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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第70話

「ペロちゃん、本当に凄かったよ。あんな力出せるんだね……!」

「それより……もう大丈夫なの?」

「うん」


あの雄姿を持つ者とは思えない程、ペロは女々しく僕の懐ですすり泣いていた。

僕はペロの頭を優しく撫で、つい先程彼女に助けられた事を伝えた。


カノンは僕に幻を見せた。けど、それは決して僕の心を傷つけるためのものじゃない。

幻影は他人を騙すためにあると思われがちだが、彼女は決してそれを傷つける結果へ追い込むために使わない。寧ろ、ちょっとした心の休息に、僕を僕に帰すための道しるべに使った。

おかげで僕は、今こうして立っている。


「そっか……なら本当によかったアン」

「ペロこそ、ありがとう。君が代わりにあの影を倒してくれなかったら、僕はきっとまたあの暗闇のせいで堕ちていただろうから……」

「そんなのお安い御用だアン! ペロは、ツバサの希望。ツバサのためなら、命だって賭けれるよ」

「ええっ? 流石に命までは……どうして君は、そこまで僕に尽くせるんだ?」

「そりゃ、だって……」


するとペロは僕から離れて、最初言葉を濁すようにぶつぶつ呟いていた。

しかし、暫くして意思を固めたのか一呼吸置き、満面の笑みで答える。



「母は強し、だからね!」



思わず目を見開く。そして暫くの沈黙。カノンは分かっていたかのように笑みを返し、僕の反応を待っていた。

いつから気づいていたんだろう。それとも、どこかで彼女から聞かされたのかな。

どちらでもいい。彼女は僕の希望であり、僕にとってかけがえのない存在だ。この関係は決して断ち切る事の出来ない、運命そのものと言っていいだろう。


「……どうしてかな」

「アゥ?」


今度は、僕から彼女を抱きしめに行った。自分から寄り添う事はあっても、こうして誰かに抱かれる事は無かったので、ペロは思わず赤面し、口をパクパクさせていた。

それでも僕は、ペロを力いっぱい抱きしめて、自然と笑みを浮かべていた。


「いつからか、何となくそんな気がしていたんだ。君が、僕の母さんだって事」

「あ……やっぱり?」

「うん」

「うぅ……それは作戦失敗だね。本当は、正体がバレずに闇を払って、お役目を果たすはずだったんだけど」

「そういうのは、親子だとすぐに分かっちゃうんだよ。ペロちゃん……いいえ、『ミキ』さん」


カノンがクスリと笑いながら、僕とペロを包むように腕を広げてきた。

三人で集まると、何だか体の芯から温まる気がする。


「あれ? カノンに私の名前教えたっけ……まあいっか。けど、流石に恥ずかしいから、呼び方はペロのままでいいアン!」

「えー、正体バレてると知っていながら、犬っぽい喋り方するよりはマシだと思うけど……?」

「これは……最早口癖になっちゃってるから、ツッコまないで欲しいアン!」

「何だそれ」

「随分と仲睦まじいのね」


そんな話をしていると扉が開き、そこからユールが現れる。

そういえば、あのオルトロスを放ったのは彼女で、先程まで高みの見物をしていたか。

空中で偉そうに足を組んでいるが、その口から発せられたのは、称賛ばかりだった。


「お見事。流石、未来使いですわ」

「これは僕一人の力じゃない。彼女達の力だ」

「まあ……己の信念のために尽くしたはずが、それ程喜ばれるものになっていたとはね。あなたもさぞ、肩の荷が軽くなった事でしょう。希望の化身さん」

「正体を明かしたからといって、彼を騙していた事実から逃れられる訳じゃないアン。ちゃんとその責任は負うし、そのために彼が望みは何でも叶える。例え、この命を賭けようとも、ね」


元々もらえるはずの命ではなかったんだし、とペロは自身の過去をほのめかすような発言をしたが、それについて僕は言及しなかった。

僕にとって、そんな事はどうでもいいのだ。今の今まで、ずっとこうして隣にいてくれた事は、大切な思い出なのだから。そして、この思い出が収束する時は、きっと近いのだから。


「美しき友情……いや、親子愛といったところかしらね。形は変わろうとも、内側に宿る絆は不変……私にもかつてあった感情だわ。そうして思いを貫き、私が持つ影の集大成を打ち破ったのだから、もう私があなた達に反抗する手段は、無いのでしょうね」

