クラス丸ごと異世界召喚されたら姫様に吊るし上げられそうになったので、逆に姫様を吊るし上げたった。
いつものように天から降って湧いてきたネタを短編に叩きつけました。
こう、テンプレを序盤から覆すような話が書きたくて……。
へい、みんな。お元気ですか?
俺がどんな人間でどんな生活を送っていたかはとりあえず置いておこう。まずは状況の説明が大事だ。
ま、簡単に説明すればラノベでよくある異世界召喚ってやつだな。本日の授業が終わり、いざ放課後タイムとクラスが賑やかになったところで教室内が謎の光に包まれ、次に目を開いたときには、西洋風のお城的な光景が広がっていた。異世界に召喚されるとどうしてその世界が西洋風なのかはいつも疑問に思う。まぁ、そっちの方がファンタジーっぽい風味が出るのだろう。召喚されたら純和風なお城とかだったら、異世界転移よりもタイムスリップの方を疑うしな。
問題は召喚された数である。なんと四十と余名。高校のとあるクラス丸ごと全員である。ぶっちゃけ欲張りすぎだろ! とツッコミを入れてやりたいところだが、それはのちの機会にとっておく。
でもって、俺たちの事情をまるっと無視して異世界から召喚してくれちゃったのが、やはりどこかの国の王様と王女様。文句の一つも言ってやりたかったが、それを口にする前に王様の口から歓迎のお言葉。それから続けて出てきたのが「この国を救ってくれ」というお決まりのような懇願だった。
もうね、胡散臭さがプンプンなのよ。消臭剤が欲しくなってくるぐらいに怪しい臭いがプンプンしてるのよ。はっきり言って、異世界召喚て次元の壁を超えて人様を『誘拐』しているのと同じことなのよ。わかる? インターネットに存在している某『なろう』サイトで異世界召喚系のweb小説を読み漁っているであろう諸君であるのならば、今の俺の気持ちも理解できるであろう。何を隠そう、俺も読み漁っている勢だからだ。
だからと言って、異世界召喚に憧れはしない。小説とは空想上の物語であり第三者目線であるからこその娯楽であるからして、当事者になるのは御免である。そう簡単に受け入れられるはずがない。
はてさて、この短編のタイトルを読んでる読者諸君ならもうおわかりになるだろうが。
そろそろ本題を回収していこうか。
ではちょっと時間飛びます。具体的には三日後くらいかね。
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はい、三日後です。王様から俺に分け与えられた部屋からお送りしております。
「見損なったぞ! まさかお前が姫様を襲うなんて!」
……朝っぱらから怒鳴り声を発してくれちゃってるのは、俺と一緒に召喚されたクラスメイトの一人。絵に描いたような優等生で絵に描いたようなイケメン。ついでに絵に描いたような正義感を持った絵に描いたような主人公である。こいつを初めて見たとき「こんな絵に描いたような主人公が実在するんだ」と戦慄させられた。だって、漫画や小説では当たり前のように存在しつつ、現実には絶対ありえないような人間が実在していたんだから。俺の中で、こいつのあだ名は主人公くん(たまに主人公(笑))である。
そんな主人公くんにどうして俺が怒鳴られているのか、まるで見当がつかない。
昨晩は用意された晩飯を食ってから妙に眠気が襲い掛かってきて、さっさと自分の部屋に戻ってベッドに潜り込んだところまでは覚えている。そして、朝になったらなぜか上半身が裸になっており、ベッドが妙に乱れていた。首をかしげて昨晩の記憶を呼び起こしていると、部屋の外から複数人の足音が伝わってきて、俺の部屋の扉が突然開かれたと思ったら飛び込んできた主人公くんから怒鳴られたのだ。
とりあえず、毛布を持ち上げて下半身を確認すると、こちらは寝る前と同じく制服姿のままだった。
「おい、聞いているのか!?」
「聞いてるから怒鳴るなよ。こちとら寝起きで頭が働いていないんだから」
主人公の怒鳴り声を頭を掻きながらさらりと受け流しつつ、俺はベッドから這い出して上着を探す。床の上に放ってあった制服のブレザーだけ発見できたので、とりあえず上に羽織っておく。
それから体をぐっと伸ばして、改めて主人公くんの方に目を向けた。よく見ると、主人公くんの背後には他のクラスメイトやお城の兵士らしき人間が多数控えてきた。誰もかれもが俺に侮蔑の視線を向けている。
