと思うと、全身が銅が錆びた時に起こる緑青色に変化した。太陽神の面影は、最早残っていない。


像のはずなのにじわじわと動き出し、いくつもの手で僕らを掴もうとラーソが近づいてくる。

僕らは大広間の中を一斉に走り出し、何とかラーソの手から逃れた。

この動きから、ペロはすぐさま影の仕業だと分かった。


「ツバサ! ラーソの中にいる影を倒すアン! あいつらが悪さをしてるせいで、ラーソはあんな姿になっちゃったんだアン!」

「何? ラーソの中に何かいるのか!?」


僕は慌てて剣を呼び出す。闇のせいで薄暗くなった空間を、剣が放つ緑色の光が照らし出す。

ラーソは膝に置いていた手を鈍い音を立てながら動かし、ゆっくりと僕に向けた。


(光が……欲しいの?)


僕は恐る恐る剣をラーソに向けて、光が当たるようにした。

ところが、ラーソの手が僕の件に触れる直前、背中から生えた別の手が僕を掴み、僕の体はいくつもの手によって握られたまま宙に浮かんだ。


「ぐっ……」

「ツバサ!」


空中で身動きが取れない中、周囲から圧を感じ、僕は自身の体が押しつぶされそうになっているのを感じる。だんだん息が苦しくなってきた。

すると、剣が黄緑から黄色へと光を変色させる。

手元が少し熱くなり、僕はふとリヒトが先程灯りをつけるために、マッチを取り出した事を思い出す。


「リヒト! マッチ一本、貸してくれる?」

「え?」


リヒトは言われるがまま、懐からマッチの入った箱を取り出し、一本とは言わず箱ごと僕に向かって投げた。

剣は、マッチに火をつけなくても勝手に反応し、ラインをオレンジ色に光らせて、剣先から炎を放った。


「熱っ!」

「ギャアアアッ!」


突然の炎に驚いたのは、僕だけではなかったようだ。

手元が急激に熱くなると、ラーソは思わず僕を離し、自身の手を冷まそうと腕を広げて、その場でぐるりと回転し始める。

大広間いっぱいにラーソの手が伸びると、ペロ達は慌ててしゃがみこみ、頭上を勢いよく通り抜けるラーソの手に冷や汗をかく。

僕が持つ剣は炎に包まれ、うっかり剣身に触れると火傷してしまいそうだ。

黄緑からオレンジに変わった光は、周囲の金塊をより一層輝かせる。光はラーソにも照らされ、手首や腕の関節部分から不気味なオーラがうごめいているのを、はっきりと捉えられた。


(これなら……)

「ツバサ、炎の力が使えるようになったんだアンね! じゃあ、その力でラーソの中にいる影を追い出すアン!」

「分かった!」


言われずとも、そのつもりだ。

僕はラーソの手を幾度もよけながら、間接部分の隙間に炎を撃ち放っていく。

リヒトも相手の動きを封じようと、襲いかかってくる手をかわしながら、反撃を行い、一つずつ相手の手を抑えこむ。

するとラーソは一旦体勢を立て直し、いくつもの手を使って儀式のような舞を行うと、自身の周囲にいくつもの紫色の球をつくり出した。

これを見たペロが、負けじとお得意の光弾を放ち、両者で弾の撃ち合いが始まる。


「よし、今のうちに仕留めるぞ!」


ラーソがそれぞれの手を八方向に動かす隙に、僕とリヒトは使われていない方の手を攻撃し、中の影を追い出そうと存分に炎を注いでやった。

ラーソはギリリと鈍い音を立て、燃え盛る自身の体を何とかしようと暴れ出す。

その瞬間、隙間から黒い影が流れるように飛び出し、不定形な霧からみるみる姿を変え、終いにはタコのような形になった。


「こいつだ!」

「いくアンよ!」

「了解!」


ラーソから離れたと同時に、僕らは双方からタコに向かって剣を振るう。

形がはっきりしたら、戦いやすい。

僕は、燃え盛る剣を地面に押し付け、そのままタコの周りを囲うようにして走り出した。

すると、摩擦を受けた地面に炎が放たれ、僕の背後を踊る炎の道が出来る。

タコは蚊のように動き回る僕を捕えようと、四方八方に触手を伸ばす。

それを狙ってリヒトが炎の外から内側へと飛び込んでくると、伸ばした触手目がけて短剣を突き刺した。


「神に手を出すのは、罰あたりで気が引けたが、お前ならいくらでも狩れる。そのまま火あぶりになれ!」

怒号をあげながら炎から抜け出そうとするタコを、上からペロが光弾で妨害する。

「たこ焼きの刑だアン!」

「いけ、ツバサ!」


彼の号令で、僕は摩擦熱でさらに炎を揺らめかせた剣を握ると、踊る火の柵を突っ切って、一気に相手の体を薙ぎ払う。剣の炎はタコへと燃え移り、タコは悲鳴をあげながら炎の内側で強い光を放った。

すると、緑青色だったラーソの体は、美しい金色を戻り出し、炎の光を受けて大広間から廊下にかけて神殿全体を照らす程の眩い光を放ち始めた。

ペロの光弾が消えても、僕の持つ剣が消えても、ラーソの光は消える事を忘れ、暫くの間、己の存在を証明するかのように神殿の中を照らし続けた。


「やったアンね!」

「凄い……本当におとぎ話みたいな事が起こってる!」

「おいおい、お前らみたいなおかしな奴が、驚く事じゃないだろ?」


ずっと火の傍で動いていたため、顔が赤黒くなっていた僕達は、お互いの顔を見てふはっと笑い合った。

すると、ズズズと神殿全体が鈍い音を立て、頭上から黄金色に輝く小石が降ってきた。


「神殿が……崩れてるのかアン!?」

「まずい、脱出するぞ!」


ところが、廊下を走っていると最初に入ってきた入口は、落下してきた巨石によって封じられていた。

リヒトが別の経路が無いかと辺りを調べるものの、出口は見当たらない。


「くそっ!」


リヒトが地面を拳で力強く叩きつける。

しかし、その表情はどこかさっぱりとしていて、まるで諦めがついたような……そんな雰囲気が漂っていた。

しかし、僕は諦められない。当然だ。

まだシュウヤどころか、リヒトの仲間すら助けられていないのだ。

まだ重大な目的を達していない以上、ここで諦める訳にはいかなかった。


すると、ペロがそっと僕の肩を叩き


「早く」


焦りを隠しきれないまま、息を荒くして


「早く希望するアン!」


耳元でつんざくような高い声をあげて僕に呼びかけた。




そうだ。

この子は僕の「希望」なのだ。

なら……もしかしたら……


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