BlueBird 第45話
そして現在、巨大化したペロの背に僕と彼女がいる。
今まで経験した事の無い空の旅にカノンは興味心身で、「ほわぁ~」という感嘆を零したり、「世界って広いんだね!」なんて感想を言いながら、地上を見下ろしていた。
そんな彼女に、僕も心から笑えた。ずっと心につっかえていた物が、取れたようで少し体が軽い。
(もしかしたら、新しい服のおかげかもしれないけどね)
カノンとの突然の再会に夢中で気づくのに遅れたが、ペロが持って帰ってきた袋の中身は、何と僕への新しい服だった。
島での一戦によりボロボロになったのが気がかりだったらしく、わざわざ近くの街を探して買ってきてくれたそうだ。お金に関しては、セグルから貰ったものが通ったようで問題無いが、僕は一体彼女がどうやって買ったのか疑問だった。
しかし、訊いてみると「そりゃ、話が出来たら買い物くらい出来るアン!」なんて言い張り、詳細は教えてくれなかった。
そんな彼女が選んでくれた服だが、驚く事にサイズはどれもピッタリ合っていた。いつ採寸されたのか、それとも彼女の目分が職人級なのか……これも訊いてみたが、あっさりはぐらかされた。
赤い羽のようなデザインがプリントされた七分丈の白シャツに、茶色い上着、黒いデニム地のズボンには、黄色と黒の飾りベルトが付いてあり、さっきから風でパタパタ揺れている。
まさかこんな旅になると思っていなかったとはいえ、当時のシンプルかつ地味で、ほとんど部屋着みたいな格好よりも、ずっと様になった。
(カノンからは、これでも地味だと怒られたけどね)
一方のカノンは、地味だと言い張るだけあって、僕とは対照的な非常に派手な格好をしていた。
薄ピンクの上着に赤いワンピース、白いロングブーツからはヒラヒラと花弁をモチーフにした飾りが施されている。手には白いシュシュが付いており、影と遭遇した際は髪を結んで邪魔にならないよう気を付けたそうだ。
髪を結ぶ時間があったのかと疑問に思ったが、そこはペロとのやり取りから得た教訓により、黙っておく事にした。
そんな花みたいな格好のカノンは、空から見える絶景をある程度満喫したところで、大きな翼を持つペロに視線を向けた。
「ペロさん、これから何処に行くの?」
「さっき街に行った時、偶然面白い話を耳にしたんだ」
「面白い話?」
それは、とある洞窟の話だった。
街の人曰く、その洞窟の最深部に突然、今まで見た事の無い眩い光を放つ空間が現れたそうだ。その空間に入ると、いつの間にか人々は洞窟の外にいて、それから暫くすると炎を出したり、草木を生い茂らせるといった不思議な力が使えるようになったらしい。
「しかも、その光る空間で男の子の声を耳にしたっていう情報もあってね。さっきのカノンの事も考えると、もしかしたら……」
「私と同じような状況になってる人が、いるかもしれないって事ね! ひょっとすると、シュウヤ先輩だったりして!」
「うん、それにここからまた気になる話があって……」
洞窟に行くと不思議な力を手にするという話は、街中で噂となって広まり、次から次へと人々はその洞窟に足を踏み入れる。
ところが、最近になって、その洞窟に今までいなかった謎の黒い生き物が現れ、人々はなかなか近づけなくなったそうだ。
「それって……」
「さっきツバサ君達が言ってた、影の事かな?」
だとしたら、その洞窟は知らぬ間に闇に呑まれた可能性がある。今は洞窟内に留まっているかもしれないが、次第に外へと広がり、街を影が襲う危険があった。
これに当然、僕らは黙っていなかった。
「行こう、その洞窟に。不思議な力の事も、誰かがその空間にいるって事も、闇と関係しているとしたら放ってはおけないよ」
「全会一致だね。分かった、今からその洞窟まで飛んでいくよ!」
「わーい! 洞窟探検だー!」
「……」
僕とペロは、彼女の危機感の無さに不安を感じていた。
目的地に辿り着くと、ペロは洞窟付近の広場で舞い降りた。
ペロの翼や周囲に強い風が吹き、草木が一瞬大きく揺れたかと思うと、その先にある洞窟の岩で風の道は妨げられた。
「やっほー……あれ?」
ご機嫌にペロの背中から飛び降り、真っ先に洞窟へ向かったカノンだが、その入口が塞がれている事に気づいた。聞いていた話と違う事態に、ペロは少し戸惑いを隠せないようだ。
カノンは、入口周辺を散策しつつ、僕らに早く来るよう手招きする。
「これ、影の仕業だったりするのかな?」
「かもね。影は闇を好むから、外部の光を遮ろうとしたのかも」
「或いは誰かが、これ以上洞窟に入らないよう敢えて仕掛けたのかもしれない……どうする? 正面突破してみようか?」
「ダメよ! 無理に崩して、さらに上から岩が降ってきたら危ないわ!」
どうやら、その辺の冷静さは持っているようだ。
再び中に入る方法を考えていると、ふと僕は洞窟の方から風が吹いている事に気づく。
いや、吹いているというよりは、流れているような感じだろうか。何となく風を感じる方へ近づくと、岩の間に僅かな隙間があり、そこから風が感じられた。
どうやら周辺の岩を支えているわけではなく、偶然そこにいて穴を塞いでいる様子だ。
「ここなら入れるかも」
「アゥ!?」
試しにその岩をどかしてみると、他の岩に影響無く、人一人分の大きな穴が出現する。これにカノンは、跳びはねて喜んだ。
「凄いよ、ツバサ君! どうやって分かったの?」
「風だよ。何となくここに風の流れがあって、空洞があるような気がしたんだ」
「ツバサ、すっかり風に関する能力はお得意になったアンね」
「早速入りましょう!」
ワクワクした様子で真っ先に洞窟の中へと潜入するカノンに、僕とペロは小さな溜め息を溢しつつ後を追う。