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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第7話 ~ナルス砂漠~

施設を出ると、ここが草一つ無い砂漠地帯だと知り、僕は早くも途方にくれた。

まさか、こんな所に連れて来られていたとは、思いもしなかったからだ。


どこまで先を見ても砂山と青空しかない。暑さからじんわりと汗がふき出してくる。


「とりあえず、進んでみるアン」


広大な砂漠の上を歩いていると、サラサラとしたきめ細かい砂が、あっという間に僕の靴の中へと侵入し、足元を黄色く染める。

ペロも風と共に流れてくる微細な砂が毛に絡まり、耳はさらに黄色みを増した黄緑へと変色した。それはそれで、とても綺麗だった。


(不思議な生き物だな……)

「どうしたアン、そんなにジロジロ見て? 暑いなら、その上着を脱いだらいいのに……」

「いや、それはいいかな」


不思議そうに首をかしげるペロだが、どうやら見てる本人が暑苦しく感じたようで、わざわざ耳をうちわのようにして僕を仰いでくれる。



暫く歩いていると、僕らは風で砂が流れて地形が大きく変わっていくのを目の当たりにする。

たちまち視界が変わるので、長く歩いていても飽きを感じなかった。

しかし、そろそろ砂山以外の風景が恋しくなる。


「せめて、街が見つかればいいのにな……」


ふとそんな事を呟くと、遠くから砂ではないものが動いている事に気づいた。

思わず目を凝らすと、即座にそれが「人影」だと分かる。


「誰か来るアン!」


ペロはウキウキした様子で、人影の方へと飛んで行った。僕も慌てて彼女の後を追う。

ところがその途中、僕やペロの表情が一瞬にして曇り出す。

走って行くうちに、だんだん影は複数になり、さらには最初に見つけた人影が、別の影に追われて走っている事に気づいたのだ。しかもその犯人は、僕があの施設で獣の集団だった。

これにはペロも慌ててUターンし、僕の元へと戻ってくる。


「ツバサ! あの人、影に襲われてるアン! 早く剣を呼び出して、助けるアンよ!」

「でも……」


今度は複数。正直、勝てるかどうか分からない。

だが、僕が迷っている間に手元から光が放たれ、さっきの剣が現れた。

緑のラインが激しく発光し、剣先が自ずと影の方に向けられる。


(そうだ。今度こそ助けないと……!)

