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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第18話 ~エミレス王国~

(入国して早々に疲れきってるんだけど……)

「やっほーい! 人がたくさんいて面白そうだアン!」


散々飛ばされていたにもかかわらず、人混みでにぎわう街の様子に、ペロは大興奮であった。

白いペンキが塗られた壁に、所々ブルーのガラス石が埋め込まれており、日に当たる度キラキラと反射して光っている。

地面は石畳になっており、整備が行き渡っているような雰囲気があった。

街灯も黒いアイアンで蔓の形に装飾されていて、一歩歩くごとに一つあると言っても過言でない程の数が設置されている。

人々も裕福なのか、帽子やアクセサリーを多く見につけている人が多く見られる。

中にはドレスを着ている人もいた。少し前のヨーロッパに来た気分だ。

こうして見ると、僕はみすぼらしくて逆に目立った。


「早く行こうアン!」

「う、うん」


はしゃぐペロに引かれて、僕は華ある人々の中を抜けていく。

しかし、この時間帯は人混みが激しいのか、抜けても抜けても人が現れるばかりで少し息苦しい。


進んでいる間に気づいたが、どうやらここは商店街のようだ。

お祭りの時にある屋台のような建物が両側に建ち並び、時々施設の中にお店がある所もあったが、そこは宝石店や高級服が並ぶ店など、僕には到底行ける空気ではない。


「おお! そこにいる可愛いワンちゃん! ちょっと見ていかないかい?」

「犬じゃないアン! けど、可愛い……アン?」


突然声をかけられ、ペロと僕はとある屋台のアクセサリーショップに立ち寄る。

お店の人も物凄い数のアクセサリーを付けていて、その人自身が太陽の光で輝いて眩しかった。


「愛くるしい天使ちゃん、あなたにお似合いのアクセサリーを一つ、どうですか?」

「え……」


そんな事言われても、お金なんて持っていないし……と思ったその時


(あれ……?)


気づくとポケットの中に、何か重みのあるものが入っていた。

歩きづらかったのは、人混みのせいだけでなく、これもあったからかもしれない。

取り出してみると、紐が今にも切れてしまいそうなくらい、何かがぎっしり詰まった青い袋が入っていた。隙間から太陽の光を反射してキラリと何かが輝く。

これを見ると店主は目を丸くし、目元についていたアクセサリーが取れて、文字通り「目から鱗」が落ちた。


「まさか……陛下にお付きの者でしたとは……これはとんだご無礼を! では、こちらのような物はどうでしょうか!?」

「えっ……!?」


店主が取り出してきたのは、どこかのカーニバルにでも使われてそうな色鮮やかな羽がいくつも付いた大きな冠だった。これには流石のペロもキャンセルする。

しかし、一体いつから入っていたのだろう。

心当たりがあるとしたら、入国審査の時以外あり得ない……しかし何故、僕にこんなものが……?


「ねえ、ツバサ」

「えっ!? 何、どうしたの?」


慌てふためく僕に、ペロは首を傾げるものの、自分の欲求には敵わなかったらしく、改めて目をキラキラと輝かせながら僕に尋ねてきた。

目に宝石を埋め込んだかのような、エメラルド色の瞳に、僕は思わず息を飲む。


「……これ、欲しいアン」


そして、彼女の手にはブルーの蝶の首飾りが握られていた。

この街にあったブルーのガラス石とよく似ていて、内側にはそれとは対照的な赤い石がはめ込まれている。


「確かに綺麗だけど……でも……」

「流石でございますお嬢様、お目が高い! ありがとうございます、ご主人!」

「ごっ……!?」


僕は店主の押しに負けて、うっかり袋の中に入っている金貨を一枚渡してしまった。




店を後にして、僕は酷く後悔する。

とても気まずい。嫌な汗が出てくる。周囲からの視線が怖い。

一方のペロは、初めてのアクセサリーにすっかりご機嫌だった。


「本当にありがとう! 大事にするアン!」

「う、うん……」


凛とした態度が出来ない僕は、本当に情けないと身に染みて感じた。


すると、隣から何やら騒ぎ声が聞こえてきた。

よく見ると細い道の先に、大きな人だかりが見える。


「行ってみようアン!」

「ええ……」


正直悪事を働かせた後に人が多い所へ行くのは気が引けて仕方がないのだが、押しに弱い僕は渋々ペロに連れて行かれ、人混みの方へと身を投げ出す。

細い路地を抜けると、そこではパレードが行われていた。

頭上から、大量に金色の紙吹雪が舞い散り、僕やペロをはじめその場にいる観客の頭は、黄金色に光っている。

象をイメージした乗り物や、「シンデレラ」に出てくるカボチャの馬車など、様々な装飾が施されたものが僕らの前を通りかかる。

こんな昼間にも関わらず、イルミネーションも施されており、パレードの盛大さをより引き立たせていた。

乗り物の他に、マーチング部隊が盛大な音楽を奏でており、そこに人々の歓声も入り混じる。

僕は、あまりの大音量に眩暈がしそうだ。


「わあああっ! 凄いアンよ!」


ペロが人々の声に負けじと、いつも以上に甲高い声で僕の耳元で叫んでくる。

今にも鼓膜が破けそうで、耳が痛い。


「でも、何のパレードだアン?」

「あら、知らないの? 今日はエミレス陛下の誕生日でしてよ。陛下の誕生祭といえば、この世界一のパレード団体をお呼びする事に決まってるの!」


突然、隣にいたお姉さんが説明してくれた。

スイカ程の大きさはある胸が視界に飛び込んできて、僕は思わず視線を逸らす。


「今年はいつにも増して素晴らしいわね! 愛しているわよ~エミレス陛下!」

(そんな恥ずかしい事を、さらりと大声で……!?)


