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Blood of Clan  作者: 見崎 桃父
第1章 始まり
4/10

王族会議 二日目

王族会議祭 二日目 早朝

 初日だけでも凄まじい人混みだったというのに二日目は倍の人口密度だった。

「アイちゃんー、手を離しちゃだめですからねー」

「がうっ」

「私も手を繋ぐ必要はないと思うのですが?」

 アイ、アナ、トルムの三人は仲良く手をつなぎながら、ミーミアスの港に到着した巨大客船『タイタニック号』から降りてくる人々を眺めていた。

 しかし、中でも一際目立っていたのはタイタニック号の乗客ではなく、蒸気船『イワン・ワシリー号』と、帆船『デミテル号』『デミトリ号』と刻まれた3隻の船だった。

 降りてくる乗客は格の高そうな貴族たち。かと思えばただの一般市民や農民にしか見えないものや、騎士、巨大な犬、血色の悪い甲冑男、巨大な荷物を軽々と運ぶ女、個性的な服装の子供、露出の高い質の良い服を着た娼婦らしき者、身分や時代の境界線を失ったかのような乗客たちに、人混みは皆足を止めた。

「あれは………なんでしょうか?」

「さー?仮装舞踏会にでも出るんですかねー?」

「がーうー」

 二日目の夜には王城で仮装舞踏会が開かれることになっていた。おそらくそれの参加者だろう。さすがに気が早いとは思うが。

「しかし奴隷船を探せだなんて、アルノ陛下も無茶苦茶な事を命じますね」

「命令が大雑把なのはいつもの事ですのでー」

 つい昨日、ミーミアスの皇帝が口走った奴隷船の件が気になって、アルノ陛下に一応ご報告したら王族会議で盛大に暴露したと聞き、その翌日に調査任務を命じられた。

「どうやって探しましょう?」

「そうですねー、そもそも私たちの分野外ですしー」

「がうっ!」

 外科医と元精鋭部隊長がうんうん唸っていると、アイが私に任せろとばかりに吠えた。

 するとアイはクンクンと鼻をひくつかせ、しばらく周囲を嗅いだ後ミーミアスの商港のコンテナヤードがある方へ駆けて行った。アナとトルムが慌ててアイの後を追う。

「何故場所が分かるのでしょうか?」

「もしかしたらー、セルト皇帝の臭いを覚えていたのではないでしょうかー?」

「猟犬みたいですね」

 

 塗装の剥げた金属製のコンテナと真新しい木箱が一つの街並みのように整列するコンテナヤード。

 コンテナヤードに到着したアイが困った顔でキョロキョロと周囲を見渡す。

「どうしましたー?」

「ンー……、クサク……テ、ヨクワカン…ナイ?」

「臭い?」

 確かに油と鉄の臭いはするがそこまで臭いわけではない。

「アレ……、アノ…、ウンチトカ…、オシッコノニオイ……」

 アイが恥ずかしそうに排泄物の俗称を口にした。最近随分女の子らしくなったというか、むしろ少々反応が過剰だ。

「ソレト……、チト…シタイノニオイ」

「……そうですか」

 血と屍体の臭い。ここまでくると奴隷船の存在が真実味を帯びてくる。

「その臭いのはー、どこから匂ってきますかー?」

「………シタ?」

 下?




 アルノとアリンはミーミアス城上階で最も日の当らない部屋、イネミス前皇帝の私室まで訪れていた。

 ノックして中に入ると、本の山だった。壁一面天井に届く本棚で埋めつくされており、、胸のあたりまである小さい本棚が部屋の中で整列し、開閉式の床倉庫らしきものがいたる場所に設置されていて、部屋の奥にある事務机の上は本でバリケードしてあるのかと思うほどの大量の本が積み重ねられている。

「うわぁ、すごいな」

「書斎ですのここは?」

 書斎というよりも最早図書館である。そして唯一個人の私室であると証明できるものが事務机の後ろにある簡素なベッドである。どういう配置だ。

「おお、アルノ殿にアリン殿。如何されましたかな?」

 そのベッドの上に枕を高くして仰向けで本を読んでいるたくましい老人、イネミス前皇帝の姿があった。

 アルノとアリンはイネミス前皇帝の見舞いにやってきていたのだ。

「如何も何もあるもんか、調子はどうだイネミス殿?」

「はっは、ぎっくり腰ごときで会議を欠席してしまい、申し訳ない限りです」

 本を枕元に放って立ち上がろうとするイネミス。

「おいおい無茶をするなよ、腰痛だって死ぬことあるんだぞ」

「ぎっくり腰で死んだら後世まで笑い者ですなあ」

 笑い事ではないのだがケラケラと笑うイネミス。

「まあ、ぎっくり腰で寝込んでいるなんて、イネミス殿らしくありませんわね。そのたくましい体も寝ていたら形無しですわ」

「恐縮ですなあ」

 現役時代、打ち上げられたクジラを背負い投げで海に送り返したいう、根も葉もない噂が流れるほどの漢。そんな漢が寝転がって本を読んでいるなんて確かに形無しである。ちなみにクジラではなくシャチだったという(本人談)。

