BlueBird 第21話
「えっと……それで、話というのは……?」
「頼みがある。これは君だけでなく、他の人にも依頼している事だ」
そう言うと、兵士は懐のポケットから、古い写真が貼られた紙を取り出す。
その写真には、不機嫌そうな仏頂面を浮かべた一人の少年が写っていた。
「我々は長年、この少年の捜索に取り組んでいる。度々目撃情報が出たり、盗難被害などを受けるが未だ捕獲に至っていない。すまないが、君も力を貸して欲しい」
「人探しは協力するけど……捕獲って」
妙に物騒なワードが浮上したので、僕は少し気にかかる。ペロも眉間にしわを寄せていた。
兵士はそんな僕らを見て、さらに説明を加えた。
「彼は、ずっと街でネズミのような生活をしているんだ。だから我々は、この少年を保護し、安全に生活してほしいのだよ……すまないが、協力してくれ。報酬もある」
「はい……」
別に報酬はいらないが、僕は首をゆっくり動かし、承諾の意を示す。
やや威圧ある兵士の声に、首を横振りする勇気は無かった。
その後、僕らはシュウヤに関する情報が無いか探ると同時に、写真の少年を捜した。
しかし、歩いてみると分かるが、この街はとても広い。
いくらでも隠れられそうな場所が存在し、正直見つける自信は無かった。
弱音をこぼすと、すかさずペロがぷりぷり怒って、僕を耳ではたいてきた。少し痛い。
「自信喪失してどうするアン!? その子は、あちこちで目撃情報が出ているんだから、シュウヤを見つけるよりもきっと簡単だアンよ!」
「そうだと良いけど……」
彼女に励まされたのは、これで何回目だろう。自分が情けない。
すると、街角のどこかで悲鳴が聞こえてきた。また例の影が現れたのかもしれない。
「行ってみよう!」
僕らは急いで音がする方へと走って行く。
その途中、頭上の屋根で何かが通り過ぎたような気がしたが、それに気を取られる前に、声の発生源と思われる所から
「泥棒!」と叫ぶ声が聞こえてきた。
現場に着くと、人々は僕らの方を指さし、槍や斧を握ってこちらに走ってくる。
ここで即座に、先程通り過ぎたものが、犯人だと分かった。僕らは慌てて引き返した。
「ペロ、屋根上に行って、走っていった人追いかけて!」
「アン!」
ペロは、翼を勢いよく羽ばたかせ、一気に屋根上へと飛んでいく。
ペロが上で追いかけている間に、僕は下から彼を待ち伏せる作戦だ。
すると、目がたちまち眩い光を放ち、僕はいつの間にか未来予知をしていた。
そこは屋根の上。恐らくこれは、犯人の視点だ。物凄いスピードで走る犯人は、屋根の端に着くと、直角に右へと向きを変えて、そのまま地面へと飛び降りる。
そこは、よく見ると十字路に位置していた。
この映像を目にした瞬間、僕はペロに向かって叫んだ。
「右に曲がって!」
「了解アン!」
僕とペロは、犯人が曲がる一つ手前の十字路で、息をぴったり合わせて右折する。
そして、そのまま全速力でお互い走り出した。
すると、ちょうど犯人が、僕の目の前で屋根から降りてきた。
あちこちを走り回っているのか、茶色い毛がぴょんぴょんと跳ね、チョーカーについている赤い宝石は、日の光でキラキラと輝いている。
黒い上着の隙間から、盗んだものと思われる果物がいくつも顔を覗かせていた。
「あっ!」
その容姿を見て、僕とペロは同時に声をあげる。
慌てて先程もらった写真を照らし合わせると、そこにいた少年は、捜索を依頼されていた人物と完全に一致した。
「君……『フェイ=クライシス』!?」
「……チッ」
すると、フェイと思われる少年は、壁を駆けのぼって、再び屋根の上へ飛び移り、そのまま僕らの視界から姿を消す。
「ああっ、待ってよ!」
人間離れした運動神経に一時立ちつくしていたが、僕らは慌ててその後を追いかけた。
再び未来予知をして、彼の行方を追う。
その場所は、コンクリートの壁に囲まれた人気の少ない路地裏。
街頭の電球が切れかけており、時々暗くなっては明るくなってを繰り返す。