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Blue Bird ~fly into the future~ 完結版  作者: 心十音(ことね)
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BlueBird 第10話

「ペロ、希望するよ……僕達を地上へ出してくれ!」

「任せるアン! ツバサの希望、絶対叶えるアンよ!」


ペロが声をあげたかと思うと、突然視界が真っ白になる。リヒトも驚きの声をあげた。

気づくと、そこには巨大な翼を広げたペロがいた。

体の大きさに似合わない、とてつもなく大きな翼を耳に生やし、羽根全体が銀白の光に包まれている。


「ペロの手を掴むアン!」


僕とリヒトは彼女の前足を掴み、その身を授ける。

ペロは翼を暗闇の空に向かって高く上げ、光を耳に煌めかせながら、一回羽ばたかせて急上昇した。

こんなにも小さな体が、僕ら二人を連れて、一気に神殿を突き破り、暗闇の空を羽ばたいている。

想像もつかないような力を、彼女は秘めていた。


ペロは砂を耳で払って、僕らにかからないよう配慮しながら、砂の天井をあっという間に突き抜ける。

砂を一気に巻き上げ、僕らは地上へと顔を出す。


「すごい……!」


さっきまで暗闇だった空が、広大な青空へと変わり、僕らは空中で彼女の前足をしっかり掴みながら、砂漠の大地を眺めた。

すると、地上で地響きが起こり、今度はラーソが地上へと現れた。

すぐさまラーソは光を放ち、砂漠地帯全体を黄金色に染める。

遥か遠方まで見えるリヒトは、村を覆っていた不穏な空気が浄化されたと喜びの声をあげた。


「お前らのおかげだ」

「神様のおかげだよ!」


気づくとラーソは体を透明にして、再び神殿へと眠るように消えて行った。

神殿でやる事を終えたペロは、嬉しそうな表情を浮かべているリヒトを見て、


「早速、皆の所へ行くアン?」


と、気の利く提案をしてくれた。勿論リヒトは大きく頷く。


「早く行こう!」

「何でツバサが言うんだよ?」

「え? そりゃだって……」


僕は、少し照れくさそうに笑う。こういう事を伝えるのは、ちょっぴり恥ずかしい。

でも、これは間違いない事だから。僕はリヒトに感謝の気持ちも込めて、笑顔を見せた。


「友達、だからだよ。リヒトが喜ぶ顔、僕も見たいに決まってるじゃん!」

「お前……」

「クスクス、ほら村が見えてきたアン! あっ、人がいっぱいいるアンよ!」


空から飛んでくるものに興味を持った人々が、すぐさま僕らの方へと駆け寄る。

その中に、リヒトがいると分かると


「ゼハじゃないか!」

「本当だ、ゼハだ!」


次々に歓声をあげ、喜びのあまり僕らに手を振った。



ペロが村に降りると、村人の一人はリヒトの元へと飛び込み、彼の体を抱きかかえる。

岩のような大きくて硬い腕が、リヒトの顎に当たってとても痛そうだ。


「無事だったんだな! よく帰ってきたぜ、ゼハ!」

「ゼハ?」


さっきから聞き慣れない呼び方でリヒトを呼んでいる。首を傾げる僕らに、リヒトは溜息をつきながら


「ああ、ゼハは俺の本名。あんまり好きじゃないから、やめてくれって言ってるのにな……」

「何言ってるんだよ。ゼハは、ゼハだろ?」

「折角うちらが付けてあげた名前を嫌がるなんて、親泣かせな奴だね!」

「そうだよ、ゼハ。親につけてもらった名前には、誇り持たなきゃ!」

「何でツバサにまで言われなきゃいけないんだよ!?」


あちこちから飛び交う反論に、リヒトこと「ゼハ」は顔をくしゃくしゃにして、必死に抗議する。

いつの間にか僕達は、外から来た知らない人間にも関わらず、すっかり村人と馴染んでいた。

少し声の大きな、温かい村人達。

闇の力で存在が消されていた事を忘れているかのように、人々は笑顔が絶えず、幸せそうだった。


闇を払った感覚、光を取り戻した感覚は、僕の心を満たす一方で、彼のように苦しむ人がいる事を思い知らされ、少し苦しくもなる。

早く行かないと……きっとシュウヤも……


「ゼハ」

「だから、その呼び方をするなって!」

「ありがとう」

「は?」


僕は彼の言葉にお構いなく、心から礼を言った。僕の顔を見てペロは、そっと肩の上に飛び乗り、頬をスリスリさせてくる。もう彼女の耳はいつものサイズに戻っていた。


「な、何だよ急に……そんな水臭くならなくても」


戸惑うゼハに、先程の男が後から彼の頭をターバン越しにぐりぐりと拳を回し当て、少し怒りっぽい口調で話す。


「別れを惜しんでるのが見て分からないのか? 本当、お前の頭はポンコツだな」


それを聞いてゼハは、突如力が抜ける。男の拳に抵抗していた腕を下ろし、そのまま僕らの方へ歩み寄ってきた。


「もう……行くのか?」

「ごめん、時間が無いんだ」

「人を探しているんだアン。だから早く行かないと……」

「まあ……それは、そうかもしれないけどさ」


少しでもここに居てもらおうと、ゼハは必死に言い訳を探すが、自分も同じ立場だった以上、止めるわけにもいかないと思った。

渋々ゼハは考えるのを止め、

「……分かった」と、自分に言い聞かせるようにして頷いた。


「ごめん……」


友達とのお別れは、やっぱり寂しい。

すると、突如僕の手元に、ゼハが無言で投げたキャラメルが飛んできた。

これに僕は思わずクスリと笑う。


「嫌な思いをしたら、甘いものを食べるといい、だっけ?」

「絶対忘れるなよ。それと……探している人が見つかったら、そいつと一緒にまた来てくれ。いつでも待ってる」

「ゼハ……!」

「あと、次会う時はちゃんと『リヒト』って呼べ! 約束だからな!」

「それはやだ」

「何でだよ!」


また暫くの間、周囲の人達との討論が続く。

名前一つでここまで叩かれる人は、珍しいなと僕らは思った。

村人によると、僕は、ゼハが初めて外から連れてきた友達らしい。人々は僕らの事を温かく迎え入れ、家族のように優しく接してくれた。

わざわざ食べ物を分け与えてくれたり、人々が指さす方角に向かって直進すれば、オアシスや次の村があるという事も教えてくれた。


僕らは、ゼハや村の人達に感謝して、すぐさまそのオアシスに向かおうと、村をあとにする。

最後に友情の証としてゼハと握手した事は、それから暫く頭から離れなかった。


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