「それで昨日の会議ですが、セルトの奴は何か無礼を働きませんでしたか?」

 会議の内容はエルル3世から報告されていたので、不安要素だったセルトの態度を他国の王から聞きたかった。

「正直言って王の器ではない」

 アルノはセルトをバッサリと否定した。日本の侍もかくやというぐらいの斬りっぷりである。

「陛下もっとオブラートに!」

「いえいえ構いませぬ、はっきりと言ってくれて決心がつきましたわい」

「決心?」

 イネミスは笑顔で、それでいて真剣な顔で言った。

「今日、あいつを王座から引きずり降ろします」

「おっ、おう!?」

 とんでもないカミングアウトにさすがのアルノも驚いた。

「え、じゃあイネミス殿がもう一度王座に?」

「まさか、この歳ではとてもではありませんよ。奴の妃であるサイン妃に王位を譲ろうと思います」

「ほう、サン・テレサ教では男の上に立てる女性は教皇だけではなかったのか?」

「無視します」

「それでいいんですの宗教国家………」

「かまやしませんよ、エルル3世も同意しておりますし」

「まあ好きにしてくれという話だが、そのサイン妃はお会いしたことがないがどんな方だ?」

「………あー、その、お恥ずかしい話……」

 イネミスは急に表情を暗くした。

「セルトが北欧に遠征に行った際に飢饉で滅びそうになっていたゲルマン人の村から半ば無理矢理連れてきた女性でしてな………」

「北欧?エルトの近くか?」

「いえ、エルト王国よりも東寄りの、更に北の地域です」

 エルトがスウェーデンの最南端、ゼリーンがデンマークのシェラン島東部に位置する国なので、おそらくはフィンランドだろう。

「それで?」

「セルトは助けてやる代わりに村長の娘である姉妹をよこせと要求したそうで」

「とんだ下衆野郎だな」

「姉妹は村を救うためにその要求に応じて、セルトが連れ帰ってきました」

「とんだ下衆野郎ですわ」

「奴は姉妹の14歳の姉を大層気に入ったようでそのまま妻に娶り、まだ幼く趣味ではなかったのか十歳の妹は暗殺者の養成施設に入れてそのまま放ったらかし」

「いや、止めろよ」

「私は丁度長期遠征でアンデスまで出向いており、その事態から半年たった後に帰還した時には姉はすでにセルトの子供を妊娠しておりまして、サン・テレサの教義では離婚は許されませんし、妹の方はもう手遅れでして………」

「手遅れ?」

「すでに全身を暗殺者として改造されておりまして、子供も産めない体に………」

「なぜそんな暗殺者の施設など………」

「国が運営しているわけではありません。暗殺者を育成する組織がありまして、セルトが根回ししているらしく捕らえられないのです」

「で、その妹は今も施設に?」

「いえ、基本セルトの護衛をしております。セルトからの命令があった時だけ暗殺任務を行っているようです」

「ああ、アナの言っていた白い子供か。そういえばあの時地面に転がっていたな。そいつから辿れなかったのか?」

「奴のいいなりになっている者が多く、隠蔽や口裏合わせを徹底しておりまして」

「奴隷船も運営していると聞きましたわよ?」

「そのはずなのですが港にはそれらしき証拠が一切発見できず………」

 なるほど。やはりアナに任せて正解だ。組織犯罪に対してはエキスパートだ。今日中には見つけるだろう。




「なんですか?あれ」

「サー?」

 コンテナヤードの地下、不審なコンテナを探していたらなんと地下に通じる階段をコンテナの中に発見したのである。

 そして階段を降りて行った先で、巨大な楕円形の金属の塊を発見した。

 その楕円形の金属は一般家屋よりも大きく所々に照明灯や丸い窓がはめられており、天井から吊るされその下には海中が広がっていた。メソアメリカほどではないが随分と科学力の高い機械だという事は分かった。

「これはー、潜水艦ですねー」

 アナがこの物体の名称を口にした。

「潜水艦?」

「はいー。海の奥深くまで潜ることができる乗り物ですねー」

「トンデモ機械はメソアメリカの領分かとおもっておりましが………」

「技術を盗んだんでしょうねー。リチャード王が売るとは思いませんしー」

 おそらくはセルト王の独断だろう。しかし潜水艦とは考えたものだ、閉鎖空間である黒海から地中海へ出る道は一本。ボスポラス海峡からマルマラ海を抜け、更にダーダネルス海峡からエーゲ海を抜けなければ地中海へ出られず、そして更に大西洋へ出るにはスペインとモロッコの間にあるジブラルタル海峡を越えなければならないのだ。しかも3つの海峡にはそれぞれ別の国家が運営する関門があるため、少なくとも黒海から奴隷船が出るなんて不可能だった。

