BlueBird 第16話
目を覚ますと、先日泊まった部屋の寝床だった。
「あ、起きたアン。よかったよかった」
「おは……よう?」
どうやらあれから、わざわざ村にもう一泊してしまったらしい。
まさか二日もお世話になるとは思わず、僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
しかし、僕が起きたという話を聞いて飛んできたセンセーは、ニナがシャガに心を開いた事や、村が抱えていた恐怖心が消え去ったお礼には、とても足りないと庇ってくれた。
あの日、彼女は銃を置いて村に帰ったらしく、ハンターの仕事も降りると決めたそうだ。
決断力の早さに、僕やペロはただただ感心させられた。
「それで……行くんでしょ? 森の外に」
「はい……二度手間になってしまって、本当すみません……」
「なぁに気にしないでよ! あの道は、ほぼ毎日通ってるところなんだから」
あんな獣道を毎日通っていたら、当然森の中を簡単に攻略出来る訳だ。
彼女達には、いつも驚かされてばかりだ。
村人達にお礼を言って、僕らはキビタキ村を後にするが、森の奥へと案内される途中、突如背後からいつもと違う呼び方で名前を呼ばれる。
「Wing!(ツバサ!)」
「ニナだアン!」
初めて彼女の私服を見る。
彼女の持つ真っ青な髪が、黒のステッチが施された純白のワンピースによく似合っている。
そして首には、僕が身に付けているペンダントとよく似た、羽根付きの首飾りがぶら下がっていた。
「Don't stare me.(ジロジロ見ないで)」
「ごめんなさい……」
「ウイング、またここへきますか?」
「大事な仲間を見つけたら、また来るアン」
「なかま?」
首を傾げるニナに、僕は「Frends」とだけ言うと、すぐさま理解してくれた。
そして、自分の胸に手を当てて、その言葉を復唱する。
「Nina,Syaga is your friend,right?(ニナ、シャガも君の仲間だよ)」
僕の言葉に、ニナは少し照れくさそうにして頷いた。どうやら、シャガへの恨みはすっかり消えたようだ。これに僕も安心した。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「ウイング、またきますか?」
「大丈夫よニナ、また来てくれるって言ってくれてるでしょ?」
それでもどこか寂しそうな彼女に、僕とペロは顔を見合わせる。
あんなニナは初めてだ。
「I miss you……」
突然手を掴まれ、ニナは他に言いたい事が無いか必死に考える。
しかし、今この時点では、思いつかないようで、ただただ焦りと戸惑いで顔が曇ってしまった。
こうして別れを惜しまれるのは、とても嬉しい事だ。
しかし反面、より別れ難い感情を抱いてしまう恐怖もある。
それに、目的がある以上、僕はなるべく早くこの場を去るべきだった。
「僕が戻ってきた時、たくさん聞かせてよ。シャガの事とか、村の事とかさ」
「ウイングいつくる、わからない。だから……」
すると、突然髪の青さを際立たせるように、彼女の顔が真っ赤になった。
「I seem to fall in love.(私、恋しちゃったみたいなの)」
「ええっ!?」「アゥ!?」
突然の告白に、一同は驚きを隠せなかった。
思わぬ事態に、ペロは思わず僕の背後へと隠れ、真っ赤になった顔を必死に隠す。
顔を隠したいのは僕の方だ。
センセーもこれには唖然と口を開けたまま、声をあげずにいた。
もし他の人も聞いていたら、これは村中で大騒ぎする事態だ。
しかし暫く経つと、ニナはクスリとほほ笑み、終いには吹き出して高らかな笑い声をあげた。
「Just kidding!(冗談よ!)」
「ちょっと……ニナ~!」
「びっくりしたじゃないかアン!」
本当に最後まで驚かされてばかりだ。完全に流れを持っていかれた。
こうして彼女と別れを告げ、僕らは途中までセンセーと彼女の事で笑い合いながら、森の中を暫く歩いた。
本当に、女の子はよく分からないものだ。