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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第58話


一体あれから、どれくらい時間が過ぎただろう。もしかすると、実際はそこまで時間は経っていないのかもしれない。けれど、そんな気がする。

激しく流れ落ちる水の音だけが、彼女達の耳に飛びこみ、視線は水しぶきで白くなっている彼が落ちた滝のみに集まっていた。影は動きを止め、ニナは手の力が抜け、無意識のうちに剣を落ろし、カノンとペロは地に膝をつく。そのまま、時間だけが過ぎた。


静寂が続き、いつの間にか影はその場から姿を消した。老師もその場を立ち去り、村の人々が無事か確認しに行った。残ったのはニナとカノンとペロの三人だけ。いつまでも彼女達は流れる水を眺めるだけだった。 

だが、彼女達の頭、あるいは心の中では、たくさんの言葉が巡っていた。どうしてこうなったのだろう。どうして変えられなかったのだろう。自分達が少しでも考えや行動を変えていたら、今頃彼はここにいたのではないだろうか。ペロはもう少し早くに伝えていれば、ニナはもう少し意思を強く持っていれば、カノンはもう少し彼のそばにいておけば、そんな思いをひたすら巡らせ、あらゆる感覚を思考に研ぎ澄ます。


「ペロ……失格だアン……パートナーなんて……ツバサの希望だなんて……」

「そんな事言わないで。今こそ希望を持って!」

「何で、そんな事言えるのよ!?」


怒ったのはニナだった。ひたすら自分を責めている事にいらだちを覚えたのか、八つ当たりするようにカノンに対し感情的になる。


「こんな高い所から落ちたのよ!? それでもあんた、まさか彼が生きてるとでも思ってるの!?」

「思ってる」


二人は唖然とした。凛とした態度で、確証も無いのに断言するカノンに、何も言い返す事が出来ない。いくらでも言う事はあるはずなのに、それらは全て彼女の真っ直ぐな瞳によって打ち砕かれた。

行き場の無い怒りに、ニナは落とした剣を拾いあげ、そのまま滝に向かって投げ落とした。彼女の目から涙が零れた。

滝の水と一緒に落ちていく涙が、剣に当たると、突如剣は緑色の光を放ち落下方向から逆転して、滝から空へと高く昇っていく。


「えっ!?」


驚愕する彼女達を置いて、剣は光を帯びると真っ直ぐ彼女達の頭上を通り、彼の手の元へと帰っていく。

これにニナ達は再び驚かされた。振り返るとそこには、先程ここに来て最初に挨拶した青髪の青年と、彼に背負わされた剣の主がいたからだ。

ずぶ濡れになりながらも、確かに彼は笑顔を見せ、剣を左右に振る。


「大丈夫って、言ったろ?」

「……あぁ」


どこからか漏れ出た声を合図に、彼女達は勢いよく彼らの元へと駆け寄った。


「「ツバサー!」」

「おいおい、ちょっと休ませてやれ。少々怪我もしているが、すぐ治んだろう」


青髪の男は彼を寝かせ、片手に持っていた小麦色の布をかけてやる。体が濡れているので、ペロは改めて巨大化し、大きな毛の中に彼や男を埋めて温めてやった。

カノンは、ホッと胸を撫で下ろしながら、改めて男にお礼を言う。


「でも、どうしてツバサ君が無事で……?」

「お? 生きてるって一番信じてたのは、あんただろ?」


カノンは自分の口から溢れでた本音に、思わず顔を赤らめる。だが、ニナが「例え信じていても、やっぱり不安はあるし、心配もする」とフォローしてくれたので、この話が長引く事は無かった。

彼女からの質問で、男はこれまでの経緯を話してくれた。彼が落ちた滝の傍には小さな洞穴が存在し、最初に彼が捕らえられたところを見ていた男は、水脈の刑に処された際を思って、予めそこで待ち伏せていた。

その時、男と別にもう一人少女が立ち会ってくれたようで、風で自身の落下を抑える彼に不思議な布を渡し、滝裏へ引き込むのに力を貸したそうだ。


「この布は、その子が着ていた上着だったのだが、返す前にいなくなってしまったな。はてさて何処へ消えてしまったのやら……」

「その衣……ミリナリアのだアン」


中心に橙色の花が付いたポンチョは、彼女の物に違いない。また知らない間に助けられたようだ。

そして滝裏へと移動し落下を免れた彼は、自身の風と滝の水を操る力で、底に眠る闇の球体に一つの波動を送った。滝の水が闇の球体に降り注ぎ、彼が起こした波動を受ける事によって、その球体はあっという間に消えたとの事だ。


「闇が……消えた!?」

「だから影がいなくなって、ニナさんも元に戻ったんだ」

「だが不思議だ。どうしてこんな村の一人娘に手を出したんだ? 闇と呼ばれるものが、世界に変化をもたらすために生まれたのなら、これほど小規模な土地でその力を振るう必要は無いはずじゃ……」

「僕の……せいなんだ」


か細い声で彼は言った。

一同は思わず彼に視線を移し、小さな声でも聞き取れるよう耳を傾ける。


「ニナが標的にされたのは……僕がニナに関わったからだよ。知り合いだからって油断している隙に、剣を奪って光を消そうと考えたんだ。この村に混乱を招いた全ての原因は、僕だったんだよ……ごめん」

「ウィング……」


すると、ニナは彼の手を握り、その目をじっと見つめた。ほんのり赤くなった目、涙ぐんだ目。それは今の二人に共通していた。


「私は、そんな事を言って欲しいんじゃない。謝って欲しいんじゃない。災難に巻き込まれているのは、お前の方だ、ツバサ。お前は何にも悪くないのに……!」

「ニナ……」

「私は……ただ……」


後々になるにつれて、収拾がつかなくなったのか、ニナは大きなため息を吐いて、それ以上何も言わなかった。ツバサも何も言わず、ただ握ってくれている彼女の手を握り返すしか出来なかった。

暫くして、彼女は最後にこう言った。


「無事で……本当によかった」

「ありがとう」


これを聞いて安心したのか、彼は再び眠りについた。



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