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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第46話 ~イリ洞窟~

細い穴を潜り抜けると、僕達は紫の光を放つ結晶に囲まれた不思議な空間に辿り着いた。

周囲を見渡すと、結晶の傍にはいくつものハンマーや巨大な歯車のついた台車などが横になっていて、どうやら採掘をされていたらしい。

しかし、それにも関わらず紫に光る結晶は、まるで長年誰にも手をつけられなかったかのように、僕達の背よりも高く、先が鋭利になっている。僕ら部外者に敵意を向けているような印象すら受けた。


「フフフ、まるでダンジョンみたいね!」

「カノン……」


彼女の上機嫌さに、僕はそろそろ諦めがついてきた。

そのポジティブさは、時々ペロを上回っている。これには、ペロも大いに同意した。

真っ暗闇ではないが、不気味な光で照らされた床を見て歩くのは気が引けるので、僕は改めて剣を空間に放ち、懐中電灯代わりにする。

すると、初めて見る僕の武器に、またカノンはパァと目を光らせ、ぴょんぴょん跳ねる。彼女のネックレスが、僕が持つ剣の光を反射して時々眩しかった。

カノンの首元から放たれる光と、こちらの光が結晶に当たると、紫が一瞬水色へと変化し、すぐ紫に戻った。変色する結晶なんて初めてだ。この光と何か反応しているのだろうか。

すると、ペロが突如耳を立て、暗闇の天上に向かって顔を上げた。


「何かいる……!?」


思わず剣を前に向けた次の瞬間、


「キーキャラララ!」


こちらの光に反応したのか、ススのようなものを宙に散らす赤目の蝙蝠が、大群となって押し寄せてきた。


「うわっ!」


慌てて僕は剣を振り回し、コウモリが近づかないよう追い払う。

しかしコウモリは先程同様、面白可笑しそうに笑いながら容赦なく僕に突進してきた。


「くっ!」

「ツバサ君! こんのぉ~!」


カノンはネックレスに触れ、白い光を自ら解き放つと、目の前に光で出来た弓矢を作り出し、コウモリに矢を射る。照準はずれる上に、動く相手となると矢を当てるのは困難だ。

ところが、カノンが放った矢は、まるで意思を持つかのように自ら方角を変え、コウモリに追尾する。コウモリは、最初逃げ回っていたもののとうとう追い付かれ、光の矢に当たってしまう。

だが……矢がコウモリに当たったかと思うと、コウモリはたちまちススとなり、矢が貫通し消えたところで元の形へと戻ったのだ。


「そんな!?」

「キーキャララララ♪」

「あーもう、うるさいなあ……!」


一匹でも甲高い鳴き声が耳に障るのに、これだけの数が輪唱されると頭痛がしてきそうだ。

今度は僕が、自分の周囲に突風を起こす事でコウモリと一瞬距離を作り、その隙に今度は炎を放つ。剣身が緑色からオレンジ色へと変わり、周囲の結晶や岩を黄金色に染めた。


「それっ!」

「キィ~!?」


炎に包まれた剣をバトンの如く振り回すと、流石のコウモリ達も怯えたらしく、さっきまでの勢いある鳴き声や突進を止め、その場を逃げるように飛び回り始めた。

これで観念したかと意気込んだところで、結晶が一瞬白く光り、どこからともなく真っ黒の穴が出現した。

さらに、そこから次々に影が洞窟の中へと侵入する。突然の事態にカノンとペロは、思わず悲鳴をあげた。


「何でこんなにたくさん!?」


狼のようなもの、ボール状のものから羽根が生えたもの、サイの如く太くて大きな角を持つもの……先程のコウモリ群相手にも手こずった影が、一気に襲いかかってくる。


「この数相手に戦うのは無理アン! 一旦元いた場所に引き返そう!」

「うん……!」


慌てて踵を返し、先程の穴へ身を隠そうと試みたが、何故かカノンの体は何かにぶつかった。さっきまで無かったはずの見えない壁が、これ以上先へ進めないよう通せん坊していたのだ。


「そんな!」

「仕方無い……ここはペロに任せるアン。カノンはどこか安全な所に……」


シュン!

ペロが最後まで言い切る前に、カノンは白い光の弓矢を呼び出し、影に矢先を向けていた。


「私も戦うよ!」

「……分かったアン!」


カノンの実力を認め、ペロはこれ以上彼女に言及せず、影に攻撃の構えを見せた。

カノンは自身の髪を一つくくりにして、気合いを高めたかと思うと、迫ってくる獣や巨大な蝶の影に向かって、白色からピンク色に変化した矢をお見舞いする。矢は影に当たると、花火のように弾け、周囲を吹っ飛ばした。