 だが潜水艦となれば話は別だ。海の中を通行するなど誰も夢にも思わないだろう。

「これが奴隷船ということは確定しましたが、肝心の奴隷が見当たりませんね?」

 糞尿と屍体の臭いが凄まじいが肝心の人間が見当たらない。捕まった人間がいると思ったのだが人の気配はない。

「人はいないみたいですが、どうしますアナさん。この…潜水艦?だけでも破壊していきますか?」

「そうですねー、見て分かるぐらい破壊していきましょうかー」

 アナが指をバキバキと鳴らす。トルムは「え?素手で壊す気なの?」と思ったが………

「はあっっっっ!!」

 カンッという鋭い音を立てながらアナが腕を振り上げて何かを弾き飛ばした。

「なっ!何です!?」

「ガウッ!!」

 アイが何かを撃ち込んできた方向を威嚇する。

 そこには昨日セルト皇帝が命じてアナに奇襲をかけてきた大剣を持った白い子供だった。その手には黒い装飾銃が握られていた。

「……お前、素手で弾丸を弾き飛ばすなんて、化け物にもほどがあるぞ………」

「速度をつけて腕を振るえば弾丸くらい弾き飛ばせますー。もちろん豆状骨に当てる技術が必要ですけどねーラムちゃんー」

 豆状骨とは手首の少し出っ張った部分のことだ。

「ちっ!」

 ラムは装飾銃を腰のホルダーに手早くしまうと、背後の長方形の木箱から6本の筒が丸く並んだ機械を取り出した。

「多銃身機関銃、ガトリング砲というらしい。昨夜到着したローマ帝国からの輸入品だ。エルトで使っている肩に担ぐ試作品とは訳が違うぞ」

「へー。それでー?どうしろというんですかー?」

「降伏してその娘を渡してお前らは船に乗れ。さもなければ撃つ」

「やーってみたらどうです?」

 またもやアナの口調が変わった。癖で語尾を伸ばす喋り方から意識的に頭文字を伸ばす喋り方に。戦う時の喋り方である。

「っ!……これを見てまだ逆らうか…」

「とーっとと撃ってきなさい。あーなたがどうしてここに居るのかも聞きたいですし」

 アナが余裕綽々で挑発する。その隙にトルムはアイの手を引いて避難した。

「蜂の巣になっても喋られるか?」

「ざーんねんながら私は刺す方です」

「やってみろ」

 ラムがガトリング砲を発射した。凄まじい爆音と連打音、無慈悲に破壊し尽くされる物、蜂の巣になっていく壁。

 その弾幕の中をアナは歩いてラムに近づいて行く。メイド服すら傷つけずに全ての弾丸を避けながら踊るように歩く。

 基本、頭と胴体を守りながら、手と足で弾を弾きながら、最悪奥歯で弾丸を止め、最悪急所にならない場所に着弾させる。だがそんな最悪は来ない。こんな規則的な連写をする機関銃など服を気遣う余裕すらある。初撃で音や相手の手ブレを観察しながら弾道の法則性を見極め、予測通りに動くだけだ。ミスった時はさっきの対処方でなんとでもなる。反復横跳びの要領で左右にゆらゆら動く。勿論足だけでは難しいので手も使って左右に移動する。よろけた時に壁に手を付いて姿勢を保とうとするように、横を通り過ぎる弾丸を壁代わりにして体を動かす。だが勿論銃口に近づくにつれ、弾幕の密度が濃くなってゆく。とても避けきれる密度ではなくなるその瞬間に…

