BlueBird 第24話
「ツバサ、やめるアン! どうして戦わなくちゃいけないんだアン!」
ペロの声も虚しく、僕とフェイは互いに刃を振るった。
黄緑色の光と刃がぶつかると、激しい火花を散らし、甲高い金属音が周囲に響き渡る。
両者共に一歩も引く気は無い。
だが、戦況はフェイの方がやや優勢で、持っていたサバイバルナイフを巧みに使って、僕の攻撃を華麗にあしらっていく。
自らだけで強くなった、他人に頼るなと言うだけの実力はある。本当に強い。
だが僕は、彼と違い心による力がある。
僕を助け、救ってくれた人を否定された怒り、彼には決して分からないだろう。
どんなに打ち負けても、押し返されても、僕は自然と力がみなぎり、何度も立ち上がれた。
(絶対に……負けるものか!)
僕は一旦彼から離れると、剣を回転させて、水色の光を放つ。
フェイは、全くひるむ様子が無い。
むしろ、僕が魔法を繰り出す隙に、トドメを刺そうと刃を向けてきた。
そこで、僕の未来予知が発動した。そして、次の瞬間
「!?」
再び耳を塞ぎたくなる高音が響いたかと思うと、彼の右腕が白い結晶を帯びて、凍りついていた。
フェイは、動かなくなった腕にそっと触れるが、どうやら感覚を失ったらしい。
「へえ……面白い事してくれるじゃん」
チャンスだと思い、僕はフェイに向かって勢いよく剣を振り下ろす。
が、それを何と彼は、凍りついた方の腕で防いだ。
「なっ……」
「バーカ、こんなの散々受けてきてんだよ。なめるな!」
動揺した僕に、彼は拳を振るってきた。
強い衝撃で思わず手から剣が離れてしまい、僕はそのまま吹っ飛ばされて地面に不時着する。
全身に鈍い痛みが走り、体の内にあった空気が一気に吐き出された。
「かはっ……!」
「ツバサ!」
決着が着いたと確信し、ペロはすかさず僕を庇うようにして、フェイの前に立ちはだかる。
彼もこれ以上戦う必要は無いと見て、剣を腰ベルトにしまった。傷一つ無く、余裕な表情だ。
「やはり、お前は弱い」
「……」
僕はゆっくりと体を起こし、まだ僅かに目を光らせたまま彼を睨みつける。
見下すようにして睨み返すフェイ。
しかし、その足元には小さな光る点が彼の体に沿って、ゆっくりと上っていた。
僕の視界が一瞬揺らいだかと思うと、思わず僕は彼に飛びかかった。
「フェイ!」
「!」
ここで、バン!という銃声が鳴り響いた。
フェイの体が倒れる。
だが、それは狙撃者の弾丸が彼の体を通ったからではなく、僕がフェイを押し倒していたからだった。
遅れてターンという銃声の残音と、二つの体が地面にぶつかる音が響き渡った。
「……お前!」
「うぅ……」
耳がやけに熱い。思わず手を当てると、その手が赤く染まった。
フェイは僕から離れるようもがこうとするが、それでも僕はフェイを庇ったまま動こうとしなかった。
体が痛くて、動けないのもあるが、動きたくないのもあった。
また怪我をするかもしれないから。
「馬鹿! 俺は不老不死だって言っただろうが! 撃たれたくらいじゃ死なないし、怪我の内にも入らない! なのに何で……」
「嫌……だから」
「は?」
人の足音が聞こえてくる。どうやら大勢の人が、こちらに走って来ているようだ。
このまま押さえていたら、彼は捕まってしまうだろう。
それはセグルや他の人達が望む事で、きっと彼のためにもなる。
だが、今の僕には押さえる力なんて残っていないし、正直そんな気分でも無かった。
僕はゆっくり彼から体をずらすと、意識が朦朧としてその場に寝転がった。
ペロが心配して寄り添ってくれているが、何故か彼女の温もりが感じられず、怖くて寒くて体の震えが止まらない。いつの間にか涙まで出ていた。
「本当……情けないね」
自分の弱さを露わにされた後でこんな様を見られては、フェイに返す言葉なんて無い。
すると、突然僕の体が宙に浮いた。
ペロが何かを訴えているが、上手く聞き取れない。
耳を怪我したせいで、音が途切れ途切れになっている。
しかしそんな中、唯一彼の言葉だけは、鮮明に聞こえてきた。
「この大馬鹿野郎」
それを最後に、僕は意識を失った。