「で、どんな状況?」
「──ッ、しらばっくれるつもりか!?」
この時になって初めて、俺の『強姦容疑』が伝えられたのだ
最初に言っておくが、俺はそんなことした記憶はない。
「……参考までに聞いておきたいんだが、どこをどうやってそんな話が伝わったんだ?」
俺は朝飯はしっかり食べる派なので、空腹の苛立ちを抑え込みつつ主人公くんに聞いた。
「姫様が、涙ながらに語ってくれたよ。お前に無理やり襲われたってな」
「で、お前はそれを素直に信じたと。証拠もないのに」
「っ、彼女は泣いていたんだぞ!」
「涙くらい、出そうと思えばすぐに出るぞ」
俺は大きくあくびをすると、目尻に涙がこぼれた。
「ほれ、この通り」
溢れた涙を拭うと、主人公くんの顔が怒りに染まった。俺の言葉がお気に召さなかったらしい。
「ふざけるな! 自分の罪を認めないつもりか!!」
「認めるも何も、俺はヤッてないしな」
と、口にしてみるが、俺の弁明はかけらも信じてもらえない。むしろ、室内にいる主人公くんを含む俺以外のすべての視線が険しさを増していく。
はてさて、どうしたものか。
ようやく寝起きから覚め、回転数が上がってきた思考で考え出すと、ここで新たな人物が登場した。
「ちょっと、何の騒ぎよこれは」
聞き覚えのある凛とした声。部屋の入り口付近で集まる者たちを掻き分けながら入ってきたのは、やはり召喚されたクラスメイトの一人だ。
黒髪ポニテでクラスで随一のおっぱいを持ち、ついでに高校でのトップクラスの美貌を持つ女子生徒。クラスの副委員長を務めている。ちなみに、委員長は主人公くんである。ちゃんとした名前はあるが、便宜上ポニテさんとしておこう。
「彼に近づかないほうがいい」
「は? 何でよ」
「あいつは姫様を強姦した犯罪者だ!!」
「はぁっ!?」
ポニテさんは主人公くんの言葉に驚愕しながら俺の方を見て、それからしばらくするとため息を吐いた。
「……一応、念のために聞いておくけど、彼の言っていることって本当?」
「事実無根だな」
「そりゃそうよねぇ……」
てっきりポニテさんも俺を非難すると思っていたのか、ポニテさんのあまりの落ち着きように主人公くんはギョッとなった。
「ちょ、副委員長? 何を言って──」
「とりあえず、事実を確認したいから姫様連れてきて。大至急」
「え? いや、だって彼女は襲われたばっかりで……」
「早く、連れて、来なさい」
ポニテさんがギンっと睨みつけるよう主人公に視線を向けると、彼は蛇に睨まれたカエルのように背筋をこわばらせ、その後すぐさま部屋を出て行った。ポニテさんの命令通りに姫様を呼びに行ったのだろう。
その間に、ポニテさんはこちらに近づいてくると、俺の眼の前で不機嫌そうに腕を組んだ。
「で、あれが戻ってくる前に状況を説明して」
「俺にもよくわからん。ただ、朝起きたらあの主人公くんに強姦魔呼ばわりされてた」
「……全然わかんないわよ、それじゃ」
「むしろ俺が詳しく状況を説明してほしいぐらいだ」
二人揃ってため息をついていると、待ち人が到着したようだ。人垣が割れて部屋に入ってきたのが、主人公くんと彼に連れられてきたお姫様。彼女は主人公くんの影に隠れ、怯えた表情でこちらを伺っている。
「言われた通り連れてきたけど……聞くことがあるなら早めに頼む。彼女はそこの強姦魔に襲われて身も心も傷ついているんだ」
「ええ、聞きたいのは一言二言よ。すぐに終わるから」
ポニテさんはやってきたお姫様を見ると、すっと目を細めた。その視線に含まれる温度ときたら、まるで極寒さながらだ。直接ぶつけられたわけじゃないのに俺の背筋が(悪い意味で)ぞくぞくした。それを直接浴びせられた姫様は「ひっ」と悲鳴をあげた。
姫様はこちらをチラチラと見ながら、震えた声でポニテさんに聞いた。
「わ、私に聞きたいこととは何でしょうか」
「あなた、昨晩彼に襲われたらしいわね」
「──そ、そうです。そこの彼に昨晩……」
「ああ、昨日のことはそこまで重要じゃないから別に深く答えなくていいわよ」
「……?」
昨晩の状況を詳しく説明させられると思っていたのか、姫様はキョトンとした顔になる。
「ところであなた、そこの主人公くんに呼び出されてからここまでどうやってきたのかしら?」