「っ!?」

 素手で弾丸を弾きながら突進してくるアナにラムが怯む。

 そしてラムが怯んだ隙にアナは弾幕の下を潜り抜け、ガトリング砲の下に潜り込みそのまま蹴り上げる。

「なっ…に!!?」

 蹴り上げられたガトリング砲に両腕を持って行かれ、大きく開いたラムの懐に跳ね起きたアナが入り込む。

「う、うわっ!きゃっ!!」

 ガトリング砲に重心を後ろに持って行かれたラムはそのまま尻餅をついた。

「随分可愛らしい声を上げますねー。やっぱりまだまだ女の子ですねー」

 アナがそう言うとラムは苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

「………何が女の子だ……」

「?ー」

「もういい、殺せよ。あんたの方が何百倍も強い」

「たったそれだけですかー?何億倍も強いと思うんですけどー?」

「何倍だっていいだろうが頭にくるなあんた!?」

 アナがラムをからかってケラケラ笑っていると、避難していたトルムとアイが近寄ってきた。

「………なんだよゾロゾロやって来て。全員で拷問しようってのか……」

 ラムが3人をジロジロ睨む。

「やけにネガティブ思考ですね。まあしようと思えば変な器具使うよりよっぽどキツイ拷問できますけどね。外科医なので」

「拷問はしたことないですねー。大体睨むだけで相手は言う事聞いてくれますのでー」

「ゴーモン?ナノデ」

 ラムはイラッとした。




 昼前 ミーミアス皇国 城下町 第1区サン・テレサ教会

 祭りだけあって、教会の中まで祭り一色だった。大量のロウソクに照らされた祭壇の下で、修道女の少女たちが白い祭服を着て聖歌を合唱している。

 ステファニー女王、モーハン王、婦好女王の三人は教会に赴いて少女たちの合唱する聖歌に耳を傾けていた。

 余程練習を積んだのか、誰一人はずれる事なく美しい歌声を披露する。あまりの完璧さに子供らしさが感じられないが合唱としてはとてもレベルが高い。

「すごい子供たちじゃのう。指導の賜物か、信仰心の表れか」

「うちなら金が取れるレベルアル」

「あれで踊れば最高なのにな?」

 ミュージカル好きなインダス文明の王様がボソッと小さな不満をあげる。

「おぬしんとこのミュージカルは愉快で嫌いではないがこのような神聖さは無いであろうに」

「お前んとこも打楽器とマラカス主流で愉快なイメージしかねえよ?」

「だから聴きに来たんじゃ」

 少女たちの合唱が終わると、教会にいた信者たちは皆、教会の地下に続く扉に足を向けた。

「ん?あっちは何かあるのか?」

「さあ?何じゃろうな、行ってみるかえ?」


「そこから先はお止めなさいな。あなたたちでは涜神行為で睨まれるわよ」


 三人の後ろに一人の女が立っていた。流れるような金髪と豪奢な赤いドレス、血のような真っ赤な目と血色の悪い肌、人を見下すような凄まじい眼光、そしてなにより目立つのは首吊り自殺でもするのかと思うような太い綱が輪のように縛られ、首に巻きついている。その綱がまさに首を吊るときの縛り方で縛られており、引っ張れば輪が絞まって首が締め上げられるであろうことは一目瞭然である。つまり異様な女であった。

「お主は?」

「私はサラ。夫の爵位は伯爵。イギリスの地方貴族よ」

 どこか自慢するような口調で自己紹介するサラ。

「行ってはいけないというのはなんだよ?」

「あの扉から続く地下にはサン・テレサ教の聖人の遺体が祀られているの。異教徒のあなたたちではいい顔されないわよ、ステファニー女王?」

 挑発するように言うサラにステファニーは若干不愉快な気分になる。

「ご忠告感謝するぞサラ伯爵夫人殿」

「いえいえ、どういたしまして」

 サラはニタアァっと笑いながら優雅な足取りで去っていく。サラの背中を目で追っていると、教会の敷地の入り口で三人の女たちが待っていた。美しくも不気味なサラとは逆に、こちらは実に血色の良い美しい女たちで、一人は長い金髪を後ろで束ねた、所作の一つ一つから高貴さを感じさせる貴族風の美女。一人は真ん中で分けたブロンドの髪と、海緑色の瞳のプロポーションの良い優しそうな美女。一人は長い黒髪でどこか虚ろな目をし、農家の娘のような簡素な服を着た美少女。

 サラを含めたその四人は身分もバラバラなアンバランスな不気味さを醸し出していた。

「遅いぞサラ、ベルタが土に還ってしまうではないか」

「いや………、それはない………」

「なによ、私だってたまには親切心ぐらい出すわよ」

「たまになのが傷なんですけどもね」

「ああん?」

 親しげにお喋りしながら四人は去っていった。

「ステファニー、すごい顔してるアルよ」

「なんとも違和感を感じる四人じゃったのう。どうも胸騒ぎがするぞえ」

「まあ気にしてても仕方ねえし?次行こうぜ?あの女たちがなんか騒ぎを起こせるとは思えねえし?」

「そうアルな。考えすぎアル」

 そう言って教会から出て行く二人。

 ステファニーは原因不明の嫌な汗を流しながら、二人の後を追った。




 正午 ミーミアス皇国 城下町 第3区墓地

 町外れの辺境と言っても過言ではないほど人気のない墓地だった。墓地の敷地は柵と塀で囲まれており、すぐ隣が森とはいえ反対側には小道を挟めば普通の民家が立ち並んでいる。というのに、まるで世界から切り離されたかのように祭りの喧騒がほとんど無くなった。

 森は穏やかで不気味さや重苦しさは皆無。狭い小道といえどきちんと整備されていて清々しい。立ち並ぶ民家だって、おしゃれな色合いのレンガ造りの家々。墓地も手入れがされていて汚さとは無縁。薄暗さは微塵もない。

