BlueBird 第3話
駅名が書かれた看板の前をいくつか通り過ぎ、赤色ランプは点滅していないのに、遮断機がおろされている踏切も抜けて……ようやく目的の駅に着いた。
相変わらず人の姿は無い。
学校で避難しているかと思いながら向かったものの、人の代わりに、不気味な程の静寂と、崩れて雨に打たれた黒い外壁が、僕を迎え出てくれた。
もはや僕の知っている場所ではなかった。思わず、後ずさりしてしまう。
しかし、また途端に目が熱くなって、最初に見た時と同じ、シュウヤが長い後ろ髪を風でなびかせながら、ずっとあの屋上で立っている姿が映し出された。
もう、これを信じるしかない。
「シュウヤ……今行く!」
映像が消えると、僕は校舎へと走り出した。
長い線路を歩いて、足は棒になる寸前だが、それでも最後の力を振り絞って走った。
学校に着くと、僕は校舎内へ土足のまま入り、階段をひたすらのぼって行く。屋上への扉が見えた時には、残ったエネルギーを全て足に託していた。
そのまま勢いよく扉に体当たりし、暗かった視界が、僅かながらも確かに、明るさを取り戻す。
そして、奥にはシュウヤが、映像と全く同じ様に立っていた。
「シュウヤ!」
声はすっかりかすれていたが、それでも僕は大声で彼の名前を呼んだ。
それに気づいたシュウヤは、酷く驚いた表情で振り返った。
どうして僕がここにいるのか、分からない様子だ。
「気づいたらこんな事になって……僕、シュウヤの事が心配で……」
「来るな」
「えっ……?」
何故かシュウヤは、近づく僕を避けようと片手で払ってくる。僕には、その理由が分からなかった。
それでもシュウヤは、必死に叫ぶ。
「何で来たんだよ!」
シュウヤの言葉の意味が、さっぱり分からない。
どうして来てはいけないのか、どうして彼は、僕を恐れるかの如く後ずさるのか。
僕から距離を取るうちに、彼は壊れたフェンスの前にまで来た。
「シュウヤ……?」
「ツバサ……お前は……」
するとシュウヤは、何かを覚悟したかのように少し身を低くすると
「来ちゃいけない……!」
さらに後ずさり、フェンスの穴を抜けて、体重を後ろにかけた。
既に僕は、彼が何をするのか知っていた。
そのまま手を伸ばし、
(やめて)
もつれそうになるくらい足を動かして、
(お願いだから)
精一杯、引き千切れそうになるくらい腕を前に突き出す。
彼に、この手が届くように。
(行かないで……!)
しかしその思いは届かず、ただ指先が僅か触れただけで、僕の目には、バランスを失った彼が目に見えない「闇」へと吸い込まれていく瞬間だけが映し出された。
僕は、彼の名前を叫んだ。
しかし、その声もまた、未だ降り続く黒い雨と校舎を丸ごと呑み込んだ「闇」によって掻き消された。
その後、人の声が聞こえる事は無かった。