彼女の力は「幻」。だから相手を攻撃するというよりも、圧倒的な力を見せつける事で相手を怯ませ、動けなくする戦術だ。

動きを封じたスキにペロが、光弾でトドメを刺す。二人の息はピッタリ合っていた。


「どんどんいくアン!」

「分かったわ!」


しかし、全ての影を遠距離から攻める事は出来ない。

カノンが遠方で夢中になってるのを狙って、背後から獣の影が牙をむき出して襲いかかってくる。


「カノン、危ない!」


ペロの声に反応したカノンは、なんと弓矢から手を離すと、襲ってきた獣を手で押し返す。

すると、獣はまるで見えない楯で突き飛ばされたように吹っ飛んだ。遅れて彼女の手元に目を向けると、そこには大きな蝶の形をした扇があった。

弓矢とは別の幻。これによってカノンは、影の攻撃を弾いたのだ。


「なめないでよね!」

「す、すごいアン……」


弓矢で相手を怯ませ、扇で身を守る。

あるいは近距離で襲ってきた相手を、その扇ではたき落す事も出来た。空中から接近してきた羽根付きボールの影に向かって、彼女は大きく青色に輝く扇を振り下ろす。


「ていっ!」


相手からは、突然上から巨大な蝶がのしかかってきたように見える。

ボールの影は地面に叩きつけられると、そのまま光となって消えた。彼女の新たな力は、影に十分通用するものだった。



しかし、いくらカノンが可憐に舞っても、ペロとの見事なコンビネーションを持ってしても、何体もの影を一度に相手するのは至難だった。

ついに、なりを潜めていたもう一つの影が、動き出す。


「カノン、そっちはまかせ……イタッ!」

「ペロちゃん!?」


思わず振り返ると、視界は既に巨大な影でいっぱいだった。突然その体格に似合わないスピードで、味方の影も巻き込みながら、サイのような影が突進してきたのだ。

ペロは空中で、カノンは扇で、サイの武器と思われる角から身を守ったが、近くにいただけで一気に宙へと投げ出される。


「何を~!」


カノンは空中で背中に光る蝶の羽を作ったと思うと、そのまま体勢を整え影に矢を放つ。その間、矢は近くにいた影にも当たるよう分散し、周辺は桜が満開したように爆発した。 サイの影の視界は桜でいっぱいになり、狙いを定められなくなった。


「これで、トドメ!」


カノンは、弓矢から両手に青い蝶の扇へと持ち替え、空中から相手の角目掛けて扇を降り下ろそうとした。

ところが、最後に決めようとした直前、先程襲ってきたコウモリの群が彼女の前を通過して、彼女の狙いを外す。それを見かねたサイの影は、桜の中から自ら姿を見せたカノンに向かって角を大きく振り上げた。


「カノン!」


影が攻撃を仕掛けようとしたその時、


「そこだあああっ!」

「え?」


声がしたと思うと、上空からスノーボードの如く剣に乗った僕が、影の角に剣先を突き立てた。

そして次の瞬間、影の体全体に氷の結晶が放たれる。その時の冷風でコウモリは彼女の元から離れる前に凍りつき、サイの影がいた場所には氷で出来た花の彫刻が出来上がる。


「ペロ!」

「了解!」


僕が地面に着地したタイミングを図って、ペロが氷の彫刻目掛けて光弾を放つ。

氷はバリン!と音を立てながら粉々に破壊され、結晶の光に反射してキラキラと輝き消えていった。


「凄い……」

「全く、無茶するんだからさ」

「ツバサが全然サポートしないからアンよ! カノンがいるからって、色々かっこつけ過ぎだアン!」

「ええっ!? そんなつもりは……」


コウモリがそちらに行かないよう気遣っていたのだが、完全にお構い無しなようだった。







どうやらここまで力を振るう一戦は初めてだったらしく、カノンは「ふぅ」と大きな溜め息を吐いてその場に座り込んでしまった。僕やペロはまだ動けたが、まだ旅に慣れてない彼女にこれ以上無理させるのは酷だと思い、少し休む事にする。

いつ影が出てきても対応出来るよう剣は出したままだったが、カノンとペロのガールズトークについていけなくなったのと、どうやらまだ少し眠かったらしく、いつの間にか僕は眠ってしまった。


「フフフ、ツバサ君寝ちゃった」

「また寝たのかアン!? 最近やけに寝坊助アンね……」

「きっと疲れてるんだよ」


そんな言葉を最後に、僕は完全に二人の会話から置いてかれた。





「さて、彼が寝ちゃったところで……ちょっと聞かせてくれないかアン?」

「いいよ! 何でも聞いて!」


ペロの質問攻めを、全力で受け付ける姿勢を見せたカノン。ペロは、彼女がどういう人であるのか、彼とはどういう関係なのか、あまりはっきりしていないところを突く気持ちで、カノンに問いかけた。

時々「好きな食べ物は?」とか「学校では部活動をしてたか?」といった、当たり障りの無い質問を混じって色々問いかけた。

彼女は訊かれたら答えるつもりだったようで、投げ掛けられた質問に一切隠す事無く素直に答える。


「私は、ツバサ君と幼馴染みなんだよ。それも産まれた病院が同じだったところから!」

「それは……凄いアンね!?」

「でしょ? だから最初にツバサ君と小学校で再会した時、私じゃなくて、私のママがテンション上がったの。『わあーツバサ君だ!』って」

「幼稚園とか保育園は一緒じゃなかったのかアン?」

「うん。あの時は……何故かツバサ君、いなかったから」


初めて彼女の言葉に詰まりがあった。ペロはその意味を、ひしひしと身をもって理解していた。

幼馴染みである彼女と会っていない空白の時間……そこに彼がずっと内に秘めてるものがある。

何となくペロは、それを感じ取っていた。


「でも小学校で再会したし、それからはずっと一緒なの」

「二人は……恋人だったりしないのかアン?」


ペロの質問に、カノンは「んー」とわざとらしい声をあげて考え込むと


「まだその辺の事を口にしてないんだなー」

「なるほどね……」


事実であしらわれた。多分、ここは少し慎重にやり取りしているのだろう。

ペロは内心ちょっぴりガッカリした。


「じゃあ、私からも一つ質問していい?」


ペロからの質問攻めが一段落したところで、今度はカノンがペロに尋ねる。

ペロは、お返しに一つくらいは答えようと姿勢を伸ばす。


「何アン?」

「ペロちゃんって、どうしてツバサ君の希望なの?」

「ア……」


それは自分でも分かっていないところ。自問自答すら出来ていない質問だった。

いや、今なら答えられるかもしれない。

それも相手が、彼の事を心から思ってくれる人なら、彼が眠ってしまっている今なら……


「ペロは……」


その後の言葉を聞いても、やはりカノンは驚く様子を一切見せず、真摯に頷き受け止めた。



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