 だというのに、少し喧騒から離れただけで。人通りが無くなっただけで。これほどまで雰囲気が変わるものだろうか。胸が締め付けられるかのような不安が湧き上がる。孤独感と言うか、自分が消えてしまうかのような喪失感を感じる。

 ミーミアスの王妃 サイン妃は極普通の町娘のような格好をして、たった一人である墓碑の前に膝をついていた。

 白銀の髪を墓碑の間をすり抜けた風が撫でるたび、故郷を思い出す。

 冷え切った風の吹く極寒の村だった。

 20世紀後半から始まった原因不明の地球寒冷化現象に伴い、故郷の周辺地域は大きく影響を受けた。

 元々豪雪地帯ではあったが地球寒冷化の影響で降雪量が激増し、雪に強い構造をしていた家屋が何度も倒壊。周辺の環境や生態系も大きく乱れ始め、私の生まれた頃には冬場はほとんど冬眠のような生活を余儀なくされた。

 南へ移れば良かったのだが、代々受け継いできた土地を手放すわけにはいかないと、頭の固い老人たちが頑として動こうとしなかったのだ。

 14歳の時、もう4年前だが、異常気象で例年の倍近い雪が降った。家屋の倒壊で村の半分が壊滅し、交通も遮断され、それが二ヶ月近く続き、備蓄が底を尽き始め、食料の調達すらままならない危機的状況に陥った。

 こういった万が一の事態に備えた対策をしてこなかったツケがとうとう回ってきた。このまま村は壊滅して、私たち村人全員雪の中に埋もれ、春の雪解けと共に消えて無くなるのだろうと、そう思った。

 結局そうはならなかった。ミーミアス皇国から遠征でやってきたと言うセルト皇帝が、村を援助してくれると申し出た。彼は村を救ったのだ。

 私と妹を生贄にして。

 村を助けた動機は私が気に入ったからだ。セルトは何もかもが解決してから、見返りに私をよこせと要求してきた。多大な恩を受けた村は要求を断ることができず、私と妹をセルトに受け渡した。

 故郷から遠く離れたミーミアス皇国に連れて行かれ、妹と引き離され、セルト皇帝の子を孕まされた。

 ただ私にとって辛かったのは二つだけだった。

 妹と引き離された事と、セルトに抱かれた事だけだ。

 家屋の倒壊で両親は死んでしまったし、故郷よりもミーミアス皇国の方がよっぽど楽に生活できる。

 子供は三人孕まされたが子供たちは可愛い。あの男の血が混じっているのが可哀想なくらいだが、三人ともスクスクと育っている。

 イネミス前皇帝殿はセルトの気まぐれに振るう暴力を見つけては折檻してくれるし、女中たちも私を憐れんでかとても良くしてくれている。

 妹のラムには非常に辛い思いをさせているが、今の所は前よりかはまともな扱いを受けているらしい。

 だから、これ以上悪い事は起きませんようにと、お願いをしにこの墓地まで一人でこっそりやってきているのだ。

 私が今祈りを捧げている墓碑の下には聖母テレサの息子サンが眠っている。

 教皇エルル3世に教えてもらったのだ。敵の襲撃に遭い、遺体が損壊、損失してしまってはマズイとして、この人気のない墓地に移されているのだと。勿論これは極秘事項である。よくよく見てみるとこの墓碑は周りの墓碑に比べてありえないほど質がいい。それに恐らく相当頑丈な物質で掘られている。

 しばらく祈りを捧げ、供物として多種のフルーツを供え、墓碑の汚れを払い、周囲のゴミを片付け、墓碑周囲の除草などをした後、城に戻ろうとした。

 その時


「敬虔だな」


「っ!?」

 城に戻ろうと墓碑に背を向けた瞬間、墓碑の方から声が聞こえた。溶けた鉛のようなドロリとした男声だ。すぐ真後ろにいる事だけは直感で気づき、逃げるように墓碑から離れ、振り返った。

「何者!?」

 サインが振り返った先にいたのは墓碑の上で片膝をついて座り込み、『新約聖書』と書かれた分厚い本を忌々しげに黙読する女性だった。

 年の頃は二十歳前後。娼婦のように露出が高く、それでいて美しく装飾され、下品さを一切感じさせない服装。サインやラムとは決定的に美しさの桁が違う紫掛かった白銀の髪を左右で二つに縛っており、黄金の瞳をしている。

 その女は本から顔を上げ、サインに問う。

「ただの墓参りにしてはどうも信仰心のような匂いを感じる。この下には誰が眠っている?」

 女は女の声でそう言った。

「その墓碑から離れなさい。死者への冒涜ですよ。それと先ほどの男の声は何です?貴方の仲間ですか?出てきなさい」

 サインは女を指差してその不道徳的な行為を責める。

「いや何、男よりも女の姿の方が、少しは警戒が薄れるかと思ったのだが、そうでもないか」

 男の姿より女の姿?

