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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第74話

塔へと引き返すヘリコプターの中では、皆が再び不安を募らせていた。

やっと会えた、やっと叶えられた、やっと笑ってくれた、やっと安心出来た……各々の思いが、あの一瞬で全て覆されたとは思いたくない。


「ツバサ君……大丈夫だよね」

「それはお前次第さ」


セグルの言葉にカノンは首を傾げるが、それ以上聞く前に、彼らの視界に、思いもよらない事態が映し出される。

闇の球体が迫ってきたかと思うと、突然力を凝縮させるように小さくなってヘリをかわし、城の中で最も高い塔へと吸い込まれる。どこからともなく闇の球体が集まり、まるで世界にぽっかり穴があいたような漆黒の世界が現れたと思うと――


「あ……」

「何だ……あれは……!?」


鷲のようなくちばしに、黒い霧でゆらゆらとなびくたてがみ、頭は鳥なのに、体は獰猛な獣のようで、鋭い爪と長い尾を持つ。そして、闇の球体を薙ぎ払う程の巨大な翼。


「グリフォン……」

「グリフォンだと!? あれは神話に出てくる空想上の生き物だぞ。現実世界に存在するはずない!」

「リアルではね。けど、ファアルの世界が入り混じっている現状じゃ、その説は通らないと思うわ」


そんな事よりも、そんな事よりもだ。シュウヤはそのグリフォンを目の当たりにして、真っ先に感じた事を、他の誰もが感じていない現状に驚きを隠せなった。

あの影はただの影じゃない。あれは……


「闇の世界で光を放てば、影が生まれる。そして、その光は影に呑まれた」


塔の天井が開くと、豪風を伴いながら闇のオーラが吹き出し、そこから白衣を着た長髪の男が現れる。少し前まで金色の髪をなびかせていたが、今は闇色へと染まり、水色の瞳を光らせるアラベルは、不適な笑みを浮かべて、グリフォンに手を伸ばす。


「これで彼の陰りは形となった。世界に闇を広げ、人々の恐れる存在となる。今まで出会った人々を裏切り、あらゆる思い出を破壊し、自身の過ちを恨む終焉を迎えよ。自分を見失った末に、この世界の歪みとなり、辿るべき運命へとその身を運ぶのだ!」

「それって……ツバサの事を言っているのかアン!?」

「じゃあ、あのでかい奴ってまさか……」

「ツバサだ……」


皆が驚いている目先で、周囲の闇を吸いこむグリフォンが、雄叫びをあげてこちらに迫ってくる。

カイトは慌てて舵を操作し影の突進を避けると、塔にあるテラスにヘリを停めた。シュウヤ、カノン、ペロ、セグルはヘリから飛び降りると、一目散に塔の上で羽ばたく影の元へ向かう。


「ちょっと待て! 俺は~!?」

「未だ武器も完成していないのに、どうやって戦う気だ? 足手まといだ」

「ひっ……」

「だが、そんなお前に立派な任務をやる。とっととその強靭な武器を完成させ、俺達に確実に脱出可能なルートを作って合流しろ! それも、一刻も早くにな!」

「お、おう! 分かったぜ!」


カイトはヘリに残された事実に落ち込みかけたが、セグルの一言でコロリと気を変え、早速任務に取り掛かった。彼のヘリが飛び去って行くのを確認すると、セグルは影に視線を戻し、こちらの指令に切り替える。


「お前ら全員戦えるな?」

「うん!」

「ペロ達だって、いっぱい戦ってきたんだアン! 今さら侮られても困るアンよ」

「いや、お前らはいい。シュウヤ、お前はどうだ?」


それは実力を問いかけているのではない。ずっと探してくれていた大切な弟に、剣を向けれるかという覚悟の問題だった。

確かにこれから彼と戦うと思うと、不安じゃないはずがなかった。怖くないと言えばうそになる。もしそれで彼を傷つけてしまうような事になるなら、ここで退くべきなのだろう。

だが、そんな迷いをカノンが制する。彼女はシュウヤの手を取ると、これから戦に出るとは思えない満面の笑みを見せた。


「大丈夫です。だってこれから私達、ツバサ君を助けるんですから。ツバサ君と築いてきた思い出、ツバサ君の努力、ツバサ君が結んできた絆を全部、取り戻しに行くんです。早く彼を暗闇から連れ出さないと!」

「あいつを……暗闇から……」


 そうだ。あいつは、昔から暗闇が怖いんだった。なら、今すぐ行かないと。

すると、シュウヤは手を上げ指先から僅かに光を放つと、自分の身長程の長さがある巨大な剣を呼び出した。重厚感ある剣を、彼は軽々と持ち上げ、頭上で一回転する。


「俺もばっちりだぜ、セグル」

「よし」


全員の意思が固まったのを確認すると、セグルも腰にある短剣を引き抜き、カチカチとその剣身を伸ばして鋭利なサーベルへと変えた。

テラスから中へ入ると、ちょうど塔の上層へと繋がる螺旋階段がある。狭く薄暗い階段を駆けのぼっていると、ペロはふと過去にも同じような階段をのぼっていた事を思い出す。


(すぐに出してあげるからね……ツバサ)