「迷ってる場合じゃないアン。行くアンよ!」

「……うん!」


僕は光に包まれた剣を握り、ペロと共に影に向かって走り出す。




「くそ……何でついて来る!?」


人影の正体である一人の青年は、追いかけてくる獣に対しぶつぶつと呟きながら、沈み込む砂の上を軽やかに走って逃げていた。

しかし、長い間走っていたので体力の限界だ。そろそろ追いつかれそうな所にまで、距離を縮められている。

獣は疲れ知らずなのか、さっきから変わらぬペースで追いかけてくる。無気味な黒いオーラに包まれて、その体は実際よりも少し大きく見えた。


「……こうなったら!」


このまま走り続けても状況は変わらないと考えた青年は、踵を返し、腰ベルトに付けていた短剣を取り出す。その剣は、まるで鎌のように弧状に曲がっている。

太陽の光が剣の刃にそって反射し、その眩い光が後から援護しに向かっている二人にとって、まるでSОSを求める信号のように見えた。


「急ごう、ペロ!」

「やる気アンね。何か勝算でもあるのかアン?」

「無いけど……迷ってる場合じゃないんだろ?」

「いや、作戦は大事だアンよ!?」


走りながらそんな会話をして、小さな砂の丘を越えた瞬間、


「「そーれ!」」


僕とペロは息を合わせて高くジャンプした。

突如背後から現れた二つの人影に、青年は驚きの声をあげる。

青年の前で着地すると、唸り声をあげる獣達に向かって、僕は剣を構えた。


「手伝うよ!」

「大丈夫、怪しい者ではないアン!」


青年は一瞬唖然としていたが、すぐに冷静さを取り戻し、

「頼む」と言って、再び短剣を構えた。

獣は三体、こちらも三人(二人と一匹?)。数的には平等だ。

ペロもさっきの様子だと戦えるようなので、僕は彼女に三体の中で一番小柄な獣を片付けるよう頼んだ。


「一人一体ずつ戦うぞ。ピンチになったら、全員で一斉攻撃って事で」

「了解!」

「任せるアン!」


青年の作戦に僕らはそれぞれ掛け声で答え、僕は一番牙が大きそうな獣に焦点を当てる。

相手も何やら作戦を考えていたらしく、三体一斉に僕らの方へ飛びかかってきた。

僕らは、同じタイミングで三手に分かれ、相手から距離を置く。すると獣は、彼の作戦に乗ってバラバラに分かれて、それぞれの方向へと走り出した。

僕は先程の一戦を思い出して、まずは獣の動きを読もうと間合いをとる。

しかし、今回は、最初に戦った獣とはスピードがはるかに違い、間合いをとろうにもすぐ詰められてしまう。しかも、相手も僕の様子を伺っているのか、目立った行動をとろうとしない。

下手に出しゃばったら、どうなるか分からない。僕は目の前に敵がいる状況で、酷く思い悩んでいた。

一方ペロは、空中に浮かんで地上からジャンプしてくる獣に、余裕気な表情を見せていた。


「フフーン♪ ここまで来れるかアン?」


獣は、届かない的に苛立ちを覚えている。地上から彼女を見上げ、暫く唸っていると、


「グオオオ!」

「アゥ!?」


雄たけびをあげると同時に大ジャンプを繰り出し、ペロのしっぽに何とか噛みついた。


「何するアン!? 許さないアンよ!」


ペロは膨れ面になって、尻尾をくわえた獣目がけて光弾をお見舞いする。

至近距離だったので弾は獣にクリーンヒットした。

思わず獣は口を緩め、そのまま地面に落下する。


青年は、間合いを取る僕と違い、勢いよく押し攻める形で獣に剣を振るう。

その戦術も変わっており、鎌で何かを刈るような手さばきだ。どこかの伝統を引き継いで使っている技のように思われる。その独特な手の動きと変わった形の短剣に、獣は動揺している。

しかし、走っていた疲れもあって、青年の呼吸は少し荒い。

険の動かし方は完璧でも、やはり心のどこかに不安を抱えているようだった。

なかなか決着をつけられない戦いに、僕はようやく戦うとはどういう事なのか理解してきた。


(そうだ……命がかかっているんだ。失敗は絶対に許されない。だから……)


考えれば考える程、緊張と不安が募る。炎天下で汗もかいて、うっかり剣を滑り落としそうだ。

集中力にも限界を感じ始めていた。

すると、じりじりと迫っていた獣が、ついに動き出す。

砂を蹴ってこちらへと近づき、僕が剣を前に構えて防御態勢に入る事を読んで、目の前で方向転換する。


(何!?)


