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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第44話

「さっきは本当にごめん……ありがとね」


僕らはひとまず長椅子に腰掛け、まずは面識の無いペロとカノンが、互いに自己紹介を軽く済ませる。

カノンは先程述べた通り、僕と昔からの幼馴染で、小中高共に同じ学校に通っていた。そして高校一年の現在は、クラスメイトでもある。

その後ペロについても説明したが、彼女はそこまで驚かず、最後まで熱心に聞いてくれた。僕の「希望」であるというプロフィールに関しても、それ程言及する事なく「そうなんだ~」とどこか嬉し気な反応をするだけだ。あまりの柔軟さに、こっちが驚く一方だった。

そしてここから本題に入る。


「それにしても……どうしてカノンがここに? 聞きたい事があり過ぎて、収拾がつかないんだけど……」

「う~ん、どこから説明したらいいのかな……最初は、私がいつも通り買い物に出かけてた時、突然空から大きな真っ黒の星が降ってきたの」

「闇の球体かアン!?」

「あっ、分かってもらえた! よかったー」


自身も理解し難い現象を信じてもらえるか心配したようだが、この反応にカノンはほっと胸をなでおろす。

恐らく彼女も僕と同じ、闇に呑まれる瞬間を目撃したのだ。

しかし、そこからの経緯は僕とまるで違った。


「それで辺りが真っ暗になった後……私は暗闇の空間で倒れていたの」

「暗闇の空間?」

「でも、どこからか声がして……そしたら目の前に光る蝶が飛んできたの。それを追いかけてみたら、不思議な街に辿り着いてた。蝶は、街に着くと消えちゃったから、他に誰かいないか街中探し回ったわ。でも、全然見つからなくて、代わりに真っ黒の毛を持つ化け物が襲ってきたの」

「影か……」


漆黒の毛を持つ化け物といえば「影」しかいない。つまり彼女は、僕らとは別の世界で同じような災難に遭遇したという事だ。

カノンはうんうんと頷きながら、話を続ける。


「その影っていうのから逃げて暫く走ってたら、突然また声がして『それは私の光だけど、本当の光じゃない』って言われたの。その瞬間、街がどんどん黒く染まって、またあの暗闇の中に閉じ込められちゃったの。すっごく怖かった……でもその時、ツバサ君の声がしたんだ」

「ツバサの声かアン!?」

「そう。そしたらさっきの光る蝶がまた現れて、あなたの声で『こっちに来て』って誘導してくれたの。それについて行ったら、だんだん光が溢れて来てね……気がついたらここにいたんだ」


何とも不思議な話だ。闇に呑まれた人が、こうして突如現れる事態にペロは衝撃だったらしく、うーんと低いうなり声をあげながら考え込む。

僕は、全く知らない場所で自分が関係している事に、唖然としていた。


「……つまり、闇に呑まれたのに、ツバサのおかげでこっちの世界へと戻ってきた。って事かアン?」

「そうなのかも……本当に不思議ね。私はてっきりツバサ君が蝶になってると思ってたから、ここに来て、普通に本人がいるのにびっくりしちゃった」

「僕は思わぬ所で、君と接触していた事に驚いてるよ……」


カノンは思わず肩を竦め、頬を赤らめた。勘違いしていた事が恥ずかしかったらしい。

ペロはそんな彼女に笑みを浮かべ、そっと背中をさすってあげる。


「まあまあ、そのおかげで闇から抜け出せたんだし。結果オーライだアン!」

「そうね! ところで……ツバサ君こそ、こんな所で一体何を?」

「ああ……うん」


今度は僕が、ここに至るまでの経緯を話す。シュウヤが闇に呑まれた事、未来使いというものになった事、ペロと一緒に街や村を回っている事、セグルやカイトが無事だという事、ファアルという世界がある事、闇の球体の事、影の事……話す事はたくさんあったが、順に説明していくと、カノンは自分の経験と照らし合わせて、パズルを埋めていった時のような爽快感に見舞われる。

話が一通り終えると、カノンは大きく一息吐き、僕とペロの頭を撫でてきた。


「大変だったんだね。ずっと頑張って、シュウヤ先輩探してるんだ」

「カノンだって大変だったじゃないか。ずっと一人で巡ってたんだろ?」

「でも今はツバサ君に会えたし。あれ以上悪い事は、きっともう無いから!」


いい子いい子、と母親のような口ぶりでひたすら僕らの頭を撫でてくる彼女に、僕とペロは少し困った表情を浮かべる。母親体質な上にちょっぴり頑固だから、なかなか彼女の前で異論が通らない。あれから大きく変わっていないようで、僕は内心とても安心した。


