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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第36話



「しっかりしろよ、馬鹿兄貴!」



上空から見覚えのある稲妻が走った。

次々に周囲の人達を痺れさせ、そばに立っていた人は、思わず握っていた武器をこぼれ落とす。

稲妻は地面へと突き刺さり、その際飛び散った火花が、僕の体を掠めた。その熱と僅かな痛みが、頭に流れ込んでいた嫌な風景を消し去っていく。


 ビルの上階から飛び降りてきたギルは、華麗に着地を決めるとグローブを外し、僕の背中をポンと叩いた。


「何してんだよ。大丈夫だって! 今はこうして隣にいるじゃん!」

「あ……」


全く。怖がりなのは、どっちだろうか。

ギルの声が、僕の心を一気に落ち着かせてくれる。


ようやく思い出した。奥にしまい込んでいた何かが、突如姿を現したような感覚だ。

容姿があまりに変わっていたので、全く気がつかなかった。

けれど、ずっと僕をつけてきたのも、さっきまで感じていた違和感も、僕を「兄貴」と呼んだ理由も、彼が偽名に「Gilt(=罪)」という意味を込めた事も全て、これでつじつまが合う。


罪滅ぼし……彼のせいでは無いのに。

罪悪感と責任感を、今の今まで抱えて生きていた彼の意志に、僕は一瞬視界が歪む。それを見て彼は、ギョッと顔を強張らせた。


「おっ、おい! そんな泣くようなシーンかここ!? 俺、そんな怖い言い方……」

「『ハヤテ』……ありがとう……っ!」 

「おっ……ようやく思い出したか」


もう偽名を名乗る必要は無いな、と彼は最後に僕の頭をポンと軽く叩いて、グローブをはめ直す。

上空では、ペロが竜の気を引かせる事に悪戦苦闘していた。そして、一時動けなくなっていた人々も、痺れから解放されると顔を上げ、徐々に僕らへの視線が集まる。

僕は体を起こすと、ハヤテと背中合わせになって剣を構える。ハヤテもそれに応えるように、持っていた鉄パイプを虚ろな人々に向けた。


「こいつらは俺に任せろ。お前はあの犬と一緒に、竜の相手してくれ。こいつら片づけたら、援護する」

「分かった。……ハヤテ」

「ん?」

「僕、罪を償って欲しいなんて思ってないよ。君だけじゃなく、君の母さんにも……だから」

「だあああーもうっ!」


突然、横からデコピンが飛んでくる。少し的を外しているが、それでも結構痛い。

何故このタイミングでされたのか理解出来ないが、ハヤテはそれに答える気なんて無さそうだ。


「生きててよかった、ただそれだけだ! 別にお前の事を考えて生きてたんじゃねえ! 十年以上も前の事未だに引きずってるとか、バッカじゃねえの!?」

「え、でもつけてきたんじゃ……?」

「その話は後だ後! 今はとりあえずこいつらぶっ倒して、お前の兄さん探すぞ!」


彼の背中を見ていると、一瞬彼とシュウヤの姿が合わさったような気がした。

僕にとって、彼は大切な家族。僕の「義弟」だ。


「……分かった!」


ハヤテは、まるで僕の全てを理解しているかの如く、今まで以上に得意気そうな笑みを浮かべて、グーサインを見せた。僕も大きく頷いて応える。


「兄貴、俺達の本気見せてやろーぜ! 義兄弟キレさせたら、やばいって事をよ!」

「ああ!」


ハヤテは拳に電気を放ち、僕は剣で全身に風を纏うと、それぞれの相手に向かって走り出す。




僕は、助走をつけて跳び上がると、空中で舞う竜と目を合わせる。


「ペロ!」

「任せるアン!」


上空から降下してくるペロに捕まり、僕は竜の頭上へ向かう。

相手よりも高く上昇した所で彼女から手を離すと、風の力で落下スピードを加速させ、その勢いで真っすぐ竜の背中へと剣を突き降ろした。


「ギュアアアア!」


剣先から緑色と金色に輝く衝撃派が起こり、竜の体は勢いよく地上へと落下していく。

だが竜は、不時着寸前に体勢を立て直して周囲の風を全身に覆うと、反動で勢いよく急上昇してきた。

空中にたたずむ僕目掛けて、その大きな口を開けて迫ってくる。

漆黒の闇が、視界全体を覆い隠す。また嫌な震えが、手先から全身へと伝ってきた。


(負けない……!)


