BlueBird 第17話
「この道を抜けたら、コンクリートの壁が見えてくるわ。その付近で門を通してくれる優しい兵隊さんが立っているから、その人達に『旅の者です』って言って目的を伝えるの。きっと力になってくれるわよ」
「ありがとうございます」
「じゃ、私はこの辺で曲がっちゃうから、またいつか会いましょう!」
いつでも待ってるからと言い残し、ここでセンセーは僕らに別れを告げ、深い森の中へと消えて行った。僕達は、センセーや他の人達に感謝の気持ちでいっぱいになる。
「シュウヤを見つけたら、絶対来ようアン!」
「うん」
センセーと別れ、暫く進んでいると、だんだん木の数が減ってきて道が開けてくる。
そして、目の前には久しぶりに見る人工物が僕らの歩みを止めるかの如く建ち並ぶ。
壁の向こうに、所々建物の屋根が見える。どうやら新しい街があるようだ。
僕はペロを肩に乗せると、壁に向かって走りだす。
壁に近づくと、センセーが言っていた通り、近くに門番と思われる兵士が立っていた。
兵士は僕らに気づくと、陽気な表情で話しかけてくる。
「この辺からとは珍しいな~、どこの人間だ?」
「僕達、旅をしてて……大切な人を探してるんだ」
「よければ通してくれないかアン?」
喋る犬に兵士は驚いたようだが、訓練されているのか動揺はせず、そういう者もいると柔軟に対応した。
すると兵士は、何やら電子器具を取り出して誰かと連絡を取り、
「いいぞ、許可する。ついてきな」
と言って僕の手を掴み、壁の内側と繋がる門まで案内する。
「名前は?」
「ツバサです。あと、隣にいるのはペロ」
「こいつ、言葉が分かるんだな~。変わった犬だ」
「犬じゃないアン!」
ペロはぷりぷり怒ってそっぽを向く。兵士は不思議そうにこちらを見るが、正直本当に彼女が何者なのか分からない。
門に着くとそこには別の兵士達が立っており、僕らはそこで質問に答えたり、持ち物を確認されるといった、いわゆる入国審査を受けた。
様々な審査を受けた結果、最終的に僕らに課せられたのは「全身消毒」だった。
「はい……?」「アン?」
「隣の洗浄室に行って下さい。一応外部から来た者という事で……お願いします」
言われるがままその部屋へと入ると、奥へと繋がる扉のみの真っ白な世界が広がっていた。
壁際によく見るとたくさんの穴があるのだが、ひょっとするとここから……
ブシャアアアアッ!
(ですよね!)
「うわあああっ! 熱い! 熱いアンよ~!」
(熱湯消毒!?)
全身に降り注ぐ大量のお湯。それが四方八方から襲いかかってくるので、僕は口や鼻に熱お湯が入ってくるのを避けながら、服ごと全身ずぶ濡れになった。
(すごいな……)
「次の部屋で乾燥致します」
「嫌な予感しか無いアン……!」
奥へと扉を開けた瞬間、今度は大きな扇風機が何台もお出迎えしてくれた。
ここまで来たら、ペロの勘が当たったも同然。きっとここから……
ブオオオオッ!
(ですよね!)
「うわあああっ! 飛ばされるアン~!」
「ペロ!?」
四方から吹きつける温かい風に、ペロは流されるがまま部屋中をビュンビュン音を立てて飛んで行く。僕も体が浮き上がらないよう、踏ん張るので必死だ。
「五分経過」の合図が出されると、ようやく風がおさまる。
部屋を出た時には、僕らはすっかりカラカラに乾いていた。
「お疲れ様でした。どうぞ、ご入国下さい。ようこそ『エミレス王国』へ」