するとここでカノンが、


「ツバサ君、一つ聞いてもいい?」


と、何やら念を押して尋ねてきた。僕は彼女の手からひょいと頭をずらし、首を傾げる。


「あの時……闇が街に降って来た時、ツバサ君もいたんだよね?」

「うん」

「その時ツバサ君……私の事真っ先に考えた?」

「え……」


ここでペロは、とんでもない質問をされていると諭した。

恐らくここで自分以外の人物を考えたと言えば、今の空気が一気に不穏になると勘で分かった。

ペロは不安気に、チラリと僕に視線を飛ばす。下手な事は言うなと言わんばかりの、真剣なまなざしだ。

僕の返答は……


「……いや、考えてない」

「ちょっと、ツバサ! そこは普通考えたって言うべきアン! 乙女心分かってない!」

「いいのよペロちゃん。それが正解だから」

「アゥ……?」


カノンは、ペロを自分の膝に乗せると、手ぐしで毛づくろいを始めた。

ペロは気持ち良さの反面、彼女の思考が読み取れず、少し怖かった。彼女は終始、笑ったままだ。

その笑みは決して悪意の無い、純粋な笑みだった。


「私、前にツバサ君と約束したんだ。もしもの事があった時、私の心配はしないで、って。それを守ってくれてるか確認するつもりで訊いたの」

「え、それっておかしくないかアン? 普通は逆じゃ……」

「う~ん……私的には、そこであえて考えないでほしいんだ。私なら大丈夫だろうって、安心してくれてる方が嬉しいの。この方がお互い変に気遣わなくて済むし」

「ペロにはよく分からないアン……正直、カノンは少し変わってるアン」

「あはは、そうかもね~。よく言われるよ」


照れ笑いをする彼女に、ペロは思わず綻んだ。どうやらそこまで心配する必要は無かったようだ。

ここでようやく、安心して彼女の毛づくろいの心地良さを堪能する。



ペロが至福の一眠りを始めた頃、僕は改めてカノンの無事を喜んだ。

いくら心配するなと言われても、行方不明者に含まれていたら、流石に気にせざるを得ない。この事を伝えると、カノンはクスクス笑いながら

「ツバサ君の嘘つき~」と、冗談混じりのいたずらっぽい笑みを見せてきた。

しかし、すぐさま真剣そうな表情に戻り、念押すように少し間を置いて話し始める。


「でも、そういう所が好きなんだよ」

「よせよ……これは流石に心配するから。行方不明だと聞かされて軽率な対応をする程、薄情にはしていられない」

「そんな事ないよ。そんなんじゃツバサ君、すぐにまた約束破りそう。私、そっちの方が心配だな~」

「そんな律儀にならなくても……」


真っ先に考えるなと言われたが、心配するなとは言われてないと突っ込むが、カノンは


「あれ、そだっけ?」


ついにとぼけ出した。やっぱり、彼女に僕の異論は通じない。本当に相変わらずな人だった。

彼女の無事を確認し、一安心したところで、僕は今後の事に話題を切り替えた。

僕にしては珍しく、彼女にはして欲しい事があった。


「カノン、お願いがある。君はセグル達がいる街に行って、自身の無事を伝えて欲しい。ペロが起きたら連れて行ってあげるから」

「え、それはいいけど……ツバサ君はどうするの?」

「僕は、またシュウヤを探しに行くよ。闇がある所に行って、彼を探すついでに闇を払わなくちゃいけないんだ」

「ふふっ、何だか勇者みたいね。私も行きたい!」

「何言ってるんだよ!? 君は既に散々な目に遭ってきたじゃないか! ここから先、何があるか分からないし、影もまた出てくるんだよ」

「大丈夫、私も戦えるから!」


そう言うと彼女は、ポケットにしまっていたネックレスを取り出し、そこに付けられた青い石にそっと触れる。すると、石から白い光が放たれ、彼女の前で弓矢の形へと姿を変えた。

