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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第30話

ペロは、ひたすら僕の名前を叫ぶ。それを、後ろで彼女が不思議そうな目で見つめていた。


「ツバサ……?」

「ツバサ、しっかりするアン! 駄目アン……こんな所で……っ!」


ペロは、自分が言おうとした言葉に思わず悲鳴をあげた。

信じられないと言わんばかりに、自分の頭をポコポコ叩き、その痛みからひたすら泣きじゃくる。

すると、少女はペロの背中をそっとさすり、片言ながらも問いかけた。


「ツバサ、シナナイ?」

「……!」


一番訊かれたくない質問をされた。

ペロは虚言を吐く余裕も無く、ただ自身のおかれた状況を伝えるしか出来なかった。

だが、それを言う事も、彼女にはとても勇気の要る事だった。


「分からない……アン」

「!」


すると、辛うじて彼女の頭に巻かれていたリボンの端が伸びて、再び例の白い蛇が現れた。

蛇は、ゆっくりと僕に近づくと、先程蛇に噛まれた箇所をじっと見つめる。

そして、少し距離を置いたかと思うと、


「っ!」


再び僕の腕に噛みついた。これにペロは動揺し、すぐさま蛇を引きはがそうと耳を広げる。


「やめるアン! 早く離れて!」

「ダメ!」


少女がパチンと、ペロの耳をはたいた。

そして泣きじゃくるペロを再び抱きしめて、僕の腕を噛み続ける蛇を指さす。


「コロサナイ。ツバサ、シナナイ」

「え……」

「ダイジョウブ。コロサナイ、コワクナイ。だからこの蛇、怖くない」

「本当アン……?」

「うん。私、嘘吐かないよ」


気づくと髪色は、深緑から元の金髪に戻り(とは言っても、毛先はやはり緑色のままだが)、真っ赤だった目も元の優しい翡翠色に戻っていた。

言葉使いも落ち着きを取り戻したようで、少女「ミリナリア」は、先程僕達が見せた笑顔を真似て、ペロの頭を優しく撫でた。




暫くすると、蛇は僕の腕から離れて、元のリボンへと姿を戻した。

それから少し時間が経つと、だんだん僕は呼吸が楽になり、痺れや痛みも消えていった。

僕らは、家主はもう帰って来ないと彼女が言う住居に戻って、また少し休んだ。


「全て、始まりは蛇だったの」

「?」


まだ小雨が降り続ける中、ミリナリアはふと自らの過去について話し始めた。

僕とペロは、濡れた体を温めるよう、互いを寄せ合って彼女の話に耳を傾ける。

元々この集落は、年ごとに移動する遊牧民の一つだった。

そして、彼女はその中で行われる祭りの巫女として日々舞を行っていたらしい。

ある日、彼女は一匹の蛇に出会う。その蛇は、目が合ったかと思うと、彼女の髪に噛みついてきた。

幸い命に別条は無かったが、翌日、彼女の髪は見るに堪えない色と化した。


「それが……毛先の色?」

「うん。あれから何度も染めてるけど、すぐ先はこの色に戻るの。魔法みたいよね」


それを見て民は「蛇の呪い」だと言って、彼女から避けるようになった。

親からも、友人からも、巫女として祭ってくれた人々からも見捨てられ、彼女は一人孤立してしまう。


「だから……許せなかった」


その怒りに、蛇は応えた。彼女が祭りの衣装として身につけていた布は、たちまち凶器へと変化し、彼女はその力を利用して、この地に居た全ての者に残虐な行為を犯した。

それからずっと集落周辺を徘徊しては、生き物を見つける度それを殺し、彼女の心は完全に非人道に走っていたようだ。


「それで、今に至るんだアンね……」

「私……蛇に言われたの。殺さなきゃ死ぬ、死ぬのは怖い事だって……でも」

「もう怖くない?」

「うん」


すっかり改心した様子の彼女に、僕はホッと一息吐く。

だが、今までしてきた事が間違いだと分かったミリナリアは、これからどうしていけば良いのか分からないと不安がっていた。

死んでしまった人を助ける事は出来ない。

生きている間、ずっと背負わなくてはならない罪がある。しかもそれは、償いようの無い罪だ。

しかし、僕には僅かながらも彼女に希望があるのではないかと考えた。

それは、今こうして生きている僕自身から得た希望だ。


「その蛇……人を助けられるんだよね?」

「えっ……うん」


どうやらその蛇は、種類問わずどんな毒でも解毒する力があるようだ。

今までは命を奪う事しか眼中に無かったため眠りについていたが、僕を助けたいという一心が働いたと同時に、目覚めたらしい。それを聞いて、ペロも声をあげる。


「そうだアン! 君は人を助ける方法を持ってるアン。失った命を取り戻す事は出来ないけれど、代わりに少しでも多くの人達を生かすために、その蛇を使うアン!」

「人を……助けるの?」

「そう、僕の時みたいにね」


僕は笑顔を見せた。だんだん体が軽くなって、自然と笑みも浮かべやすくなった。

もしかしたら、彼女に出会う前より元気になったかもしれない。

さらに、ふと耳元に触れるとガーゼが取れていた。

耳の傷は、すっかりかさぶたになっており、一部はすでにはがれている。この治りの早さも、あの蛇のおかげかもしれない。

ミリナリアは、涙で目を潤わせながらも笑顔で返した。

そして、早速誰かを助けに行くと言って、住居を飛び出し去っていった。

ペロとクスクス笑いながら部屋を出ると、雨はすっかりあがって綺麗な朝日が見えた。

まるでこれから新しい道を歩もうとする僕達を、温かく迎えてくれそうな、眩しくてかつ優しい日差しだ。


「僕達も行こうか」

「そうだアンね!」


この集落の出ると、風向きの加減で微かに潮の香りがする。

きっと、この先は港街だ。


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