BlueBird 第11話
照りつける太陽の光を浴びて、肌がヒリヒリしてきた。
ペロに上着を脱いだらと勧められるが、着ているものが真っ黒のトレーナーなので、むしろ熱を吸収して暑そうと抗議し断る。
向かい風に乗ってくる砂を細目にして見ていると、つい先程別れを告げた村人達を思い出す。
友達と認め、別れを惜しんでくれたゼハ。家族のように温かく接してくれた、優しい人達。
(家族……か)
胸に染みわたる言葉。
僕は、昔からこの言葉が好きだった。
幼い頃、彼が頭を撫でながら、笑顔で伝えてくれた最初の言葉だ。
「お前はもう家族、だろ? だから……俺はお前の兄貴って事だ!」
今、隣にその兄はいない。
虚ろな目をして屋上から飛び降り、闇の穴へと眠るように落ちていった兄。
誰よりも強くて優しい、かけがえのない兄が、今ここにいない。
「ツバサ?」
ペロに声をかけられ、ハッと我に帰る。
彼女は、とても心配そうな表情で僕を見ていた。
「大丈夫だよ」
そう言って彼女の頭を撫でる。それで終わり、のはずだった。
「何がアン?」
「え?」
思わず聞き返してしまう。まさか質問が飛んでくるとは、思いもしなかった。
風のせいで聞き取れ無かったのかと勘違いしたペロは、再び僕に尋ねる。
「だから、何が大丈夫なんだアン?」
「えっと……」
答えが見つからず黙ってしまう僕に、ペロは溜息をついた。
「あのね……ペロは、そこまで馬鹿じゃないアン。大丈夫と言われて大人しく『そうかアン』って返すと思ったら、大間違いアンよ!」
「ごめん……」
「何か思う事があったら、素直に伝えるアン。もし、後ろ向きな事を考えていたら尚更アン。ペロは、ツバサの希望なんだから」
「希望……」
「まだ小さな村に立ち寄っただけアンよ。それでシュウヤが見つかったら、それこそ奇跡アン。まだまだ闇に呑まれた世界はあるし、ここがどこなのかも分かっていない以上、諦めるのは早いアン。一緒に頑張って探すアン!」
僕は、ここでようやく気がついた。
自分があの場所を離れて、まだそんなに時間が経っていない事、世界が広い事、簡単に彼が見つかるような短い旅をしているのではない事……そして何より、僕は一人ではない事。
彼はいないけど、代わりに、隣には僕の希望だと言う彼女がいる。
それが僕にとって何よりも嬉しかった。
一緒に頑張ろうと言ってくれた彼女が、僕にはとても安心出来る存在となっていた。
「ありがとう……」
吹き荒れる風の中、とても小さな声で言ったので、彼女には聞こえなかった。
それから暫く歩いていると、だんだん地面に変化が感じられる。
歩いた時の感触が、少し手応えのある固さに変わり、靴に時々ぶつかる物があった。
「草だ……草が生えているアン!」
気づくと僕らの前には、黄色い砂に紛れて、所々緑の草が生えている。
ペロは思わず飛びはね、特に草の生い茂る場所へと、一直線に飛んで行った。
僕も後を追いかける。
するとさらに、草だけでなく命の源である水も見つけた。
ゼハ達が教えてくれたオアシスにたどり着いたようだ。
「やっほーい!」
ペロは、勢いよくそのオアシスの湖へと飛び込んだ。
溺れないか心配したが、余計な心配だったようで、彼女は湖の中を犬かきしたり、潜ったりして水浴びを楽しんでいた。
空も飛べるし、人語も話す、自由自在な体だ。少し羨ましい。
僕も遅れて湖に着くと、そっと手を水に浸ける。
久しぶりに冷たいものに触れるからか、手から全身へと一気に鳥肌が立った。
少し慣れてから、僕は手や顔についた砂を洗い落す。
「気持ちいい~♪ ツバサも入ったらどうアン?」
「うーん、僕は遠慮しとくよ。かなり冷たいから、早めにあがっておいで」
「つれないアンね……まあ確かにひんやりしてるけど」
そう言いつつ、ペロはまた水浴びを楽しみ始めた。僕は、そんなペロを眺めて木陰で休む。
すると、どこからか奇妙な物音が聞こえた。
どうやらペロは耳に水が入っていて、聞こえなかったらしい。
音源は付近ではないが、そこまで遠くない。
気になって周囲を見渡していると、湖の奥に木々が生い茂る森があった。
草木が揺れる音に近かったので、音源は恐らくその森からだ。
(影かな……あるいは、ここに住む何か……?)
人がいないとは言い切れない。
僕は僅かな希望を胸に秘めながら、彼女があがってくるのを待った。