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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第67話

暫く進みついに暗闇を抜けると、そこは屋内にも関わらず、まるで外へ出たかのような庭園が広がっていた。

歩く度コツコツと音が響く石畳の床に、草木が絡まった白い柱。奥には巨大な鐘と噴水があり、流れる水の音は非常に心地良く、心を落ち着かせるには絶好の場所と言える。

そんな空間で一人、最初のエントランスで出会った執事「ゼロ」が、深々とお辞儀をしながら迎えた。


「ようこそ、我が庭へ」

「ここが……次の部屋?」

「はい。貴方様に楽しんでもらえるよう、心を込めてお創りいたしました」


僕とカノンはペロの元から降り立つと、やや警戒しながらゼロの方へと足を運ぶ。


「それで……今度は何をするの?」

「私と一戦していただく、それだけでございます。が、その前に」


すると、突然僕だけを避けるようにして強い突風が吹き、隣にいたカノンとペロはあっという間に扉の傍まで吹き飛ばされた。巨大化しているペロを押し飛ばす程の風だから、物凄い威力だ。

さらに、彼女達と僕を割くように、見えない壁まで施される。


「カノン! ペロ!」


二人は僕の声で立ちあがると、慌てて壁をドンドン叩き始めた。何かを叫んでいるようだが、どうやら防音効果により声が遮断されていて、全く聞こえない。


「彼女達はゲームの対象ではございませんので、退場させていただきました。行うのは私と貴方のデスマッチ。どちらか一方が死ぬまで行う一戦でございます」

「何!?」

「手段は一切問いません。魔法、武器、あるいは貴方様が持つ未来使いの力……その全てを委ねます。貴方様が真の未来使いであるか、この目でしっかり確認させていただきます故、どうぞよろしくお願い致します」

「待ってよ! いきなりデスマッチだなんて……」

「一度扉の内へと入った以上、拒否権はございません」


では、とゼロは腰にあった一本の長いサーベルを引き抜き、僕に向かって剣先を向ける。後ろでカノン達が不安そうな表情を浮かべているのが、見なくても分かる。

もう逃げる事は出来ない。僕は恐る恐る剣を呼び出し、構える。


「それでは一刀目……行きます!」

「!?」


……今の宣言から、わずか数秒の出来事は、誰も目で追えなかった。

執事のゼロが僕に向けた最初の突きから、次々と目にも止まらぬ速さで刃が僕の体へと襲いかかる。

音すら彼の動きに間に合っておらず、遅れて金属と金属、時々金属と布が擦れる音が聞こえてきた。


彼の一刀とは、音速を超える速さの連続突きを指した。


僕は咄嗟に未来予知をして、彼の動きに似合う速さでその攻撃を防ぐ。

しかし、音速をも超えるそのスピードにはとても追いつけず、腕や足に切り傷を作ってしまう。


「くっ……」


彼の一刀目が終わり、一息ついた所で僕は思わず膝をついた。あの一撃でほとんど体力を奪われた。

肩で息をしながら見上げると、いつの間にかゼロは執事から、鎧を身に纏った剣士の姿に変わっている。短髪だったはずが、いつの間にか腰にまで伸びる銀髪と化し、瞳は美しい紫色をしていた。

正体を明かし、既に二刀目の構えをしているゼロに、僕は再び剣を構える。



壁の裏でカノン達は、今の一戦を見てすっかり青ざめていた。


「あんなの……勝負にならないよ……!」

「けどあの人、多分ユールっていう女の命令は絶対なんだアン。だから本気でツバサを……」

「どうしよう、早く何とかしないと!」



壁越しで彼女達がそんな事を話している間に、第二刀目が始まる。体力がほとんど残っていない上に、四肢を負傷したせいで、次の連撃はさらにダメージを受けた。

彼が放った刃は、体のあちこちに触れて、暫くしてから激しい痛みと出血を伴う。

切れた直後はそれらを一切感じない。もはや感覚をも超える速さという事だ。


(こんな相手に……勝てるのか……?)


彼が最後の一撃を僕の首に当ててから、再び休息。

僕は剣で自分の体を支えながら、首からボタボタと滴り落ちる血を止めようと必死に片手で押さえる。足元には真っ赤な床が広がり、頭もクラクラしてきた。

そんな中、ゼロが剣を構えながら僕に問いかける。


「何故、真の力を明かさないのですか?」

「え……」

「貴方様が持つ力は、その程度ではございません。今ここで私如きに負けておられては、恐縮ですが、お嬢様の元へと辿り着く事は不可能です」

「……」

「さあ、早くその内に秘めたる、本当の力を解き放つのです。あなたは既にその力をお持ちなのですから」

「そんなの……知らな……い」


声を出すのも苦しい。僕はただ剣を構え、高鳴る鼓動を落ち着かせるよう深呼吸した。

鎧を着た相手に、仮に攻撃するチャンスがあったとしても、与えられるダメージは限られる。それに、まずそんなチャンスがあるかどうか怪しい。

考えていると気持ちが悪くなって、僕は口から真っ赤な血を吐いた。

それを見て、ゼロは溜息を吐く。


「どうやらこの流れだと、失血死で終わりそうですね。しかしそれではつまらない。例え効かないと分かっていても、私は次の一手で貴方にトドメを刺します」

「……」


僕は剣を強く握りしめて、再び立ち上がる。

トドメを刺す……次の第三刀目で、勝負が決まるという事だ。僕はゆっくり剣を前に向けた。


(僕は……未来使いだ)


