いのちの温度
奇跡的だといえる。
そこは家から10分足らずの場所だった。
逆になぜ自分が迷子になったか不思議なものだ。
とにもかくにも早足で部屋へ駆け込む
「…」
久々にこんなに素早く動く。しかし病院なんて間に合うはずはないし、携帯は携帯をする意味を失っている。
「まずは…」
上着のままそっと子どもを下ろし、部屋の暖房をつける。さらに毛布に包みなおし、再度意識を確認する。
「…だめか」
先程より顔色はマシになったがこのままでは、凍傷をおこしかねない。
次に毛布のまま、風呂場へ連れていき40度と熱めに設定し、深めの桶に湯をためゆっくり足からお湯に浸ける。
ビクンっ!
反応がある
「!…よし」
そのままゆっくりマッサージするように腰まで入れる。
まずは足と腰に血流が回るようにする。
「おい。起きろ、死ぬな」
その間にも声をかけつづけた。
その時だ。
「…っい」
「起きたか」
「ひ…っあ…いたい!!いやっ!」
目は覚めた。
しかし、一安心にすぎない。冷えきった体に40度のお湯は皮膚に刺さる痛みなのだろう。
そのせいか必死に暴れる
「落ち着け。君の手足に血流を流している」
「やッ!っ!イタいイタぃごめんなさっ!おとーさっ…ごめんなさ…はなしっ!!」
「このままだと、手足が無くなるかもしれない。そうならないようにしてるだけだ」
我ながら子どもに分からない事をいうやつだと思うが仕方ない。
「あゔっっ!」
子どもはおさまる気配をみせず、マッサージしている手に噛み付く。
子どもとて本気を出せば、肉を食い破りかねない。
血が、滲む。
「…それでいい。そのまま耐えていろ」
血の滲む腕にチラリと目を向けるがすぐに少年の腕に視線を戻す。
俺に痛みは届かない。
「ふっ…ぅ…ゔ~…、」
しばらくそうして体に血を巡らせてやると凍傷の危険性は脱し、せいぜい凍瘡になるくらいになった。
しかし、子どもの怯えっぷりは最頂となっていた。
噛み付くのは止めたが、今度はガタガタ震えて身体を丸くしている。
俺もびしょびしょなり、この真冬ださすがに風邪をひく。
このままにしておくと、この子もまずい。
そう判断し、子どもに手を伸ばし
背中に触れた。
「…っ!」
「…俺がこわいか」
ビクリと震えた身体とは裏腹に言葉は逆に作用した。
「…怖くな…いで…っす」
…見え見えのウソをつかれても対応に困るものだな。
俺はそっとため息をつき、添えた左手でポンポンとゆっくり背を叩き、何事もなかったように答えた。
「怖くていい。痛みをあたえたんだ。恐怖の対象であって当然だ。」
「更に言えば知らない家の風呂場にいるんだ。だけどこうしなければ君は命を落としていたかもしれない…だから」
だから…なんだ
許せ?感謝しろ?
─…違う。
見なかった事にだって出来たはずだ。
なのに、できなかった。
見過ごしていたら、と思うと先程噛まれた痛くもない腕の傷が少し疼いた気がした。
「だから……あー…」
言葉が決まらない。
キュッ
「!」
「あり…あと…ござい…まっ…た」
噛まれた方の右腕に感触を感じる。
小さな手に包まれるのは親指一本。
身体の自由が効いてきたようだ。
ただ、それに安堵する。
「…ああ」
「…ぅ」
しかし次の瞬間、子どもの身体が大きく右に傾いた。
「!」
咄嗟に両手で支え、脈や他を観察するが、どうやら思っていた最悪のものとは違うようだ。
緊張の糸が解けた、のか
「すー…くぅー…」
寝息に、安心せざるおえない。
支えた身体をそっと持ち上げ、着ていた服を脱がし、タオルでふく。
「…」
はっきりとみえる“与えられた傷み”に無性に何かがこみ上げてくる。
なるべく無心ですぐさま着替えをすると、わかった事が1つある。
性別は少年のようだ─。
2話目です。
1話めは起伏が少なかったと思うので…
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
ちなみに作者半寝です。