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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第72話


「何故だ……何故あなたが光に……」


予想外の出来事に、アラベルは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべると、闇の穴を使ってその場を立ち去ってしまった。

争闘は一旦見送り、今は彼の逃走も見逃すとしよう。追いかけようにも、眠っている彼を引き連れるのは胸が痛い。


「シュウヤ先輩!」

「お?」


壁際でカノンとペロが、彼と彼を寝かせるシュウヤの姿に釘付けだ。

どうやらアラベルが去っても、あの壁は残されたままらしい。


「待ってろ、内側からその壁壊してみっから」


そう言うとシュウヤは、片手で彼を支えながら、もう片方の手を空高く上げどこからか光の粒子を集めて、一刀の巨大な剣を作り出した。

自身の身長——ツバサなら優に身長を超えてしまう長さの剣で、横幅も掌いっぱいに広げないと端に指が届かない程度の巨大な剣だ。

一体どこでそんなものを手にしたのか、疑問に思っているペロをさておいて、シュウヤはその剣を握ると地面へ振り落とす。

剣先が地面に着くと激しい衝撃波が起こり、見えない壁目がけて火柱が走る。火柱は壁に激突すると同時に地面を大きく盛り上げる。てこの原理を活かし、地中から壁に圧をかける事で、カノン達の前にあった壁は粉々に砕け散った。


「何て力……アゥ!?」

「シュウヤ先輩~!」


剣の威力に圧倒される間も無く、カノンは夢中になってシュウヤの元へと駆け寄る。そして、眠っている彼の事もそっちのけでシュウヤに飛びつき、わんわん泣いた。

シュウヤはまたしても「大袈裟だ」と笑うが、カノンはその言葉を断固否定する。


「本当に探したんですよ!? ずっと……ずっと探していたんですから!」


長かった。本当に長かった。

カノンですらそう思うのだから、彼やペロに至っては途方もない長さだっただろう。

泣きじゃくりながら抗議する彼女に、シュウヤは参ったと手を挙げる。


「分かった、悪かったな。本当に長かったろう。ありがとな、そんだけ心配してくれて」

「そうですよぉ~! ものすっごく心配したんですから! なのに何で……ツバサ君の陰にいたのに、言ってくれなかったんですか!? ずっとどこにいるのか分からなくて、不安で、影は襲ってくるし、変なのに絡まれるし、もう散々だったんですよ!?」

「だから悪かったって! けど、俺もこっちで大変だったんだよ。真っ暗の中ひたすら彷徨い続けて、ツバサがくれた光だけが頼りで、こっちも影出てきて、いきなり戦わされるし、強くならないと元の世界に帰れないとか言われるしさ! まあ、全部解決したからいいんだけど」

「アゥ? ツバサがくれた光って……?」


すすり泣き程度に収まったカノンは、漸くシュウヤから距離を取り、話を聞く体制になる。

シュウヤは、ポリポリ照れくさそうに頭をかきつつ、ふと視線を落として、笑みを浮かべながら寝ている彼の手を握った。


「別れ際に、一瞬だけ手が触れたんだ。それがきっかけで、俺は完全には闇に呑まれなかった。暗闇の中で、急に光が現れて、俺はずっとその明かりを頼りに歩いてたんだよ」

「そっか。闇に呑まれるはずが、ツバサ君の光に触れたから彼の陰に……」

「けど、それでもやっぱ一度は闇に堕ちた身だからな……こっちに戻ってくるのは、なかなか至難だったぜ。おまけに影とやらにも巻き込まれて、戦わざるをえなかったしな。でもそのおかげで強くなれて、こうしてこっちに戻る事が出来た。ツバサがくれた光が無かったら、今頃俺は……」

「それはもう終わった事アン。こうして元に戻れたんだから、何よりアンよ。ところで、ペロの事全然驚かないけど……?」

「ああ、そりゃ俺はずっとこいつの陰にいたからな。お前らの旅の経緯は大体知ってる。見えてはいなかったが、聞こえてはいたさ。だから……」


だから、彼の声も聞こえていた。ずっと内側で葛藤を繰り返し、思い悩んでいた彼の心の声は、直接シュウヤの耳に入ってくるようだった。

そして、さっきの出来事も……彼が幾度となく心を壊されかけたのを、シュウヤは一番近いところで見てきた。それがシュウヤの思いを強くしたのだろう。



彼を助けたい、彼を絶望から救いたい、彼を生かしたい。



(だって俺は、お前の兄だからな)


