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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第57話

 建物を出ると、そこには巨大な滝があった。どうやらここの滝壺に落とされるのが、「水脈の刑」らしい。

でも今はまだ、やられる訳にはいかない。シュウヤの事も、カノン達の事も、この村の事も何にも解決しないまま終わる訳にはいかないのだ。

すぐさま建物から影が追いつき、さらには滝に繋がる川沿いでも影が待ち構えていた。一体どこから来ているのだろう。もしこの村が闇に呑まれているのなら、その源がどこかに……


「ツバサ!」

「!」


考えている隙を狙ってきた影が、突如光弾によって吹っ飛ばされる。

振り替えると、カノンとペロが川沿いの影を倒しながらこっちに向かってきていた。


「カノン! ペロ! 何でここに……?」

「ニナさんがおかしかった原因、分かったよ! この村全体が闇に呑まれちゃってるみたいなの」

「闇の原点は、滝の底だアン! さっきから影がそこを登ってこっちに来てる!」

「だからこの辺りは、影が多かったのか……」


カノンとペロが駆け寄ると、僕を庇うような体制で武器を構える。カノンは髪を一つにまとめ、弓矢と扇を交互に使う巧みな動きを見せた。ペロも光弾をいくつも放って、次々に影を光に戻している。


「ペロ達に任せるアン!」

「たまにはかっこいいところ見せなきゃね」

「……」


別に見栄を張らなくても、彼女達は十分強いし、僕よりずっと頼りになるのに。

すると、建物から遅れてニナ達を乗せた巨大な影が立ちはだかる。その影は、とてつもなく巨大な牙を持つ、黒い虎のような姿だ。僕はそれを見て、森の中で出会った風を纏う白い虎を思い出す。


「時間だ」

「ニナ……」


ニナは影の上で剣を構えると、そこから銀色の風を起こし、僕目掛けて刃となった風のオーラを放つ。目が自然と光り、僕はいつの間にかその場から一歩や二歩じゃ行けない場所まで、瞬時に移動してその攻撃をかわした。

これを見て、ニナは歯を噛みしめるが、一方隣にいたユールという女性は「フフフ」と悪魔じみた笑い声を零す。彼女は、一体何者なのだろうか。そう疑問を抱いていたところで、何故かペロが彼女に向かって怒号を飛ばした。


「ユール! まさかこれは……あんたの仕業かアン!?」

「あらあらお久しゅう事で。相変わらず可愛らしく、元気にされていたなら何よりだわ、ペロ」

「当然アン! あんたやアラベルの企みなら、そうはさせない。ペロが絶対止めてみせるアン!」

「ペロちゃん、あのお姉さんと知り合いなの!?」

「……」

(ペロ……?)


どうしてペロが、彼女の事を知っているんだろう。僕は彼女と初対面で、旅の途中に会った覚えは無い。

考えてみれば、ペロは僕と初めて会う前、僕を襲おうとしていたアラベルに向かって光弾を放ち、彼の事を最初から敵視していた。さらに島で彼がペロに対し、意味深な事を話していた覚えもある。

一体ペロは以前、彼女達とどのようなやり取りをしていたのだろう。それについて僕らは長い旅の中で、一度も触れた事が無かった。

カノンの質問に、ペロは答えない。ただひたすらユールを警戒の目で睨み、双方から襲ってくる影を光弾であっという間に成敗していく。彼女と会ってから、攻撃に力が入っているのがその威力を見て分かった。

この様子にユールは、再び不適な笑い声をあげる。ニナの頭を撫で、愛おしいそうな目で彼女が持つ剣を眺めながら、指さし一つで影に攻撃を仕掛けるよう指示する。これ以上戦っていては、カノンやペロの体調力が持たない。

僕は影の攻撃を避けながら、ユールに向かって疑問を投げかける。


「ユールさん、あなたの目的は一体何なんですか? ニナを操ってまでして、どうしてあなたは世界を闇に染めようと考えるんですか!?」

「あら、未来使い君聞かされてないの? どうりで……」


可哀想に、と何故か僕を憐れむと、ユールはパチンと指を鳴らし、周囲にいた影達を一旦自分の周囲に集めた。影からの攻撃が一時無くなったところで、ユールは高みの見物をしながら意外にも、その目的を話し始める。


「私達の目的は、この世界を闇で覆いつくし、二つに分かれている世界を一つにまとめる事。旧き時代をやり直して、リアルとファアルが共存した中で安定した時代を築き直すのよ。それを世界という概念もまた、望んでいるのだからね」

「二つに分かれた世界を一つに……?」

「そう。そのために世界は、リアルとファアルの中間地点に闇を創り出したの。互いの世界が共通して恐れる闇を使って、人々の心を一つにしよう、ってね。でもね、あなたは邪魔なの。未来使い君がいると、世界は光に戻って、いつまで経っても一つにならない」

「僕が……止めているのか?」

「そうなのよ。困った事ね」


なら何故、ニナを操ったり、カノンやシュウヤを闇の空間に閉じ込めるような真似をするのだろうか。世界をただ闇で呑み込むだけなら、影が人々を襲ったり、人々を人形の如く操る必要は無いはずだ。

