王族会議
『偽ウィッカ』
20世紀中期、ケルト人の自然宗教ドルイドをベースに創設された新宗教「かつて魔女として迫害された、月の女神と角ある男神を信仰する宗教」『ウィッカ』。
『ウィッカ』の信者は信仰者であり、魔女でもある。キリスト教の教義するような悪魔的な魔女ではなく、善の魔術を使うよう戒めている宗教である。
そして『偽ウィッカ』とは、魔女の集団であるという共通点のみを名前として利用した、本来のウィッカとはむしろ全く逆の教義を掲げた宗教。というよりかは、組織や集団といった意味合いのほうが強く、そう、つまりただの本物の魔女の集団である。
という説明を、アルノ、アリン、アイはアリス・カイテラー侯爵夫人から受けていた。
サソリ女が黒フードに倒されてから3日後。トルムの外科技術によって一命を取り留めたアルノは自分の寝室で黒フードの中身、アリス・カイテラー侯爵夫人と面会していた。
「お判り頂けましたか陛下?」
「理解はしたが納得はしていない」
アルノはばっさりだった。元々不思議なことは信じない質で、魔獣に関しても新種か奇形かぐらいにしか考えていなかった。
「侯爵夫人といったな。しかしカイテラー侯爵とは聞いた事がない。どこの国の出身だ?」
「アイルランドです。アイルランドのキルケニー。14世紀の」
「………はあ?」
この女は何を言ってるんだ?
「今は西暦2010年だ。何年生きてんだ婆さん」
「次に婆さんなんて呼んだらあなたの頭蓋骨を大釜にとして使ってあげます。そして私は今10歳です」
「日本の織田なんちゃらかお前は。そしてさば読みすぎて逆にババくさいぞ」
アルノがそういうとアリス・カイテラーは手のひらを天井に向け、何もない空間から名前のわからない禍々しい工具を出現させた。
「待てわかったやめろすまなかったお嬢さんそれしまってくれ」
アリスが手の中の謎工具を消した。
「でも魔法は信じないぞ」
「それではこれからお話することは何一つ納得されることはないと思われます」
「チッ…わかった信じる。いいから話せ」
話が進まないのは困る。
「ではどこからお話しましょうか………、魔獣についてからお話しましょう」
アリス・カイテラーは話始めた。
魔獣とは、サン・テレサ教の創設者にして預言者、聖母テレサとその息子サンが1000年前の生前に愛用していた5つの宝具、燭台、手鏡、乳母車、白い靴、銀のペンダントが世界各地に隠されていて、それがその付近の地域になんらかの力を与え、生き物や人間に影響を与えている。らしい。
「らしいってのは?」
「確証はないのですが、魔獣出現の報告のある地域が宝具が隠されている地域と一致しているのです。現在私の他にも偽ウィッカのメンバーたちが世界各地に赴き、事態の収拾に当たっています」
「ということは、この付近に宝具が?聞いたことないぞ」
「ええ、教会は隠してますから」
「なんて迷惑な」
教会と偽ウィッカはいち早くそれに勘づき、行動に移したのだという。
「あの宗教はまだ幼く野蛮です。大昔のキリスト教のように、異教徒や女性に対して差別的です。もしあなたたちが宝具を破壊、破棄しようものなら彼らはこの国を全力で攻撃してくるでしょう」
「勝手に隠しておいて見つけたら逆ギレするのか」
「迷惑千万ですわ………」
「それにこの国を攻撃だと?これだからトップの人間が何も知らない一般人だとこういうことになるんだ。俺が死んだら世界がどうなるかわかっていない。……ん?待てよお前は知っているのか?」
「ええ、我々は特殊ですので」
この『2度目の世界』の真実を知らない連中はいつもこうだ。
教えるわけにいかないのはこっちの責任だが。
やはり一度、『王族の取り決め』に改定が必要かもしれない。
俺が死んだら全人類が滅びることを、しっかりと教えておくべきかもしれない。
「それで?宝具は見つかったのか?」
「白い靴を見つけました。この森の最奥だったもので、時間がかかってしまい、魔獣の強さも測り損ね、この国には多大な被害を………」
「それはもういい、過ぎたことだ。そして、あの教皇の書簡はなんだったんだ?」
「私が直接頼み込んでも耳を傾けないでしょう?だから教皇の名を借りたのです。書簡の印や装飾を模造するのは存外簡単でしたし」
