BlueBird 第23話
「どういう事アン……?」
混乱するペロだが、僕は何となく頭の中で整理がついていた。
なるほど、これで全てのつじつまが合う。
隅に小さく書かれていた撮影日時が、今から遥か昔だというのに、あの写真と現在の彼が合致した事。
兵士が彼に対し、「捕獲」という異様な表現を使った事。
そして、自らを撃ったにも関わらず、彼がこうして立っている事。
フェイは、また鼻で笑った。
「さっきより余裕が無いな。やっぱりお前は、とんだ偽善者という事だ。俺が例え『不老不死』だとしても表情を変えなかったら、少しは考えてやった。だが無駄だったな。所詮人間なんて、そんなものだ」
「違う! 僕は……」
「偽善者の言葉なんざ、聞きたくねえんだよ!」
再び銃口が僕に向けられる。僕達の間には、巨大な溝が出来上がっていた。
「俺とお前は違う」
彼の目は、僕が未来予知をした時と同じように、ほんのり赤く光っている。
怒りに満ち、全てを許さんと言わんばかりの目つきだ。
「恐らくお前は、俺と似たような経験をして、助けられた。だから、その人に倣って俺を助けようとしてるんだろ? だがな、俺はそもそも、そういう手をさしのばそうとしてくる人間が一番嫌いで許せねえんだよ!」
「!?」
「俺は……自分の手で強くなりたいんだ。そういう境遇をしたのなら、それ以上の不幸な目に遭っても、簡単に乗り越えられるくらい強く、な。だから、そういうお節介や気遣いはむしろ邪魔だ。そんなのに頼っていたら、いつまで経っても強くなれない」
「そんな事……」
ない、と言いたいが、何故か僕の口から、その言葉は出てこなかった。
僕はただ俯いて、彼の言葉を耳にするだけだ。
すると、フェイは溜息をこぼし、ようやくこちらに近づいてきたかと思うと、僕の顎を上げて、無理矢理目を合わせてきた。
暗闇でほんのり光る緑色の目に、赤い光が入り込む。
「だからお前は弱いんじゃないのか?」
「えっ……」
まるで、僕の強くなりたいという意思を見透かしているかのように、フェイは不敵な笑みを浮かべながら話し始めた。
「お前は、助けてもらえる場所を求めて他人と付き合ってる。お前自身は、逃げてばっかなんだよ。だから一人が怖い。孤独になるのが怖い。それで、そんな小さい犬ですら自分の心の拠り所にして、ひっついてるんだろ? 何のためにここに来たかは知らないが、仮に強くなるためだとしたら、今お前がしている事は、全部無駄な行為だ。他人と関わり、支え合ったりする事が、むしろお前を弱くしているんだからな」
「そんな……」
だが反論の由が無い。
僕は何か言い返さなければと思考を巡らすが、何故かこの場に及んで頭がちっとも回らない。
ただ戸惑い、項垂れ、弱々しい声をあげる事しか、僕にはできなかった。
ここでフェイは、僕から手を離し、銃をしまってこの場を去ろうとする。
止めなくてはと思うのに体が言う事をきかず、僕はただ無様に立っている事しか出来なかった。
彼はそんな僕を見て、さらに追い詰めようと鼻で嘲笑いながら言葉を残した。
「お前を助けた奴は、とんだありがた迷惑な事をしてくれたものだな。俺ならそんな人間、すぐさまこの手で殺してやるぜ」
「!」
僕の中で、何かが弾けた。
「……を」
「あ?」
「……を……ヤを……!」
体が硬直して、呂律が回らない。しかし、僕にとってそんな事はどうでもよかった。
気づくと僕の手には剣が握られていた。
しかもその剣先には、ギラリと銀色に輝く大きな刃がついている。
今までそんなものは……誰かを傷つけるようなものは、ついていなかったのに。
「ツバサ……?」
ペロの声が聞こえる。
だが、正確には聞こえるというより、耳を通過しただけに近い。特に意味までは感じていなかった。
フェイは振り返って僕の方を見ると、その様子に思わず高笑いする。
そして、銃とは別に持っていた剣を取り出し、舌なめずりをする。
僕は緊張で視界が歪むものの、フェイが放つ赤い眼光だけは、一瞬たりとも見逃さなかった。
そして、僅かな思考で作った言葉を、怒りのまま彼にぶつける。
僕の目は、彼に負けじと眩い緑色の光を放っていた。
「許さない……お前だけは許さない……フェイ=クライシス!」
「上等だ。どちらの人間が強いか、試してやろうじゃないか、偽善者ツバサ!」
お前に分かるはずがない。そう両者は心の中で訴えていた。