獣は正面ではなく、横からギラギラと光る歯を見せてきた。

ところが、確実にダメージを受けると確信した瞬間、


「ガウ!?」


僕は、いつの間にか獣の視界から消えていた。

しかしこれは、あくまで僕が瞬間移動で消えたとか、透明になったのでは無い。

僕は、獣が飛びかかってきたタイミングでしゃがみ込み、相手の真下に身を寄せていたのだ。

僕は獣の攻撃をかわすと、下から勢いよく剣を振り上げた。緑色のラインが美しい光の筋を作り出し、剣先は獣の顎に当たる。

その衝撃で剣から光が弾け、獣は空中でくるくると回転しながら、たちまち光の粒子となって消えた。


僕が獣に急所を当てた時点で、ペロは既に自分の相手であった小柄な獣を倒していた。

怒らせた罰として、散々痛い目にあわせたらしい。何とも恐ろしい子だ。

残るは青年の方だ。僕とペロが振り返ると、青年はもう体力の限界で立っているのがやっとの状態だった。


「援護するよ!」


僕とペロは青年の方へ向かい、彼を庇いながら獣の前に立ちはだかる。

ペロはすぐさまお得意の光る弾を作り出すと、僕に当たらないよう考慮しながら、慎重に獣の急所を探る。

そろそろ剣の使い方にも慣れてきた僕は、手応えのありそうな所に向かって剣を振り回し、獣の反撃を警戒しながら攻めていく。

それを後で見ていた青年は、息を切らしながらも「すごいな……」と感嘆の声をこぼした。



しかし今回の相手は、牙だけでなく体も大きいからか、なかなかひるませる程のダメージを与える事が出来ない。


「こいつ……もの凄くタフだアン!」


すると、獣が突然大きく口を開いて、僕の剣をくわえて受け止めた。

僕の動きが鈍った瞬間、突然腹部に強い衝撃が伝わる。あまりの強さに息が逆流し、一気に吐き出された。

獣は、前足を拳のようにして華麗なるアッパーを繰り出していた。


「かはっ……!」

「ツバサ!」


そのまま空中へと飛ばされた僕を、ペロが助けようと飛び出す。

しかし、獣は上半身を起こしたまま二足歩行でペロに接近し、大きく広げた彼女の耳を掴んで地面に振り落とす。

幸い、砂がクッションになって、ペロは息苦しさを感じる程度で済んだ。


「大丈夫か!?」


青年は慌てて近くにいたペロの元へ駆け寄った。ペロは体を起こすと、笑顔を見せて無事を伝える。

次に二人は、僕の方へと視線を向ける。

すると、落下中であるにも関わらず、何やらいたずらっぽい笑みを浮かべている僕と目が合い、ここで二人は、


「……なるほどアン!」

「分かった!」


と、僕の作戦に気づいて了解の合図を示す。

雄たけびをあげ、人間のように立っている獣に、青年は改めて剣を構える。


「お望み通り、攻め込んでやるよ」


不適な笑みを浮かべながら、また独特の剣さばきで攻撃を仕掛け始めた。

獣は、余裕どころか、少しもの足りなさそうにしながら、軽々と青年の攻撃をあしらう。自分の数倍の大きさを持つ強敵に、青年は少しもひるまず勇敢に立ち向かう。

そして青年は、華麗なステップを踏んで、二足立ちになった分、隙が出来た後ろ足目がけて、引っかけるように短剣を振り当てた。

たちまち獣は態勢を崩す。すると、突如遠方からペロの光弾が炸裂し、砂ぼこりにまみれながらドスンと座り込む。


「ガルルル……!」


怒り狂い、すぐさま喰らおうと立ち上がりかけたその時、


「はあああっ!」

「!?」


僕の掛声に思わず上を見上げたかと思うと、獣の視界は一瞬にして緑色の光に覆われる。

獣は激しい悲鳴をあげて消えていき、僕はサクッとやわらかい砂の上に無事着地した。


「ふう……」

「やったアン!」


影は倒せたが、高い所から降りて来たのもあって、僕はまだ地に足がつかない感じでフラフラしていた。






「どうも、助けてくれて。感謝する」

「お安い御用だアン。えっと……」

「リヒトだ」


ペロが名前を尋ねようとする前に、青年「リヒト」は自分の名前を名乗る。

白いターバンを頭に巻き、耳には金属製のアクセサリーがいくつも付いている。

色の違う布を使って体を包んでいるが、暑いからか胸の辺りが大きく開いており、足元は裸足で、ワイン色のマニキュアが施されている。

本来はとても綺麗な色をしているのだろうが、砂のせいで薄茶色に汚れている。


「お前達は……?」

「ツバサとペロだアン。それにしても、大丈夫アン? 影に襲われてたみたいだけど……」

「全く持って散々だ。故郷に帰れば誰もいないし、ある地を求めて歩いていたら、変な獣に襲われるし、まずいと思ったら、空から妙な剣と人語を話す犬を連れた奴が飛んでくるしな」

「ペロは犬じゃないアン!」

(えっ、そうなの……?)


