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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第56話


ツバサに言われてやむなく逃げ出したカノンとペロは、何故彼があのような発言をしたのか不思議に思っていた。


「ツバサ君……本当に大丈夫かな?」

「あの老師を見て大丈夫って言ったんだアン。きっと何か考えがあるんだと思うけど……」

「彼の事だから心配かけないようにしたのかもよ……?」

「アゥ……」


どうしたらいいのか悩んでいると、ふとカノンは村の異変に気づく。

先程の一件から、辺りが異様な程に静かで、人はいるのに誰も声を発していない。まるで自分達以外のものの時間が止まってしまったかのように、誰もがうつむいたまま動かないのだ。


「ペロちゃん、ここ何だかおかしいよ。皆、虚ろな目をしててまるで……」

「なるほど、そうだったのかアン。ここはあの街みたく闇に呑まれ、人々はその闇に囚われちゃってるんだアン!」

「そんな!?」


となると、彼女達がやるべき事はただ一つ。

闇に囚われた人々を何らかの方法で、闇から解放しなくてはならない。


「きっとどこかに闇を作る元があるアン! 闇を払うには、それを見つけて、光に戻さないと……」


そう思った矢先に、再び影が姿を現す。


「ああ~もう!」

 

カノンは蝶の扇を呼び出し応戦を始める。ペロも大きな翼や尾を使って、カノンの扇みたく可憐に影をはたき倒していく。すると、圧倒的力に気圧されたのか、影が逃げるように川沿いを走り出した。

川を辿っていくと、遠方には大きな滝がある。どうやら影は、そこから湧いてきているらしかった。逃げる影と、滝から現れた影がすれ違い、カノン達は次々に現れる新手を相手にしなければならなかった。


「待っていて、ツバサ君。今度は私が、絶対助けるから……!」


カノンは扇と弓矢を交互に操りながら、強い思いを込めて影に立ち向かっていく。









僕が次に目を覚ますと、とある建物で囚われの身になっていた。両手に手錠を掛けられ、真ん中には大きな南京錠がガッチリと付けられている。

壁際に並ぶ灯籠の中心には、美しい白い衣を羽織り、片手には鈴と巨大な葉を、もう片方の手には僕の剣を握るニナの姿があった。そして、その隣にいた老師は、目覚めた僕に不適な笑みを浮かべながら、自身の思惑を話し出す。その内容はとても理解しがたいものだった。


「我々から平和を奪い、祭られし精霊達を大地へと引き戻す、恐ろしき悪魔よ。今こそ真の使い手にその剣を戻し、その者の手によって全てを終わらせん。この地に生まれし闇を、全ての空に覆いつくし、この世界に再び平和を取り戻さん!」

「……」


言っている事があべこべだ。

闇を払う事が、この世界を元に戻す手段であるのに、彼は闇で世界を包む事こそが、世界に平和を取り戻す方法だと言っている。

ニナは何も答えない。その目は先程同様、冷たく光の無い虚ろな目のままだった。だが、この薄暗い空間でもはっきりと分かるくらい、彼女の体からは謎の黒いオーラが放たれている。


(やっぱりそうか……!)


一目見て直感した。あの老師も、そして彼女も闇の力に囚われ、光を放つ僕を消そうと目論んでいたのだ。

闇は、光源である僕の剣を自身の物にして、光を消そうと考えたのだろう。以前ハイラナシティで出会った闇雲に戦いを挑む方法とは違い、非常に巧妙な戦略だ。

だが、疑問が一つ残る。どうしてニナは、僕から剣を奪えたのだろう。確かあの剣は僕にしか使えず、他の者が手にすると勝手に消えてしまうもののはずだった。今まで肌身離さず持っていたので、実際に試した事は無いけれど、ペロの言っていた事が事実と異なるのは、極めて珍しい。

 

まさか、未来使いの力が弱っているなんて事があるのだろうか?

 

そんな事を考えていると、突然ニナの前に巨大な闇の穴が現れた。それは僕やペロが何度か目にした、アラベルが使う闇の穴だ。

だが、そこから現れたのは彼ではなく、闇の象徴であるかのような漆黒のドレスと漆黒の髪を持つ女性だった。女性の瞳が、灯籠の赤い光に照らされ紫色に輝く。


「よく出来ました♪ なるほどー、今の彼では、あなたの強い意思に敵わないって訳ね。それなら私ではなく、あなたが使っても問題無いでしょう」

「何と! おお、素晴らしきユール様……まさかあなたのような方がこのような古びた集落を来訪してくださり、さらにはうちの唯一の音姫を、光を払う第一人者として認めてくださるとは……」

「お喋りが長いわよ。もうその手の話は、聞かなくても聞き飽きたわ」


老師は自身の発言を遮られ、不満気だ。だが、ユールと呼ばれる女性はそんな事お構い無しで、ニナの元に立ち寄ると耳元で何やらひそひそと話し始めた。それを聞いたニナは、一瞬ハッとした表情を浮かべるが、彼女がニナの頭をそっと撫でると、そこからさらに闇のオーラが濃くなり、ニナは虚ろな目のまま大きく頷く。そしてゆっくり振り返ると、こちらに向かって剣を突きつける。


「時は来た。我が手にあるかの剣で、我がこの手で、そこにいる悪魔に断罪を下す」

「音姫ニナの宣言により、かの少年は今から水脈の刑に処する!」

「!」


すると、灯籠の光で出来た陰から、たくさんの狼のような獣が現れる。ここで食い荒らされるのが先か、捕らわれて水脈の刑とやらに処されるのが先か。


(さて、どうするかな……)


手錠を掛けられ、剣を奪われている状況にも関わらず、僕はやけに冷静だった。

老師の一声とニナの剣を振り下ろすタイミングで、影が一斉に襲いかかる。しかしこの時、僕の手に掛けられていた手錠は完全に錆び朽ちていた。

僕が両手を壁に勢いよく振り当てると、鍵は外れ、手錠もボロボロに砕け散る。手の自由が戻ると、床に手を当て、剣が無い状態で風を起こした。体が宙に浮かぶと、足元からの突風に煽られた影の隙間をくぐり抜け、真っ直ぐ出口へと滑空する。


「何を……怯むな! 奴を捕らえろ!」


影が僕を追う中、後ろでは巨大な獣の影に乗ったニナとユールが、静かにその光景を眺めていた。



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