「え?」


すると、ユールは漸く地に足を置き、長い髪を広げたと思うと、そのまま両手を挙げて降参の意を示した。これに僕らは酷くびっくりした。

まさか、こんなあっさりと諦めるとは思わなかった。ユールの意思は、僕が思っていたよりも弱く、良く言えばとても柔軟で、自身に勝算が無いと分かった途端、これ以上の事は一切行わないとする決断力があった。


「闇はいずれ世界を呑む。けど、それは別に今じゃなくてもいい。あなたがこの世界に光を戻したいと願うなら、その信念に従い、心のままに立ち向かうといいわ。私はこれ以上あなたを邪魔しないし、世界の条理を変えようとも思わない」

「ユール……」

「それが本心なのですね、ユール」


この場に突如、聞き慣れない声が響き渡った。

声がした方を振り向くと、そこには金髪でユールと同じ紫色を持つ青年が立っていた。男はユールの元へと歩み寄ると、愚民を見るような目つきで彼女を睨む。


「やはりあなたは、私の考えに賛同する気など無かった。折角影を手配してあげたのに、ろくに使いこなさず、さらには彼らの行動を放任するような態度を示すとは……全くもって残念です」

「別にあなたに付き従うつもりで関わったのではなくってよ、『ライトミール』。あんたが世界をどうしようが勝手だけど、それに私を巻き込むような真似はしない事ね」

「ライトミールって……!」


記憶を遡るのに少し時間がかかったが、その名前は確かハルマとヒノが、未来使いにまつわる話を聞いた人物の名前に違いなかった。彼が未来使いを死神と称し、彼の言葉を信じたハルマ達は、あそこで僕の事を待ち伏せていたのだ。


だが、僕はそれよりも鮮明に残っている記憶を辿る。

未来使いが死神と称された理由……それは、未来使いが己の未来を守るために、他人の未来を使うという事象から挙げられた呼び名だ。そしてその事は、先程書斎で読んだ未来使いにまつわる書の内容と一致する。


「君が……」

「はじめまして、未来使い。私が、あなたの会いたいと望む人物『ライトミール』ですよ。でも、あなたにはこっちの名前の方が、しっくりきますかね……」

「何……を!?」


すると、ライトミールは闇のオーラを放ち、目の前にいたユールを取り込んだ。彼女は一瞬悲鳴をあげたが、その声もまた闇によって遮られ、僕が息を飲むよりも先に、闇と一緒にどこかへ消えてしまった。

そして、彼女を取り込んだ闇が彼の元へと帰っていくと、彼の姿がみるみるうちに変わり、僕やペロ、そしてカノンもまた、怒りを宿しかねない相手と化す。


「「アラベル!」」

「改めまして、お久しぶりです」


影の事、シュウヤの事、度々命の危険に晒された事、何度も自身の恐怖心を煽られた事、全て彼の企みだとしたら……するとアラベルはまるで僕の考えを読み切っているかのように、続きを語り始めた。


「あなたの心に陰りを生んだ原因……その多くに私が関わっていると見て、問題無いでしょう。そして今も、あなた達に心を許した実の妹すら、私は障害と見てこの場で排除させてもらいました。これもまた、陰りになりますね」

「そんな……実の妹を!?」

「そんな事、気にする必要ありませんよ。私からして見れば、憎たらしいア―—」

「やめろ」


僕は自分でも驚くくらい低い声で、彼の言葉を遮った。だが、アラベルは屈する様子も無く、寧ろ楽しそうにその場を歩き始めた。

一体目的は何なのか。闇の件が世界の運命で、誰も止められない事だとして、何故彼はその闇の力を利用し、世界に混乱を招くような行為をするのだろうか。

そしてそのために、どうして僕にやたら収着しているのか、その全てを暴いてもらおう。

これもまた読まれたのか、アラベルは僕がお願いする前に承認の意を示した。


「勿論、あなたが知りたい事は、何でもお教えしますよ。あの女に従う気はありませんが、あなたはこの通り、こうして私の元へと辿り着いたのですからね。約束通り、私と話す時間やそこに隠された真実、そして、あなたの大切なものをお返ししましょう。でもその前に……」


そう言って、アラベルは僕に――正確には、僕の陰に向かって手を伸ばし、そこから僕の陰を起き上がらせるようにして手招きした。

すると、僕の陰は自身の役目を忘れたように地面から這い上がり、僕の前で立ちはだかるようにして、どこからか闇の剣を呼び出す。


「まだ試練は残っていますよ。未来使い!」


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