ごもっともである。怪しげな女の妄言と聞き流していたところだ。襲撃も未知の生物の仕業だとは決して思わなかっただろう。
「ふん、まんまと踊らされたと言うことか」
「お許しください」
「構わないさ、おかげで助かったところもあるし。ああ、一つ訊きたいんだが、教会の使者を一人見なかったか?」
「教会の使者ですか?こちらの国に?」
「ああ、追放者がどうだのと。そのうちの一人が魔獣に殺されてな、その相方が行方をくらましている」
二人来た使者のうちの一人が殺されてから、もう一人の使者を見ていない。
サソリ女にすでに殺されているか、ビビって逃げ帰ったか。できれば前者であってほしいところだ。
「いえ、見ていませんが…、もしも教会に戻って報告していたなら、少し面倒になるかもしれませんね」
その通りだ。魔獣であるアイを引き渡せと脅してくるかもしれないし、エルトに仲間を殺されたと思って、最悪戦争にでもなったらエルト王国を守るためにサン・テレサ教は周辺故国に滅ぼされる。
「どう転んでも厄介なことになりそうだ……」
アルノたちは揃ってため息を吐いた。
3週間後
『エルト王国 アルノ国王陛下殿
先月より出没し、各国で猛威を振るう謎の生物「魔獣」について、周辺諸国の統治者を招集し、「魔獣」への対策を協議するため、第999回王族会議を開催致します。
開催場所 ミーミアス皇国 サン・テレサ教皇庁 ミーミアス大聖堂
開催期間 2010年8月1日〜14日
ミーミアス皇国 前皇帝イネミス 印』
3週間足らずで早速来た。
サン・テレサ教の総本山 ミーミアス皇国からの、こちらは正式な書簡だ。
「王族会議だと……、またあの馬鹿騒ぎが始まるのか………」
「オー……ゾク……カ?」
「王族会議ですよー。お祭りですー」
「オマ…ツリ?オイシイ…モノ?」
王族会議とは、世界規模で問題が起きた場合に世界中からその地域の代表の王族を招集し、協議するための会議である。
ただ千年ほど前から会議にかこつけて金儲けを企む輩が大勢現れたのだ。王族の姿を一目見ようとぞろぞろと諸国から民が集まってくるので、そこに目をつけたらしい。
ただの商売ならまだしもアヘンや密売品や密猟動物の取引が横行し、国の風紀が一瞬で崩れてしまうという事態が発生したため、いっそのこと祭りにしてしまおうということになった。
そのため、10年に一度あるかないかだった王族会議は一時期、2、3年に一度か二度の頻度で開かれるようになった。特に大した問題でもないというのに多大な経済効果を見込んで会議を開きまくる国が現れたため、王族会議は5つ以上の国が会議に参加した場合のみ、祭りを開催することになった。
無論、急を要するほどの問題であり、祭りをしている場合ではないということもありえる。
ただ、今回は「開催期間」と記されていることから、5つ以上の国が参加することを確信して祭りを開くつもりだろう。ぬかり無さすぎである。
ただ、祭りを開くほどにはまだ余裕があるということだ。そこはひとつ、安心したということにしておこう。
8月1日 ミーミアス皇国 王族会議祭 開催初日
ミーミアス皇国を中心とするサン・テレサ教を信望する国々はルーマニアを中心としてヨーロッパ各地に点在する。
予想していた事とはいえ、開催日が急だったことも相まって世界各地から王族が集結するのには一週間はかかるだろう。
ミーミアス皇国に到着したアルノたちは、客船から降りてすぐに呆れ果てた。
早朝だというのにもう祭りが始まっている。前夜祭からぶっ続けで騒いでいたのではあるまいか。
レンガ造りの店が大型客船が3隻横一列に通れそうなほどの広い表通りを挟んで、ミーミアス城まで一直線に並んでおり、すでに人で溢れかえっていた。
ミーミアス城は遠くに見える真っ白い城がそうだ。そして会議に使用されるミーミアス大聖堂は、その城の地下を通って、反対側の湖の中。水中ではなく、一体どうやったのか湖のど真ん中をくり抜き、くり抜かれた水を巨大な地下水路を通して海に流し、その湖にできた水の通らない人口的な窪地の中に建てられている白いレンガとガラスと水晶でできた宮殿。それがミーミアス大聖堂である。
アルノとアリンは前皇帝イネミスと会議の打ち合わせのため、ミーミアス城に向かっていた。
そのため、アイはアナとトルムの三人で二千は降らないであろう出店をひやかして回って、祭りを満喫していた。