コンディションは最悪。全身から血が流れ、手で口元をぬぐえば手は真っ赤に染まる。

視界も薄暗くなり、焦点が合っていない。頭は痛いし、さっきから吐き気が酷い。

だけど……それでも僕は、口に残っていた血を吐き捨て、眼光を飛ばしながらゼロに笑みを浮かべた。


「!」


鎧の下で一瞬表情が曇る。だが、それでもゼロは渾身の一撃を僕に放った。

彼が僕の胸目がけて剣を突こうとした次の瞬間。


シュンッ!という閃光の音と、思わず耳を塞ぎたくなる激しい金属音。

さらにとてつもない突風が吹き荒れ、床のあちこちに血が飛び散る。


「これ……は……」


僕はゼロの後ろで、ただ剣を床と水平に向けていた。そして、ゼロが持っていた剣は刃先が吹き飛び、石畳を貫通するようにして地面に突き刺さる。


「何とっ!?」


ゼロは振り返ろうとしたが、その途中で動きを止める。彼の前には、緑色に輝く刃先があった。うっかり振り返り切っていれば、確実に首が飛んでいた。

鎧の一部が外れ、カシャーンという甲高い音が響き渡る。ゼロは先程の余裕気な表情から一変、死への恐怖を感じているようで、噴き出る汗を拭う事も出来ず、ただただ僕の剣を見つめている。

僕の手元から血が滴り落ち、そこで僕は、ゆっくり剣を降ろした。これにゼロは苦笑いする。


「愚かな……意地でも私を殺さないというのですか? これは一方を殺さなければ終わらない戦い、デスマッチなのですぞ」

「嫌だ、そんな戦い。僕は人を殺したくなんか無いし、そのために振るう剣を最初から持ち合わせていない。これは闇を払うための剣だ。影を光へ戻すためだけに使う、一見ただの玩具な剣。君が使っている剣とは用途が違うんだよ。だから僕は……この勝負に挑まない」

「フン……優しいのですね。ですがその優しさが、時に貴方を苦しめる刃となるのですよ!」


すると、ゼロは隠し持っていた銃を目にもとまらぬ速さで取り出し、呆然と立ち尽くす僕に一発銃声を放った。すかさず瞳が閃光を飛ばし、僕はその場から逃げるようにして走り出す。

ところが、相手は腕だけでなく門下一の俊足も持っているらしく、あっという間に追いつかれる。


何をされるのかと思っていると、彼は持っていた剣を投げ捨て、自由になった両手で僕を壁際に押し付ける。その手は物凄い握力を伴いながら、僕の首を握っていた。


「かはっ!」

「未来使いの弱点は、遅効性のある殺傷。だから絞殺からは逃れられず、そのために力を使う事も不可能。自身の愚かさを身をもって知り、そして自身が犯した罪を自身の弱点によって償うのです!」

「うぐ……」


ぼやける視界。壁越しでカノンとペロが悲鳴をあげているのが分かる。

僕はここで負けてしまうのか。いや、ここで負ける訳にはいかない。

シュウヤを見つけて、ユール達の思惑を暴いて、それが人々に迷惑をかける事なら止める。

他人のためなら何でも尽くす。それが僕の意思だ。


ならここでは……今ある力を……未来使いの力を……


そう思ってしまったのを、僕は後に後悔する事となる。

だが、後悔先に立たず。







僕の目が、紫紺に光っていた。


「何だ、その目は……!?」


ゼロが驚嘆を零したや否や、それはたちまち吃驚へと切り替わる。

僕の首を握っていた両手は、みるみるうちにしわが寄り、だんだん血の気の引いた白い肌と化す。そして、実際に見ずとも感じられる程に、自身の顔や全身の肌がたるみ、まるで一気に蒸発したような乾きをもたらす。

ゼロは、まるで若返りの魔法が解けたかのように、短時間であっという間に老けきってしまったのだ。


老ける呪いから一刻も早く逃れようと、彼が思わず僕から手を離した次の瞬間だった。

僕の目にはその光景が、全身には生ぬるい感覚が、耳には壁越しにいる彼女達の悲鳴が、あらゆる器官が一度に働いた。

鎧は彼の体を守る機能を果たさず、無惨に光の熱で溶かされた。彼の目からは驚きと同時にどこか安心したような虚ろな涙が零れている。



そして彼の全身には、あらゆる方角から突如現れた光矢が貫通していた。



「これが……時を捧げた贖罪、か」


彼の口から発せられた言葉と同時に、光の矢は消滅し、そのままゼロは生ぬるい湖の中へと肢体を落とす。湖に落ちた彼のソレは、湖と、そして僕の全身にかかったものと同じ色の液体を、どこからともなく流していた。

何故かこんな時にも器官はしっかりと働き、寧ろ今までで一番働いており、僕の鼻は刺激する独特の匂いでいっぱいだ。

鮮烈な色は、僕の視界を染め、温もりを帯びた緋色の液は僕の足に、膝にじんわりとしみこんでいく。けれど、そんな温もりの中にいるにも関わらず、僕の体はまるで生命機能を絶ったかのように冷たかった。

喉が焼けるようで、今になって彼の刀で斬られた箇所が痛くて、胸がまるで殴られたように激しい衝撃を感じている。


「あ……」


僕が――


「あああ……っ」





僕が――――殺したのか?






「あああああああああああああああああああああああああああっっ!」


その咆哮は、最初にシュウヤと別れた時のものと酷似していた。


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