気持ち良さそうに眠る彼を見て、ようやくその思いを果たせたような気がする。シュウヤは再び笑みを浮かべた。

すると、突然部屋の窓ガラスが割れ、外から冷たい空気が流れてくる。そして、冷気で辺りが白く曇ったかと思うと、目の前に見覚えのある人物が立っていた。

エミレス王国で出会った次なる王であり、高校時代の彼らの友人である「セグル」だ。


「迎えに来たぞ。全員いるな?」

「どうしてセグル先輩が!?」

「おーい!」


窓が開いた事で、外からヘリコプターの音がする。よく見るとテラスの向こう側で、ヘリを操縦するカイトが手を振って待っていた。


「俺の発明したメカが、闇の位置を特定したんだ。それで向かってみたら、城に入っていくお前らを見つけたって訳……っておい! シュウヤもいるじゃねえか!」

「細かい話は後だ。今はひとまず敵のアジトから脱出するぞ」


セグルの的確な指令で、彼らは全員ヘリへ乗り移り、城を後にする。







「無事だったか?」

「おかげさまで、元気元気~」

「それは何よりだ。ツバサが起きたら死に物狂いで感謝しろよ。一番心配していたのは、そいつだ」

「分かってるさ」


シュウヤは、相変わらず眠ったままの弟をそっと撫でる。髪はすっかりきしんでしまっているが、相変わらず柔らかい手触りだ。

ヘリに乗り込み、城を一旦離れたところで、カノンが今までの出来事を説明した。セグルやカイトは、全員が無事であった事に終始安堵していた。


「お前達も勿論そうだが、俺はツバサが無事である事が何よりも安心している。そいつが持つ未来使いの力は、使い方次第では世界破壊もやりかねない程らしいからな」

「ツバサ君は、そんな事しないわ!」

「いや、本人にその意思が無くても、その可能性は否めないんだ」

「もしかして……未来使いが死神って言われてる事と関係しているのかアン?」


ペロの言葉に、セグルとカイトは一気に顔を曇らせる。どうやら彼らも、例の書を手に取る機会があったようだ。

だが、その表情を見てカノンは、きっぱりとした口調で訴える。


「ツバサ君は未来使いだとしても、死神じゃないよ。だって、私達はずっと彼の傍にいたけど、未来を奪われるような目に遭っていないわ。過去はそんな伝承があったかもしれない……でも、今の彼にはそれに当てはまるものが何にも無い。大丈夫だよ。だから……そんな暗い顔をしないで」

「……そうだな。お前の言う通りだ」

「全員集合したのに、こんなしんみりとした顔見せたら、ツバサ落ち込むわな」

「そっか。君達は皆、ツバサの高校時代の友達なのかアン」


一人だけ違う立場である事にちょっと寂しさを覚えるペロだが、すぐさまカノンが彼女を膝に乗せて、力いっぱい抱きしめた。


「何言ってるのペロちゃん、あなたはこの中でも一番ツバサ君と関わりの深い人でしょ。何て言ったって、ツバサ君のママなんだから」

「ツバサの……」

「ママぁ!?」


予想もしなかった事に、セグルとカイトは口をポカーンと開ける。

ちなみにシュウヤは、その辺の事も陰の中で予習済みだったので、驚いている二人の顔を見て思わず笑い声をあげる。

ペロはその後、両者から彼の性格や日頃の行為について説明を受け、時には指摘や叱責をしてもらうようクレームを受けた。だが、あくまでそれは彼を思っての内容で、いずれも目的は、彼が少しでも気楽に接してもらえるようにするものだった。


「へえ、そっか……ツバサ、日頃そんな事してたんだね。うわあ、私の影響もろに受けてる……申し訳ない」

「そういうとこですよ、お母さん! 自分を責めちゃう辺りとか、もうバリバリこいつに移ってるんで、そこを何とかしてください!」

「あ、はい……気をつけるアン……」

「何でペロちゃんが叱られてるの……?」



そして話題は、これからの事へと移る。


「その女をアラベルって奴が取り込むって……そいつ頭イカれてないか?」

「それもそうだが、その男のせいで世界に影が出没している事の方が重大だろ。そいつの目論見を止めて、これ以上影が秩序を乱さぬよう止める事が先決だ」

「でも、アラベル結構焦っていたね。シュウヤ先輩が元に戻った事で、何か計画が狂っちゃったのかもよ?」

「だとしたら、肉を切らせて骨を断つだがな……」


そう言って、シュウヤは再び彼の髪を撫でる。

むにゃむにゃと言葉にならない寝言を零して寝ているが、シュウヤを始めここにいる全員が、彼の偉業に関心していた。


「本当に凄いよ、お前は」


シュウヤの言葉に、カノンとペロも顔を見合わせて笑みを浮かべ、セグルとカイトも大きく頷く。

こうして全員がそろっている喜びを、皆が身に染みて感じ合った。



だが、そんな時間がいつまでも続くとは限らない。



「!?」


突如機体が大きく揺れ、機内に警告音が鳴り響く。外を見ると、先程まで無かったはずの黒い霧がヘリの周囲を取り囲んでいた。

強風に負けぬよう、カイトは何とか舵を取るが、上手くコントロール出来ない。


「皆、近くのものにしがみつけ!」

「うわああああっ!」


暫く皆は頭を低くし、恐怖のあまりに思わず目を瞑った。激しく揺れる機体と、視界を覆う暗闇で、一瞬闇に堕ちたのかと危機を感じた。

だが風は次第に弱まり、機体も安定してくる。一同は次々に目を開け、自身が無事である事に安堵した。


「ふぅ……何だ今の!?」

「闇による最後の足掻きか。笑わせる」

「カノン、大丈夫アン?」

「うん。私は平気……って、あれ!? ツバサ君は!?」

「!?」


あの一瞬の暗闇で、本来いるはずの人数から一人減っていた。シュウヤは思わずヘリの外に目を向ける。

先程の黒い風はヘリを通過すると、吸い込まれるようにして、城の中でも最も高い塔へと消えていく。

シュウヤは思わず叫んだ。


「カイト、塔に向かってくれ! ツバサはあそこだ!」

「おっしゃ、任せとけ!」


ヘリは大きく方向転換すると、再び城に向かって飛んだ。


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