僕は、剣を盾のように前に突き出して、勢いよく回転させる。すると、剣から放たれる光のオーラが強くなり、僕の周囲は光に包まれた。

竜の攻撃が、僕を包む光とぶつかる。すると、当たるはずの攻撃が、僕の前で止まった。

同時に、甲高い衝撃音が響き渡り、次の瞬間、目を開けていられない程の眩い光が放たれる。


光の波動により、竜は思わず僕から距離を取って、蛇行飛行を始める。

威勢ある雄たけびは弱々しくなり、どうやら視界が眩んだようだ。


「凄いよ、ツバサ! バリアが使えるようになったんだアンね!」


僕の周囲に放たれた光は、壁になっていたらしく、それで相手の攻撃を防いでいたようだ。


 すると、竜が先程のゆっくりとした動きから一変。逆鱗に触れたらしく、真っ赤な眼光を放ちながら、うねるように全身を動かして空中で乱舞を繰り出す。

危険を察したペロが、僕の手を掴んで猛スピードで竜から距離をとる。

しかし、予測出来ない動きと変速を伴いながら舞う竜に、攻撃するタイミングが作れない。

そのうち、視界が正常に戻ったのか、竜はその奇妙な動きを見せながら僕達の方へと向かってくる。

いくらペロが大きな翼で羽ばたいても、追いつかれるのは時間の問題だった。



だが一方、はたでその様子を見ていた別の勇士が、激しい怒号と共に神速の刃を振るう。



「いっけえええ!」


ビルの屋上から一筋の稲妻が、バリバリと轟かせながら竜の腹に突き刺さる。


「ギャアアアッ!」


ハヤテが投げつけた棒の先から、稲妻が鎖のように竜全体へと巻きつき、あっという間に動きを封じた。これにハヤテは、得意気な表情を浮かべる。

すかさず僕は、このチャンスを逃すまいと剣を構え、竜の傍でペロから手を離すと、幾度も回転切りを決める。その間、竜の体から弾ける電気が剣に熱を与え、気付くと僕は激しい雷撃を竜にお見舞いしていた。

そこへハヤテが屋上から勢いよくジャンプして、自身の稲妻で黄金に輝く鉄パイプを突き出すように急降下してきた。僕も剣に力を込め、今までで一番激しい雷を突き落とす。


「これで」

「終わりだああああ!」


まるで映画のような光景が繰り広げられる。

二つの稲妻が竜の元へと降り注ぎ、真っ黒な体は眩い光に包まれながら、跡形無く砕け散った。


さらに光は、この場に留まらず街全体へと広がり、闇に覆われていた街に、久しく太陽の光が射し込んでくる。



「よっしゃあ!」


風に乗ってゆっくり着地したところで、ハヤテは喜びの声をあげた。

ペロと僕も互いにハイタッチし、街に戻ってきた本来の光を全身で浴びる。


「暖かい……」

「気持ちが良いアン」


すると、発電所の従業員と思われる人達が、次々と光から姿を現す。人々は突然の出来事に驚いているのか、情報を求めて連絡を取り合っていた。


「ひとしばらく、忙しくなるかな……」

「まあこの街は色々進んでる所だから、復興するのも早いだろうぜ」

「よかった……」

「それより、今日はもうどっか泊まって休もうぜ……勇者様は疲れたわ」


勇者様と自称するハヤテがおかしくて、思わずクスクス笑う僕とペロ。

ハヤテは「何だよ~」と言いながらも、おかしくなって笑い出す。


やっぱり笑い方が似ている。


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