しかし耳を澄ましてみると、皆が同じような事を発言している事に気づいた。

僕はだんだん堪えられなくなって、この場を去ろうとする。



が、ここでパレードに問題が起きた。



「キャッ、何あれ!?」

「見て! さっきまで無かった黒雲が……」


人々が指さす方を見てみると、空には紙吹雪と一緒に巨大な黒雲があった。

そして、あっと人々が口を開けているうちに、その雲から大量に影の獣達が降ってきたのだ。


「何っ!?」

「また奴らが来たぞ!」

「逃げろ!」


辺りは一時騒然。

影に気付いた人々は一目散に逃げ出し、パレードの音楽も乱れた。


「ツバサ!」

「あの数が降りてきたら大変だ。何とか空中で止めないと!」


僕はすぐさま剣を呼び出し、風をイメージしながら勢いよく振り上げる。

すると、県全体が薄緑の光を放ち、剣先から竜巻が放たれた。

竜巻は真っ直ぐ黒雲の方へと向かっていき、途中にいた獣達を一気に渦の中へと巻き込んでいく。


「やるアンね! けど、ペロだって黙ってないアンよ!」

「え?」


すると、ペロは勢いよく上空へと羽ばたき、空中の獣に向かって翼のような耳を大きく振り当てる。

この時、彼女の耳は黄緑色に輝き、羽ばたく度に美しい光の弧が描かれた。

どうやら彼女も今までの戦いから学び、耳を使った攻撃を覚えたようだ。


「凄い……」

「えっへん!」


だが、空中のみで相手を片づける事は数的に不可能なようだ。

獣は次々地面に着地すると、攻撃を仕掛けた僕の方に襲い掛かってくる。


「来るアンよ!」

「分かってる!」


僕は剣を構え、いち早く着地した水牛やカメレオンのような影に攻撃を仕掛ける。

まずは剣先を地面に押さえつけて接近し、その時起こる火花で、襲いかかってきた獣を牽制する。

そして、目の前に立ちはだかるカメレオンを、摩擦熱によりオレンジ色に光った剣で薙ぎ払った。

すると、剣から熱風が吹き荒れ、周囲の影を一網打尽にする。


(よしっ……!)


だが、水牛のような影には、風の力があまり効いていなかったらしい。

一通りの攻撃を終えて油断している隙に、水牛は大きな角を僕に向けて突進してくる。


「危ない!」


すると、遠くから光弾が襲ってきた。

光は影に命中すると軌道を変えて、そのまま街頭に激突する。

僕は、ペロのおかげで何とかピンチから切り抜けられた。


「ありがとう!」

「まだまだこれからだアン!」


何だか絶好調なペロに、僕は戦いの中ふと笑みを浮かべる。



彼女との共闘を繰り返し、少しずつ影の数を減らしていくが、なかなか思うようにいかない。

多くの影と戦いをするにつれ、そろそろ体力に限界を感じてきた。

でも、ここで退く訳にはいかない。


(街の人達を守らなきゃ!)


闇や影によって何も失わせない。そう僕は心の中で強く決意した。

襲ってきた水牛を未来予知でかわし、自分がしているとは思えない巧みな手さばきで反撃をする事で、何とか水牛の方は片づいた。

ところが僕が振り向こうとしたその時、肩に強い痛みが走る。

上空から新たな影が、援軍に駆けつけてきたのだ。

影はカラスのような声で鳴きながら、一斉に僕の元へと降り立ち鋭い爪で引っ掻いてくる。

僕は痛みの余り、剣をこぼれ落としてしまった。


「ツバサ!」

「くそ……っ!」


真っ黒いものによって視界が覆われ、半ば諦めかけたその時だった。




「全く、人騒がせな奴だ」

「え……?」


突然視界が白に染まり、それと同時に、全身に凍えるような寒さが襲いかかってくる。

光が弱まったかと思うと、目の前の影達が、僕に刃を向けた体勢で氷漬けにされていた。


(何これ……!?)

「フッ」


誰かが鼻で笑い、指を鳴らす音がしたかと思うと、一瞬にしてバリンッ!という音が鳴り響く。

影はあっという間に塵と化して消えていった。


「凄い……!」


あんなに悪戦苦闘していた相手を一瞬で……思わず振り返ると、そこには何故か僕が知っている人物と、彼に従う兵隊が立っていた。


「全く……お前はいつも問題を運んでくるよな、ツバサ」

「せ……ぐる?」


学校でいつも仲良くしてくれる四人組の一人「セグル」が、そこにはいた。


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