BlueBird 第35話 ~断章~
~心の幻影 知りたくないもの~
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母さんがいなくなった。病気だったそうだ。
いつも暇さえあれば名前を呼んで、優しく頭をなでてくれる母さん。大好きな母さん。
そんな母さんがいなくなって、父だけになった。
それから暫くして、新しい母さんがやってきた。気付くと、小さな世界に引きこもっていた。
暗くて冷たい。
時々いい匂いと共にやってくる光に支えられながら、その世界で生きた。
ある日、いつものように光がやってきたと思うと、部屋から救われるようにして外へと飛び出していた。
「いきなさい」
頭にこびりつく、冷たく、寂しい声。
それが、新しい母さんとの最初で最後の会話だった。
行く当てなんて無かった。
暫く見なかったせいで、すっかり外の景色がどんなものだったか、この先の道がどうであったか忘れた世界に、不安しかなかった。
細くて、寂れた道を歩いて、誰かに声を掛けられた。
優しかったような、嬉しかったような。
けれど、それから全てが一変した。
怖くて恐くて、痛くて傷んで、辛くて苦しくて、狂って狂って……
さっきまで優しかったような声は、ガラガラと喉を鳴らして、高笑いしていた。
頭の奥まで残響して気持ち悪かった。
体の中にあるものを、全て吐いた。吐き出さざるを得なかった。
息も胃液も血液も全部、自分のものではなかった。居場所も無かった。
ただ残るのは、激しい頭痛と、骨まで響く強い衝撃と、痛みと恐怖。
自分はいないも同然だった。とても悲しく、寂しかった。怖かった。痛かった。
体が宙に舞った。一瞬、母さんのいる所に近づいたような気がした。
しかし一方で、ずっとポケットに入っていた母さんの形見が、別方向に飛ばされた。
母さんはここにいる。そう信じたくてずっと持っていた、母さんの形見。
それも遠くに飛んでいってしまって、本当に「僕」は一人になってしまったんだ。
もう駄目だと思った。
意識も視界も薄れて、深い闇に沈んでいく。
その時、ふと温かい声がしたような、気がする。
シュウヤ? いや、シュウヤはそんな罵声を放ったりしない。
言葉遣いこそ乱暴なものの、どこか優しく、温もりのある声だ。
そういえば、あの時、あの母さんの隣には誰かがいたっけ……
あの暗闇に光を射し込んで、本当の意味で部屋から救ってくれた「子」が……