 まるでさっきまで男の姿だったかのような物言いにサインは眉根を寄せて首を傾げる。

「訳のわからない事を言っていないでその墓碑から離れなさい!」

 サインは護身用の短剣を懐から取り出すと、女に切っ先を向けた。

「やめておけ、慣れない武器は」

「では言う通りにしなさい」

「仕方がない」

 女は観念したように墓碑から飛び降りた。妙に軽やかな動きで、まるで体が綿で出来ているかのような挙動にサインは一瞬目を奪われた。

 その隙を突かれた。

「なっ!?」

 地面に降り立った女は直後弾丸のような勢いで、十分な距離を取っていたサインに肉薄し、その懐に潜り込み、短剣を弾き、手袋をはめた細長く美しい指先でサインの両頬を弄び始めた。

「ひっ……、っう?」

 顔全体を舐めるようになぞったり、前髪を弄ったり、目元を指の腹でこすったり、唇の間に指を滑り込ませたり、サインを観察するように好き勝手に触りまくる。親から新しい玩具を買ってもらった子供のように。

 そこまでされてもサインは動くことができなかった。一連の動きから見て、明らかに人間ではないと直感した。少なくとも自分がこの女に立ち向かっても微塵の勝ち目はない。だったらおとなしく弄ばれている方が安全である。という建前がサインの頭の中で繰り返されているが、実際は恐怖で足が竦んで動けないだけだった。

 女はサインを慈しむような表情で顔を愛撫し続け、そしてしばらくして満足したのかフワリとサインから離れた。

 女の愛撫が止むと、サインは寂しそうな顔を女に向けた。

「以外と御しやすかったな」

 女はまた、サインに慈しむような表情を見せた。

 サインはトロンとした表情で、飼い主に甘えたがる犬猫のように女に擦り寄る。

「さて、あの墓碑に眠っているのは誰だ」

「はい……、聖母テレサの息子サンが、眠っておられます………」

 サインはミーミアス皇国の極秘事項を正体不明の女にあっさりとバラした。

「ほう、聖母の息子……、聖母はどこに眠っているか知っているか?」

「いえ……、知りません………」

 それは残念だがまあいい、息子だけでも充分だろう。と、女がしめしめと言った顔で、すり寄って来たサインの頭を撫でた。




 夕刻 ミーミアス城 ダンスホール

 ジョセルはシャーヒーン、リチャードと共に、あと数刻で開催される仮装舞踏会の準備に追われていた。

 もちろん、料理の準備だとか会場の整備だのと言った雑事ではない。舞踏会に参加するための衣装の準備である。

 まるでパーティを満喫する気満々のように聞こえるが、そもそもこの仮装舞踏会は王族会議における警備上の問題で開催されるパーティなのだ。

 二日目の会議には40カ国の王族が集合する。そのため警備が王城に集中してしまい、街全体の警備体制に偏りができてしまうのだ。それにつけこんで違法行為に手を染める者が現れ、最悪テロリストによるテロ攻撃に対する備えが疎かになってしまう事態になりかねない。実際過去にこのような事態が発生したことがあった。

 そのため仮装舞踏会という名目で身分を隠し、一般の参加者に紛れてパーティに参加、途中で席を外し会議場に集合する。よって最低限の警備で王族を安全に会議場まで誘導することができるという仕組みになっている。無論、これは極秘事項である。

「それにしても、一定数の王が集まらなければ基本的に開催しない仮装舞踏会を、会議が始まる前からすでに予定していたとは、抜け目ないよねーミーミアスって」

「まあ、経済効果もあるしな。それにサン・テレサ教の信仰国だけですでに一定数を超えているらしいからな、わかっていてやったことなのだろうな」

「げぇ、てことは参加する国の半分は新興国かよ。こりゃぁ迂闊なことは喋れねぇなぁ……」

 リチャードが不愉快そうに舌打ちした。

「気持ちはわかるけどリチャード、とっとと衣装決めないと舞踏会始まっちゃうよ?」

「わぁってるよ」

 三人がダンスホール裏の一等控え室に集合していたのは仮装舞踏会での衣装がまだ決まっていないからである。ただのパーティならば、正装すればいいだけのことだが、仮装舞踏会となるとそうはいかなかった。絶対に正体がバレず、それでいてセンスのよい格好をしなければいけないのだ。コンセプトもなしに適当に衣装を選んで目立つような真似をしては本末転倒の上、センスが無いだのとバカにされては王として沽券に関わる。

