BlueBird 第47話
少し休んだところで、また歩き始める。暫く暗闇の道が続いたが、だんだん薄光が見えてきて大きな空間へと辿り着く。
空から今にも降ってきそうな巨大な岩、そこからも結晶が岩を取り囲むようにして生えている。まるで巨人が上る階段のような高低差ある紫色の土床からも、結晶が大小様々な大きさで生えていた。
「クリスタルがいっぱーい!」
地下水が溜まった水溜まりの上を、白いブーツにも関わらず跳びはねてはしゃぐカノン。
その隣にある結晶は、もし口があれば、彼女なんて一呑みしてしまいそうな大きさだった。
僕は自分で勝手に想像した事なのに、思わず不安になる。
「さっきの影の件もあるから、結晶には触っちゃダメだよ」
「はーい」
「それにしても、どれも異様な程光ってるアンね……不思議アン」
「でもいいんじゃない? 神秘的で綺麗だし、力がみなぎってきそう!」
(そんなお気楽な……)
するとカノンの前にある結晶が、一瞬だけ白い光を放った。さらに、今度は地面が大きく揺れる。
「地震アン!?」
「!?」
ペロは飛行し、僕はカノンを連れて風で空中に留まる。上から岩が降りかかって来ないか心配したが、その必要はなかった。幸い上から降ってきたのは、小さな砂粒程度だった。
揺れがおさまる頃に、今度は激しい地響きが洞窟全体に伝わる。そして、結晶が再び光ったと思うと、突然地中からドリルのような手を持つモグラの影が、飛び出してきた。
「カノン!?」
「私、触ってないよ!?」
するとカノンの背中からピンクの蝶の羽が生え、僕の風無しで宙に浮いた。
「下から来るなら今度は上から!」
素早く弓矢を構える彼女にペロも便乗して、空からピンクの矢と光弾が放たれる。
しかし、いずれも影が地中へ潜ると外れ、さらには攻撃がモグラに命中しても、真っ黒な鎧によって防がれてしまった。
「どうしよ……これじゃ歯が立たないよ!」
「うぐ……どうにか影の住みかを捉えて……痛っ!」
ペロが旋回していると、再び見えない壁にぶつかり通せん坊されてる事に気づく。恐らくここにいる影全員を一掃しなければ、抜けられない構造になっているのだろう。
「どうしよ……ツバサ君、何か方法無い?」
「何かって言われても……」
地中に潜る上に鎧をまとった相手となると、得意の風も活かせない。上から攻撃をするにしても、モグラ叩きに付き合わされるだけだ。
ここから外へ抜ける事も出来ない。
それなら……
「カノン、ペロ、もう少し高い所に移動して」
「アゥ!? ツバサ、まさかこの短時間で作戦でも思いついたのかアン!?」
「一応……!」
ペロとカノンは言われた通り、さらに上昇してその場に留まる僕と距離を置く。カノンは近くにあった背の高い岩に着地すると、もしもの事があった時に迎撃出来るよう再度弓矢を構えた。
二人の居場所を把握すると、僕はモグラが地中にいるタイミングを図って、あえて地面に着地した。
「ツバサ!?」
ペロの声を耳にせず、僕はすぐさま剣を地面に突き立てる。そして目を閉じ、頭の中でとある景色をイメージした。
水平線が見える広大な海……しかし突然荒れ狂い、僕とペロを島へと連れ去ったあの激しい波を……。
「水よ!」
すると、剣先から大量の水が放出され、辺りは一瞬で水浸しとなる。それでも剣からはどんどん水が溢れ出し、僕の膝よりも高くにまで水嵩が増した。
僕は半身が水につく直前で空中へと一時退避し、剣の持ち手部分に爪先で立つ。そこから剣を無理矢理寝かせてその上に乗り、再び水上へと降り立った。まるでサーフィンのような構えになったところで、地中にも水が侵入したのだろう、水中からモグラの影が顔を出す。重い鎧を捨て身軽になったところで、ドリルを回転させながら襲いかかってくる。
「いっけええええ!」
僕は、荒れ狂う波の上で次々に影を蹴散らす。風の力も駆使してバランスを保ちつつ、剣から噴き出す水を影に浴びせながら、影から光の粒子へと変えていった。
さらに、鎧が外れた事で攻撃可能となったので、剣にって空中へ弾き飛ばされたモグラを、頭上で待ち構えていたカノンとペロが倒していく。
だんだん顔を出す影が減ってきたところで、僕は水上にいながら突風を放つ。すると、竜巻が水中に放たれ、徐々に僕の足元を軸とした巨大な渦潮が発生した。激しい波に、隠れていた影が次々顔を出し、渦潮に呑まれて身動きがとれなくなる。
渦潮が完全に出来上がると、僕は突風を使って空中に浮かぶ。剣をその場でクルクル振り回すと、先からパチパチ弾ける音と共に電気が発生した。
(ハヤテのようには、いかないだろうけど……!)
僕は電気を起こした剣を、渦潮の中心へと投げ込む。すると、水のある地面全体に電気が一気に流れ出し、水と影が一瞬にして蒸発した。
無事影を一掃し、ホッと一息吐く僕に、空中からカノンとペロが抱きついてきた。
「ツバサ君、凄ーい! こんなのすぐに思いつかないよ!」
「カノン……苦し……!」
「ツバサ、今回はファインプレーだアン。流石だアン」
「ありがとう……ありがたいけど、苦しい! 苦しいから二人共!」
両方から……主にカノンが僕にほぼほぼ密着してきたので、僕は目のやり場に困りつつ、何とか息が詰まらないようにするので必死だった。
彼女達の対応……という名の応戦をしていると、いつの間にか囲っていた壁が消えた。さらに、彼女達から視線をそらしていると奥へ進めそうな通路を見つける。
その通路自体は真っ暗であったが、突き当たりに小さな光が見える。
出口か、それとも例の光る空間か……
「ほら、二人共行くよ」
「うん! ツバサ君がいれば、怖いもの無しね!」
「お褒めに預かり光栄の至りだよ」
これで多少は大人しくなってくれると良かったのだが、寧ろ彼女の自由ぶりはエスカレートして、僕から離れたと思ったらいつの間にか例の通路を駆け抜けていた。
待ってと言っても、待ってはくれないだろう。苦笑いを溢しつつ、僕はペロと一緒に彼女の後を追う。