BlueBird 第42話 ~再会~
多分僕は今、夢を見ているんだと思う。
分かっているけど、やっぱり暗い所は息が詰まりそうになるし、大きな音は脳裏にまで響くし、大柄な人はまるで金縛りのように僕を硬直させ、どれもとにかく怖い。
でもいつまで経っても、怯えてばかりではいけない。もっと強くならなきゃいけない。
家族にも友達にも、これ以上迷惑をかけないように。
だからこの旅は、ある意味僕にとって希望だった。
勿論、シュウヤの行方が分からないのは、いつだって不安だし、あの時の事を振り替えるとたちまち悲しい気持ちが湧き上がってくる。
けど、感傷に浸り続けるのも良くない。ここはあの子に倣って、しっかり希望を持とうと思った。
だからこの旅は、僕にとって強くなるきっかけを与えてくれた絶好の機会だと考えている。
危機を察したらいつだった逃げられる絶対的力、誰も傷つけず影という存在から光に戻す不思議な剣、そして僕に希望を与えてくれるとっても強いパートナー。これだけ揃えば、もう向かうところ敵無しだ。
だから心の強化にも専念出来る……そう思っていたのに。
この力こそが、僕にとって最大の恐怖へと陥れる強靭な刃だとは思わなかったんだ。
彼の希望であるペロは、小さな体ながらもパートナーを背中に乗せ、翼となった耳をいっぱい広げて青々とした森を抜けた。木々に覆われて見えなかった空を見てみると、そこには雲一つ無い青空が広がっている。
(いつ天気が崩れるか分からないし、ここにいても仕方無いよね……)
何故かさっきの姿には成れなかったが、少しでも彼が探す人の元に近づくため、ペロはそのまま小さな島を後に飛翔した。
旅を始めていくらか経つが、彼の探す人「シュウヤ」の行方に関する手がかりは一向に見つからない。ひたすら街や村を転々とし、時に襲いかかる影から身を守り、呑み込む闇に光を照らし、今まで経験した事の無い不思議な力を手に必死に戦ってきた。それなのに、彼の探す人は見つからず、未だ何処にいるのか分からない。
(考えてみたら、無茶な話なんだよね……って)
彼の希望だと声高に唱えていた自分が、ふと希望を失っている事態にペロはハッとして首を左右に振った。
過酷な思いをして、こんな状況なのにも関わらず、今ペロに背負われてる彼は、優しく微笑んでいた。今もさっきの森の散策でも、自分よりも彼の方が希望を抱いていたような気がする。
(ペロの出番も、ここまでなのかな……なーんて)
いくら耳が大きくなっても、そろそろ彼を支えた状態での飛行は限界だった。
海を渡り、次の陸が見えてきたところでペロは山の麓に花畑が広がっている事に気づいた。そこまで力一杯羽ばたき、白い花が咲き乱れる空間にゆっくりと降り立つ。
花畑の傍に小川が流れ、その向こう側には、教会らしき建物が建っている。
(教会か……きっとツバサなら、多少休んでも許してもらえるよね)
虹色のステンドガラスが印象的な白い建物に、ペロは彼をいそいそと運びながら向かう。中に入ると、教会なのに長い間使われていないらしく、物は古びて少しカビ臭かった。しかし、虹色の窓から日の光が射し込み、久しい来客を教会は温かく迎え入れてくれた。
ペロは、彼を日向の長椅子に座らせる。そして改めてボロボロになった服を見て、彼が寝ている間に近くで人のいる街がないか探す事にした。
「ちょっとここを離れるけど、すぐに戻ってくるアン。ツバサはもう暫く休んでて」
日に照らされ、気持ち良さそうな彼を横目に、ペロは教会を去っていく。
彼の首にぶら下がるペンダントが、一瞬キラリと輝いたような気がした。