 仮面舞踏会なら仮面を選べば良いだけの話だが、仮装舞踏会なのだ。過去、王族も一般人も関係なく参加した者達の中には非常にクオリティの高い仮装者が何人もいた。どう見てもサルにしかみえない着ぐるみを着た者、伝説や伝承に則った人物や怪物の格好の者、数人がかりでドラゴンを表現した者たち、中にはお話の英雄や魔女や吸血鬼や小悪魔に扮した可愛らしい子供の参加者の姿もチラホラ見受けられた。

 よって、王族は毎度毎度衣装選びには細心の注意を払っていた。

 ちなみに何故、今現在この三人ばかり衣装選びに時間を取られているのかと言えば、アルノ、アリン、婦好、ステファニー、モーハンは前日のうちにすでに衣装選びを終えていたというだけだ。

「まったく、こんなこと先に終わらせとくべきだったね」

「なぁんで俺らまで仮装しなきゃぁいけねぇんだ?先に会議室で待機しててもいいじゃねぇかよぉ」

「集合時間の午後8時にならねば会議室の場所は教えてもらえないからな。我々が一般の参加者の中に堂々と姿を表す訳にもいくまい」

 舞踏会の真っ最中は王城が一般公開されるため王族が堂々と闊歩することができないのだ。テロリストが城に紛れ込んでいないとも限らないからだ。

「で?衣装のコンセプトどうすんの?」

「そぉだなぁ、俺はこの騎士甲冑でいくぜ」

 リチャードが控え室とつながる衣装置き場からゴテゴテとした騎士甲冑を重たそうに持ってくる。

「イロモノでいくのか?少し目立ちはしないか?」

「へーきだへーき。毎度かなり奇抜なやつ結構いるじゃあねぇか」

 イソギンチャクの着ぐるみの奴は毎回参加してっからなー騎士甲冑ぐらいで目立ちゃしねぇよと、リチャードが豪快に笑う。

「まあ、お前の好きにしてくれ………」

 シャーヒーンが勝手にしろと言いたげに衣装選びを再開したところで、アルノが控え室に入ってきた。

「ああ、三人ともいるな」

「どうしたのアルノ?まだ開催まで時間あるだろ?」

「いやそうじゃなく、衣装選びは一旦中止して、イネミス殿の私室に集まってくれ。話がある」

「「「?」」」



「なるほど。随分思い切ったなぁ、イネミス殿」

「しかしそれでいいのかえ?サン・テレサ教総本山のミーミアス皇国の皇帝の王位剥奪など、信者や他の信仰国に示しがつかないのではないかえ?」

「大賛成だけどね!!」

 イネミス前皇帝の私室にて、セルト皇帝を王座から引きずり下ろすための段取りを、招集された王たちが確認し合っていた。

「もういっそのこと舞踏会の真っ最中に宣言しちゃったらどう?」

「それではせっかくの興が冷めてしまうではありませんの」

「以外と盛り上がるかもよ?町で聞いているとセルトの評判めっちゃくちゃ悪かったし?」

「まあ、最後の情けでそれは勘弁してやろうかと思っております。今日の会議が終わった時で十分かと」

「それで?そのあとのセルトの処遇はどうするのだイネミス殿」

「シベリアあたりに10年ほど飛ばしてやろうかと」

「情けは?」

 この地球寒冷化の時代にシベリアなど、夏でも気温が20度に達しないぐらいの極寒の地域だ。

「それで、当の本人は今日はどうしたんだ?全く見かけなかったが」

「ああ、自室で事務仕事をさせています。サボっていた分を今日中に終わらせるように言っておきましたので、そろそろ出てくる頃かと」

「全く。公務をサボるなんてとんでも無い奴だな」

「公務をサボって森に遊びにいく陛下が仰ることではございませんわ」

「サボった分の仕事はその日のうちにきっちり全部終わらせているんだ。溜め込んだりしない分マシだろ」

「サボっていないのに仕事が終わらない私に対する嫌味ですの?」

 アリンが珍しくアルノに向かってプリプリ怒る。

「あともう一人、王位を継承させるサイン王妃はどこにいるんだ?まだお会いしたことがないのだが……」

「ああ、サイン王妃は昼、町に出かけたまままだ戻ってきておりません。そろそろ帰ってくるかと」

「はん?王妃が町に?この混雑の中大丈夫なのか?」

「ええ、町娘の格好をしてお一人で出かけていますので、バレはしないかと」

「王妃を一人で出かけさせたアルか!?」

「それこそ危ないのではないかえ?」

「いつものことです。一人でいるのが好きな方でしてな、もともとは庶民ですから、町娘の格好をしますと意外と」

「それで、サイン妃には話してあるのか?」

「いえ、まだです。昼に伝えておこうかと思ったのですが、出かけてしまいまして」

「……サイン妃絶対混乱するぞ…」

 段取りというよりも最早打ち合わせすらままならない状態で話しを進めていると、扉がノックされた。

「入れ」

「失礼します。イネミス様、一つお話が」

 入ってきたのはかなり慌てた様子の教皇エルル三世だった。他国の王たちがいるにも関わらず、挨拶もせずイネミスのに駆け寄るエルル三世。

「どうされた教皇殿?」

「さきほどミーミアス大聖堂の外壁に炎で大きく文字が書かれているのが発見されまして、脅迫文めいていたためご報告に」

「脅迫文?それにはなんと?」

「『十字教の二の舞を演じる邪教へ鉄槌を』と」

(っ!十字教だと!?)