きっと彼も希望したのだろう。

ペロは、突如全身に光を帯びるとシュウヤ達を背中に乗せ、瞬く間に巨大化して螺旋階段を華麗に翔けのぼった。




薄暗い道を抜けると、そこには真っ白な空間が広がっていた。無機質で閑散とした部屋だが、セピア色の空に似合わない純白さから、僅かに光が感じられる。

だが、そんな光も一瞬にして闇に呑まれた。

ペロの光に気づいたグリフォンが、空から舞い降りると、鋭い爪が生えた前足でシュウヤ達を踏みつけようと襲いかかる。


「かわせ!」


彼らはそれぞれ別方向に散りながら避けていく。その直後、カノンは素早くネックレスに手を当て弓矢を呼び出し、横から一発矢を放つ。矢は、グリフォンの前でピンク色の花火を起こし、相手の気を引かせた。


「今のうちに!」

「おう!」

「任せてよ!」


ペロは巨大な光の弾丸をグリフォンに放ち、シュウヤは剣を金色に光らせ、勢いよく振り上げる。双方からの攻撃をグリフォンはまともに食らうが、全くひるまず漆黒の翼を広げる。


「させるか!」


空中に逃げると見たセグルは、サーベルを青白く光らせると素早く地面に突き刺し、自分の位置からグリフォンの足元にかけて氷の床をつくり出す。凍りついた床は、影の足元まで広がったかと思うと、突如全身を包み込む程の巨大な氷を生み出した。


「すげえ……」

「俺を誰だと思っている。そう易々と飛ばすか」


発言通りの実力を見せつけ、美しい氷の彫刻となったグリフォンだが、それを鑑賞する時間は無く、影はすぐさまバリンとあちこちに氷を飛ばしながら束縛から抜け出す。

さらに、体を浮遊させたかと思うと翼を激しく動かし、カッターのように鋭く実体化された猛烈な風を起こす。風は地面に当たると、床の一部をえぐり取り、逃げ惑う彼らの道を阻んだ。

風魔法を得意とする彼の力を生かしているのだろうか。直接攻撃を受ける事は免れるが、その後に吹き荒れる突風でペロやカノンは勢いよく飛ばされてしまう。シュウヤは剣を盾に、地面に突き刺す事で何とか強風に耐える。


「やるじゃねえかツバサ……けどな、俺だってずっとお前の陰で暇してた訳じゃないんだぜ!」


シュウヤは、黄金に輝く剣を両手で力強く地面に押しつけ念を込める。すると、黒く染まった床がひび割れ、彼がしゃがんでいる所をはじめ、その周辺の地面が一気にグリフォンがいる高さまで盛り上がっていく。


「ピュオオオオン!」

「お前がどんな所にいても、俺は絶対迎えに行く。待ってな、ツバサ!」


グリフォンと同じ目線になったところで、シュウヤは剣を振りかぶり、今度は金色から透明に剣身を変えて相手に飛びかかる。大地を揺るがす巨大な剣は、持ち主の念によって剣の材質をも変えてしまうらしい。

シュウヤが頭上から一気に剣を振り下ろすと、グリフィンは雄叫びをあげ、彼の剣に噛みつき防いだ。


「くっ……!」


剣から伝わる激しい振動。反り返った大きなくちばしが、今にも食らいついてくるのではないかと、ジリジリ近づいてくる。漆黒の羽が周囲に舞い散り、また暗闇に呑み込まれそうだ。




シュウヤが奮闘している一方で、セグルはサーベルに手を当てて、何やら呪文を唱え始めた。


「何をするの?」


カノンが心配そうにセグルを見つめる。相手は巨大でかつ狂暴な影グリフォンだが、彼もいる。

彼女にとってこの戦いは続けていいものかどうか、分からなかった。それはペロも同じだ。だがセグルは、鋭い目つきで上空にいる彼らを見て、冷静な口調で答える。


「助けたいからこそ、早く決着をつける。あいつが、あの暗闇の中で長居出来ると思わないしな。だから、これでトドメをさす。だが少々時間が必要だ。シュウヤの援護するついでに、時間を稼いでくれ」

「……分かったわ!」


カノンはペロの背に乗ると、空へと昇る地面の隣で猛スピードを出しながらグリフォンの元へと向かう。セグルは地上で青い光を放ちながら、溢れだすオーラを剣一点に集中させた。




下方からペロとカノンの姿が見えると、シュウヤはさらに力を込めて、さらに自分とグリフォンの距離を詰めていく。剣と相手のくちばしがギチギチと音を立てて、火花が飛び散った。その光が相手の目に映ると、一瞬グリフォンの瞳が黄緑色に輝いた、ような気がした。


「ツバサ!」


まだ彼の意思は、完全には闇に呑まれていない。そう確信すると、シュウヤは彼の名前を精一杯叫び、そのままグリフォンの元へと飛び込んで行く。

暗闇に身を投げ出し、かつて彼と別れた時の記憶が蘇る中、暗闇の奥からわずかに光が見えた。

カノンとペロが何かを叫んでいるが、その声ははっきりと聞こえない。シュウヤは、無我夢中になって小さな光に手を伸ばす。

光がだんだん大きくなると、シュウヤはその眩しさに目を閉じ、そのまま白い世界へと落ちていった。


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