意外な発言に驚きを隠せないが、下手に突っ込むと怒られそうなので黙っておく。

それよりも、彼の周りで起きている事を聞き出す方が重要だ。


「故郷に帰ったら誰もいないって……どういう事?」

「言葉の通りだ。俺は詩人で旅をしているんだが。久しく帰郷してみたら、そこには誰もいなかったんだ。人も動物も皆、消えてしまっていた」

「それって……」


僕があの時体験した現象と同じだ。誰もいなくなって、街は無残に崩壊していた。

さらにリヒトは話を続ける。


「おまけに、あそこには奇妙な空気が流れていたんだ。正直、上手く説明は出来ない。ただ、この地には似合わない、無気味な空気だ」

「間違いない。闇の仕業だアン」


しかしそうなると、最近聞いたペロの話と今の状況に矛盾が生じる。僕は不思議に思い、小声で彼女に尋ねた。


「闇に呑まれた世界にいられるのは、未来使いだけじゃなかった?」

「闇の脅威は単発的で、起こった時その場にいなかったら影響を受けないんだアン。リヒトは旅から帰って来たみたいだから、闇の力がその街を襲った当時はいなかったんだアンよ」

「なるほど、だから彼は無事だったんだね」


どうやらいつまでも一人という事ではないようだ。

誰かに会える可能性を見つけると、僕は少しホッとした。

しかし次に気になるのは、どうしてあの影は彼を襲っていたのだろう。

影は闇を払う光に向って襲いかかる。つまり、リヒトには何かしら光を放つ力があるという事だ。

すると、リヒトは大きな溜息を吐き、「闇か……」と何やら知っていそうな口ぶりで小言を呟いた。


「やっぱりあの話は、一概に迷信とは言い切れないんだな」

「何の話アン?」

「俺達の中で言われてる伝説だ。『街から命が消え闇の獣現る時、我らの太陽神ラーソ、危機に瀕する』ってな」

「今の状況と完全に一致してる!?」


しかも「太陽神」と呼ばれている事から、光に関係しているとも考えられる。

その光が危機に瀕しているなら、闇の脅威に襲われてもおかしくはない。不思議な話ではあるが、今となっては信じる他無かった。


「だから俺は、ラーソが祭られている地下神殿に向かおうとしていたんだ。そしたら奴らが出てきて……」

「なるほど、それで今に至るんだアンね」


ラーソを助けたら、彼の故郷は元に戻るのかもしれない。

影が彼の行動を恐れて襲って来たのなら、その確証は大いにある。

僕は改めて、リヒトの故郷で起きた現象と、自分の街で起きた出来事とを照らし合わせた。

消えてしまった人を助け、街を元に戻す。そしたらシュウヤも……。


「僕、ラーソを助けるの手伝うよ」

「ツバサ?」

「僕も同じ経験をしたんだ。それで大切な人と別れちゃって……だから君の気持ちも分かるし、僕も君の仲間や故郷を取り戻したい」

「そうか。あの現象は、俺の知らない所でも起こっているんだな。それはお互い災難だったな」


するとリヒトは、「ほら」と僕に小さな箱を手渡してきた。

箱を開けてみると、そこにはさらに小さな四角いものが、紙に包まれ入っている。


「これは……?」

「キャラメル。こういう嫌な思いをした時には、甘い物を口にすると良いらしい」


まさかこんな暑い地域で、そんな物が出てくるとは思いもしなかった。

衝撃ではあったものの、僕はお辞儀をして一つもらい、久しぶりに食べ物を口にする。

ペロも遅れて一つ、口の中に放り込む。


「あれ? ペロって、キャラメルとか体に危ないんじゃ……?」

「ペロは犬じゃないアン! だから大丈夫!」

「ならいいけど……」


不安な僕をよそに、ペロはご機嫌に口の中でコロコロとキャラメルを動かして楽しむ。

そのとろけるような甘さに、思わず空中でくるりと回転し、頬に手をあてながらふわふわと浮かんでいた。


「おいひいアン~♪」


すっかり満足気なペロに、僕とリヒトはお互い綻んだ。


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