 王たちがその名を聞いてピクリと反応した。

「十字教?聞いたことがないが………、」

「キリスト教の事ですよイネミス様」

「ぇっ?」

 アリンが小さく息を呑んだ。

「落ち着けアリン。余計なことを口走るなよ」

「わ、わかってますわ」

 アルノとアリンがイネミスとエルル三世に聞こえない小さな声で言う。

「キリスト教か………、相変わらず訳がわからんな」

 イネミス前皇帝が眉根を寄せて複雑そうな顔をする。

(ねえアルノ、キリスト教の二の舞って言うと?)

 ジョセルがアルノに小さく耳打ちする。

(多分中世ヨーロッパで異教徒の迫害や魔女狩りをやった事じゃろうな)

 ステファニーが小声で割り込んでくる。しかし、その声が大きかったのかエルル三世の耳に届いてしまったらしい。

「魔女狩り?」

 エルル三世が耳聡く王たちの方を振り返った。

 王たちからギクリといった音が聞こえた。リチャードが頭に手を当て、アリンが目頭を押さえる。

「しまった、随分地獄耳じゃのう………」

 ステファニーが後悔するように項垂れる。

「………やはり皆さん、何か知っているのですね?皆さん何を……」

 エルル三世がそう問いかけると、丁度6時の鐘が響き渡った。

「おっ、もうこんな時間か。城の門が開くな、そろそろ着替えるぞ」

「そうですわね、私は透明人間の仮装なので時間が掛かりますし」

 好機とばかりに王たちが白々しく部屋から出て行く。

「えっちょっと……、皆さん!?」

「エルル殿」

「イネミス様?」

 王たちを引きとめようとしたエルル三世をイネミスが制した。



「迂闊だぞお前ら」

「すまぬ……」

「ごめん……」

 ダンスホールへ続く階段の途中で、アルノがジョセルとステファニーを責めた。

「エルル三世はかなり勘が鋭い。これ以上は感づかれるぞ」

「肝に銘じよう」

「肝に銘じるよ」

「アルノ」

 アルノが二人を戒めていると、シャーヒーンがアルノの名を呼ぶ。

「もういいのではないか?」

「何?」

「もう教えてやってもいいのではないか?全部」

「ダメだ」

 アルノがドスを効かせた声色でシャーヒーンの提案を却下した。

「おいアルノよぉ。だったらオメェはずっと隠し通すつもりなのか?今は第567会議条約の決定に従って………」

「そういう問題じゃ無い!ミーミアスは宗教国家だぞ!これを知ればミーミアスは、いやサン・テレサ教はその存在意義を失って完全に瓦解する!必ず自暴自棄になった敬虔な信徒が暴走し、魔獣退治どころではなくなるぞ!火に油を注いでどうする!被害が大きくなるだけだ!!」

「じゃぁ魔獣共の問題が片付いたらミーミアスに説明すんのかよぉ!?」

「しない!!例え魔獣騒動が収まったとしてもな!世界に5億人の信者を持ち、50カ国の信仰国を持つサン・テレサが崩れれば、少なくともヨーロッパ諸国が大混乱になる!今の世界情勢が吹っ飛ぶぞ!!」

「知っていいのは教皇や皇帝といった最高位の役職の人間だけだろ?そいつらが口を割らなければ問題無いんじゃないか?」

「信用できるか!?サン・テレサの改革や法整備を推進していると言っても、あの二人は非常に敬虔な信徒なんだぞ。これを知れば二人は必ず尋常では無いショックを受ける。ミーミアスのトップがあのクズで、その上あの二人まで動けなくなったらこの国は数年で崩壊する。それに二人がやけになって周りにバラさないとは限らないだろうが」

「でも……陛下」

「お前まで言うかアリン。どんなに最悪でも俺とお前だけは後継を残すまでは死ぬ訳にはいかないんだぞ!!わかってるだろ!!」

「………」

 アルノがそこまで怒鳴って、全員が何も言えなくなった。アルノは一呼吸置いて、謝罪した。

「悪かった。すまない。だがまだその時期じゃない、もっと時間をくれ。今はまだ早計だ」

 そう言って、アルノはみんなから逃げるように階段を降りていった。

つづく

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