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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第39話 ~無名の島~

「わぁ~凄いアン! 大きいアンね! うわあ~!」


舟中で、ペロは見慣れない浮き輪や碇に夢中で、一人(?)ぴょこぴょこ飛び回っていた。

船員から許しは得ているものの、流石に騒ぎ過ぎと見た僕は、苦笑いしながら目の前を蠅のように飛び回る彼女の進路を、片手で妨害した。「フガッ!」と、ペロは僕の手に激突すると、プリプリ怒って大きな耳で僕をはたこうとした。僕はまた手で防ぎ、彼女と一定の距離を保つ。


「アウアウアァ~!」


まるで駄々をこねる子供だが、そんな一面とは裏腹に、彼女の実力は驚くものばかりだ。

「僕の希望」と称し、僕が「希望」するものは、出来る限り何でも叶える……考えたら、とんでもない宣言を、彼女は初対面の僕に堂々としていた。

そして、その言葉通り、時には耳を翼に変えて僕の体を浮かしたり、影と遭遇した際、魔法で応戦したり、当たり前のように人語を話せたりと……やりたい放題な事を何ら躊躇なく熟している。

今まで新しい情報で頭の整理が追い付かず、目まぐるしく時を過ごしていた気がするが、今なら……こうして暇を作り、彼女との交流も深まってきた今なら、訊けるかもしれない。


「ペロってさ」

「フガフ?」


しまった。彼女の顔を手で覆ったままだった。慌てて彼女を開放し、話の内容を忘れてない程度に抑えた笑いを零す。ペロは少し不満気だったが、それよりも僕の話に興味があるらしく、首を傾げながら浮遊していた。

改めて、話を戻そう……その時だった。


「嵐だ!」


船員さんの突然の声に驚く間もなく、舟が大きく揺れだす。

まるで子供が振り回して遊ぶおもちゃ箱みたく、縦にも横にも揺れ、壁に掛けられていた浮き輪や机の書類などが吹っ飛ぶ。

僕は咄嗟にペロを抱きかかえた。ちらりと窓を見ると、あんなに青かった空は、いつのまにか灰色の雲に包まれていた。だがそれだけが原因とは思えない程、外は異様な暗さだった。テレビの電源が切れている時のような不自然な暗闇が、そこに映し出されていたのだ。


(これ……もしかして闇が……?)


すると僕の頭に強い衝撃が走る。舟が揺れた拍子で、何か固い物が頭上から飛んできた。


「ツバサ!」


ペロの心配する声を最後に、僕は外の暗闇同様、視界が真っ暗になった。











木板の床がきしみ、波の音が鼓膜を震わせる。僕はここでようやく目が覚めた。

隣を見ると、ちょうどペロも小さく唸りながら、パチパチとまばたきしている。どうやら彼女も、あの嵐で一緒に気を失ってしまったらしい。

体を起こしてみると、部屋は大惨事だった。水を被ったのか、床や壁の一部が変色し、あるはずの無い海藻が、無断で舟内にお邪魔している。


「船員さんは!?」


慌てて部屋を見回し、僕らはすぐさま甲板へと出た。

外に出た僕らを待っていたものは、灰色の空と土色の砂浜、紺色の海。

そして何より、まるで海と対峙するように生い茂る巨大な木の群、つまりは山が僕らの目に飛び込んできた。


「ふわぁ……!」

「僕達……島に着いちゃったのか?」


何となく海と山が同じ所にあるものを「島」と称したが、仮にそうだとする。

しかも後で気づいたが、ここはただの島ではなかった。僕は船員を探すべく、砂浜を歩いていると、ここには人工物らしき物が一つも見当たらない。山の周りをただひたすら歩いて行くうちに、壊れた舟と再度対面する。

ペロも空から船員を捜索するが、僕以外に人の気配は無く、しかもこの島がとても小さな島である事が上空からも確認された。

とてつもなく小さな島、そして無人島だった。


「どうするアン……?」


船員どころか、人すら見つからない孤独感に、ペロは助け舟を求めるかの如く僕に尋ねてくる。

勿論、僕に答える術はない。だが、まだ無人島であると断定は出来ない。僕は僅かな希望を抱いていた。


「山に入ってみよう。ニナの所みたいに、何か村があるかもしれない」

「なるほど。分かったアン!」


落ち込んだ様子の無い僕の声を聞いて、ペロはとても安心したらしい。僕はペロを肩に乗せると、生い茂る草木の中へと足を踏み入れる。



目の前を覆う草や木の葉を何度も何度もかき分け進み、道なき道を進んで行く。

時々大木の根に躓いて転びそうになるが、幸い太い枝がたくさんあるので、咄嗟に掴むものは常あった。


「凄く大きな木がいっぱいアン……」


ニナの村があった森とは違い、ここは人の手が一切触れられておらず、何だか神聖な場所に足を踏み入れているような気がした。木々は己の思いのままに背を伸ばし、辺り一面が苔に覆われて、深緑の空間がどこまでも広がっている。枝もあちこちで伸びては別の木の枝と絡まり、曇り空のため日の光が射し込まず、より神秘的な雰囲気が漂っている。

最初は冒険心が駆り立てられ楽しかったが、嵐の後で湿度が高く、空気も濃いせいで、体力の消耗は早かった。僕は少し開けた場所にたどり着く度、一度歩みを止める。


「森の中を探索するのって……こんなに大変なんだね」

「いくら進んでも木しかないし……一体どこまで進んだのか分からないアン」


それでも僕らは諦めない。先に進めば何かがある。小さな島だから、きっとそう遠くないはずだ。

僕は再び歩き始めた。



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