「あの……おっしゃっている意味がわからないのですが」
「じゃあ、こう聞きましょうか。あなた、ここまで歩いて来たの?」
「そ、それはもちろんそうですが」
「────(すぅっ)、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
その答えを聞いた瞬間、ポニテさんは深い深い。それはもう深いため息をついたのである。
「……もう一つだけ確認しておくけど、この世界って回復魔法とかってあるのかしら?」
「回復魔法の使い手は本当に希少で、残念ながらこの城には駐在しておりません」
これを聞くと、ポニテさんはまたも疲れ切ったようなため息をついた。
そして、細めていた目をキッと開くと、今度は殺気を込めた視線で姫様を射抜いた。
「これでわかった。彼は無実。強姦云々はそこの怯えたふりしてるお姫様の自作自演よ」
一片の迷いなく、きっぱりと言い切ったポニテさんの発言に、室内にいる俺以外の全員が唖然となった。
「な、何を言っているんだ副委員長!」
「言葉の通りよ」
「あいつを庇うつもりか?」
「庇うも何も、彼は強姦をしていないのだから無実なのは当然でしょ」
ポニテさんに「馬鹿なのこいつ」といった視線を向けられる主人公くん。いやいや、普通は理解できないからね今の推理じゃ。
「あ、あなたは私が嘘をついているとおっしゃるのですか!?」
「ええ、おっしゃるわよ。あなたは嘘をついている」
涙目になる姫様に対して、ポニテさんは冷ややかな目である。
「しょ、証拠は何だ! あいつが強姦魔でない証拠は!」
「逆に聞くけど、彼が強姦したという証拠は?」
「そ、それは姫様が……」
「お話にならないわね。姫様の言葉を信じるくせに彼のことは信じないなんてね。可憐なお姫様と、冴えない同級生だったら前者を信じてしまうのは当然かもしれないけど」
おい、冴えないとは聞き捨てならないぞ。
俺が視線で抗議すると、ポニテさんはこちらをちらりと見てそのまま視線を正面に戻す。
「ま、このままじゃあなたや他の人たちも納得できないでしょうから、私なりの根拠は教えておくわ」
名探偵ポニテさんの推理が明かされるようです。
「とは言っても、単純な話なんだけどね。
もしに姫様が彼に襲われたのなら、姫様がここまで歩いてこれるはずがないのよ」
「「「は?」」」
ポニテさんの迷推理を聞いた全員がぽかんと口を開けた。俺もである。
「ど、どういう意味?」
かろうじて口を開いた主人公くんが声を絞り出した。
「これも言った通りよ。彼に襲われたのが本当なら、姫様は今頃ベッドの上で意識が無いか、あるいは身動きが取れない状況に陥っているでしょうね」
あ、ちょっと待って。もしかしてポニテさん、あれを言っちゃうつもりじゃ──。
ま、まさかね。いくらポニテさんでもさすがに。
「な、何を根拠に──」
「だって、私がそうだったもの」
おぃぃぃぃぃぃぃ!? 本当に言っちゃったよこの巨乳ポニテさん!?!?
「い、言っている意味がわからないのだけれど??」
「……ま、周知にしているわけでも見せびらかしているわけでもなかったからね」
ポニテさんは俺の隣までくると、俺の腕をぎゅっと抱きしめて寄り添った。
「私たち、付き合ってます」
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「「「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!?!?!?」」」
みんなびっくり。一番びっくりしてるのは主人公くんだけどな。
「ちなみに、初体験も終わってます」
「そこまで言うことはないよね!?」
今度は俺がびっくりする番である。ポニテさんは真顔でいつも凄いことを言ってのける人である。
「だから私の経験から断言してあげる。彼とエッチしたら、しばらくまともに動けるはずが無いわ。だって、私も初体験の次の日は、夕方くらいまで意識が朦朧としてたもの」
やめて! 人を性欲の塊みたいに言わないで!
……ちょっと自覚あるだけにすごく刺さるよ、心にグサリと。
「というか、それ以前に自分の恋人を信じられないなんてありえない」
ありがとうポニテさん!! でも、そのセリフだけにしておいて欲しかったよ本音を言えば!!