すると、ペロがユールの言葉を遮るようにして異論を唱える。


「あんた達がやっている事は、ただの世界征服だアン! 表向きの事だけ話して、ツバサを敵扱いするんじゃない!」

「あら、何を言っているの? この世界が一つになる事、つまり世界がこうして闇に呑まれたり、影が襲ってきたりする事を誰よりも望んでいるのは、あなたじゃないの」

「えっ……!?」

「ペロちゃんが!?」


僕らの視線は、彼女からペロ一点へと切り替わる。ペロは苦虫を嚙み潰したような表情で、唯一ユールに視線を向けたままだった。これにユールの笑いが嘲笑へと変わる。


「シュウヤ君を探そうと言い張った理由は、その旅を続けたかったから、ただそれだけ。手がかりや方法が見つかないまま、延々とこの状況が続けば良いと思っているんでしょ? 自分がその状態でいられるなら、正直なところ、世界の事やお兄さんの事なんてどうでも良いのよ」

「そんな事無いアン!」

「そうね。そんな事言ったら、ツバサ君が傷ついちゃうものね。あなたは、ツバサ君の希望だもんね」

「ぐ……」

「でも一番叶えたい希望は、やっぱり自分。自分にとって都合が良ければ、大事な人も駒として扱ってしまうのよ……あら、それってまるで、私達みたいだわ!」


アーッハッハッハと高らかに笑うユールに、僕達はただ困惑するしかなかった。世界が闇に呑まれた原因、未来使いとして世界に光を戻す旅の意味、シュウヤを探そうと言ってくれたペロ、全てが僕の思っていた事と違っていて、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。


「さーて、笑い過ぎて涙が出ちゃったところで、再開しましょっか」

「何を……?」

「何をって……勿論、あなたが世界を救う、素敵な旅を♪」


そう言うと、どこからか闇の穴が現れ、ユールはその中へと消え去る。彼女の拘束から解かれた影は、再び光を消そうと僕らに襲い掛かってくる。僕はペロを、ペロは消えた彼女の方を見つめたまま、身動き一つ見せない。

僕には分からない。ペロが今、何を考えているのか。ずっとパートナーとして一緒にいた彼女が、一体何者で、何を思ってそこにいるのか、僕にはさっぱり分からなかった。

そうして動けない僕達を、見えない鎖から解き放ってくれたのは、カノンだった。


「ペロちゃん、今は続けよう。影を倒そう。ツバサ君を守れなかったら、それこそあなたの願いは叶えられないんでしょ?」

「カノン……」

「大丈夫。ちゃんと話せば分かるよ。この村を元に戻したら、後でじっくり話し合おう」

「……そうだアンね」

「ツバサ君も、話したい事があるってペロちゃん言ってるから、後でお話聞こうよ。それであなたが思った事も素直に言おう。お互いずっと旅してきたパートナーなんでしょう?」

「……うん」


ユールがいなくなったので、これ以上ニナが操られる心配も無い。僕は影を彼女達に任せて、剣を取り戻す事に集中した。だが、ニナは剣を握って空高くに掲げると、自身の周囲を守るようにして激しい風が放たれる。さらに守りの風を纏った状態で、ニナを乗せた虎の影がこちらに突進してきた。僕はすぐさま相手の攻撃をかわすが、相手の風に触れただけで、気づくと腕に切り傷が残っている。


(かまいたちか……!)


力ずくで取り返すには厄介だ。そこで僕はふと、滝の方に視線を向ける。

ペロは先程、闇の原点は滝の底にあると言っていた。闇の原点を壊せば、わざわざニナを傷つけなくても闇から解放すれば、元の彼女に戻るはずだ。そして僕は、建物の中で剣が無くても風を起こせる事に気づいた。

風の力は剣が無くても、イメージさえ抱いていれば使える。なら……


「時間だ、未来使い。この水脈の一部となり、闇を消し去る悪魔の力の源泉を、清めの水によって消し去るがいい!」

(一か八かだな……!)


僕は、あえて彼女に追いつめられるように移動して、自ら処刑台と思われる崖に向かった。僕の行動に、異変を感じたのか、ペロは慌ててこちらに向かうが、ニナが剣を一振りすると激しい突風が吹き、僕と彼女はあっという間に距離を置かれる。カノンもしまったと走り出すが、そこを影達が邪魔する。


「これでお前を守る者も来れまい。覚悟するんだな」

「ああ、覚悟は出来たよ。ニナ」

「何……?」


まさか処刑人が、わざわざ断罪を受けようと言っているのだから、ニナも困惑するだろう。それに、剣を振るう毎に彼女の体から放たれていた黒いオーラが薄まっていく。彼女は僅かながらも、元の意思を取り戻しつつあるようだ。その証拠に、彼女が僕に向けた剣が小刻みに震えている。


(ありがとう……止めようとしてくれているんだな)


だが、その恩恵を僕は勝手ながら断らせてもらう。僕はこの時もまた冷静で、恐怖や不安を感じていなかった。寧ろ、落ち着いた笑みを彼女に向けるくらいだ。


「大丈夫だよ、ニナ。すぐに戻してあげるからな」

「ウィング……!」


次の瞬間だった。

老師が処刑の儀を唱えるよりも先に、彼女が剣を振り下ろし、風を起こすよりも先に、カノンが弓矢をやむなくニナに向けるよりも先に、ペロが巨大化しようと力を込めるよりも先に、僕は弾みをつけて重心を後ろに傾け、そのまま流れ落ちる滝の中へと飛び込んだ。



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