カノンは白い弓矢を持つと、僕に「じゃじゃーん」という効果音を自分で唱えながら、堂々と構えてみせた。この状況に、僕は言葉を失う。


「えへへ、凄いでしょ。私もあっちの世界で戦ってたの~、ヒロインみたいに! 因みに他の武器にも変えられるんだよ! 強いんだ~私!」

「……」

「だから私も行く! ツバサ君を放ってはおけないよ」


僕は、弓矢を持つ彼女の手を掴んだ。カノンが思わず弓矢から手を離すと、弓矢は光の粒となって消えていった。


「え、どうしたの……ツバサ君?」

「……」


嫌だった。武器を持って戦う彼女の姿を考えると、自然と悲しい気持ちになった。

やめてほしいと思った。彼女には、これ以上命にかかわるような事はして欲しくない。そう言えばいいのに、何故か僕の口からは、その言葉が一つ足りとも出てこなかった。


勇気が無かったのだ。

僕は決して「勇者」じゃない。そんな勇気ある人ではない。こんな簡単な事すら、伝えられないのだから。


黙りこくったままの僕に、カノンは一時戸惑いを隠せない様子だったが、徐々に笑顔が戻ってくる。


「ツバサ君は……本当に優しいね。ありがとう。でも、その気持ちは私も同じなんだよ?」

「え……?」

「私だって、ツバサ君に苦しい思いはして欲しくない。危険な目に遭って欲しくないの。ツバサ君、ただでさえ無茶しちゃうんだから……でも行かないとシュウヤ先輩に会えなくて、大切なお兄さんに会えなくて、もっと苦しいでしょ? 分かってる」

「じゃあ何で君まで……?」

「ツバサ君の苦しみを、少しでも分けて欲しいから」


カノンは、握られていない方の手で、僕の手に重ねてきた。さらに彼女は僕の手を、自分の額へと引き寄せ当てる。カノンの温もりが、手から全身へと伝わってくるような気がした。


「一緒にいれば、喜びは二倍、苦しみや悲しみは半分になるってよく言うでしょ? あれ、本当だと思うんだ。だから私は、ツバサ君の苦しみを半分にしたい。ツバサ君にはもっと笑ってほしい」

「カノン……」

「さっきから何の話に花を咲かせてるアン」


するとペロが僕と彼女の手に割り込んできた。まさか起きているとは思っていなかったので、僕らは慌てて手を離し、互いに視線を逸らす。ペロは僕やカノンの周りを旋回しながら、ぷりぷり怒ってきた。


「全くもう! 聞いてるこっちが恥ずかしいアン。ちょっとはゆっくり休ませてアン」

「ご、ごめん……」

「どこまで聞いてたの……?」

「ラストだけアンよ。一緒に居たら、喜びは二倍で悲しみは減るとか何とか!」

「うわあああっ!」

「だからツバサを笑わせたいとか何とか!」

「わああああっ!」

「全く……ちょっと変な二人だなと思ってたら、まさかここまでとは……見てられないアン!」

「「ごめんなさい……」」


申し訳ない気持ちと、赤面を見せたくない恥ずかしさに、僕らは土下座する形でペロに謝罪した。顔を上げたくない。ペロに視線を合わせたくなかった。

しかしその後、ペロは


「まあでも、カノンの気持ちは分からなくもないアン」


と言って、彼女の頭に小さな手をポンと乗せる。

ペロは、すっかりお怒りが冷めているようで、どこか大人びた、余裕ある表情を見せた。


「ペロも、そんな気持ちでずっと旅してきたからね。何せ『ツバサの希望』だから……もし本気で一緒に行きたいって言うなら、ペロはそこまで止めはしないアン」

「ペロ!」「ペロちゃん!」

「た、だ、し! 今後そんな見るに堪えないやり取りを、ペロの前では見せない事が条件アン!」

「分かったわ、絶対しません! 誓います!」

「待ってペロ、本気でカノンを連れて行く気!?」


話がすっかり前向きな方向に進んでいる。僕は、慌ててペロに反論するが、ペロも少々頑固な性格だ。簡単に折れるはずがなかった。

色々討論した挙げ句、最後に放ったペロの言い分が、僕にトドメを刺した。


「ペロの力だけじゃ、ツバサの希望を満たせない……そう判断した結果アン」

「そんな事ない! ペロはずっと、僕の希望を叶えてくれた! 今更そんな後ろ向きな事言わないでよ……」

「限界があるのは、紛れもない事実だアン。ペロには分からない気持ちを、カノンは理解してた。だからペロにとっても、ツバサの希望を満たすために、カノンの存在は必要不可欠アンよ」

「凄い……ペロちゃん、初対面の私にそんな事思ってくれてたの? 嬉しいな~」

「最初は曖昧だったけど、確信出来たのはツバサの手をカノンが握った辺りかアンね~」

「へえ~……って、え? それって……」


ここで僕らは、ほぼ一部始終彼女に知られていたという事に、再度赤面した。



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