「……それで、あの姫様の虚言が決定的になったとして、それが姫様にどのような利点を生むかわかる?」
俺の内心なぞ全く気にせずに、ポニテさんが俺に問いかけてきた。色々と言ってやりたいことはあるがそれは後にして、これまでの会話を聞きながら頭の中で整理していたことを口にする。
「そうさな。定番なところで言えば、俺を吊るし上げて──まぁ、生け贄にすることで姫様と召喚組の距離を縮めようとしてたってところかな」
集団とは共通の目的──あるいは明確な敵が生まれると一致団結しやすい。この場合は、俺を共通の『敵』とすることで手っ取り早く姫様とクラスメイトたちの間にある距離を縮めようとしたのだろう。さらには己に対する庇護欲を促すことによって、姫の言葉に疑いを持たなくなるようにする効果もあった。
「主人公(笑)のところに駆け込んだのも、無駄に正義感があるから操りやすいと思ったんだろうな」
男は女の涙に弱いとは昔からよく聞く話だが、主人公くんに対しては効果覿面だっただろう。実際に、姫様の涙ながらの言葉に〝ころり〟といってしまったのだから。
元の世界でイケメンはクラスの中心的存在であった。そんな彼を制御できるようになれば、召喚されたクラス全員を動かしやすくなる。そのあたりも見越しての人選だったに違い無い。
姫様の目論見は殆ど的を得ていた。
ただ唯一の誤算があるとすれば、クラスメイトの中に俺の無実を信じてくれて、俺がどういう人間かをよく知る恋人がいたかどうかだ。
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こうして、俺の疑いは大方が晴れることになった。ただ、ポニテさんの証明を信じきれないものもいたようで若干名は未だ俺に疑いの目を向けている。それでも大半がポニテさんの言葉と俺の無実を信じてくれた。
そして信じてくれたものたちはそのまま王様と姫様への疑いを強めていった。やがて、俺を含む彼らは王家の庇護化から外れ、独自に元の世界へと戻る方法を探る旅に出ることになる。
逆に、俺を疑ったままのものたちは王様たちの元で召し抱えられることとなった。そして、ある日俺たちと矛を交えることになるのだがそれはまた別の話。
そして姫様は──。
「この屈辱……忘れてなるものか」
と、旅立った俺たちに対して激しい恨みを燃やすことになる。ぶっちゃけ迷惑だ。
主人公(笑)はあの事件以降すっかり意気消沈してしまい、かつての正義感あふれるカリスマ性は消え去ってしまった。ポニテさんが俺の恋人であるという事実もそれに拍車をかけていたようだ。元の世界にいた頃から何かとポニテさんにアプローチしてたしな。
迷惑なのは、姫様の尖兵と成り果て、挙げ句の果てに俺たちの目の前に立ちふさがる最大の敵となったことだ。
ただまぁ、そんなこんなで俺たちの冒険は始まったばかりなのである。
人物紹介
俺(語り部)
外見上はどのクラスにもいるような普通の男子生徒。とことんマイペース。
読書家であり、ライトノベルもweb小説も大量に読んでいる。一方で現実と空想をしっかりと分け隔てる常識人。王家を脱してからは、これまでの大量の読書から得た知識を生かしていき、脱出組の中心的人物になる。
性欲は普通なのだが、一度火がつくとバーサーカー並みに燃え上がる。
ポニテさん
黒髪ポニテのおっぱいさん。
もともとクラスの女子の中では中心的な人物で人気もあった。
委員長気質なところもあり、ひたすらマイペースの『俺』に度々苦言をしていたのだが、そうこうしているうちにいつの間にか絆され、ポニテさんの方から告白して恋人同士になる。
ついでに、初体験もポニテさんから襲い掛かったのだが、結果として翌日の夕方まで身動きが取れなくなる。ただし、本人にとっては至福であったらしい。
主人公(笑)
典型的な主人公。おそらく、姫様の策が功を成せば間違いなく異世界でも主人公になっていたが、標的にされたのが『俺』であったのが運の尽き。しかも狙っていたポニテさんまで知らないうちに奪われ盛大に凹まされる。でも、もともとポニテさんは主人公(笑)に全く気を持っていなかったのでどちらにせよ凹まされていた。
どうでもいいが、ナカノムラが書くとイケメンってだいたい酷い目にあうな。
姫様
典型的な悪役。可憐な姿の奥にどす黒いものを秘めてる。でも、一番与し易そうな『俺』を選んでしまったことでそれまで隠し通してきたゲスな部分が露わになってしまう。「この国を救ってほしい」と言った側なのに、実は国を一番腐らせているのはこいつとその父親であるのは本文に説明がなくとも想像できると思います。
多分、最終回かその前のあたりで恨み言を吐きながら盛大に死ぬ役回り。