BlueBird 第6話
未来使い。
一体それは何だ? 聞いた事が無い。
僕は冷静になるために深呼吸し、頭の中を整理してからペロに聞き返した。
「未来使い……だって?」
「そうだアン。一言では説明しにくいけど、ツバサには自分の未来を繋ぐ力があるんだアン。
だから自分の身に危険が生じた時、ツバサは難なく回避出来たんだアンよ」
思い返せば、電車が脱線する直前に見たものや、獣との一戦で見た未来予知のような現象は、全てあそこで動かなければ危険だと知らせているようだった。
そして、その映像を見た後に、僕は実際に動いて、それらの危険を回避している。
しかし、本当にそんな事があり得るのだろうか。いや、今になって疑っていても仕方が無い。
シュウヤがいなくなった事、闇の穴、突如襲いかかって来た真っ黒な獣、未来使い、そしてペロ……これらの不思議な出来事を経験をしても尚疑い続ける事は、ただの現実逃避だ。
「僕は……未来使い、なんだ」
「そうだアン。そして、この闇から光を戻せるのも未来使いだけだアン」
「どうして?」
「闇に呑まれる事を危険と認識した未来使いは、身を守るために独自の光を創り出した。それが、さっきの剣だアン。唯一闇の中でも生き残れる君は、闇が生み出す影から自分の身を守りつつ、その光で闇を払って、元の世界に戻せる。君だけが、皆を助けられる存在なんだアンよ」
でも、そうなると僕の中に一つ疑問が残る。僕があの闇に堕ちた街で、再会出来た彼の事だ。
「もしかして……シュウヤも未来使いなの? 普通なら闇に呑まれて会えなかったはずなのに、僕は一度あの街で再会出来たんだ」
「う~ん……もしかしたら、そのシュウヤっていう人は、未来使いであるツバサと長く接してたから、何らかの力が目覚めかけてたのかもしれないアンね。だから、闇に街が呑まれた直後は大丈夫だったけど、時間が経つにつれて弱まったのかも……それでツバサが来た時は、もう手遅れだったとか……」
「そんな……」
だったら、もっと早くに着いていればよかったんだ。
何度も未来予知をして、シュウヤがそこにいる事を知っていたにも関わらず、僕は彼を助けられなかった。
「ツバサ」
異様な程はっきりとした口調に、僕はハッと顔を上げる。
視界に入ってきたペロの瞳は、エメラルドのような輝きを放ち、真っ直ぐと僕を見つめている。
「これから助けに行くんだアン。皆を助ける方法は、もう君の手に握られてるアン」
「でも……」
世界や皆を救うなんて大役を、僕は果たす事が出来るのだろうか。
強いプレッシャーと責任感が重く乗りかかり、まだ始まってすらいないのに、僕はもう挫けそうだった。
するとペロは、小さな両手をいっぱいに広げて、僕の頬にそっと触れる。
そして、これからの出来事に対する不安を一瞬にして跳ね除けるような、満面の笑みを浮かべた。
「大丈夫。ペロは、ツバサの希望だアン。どんな困難があっても、絶対にツバサを支えるアン」
「ペロ……」
小さな体に秘める強い意志に、僕は圧倒されて再び涙を流す。これはあくまで感涙の涙だ。
ペロは「泣き虫だアンね」とからかいながら、僕の頭を撫でてくれた。
小さな手だが、十分温もりを感じられた。
僕は自らの希望を背に、過酷な状況でも何とか前に進もうと試み、施設を出た。