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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第14話

早朝。

森は昨夜の暗闇とは一変して、真っ白な霧に包まれる。

樹上にある住居からは、その霧が雲海となって、まるで天空に住んでいるような光景が見られた。

ここは様々な顔を持つ、素敵な場所だと僕は思った。

ただ、まだ少し日が昇るのに時間があるらしく、森の中はしんと静まり返っている。


僕は夜中、ずっと浅い眠りから目が覚めてを繰り返し、あまり眠れていなかった。

だが、ここで再び眠ってしまうと、今度はペロに叩き起こされそうな気がしたので、このまま眠気覚ましに、川へ顔を洗いに行こうと思う。

雲海に呑み込まれるようにして、樹に取り付けられたはしごを下りると、昨日行った道を辿って、彼女と話をした場所へ向かう。

足元をよく見ると、僕らのものと思われる足跡が残っていたので、簡単に辿り着いた。

これなら帰りも心配なさそうだ。




川先から見えていた木々は、濃い霧によって隠れ見えなくなっていた。

それどころか、こんなに細かったかと思わせるくらい、川の一部もすっかり霧にかき消されている。

下手に進むのは危険だ。

だが、そう自分で思っていたにも関わらず、顔を洗っていると、思わず足を運びそうになる。

向こうの川岸で、霧の中から突如、白虎「シャガ」が現れたのだ。

どうやら向こうは、こちらに気づいていないらしい。

僕は近くの岩陰に隠れ、そっと様子を見る。しかし白い霧とシャガが時々同化して、観察を阻んでくる。そのおかげで向こうもこちらが見えず、安全ではあるのだが。


(参ったな……)


下手に動けないし、動きたくない。

出来ればあの獣が、何故村を襲ってまでして獲物を狙うのか、どうして人間を襲ったのか気になって仕方が無かった。

すると、シャガの顔が霧で隠れたと思うと足元の霧が晴れ、そこにはシャガと同じく純白な毛を持つ小さな虎が川の水を飲んでいた。


(あっ……!)


どうやらシャガは雌の虎で、母親のようだ。これで大体、食料を求める理由が分かってきた。

僕が考えてる間に、シャガはゆっくりと姿を消し、傍にいた子虎もいつの間にかいなくなっていた。


僕があれから部屋に戻って暫くすると、朝日が森中を黄金色に染め、人々が目覚め始める。

ペロは半分寝ぼけた状態だったが、食事時になるとすっかり目が覚め、僕の分まで横取りする程の食いっぷりを見せた。


「そう言えば、ツバサ君」

「はい?」

「○※△×#※○?」

「?」

「Don’t talk with your mouth full.(口に物を入れたまま話さないで)」


ニナから威圧ある視線がセンセーに飛んでくる。その様子はまるで親子のようだ。

以前と、立場が逆転しているが。

センセーは言われた通り、口に手を当てながら入っていたものを全て飲み、一呼吸置いてから再度尋ねてきた。


「これからどうするの? もし森を抜けたいなら、途中まで案内するわよ」

「助かるアン! ありがとう!」


お安い御用と何故かとても嬉しそうに答えるセンセーは、人の役に立つ事が好きな良い人だ。

センセーのお言葉に甘えて、僕らはもう少し彼女達のお世話になる。




村を後にして、すっかり右も左も草木しか無い森奥へと僕らは入っていた。

慣れない獣道に悪戦苦闘する僕に対し、センセーやニナは慣れた足運びでどんどん奥へと進んでいく。

ペロは、彼女達を見失わないようしながら、僕を励ましてくれる。と言うよりは急かしてくる。


「早く早く! 置いて行かれちゃうアンよ!」

「分かってるよ。でも……」


昨晩はすっかり酔い溺れていたというのに、そんな面影が全く見られないセンセー。

銃を握るとたちまち真剣な眼差しになって先を見るニナ。

砂漠で出会った人達もそうだが、こうした自然の中で暮らす人達は、生きるために自身の持つ力を多いに活用するのだなと、改めて感心した。

普段から運動をろくにしていない僕は、自分の力がどれくらいあるのかすら把握出来ておらず、活用の仕方も分かっていない。

日常生活の差が、ここまで違ってくるとは、正直思いもしなかった……と、少し物思いにふけっていると


「わわっ!」


突然、隣の草むらからニナが飛び出してきた。

どうやらあまりにも僕のペースが遅いので、わざわざ引き返してくれたらしい。


「Are you OK?(大丈夫?)」

「Maybe……(多分……)」


彼女からすると、大して動いていないのに汗だくな僕に、思わず苦笑いする。

ニナは、人を茶化すのが好きな性格らしい。

僕は反論する余地が無いので、ただただ彼女のからかいを受けるしかなかった。

だが、そんな中、彼女がふと


「Sorry.(ごめんなさい)」


そう言った気がした。

彼女を見ようと僕が振り向いた瞬間、視界が一瞬にして真っ暗になった。

僕は、彼女の言葉の意味が分からないまま、意識を失った。


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