「アナ!コレ……オイシ…ソウ!」
「ちょっと食べ過ぎですよーアイちゃんー。太っちゃいますからもうダメですー」
「エー………」
初めて見る食べ物、人、物に釣られてフラフラと歩き回るアイに、アナは母親のように世話を焼く。
長くふさふさとした耳と尻尾を隠すためにアリス・カイテラーからもらった黒フードを着込むアイ、すでに3食分の量の食べ物を食いまくっている。
「お二人ともどんどん先に行かないでください。この人だかりではぐれたら当分会えませんよ」
トルムが迷惑そうな顔をして言う。
実際、皇国の城下町は凄まじい人口密度で、隣の店へ移動するのにも一苦労だというのにアイとアナはちょっと姿勢を低くしたり、少し体をひねるだけですいすいとこの雑踏を移動している。
さすが、元精鋭部隊隊長と、森で暮らしていた野獣娘は違いますね。と、外科医が感慨深くため息を吐いた。
さすがのこの雑踏も、正午になり暑くなってきたためか、昼食時だからか、人混みもまばらになってきた。無論、人口密度は相変わらずだが、先ほどに比べれば断然楽になった。
「相変わらずの賑やかさですね。今回は少し過剰ですが」
「栄えあるミーミアス主催のお祭りですからねー。サン・テレサの信者はほとんどやってきているのではないでしょうかー」
「どうやら教皇が表に出てくるらしいですよ」
「ああそれでー。お披露目ということですかー」
サン・テレサ教の教皇 エルル三世は今年で12歳になる少女である。教皇は聖母テレサの一番の弟子の子孫であり、その下の枢機卿や総大司教はほとんどが弟子の子孫たちだ。
ただ教皇は体が弱いらしく、なかなか外には出られないのだとか。
「さて、出店も少なくなってきましたし、一度本道に戻りましょうか」
「はいー」
少し歩きすぎたようで、脇にそれたのか人通りがガクンと減った。
「アイちゃんー、戻りますよー」
「ガウ」
アナがクレープを食べていたアイに呼びかけ、アイが応答したが
「ギャウッ!!」
「ぬっ」
アイが店から出てきたきらびやかな服装の男性にぶつかって転倒した。しかもクレープが男性の服をべっとりと汚していた。
「なんだ貴様、いきなり出てきて余の服を汚しおって」
二十歳前後の男性はクリームで汚れた服を指でつまみながら尻餅をついたアイを見下ろす。
「ああ、申し訳ありませんー。お召し物は弁償いたしますのでー」
アナがすぐさま駆け寄ってきて、アイを抱き起こしながら男性に謝罪した。が
「弁償だと?一体いくらすると思っておるのだ、貴様ら下人に払えるとでも?」
「あらあらー、どうしましょうー。トルムさんー、いまいくらお持ちですかー?」
「いえ、絶対足りませんよ……」
「当然だろう。そうだな、では体で返してもらう他あるまい……、ん?おい小娘、なんだ貴様のその耳は」
「が?」
転んだ時にフードが脱げたらしく、アイの長い耳があらわになっていた。
しかも、その男は目ざとくもアイの尻尾にまで目をつけた。
「き、貴様人間ではないな?悪魔か?それとも魔女か?」
「あ、いえ。そうではなく……」
「だが、これは面白い。この娘はいただいておこう。お前たちは奴隷船にでも載せてやる。それで帳消しにしてくれる。おい、このものたちを捕らえよ」
「「「はっ」」」
男性の護衛としてついてきていた5人の兵士たちがアイに触れようとして、全員が向かいの店に突っ込んだ。
「何!?」
「奴隷船ー?奴隷制度は禁止されたはずですー」
兵士を吹き飛ばしたのはアナだった。兵士がアイに触れる瞬間、誰にも、少なくとも動体視力の高いアイにすら見えないほどの速度でひねり上げて、馬車7台が横一列に通過できるほどの広さの道のさらに向こうにある店のレンガに激突させた。
「貴様。逆らうつもりか」
「国際法に逆らってるあなたに言われる筋合いはないですねー」
アナはいつもの倍の笑顔で返す。
「ラム!」
男が少し上を向いて何かを叫ぶ。そしてアナが上を見上げると、太陽が隠れた。
「ふっ!!」
アナがすぐさまその場から飛び退く。
アナのいた場所に白い子供が巨大な剣を突き立てていた。
白い肌に白い髪、アルビノという病気かと思ったが目が青いのでおそらく北欧人。
だが男女の判別が難しい。髪はショートで肩幅も狭いので女子かと思ったが…
「よく避けられたな。上を向いたと同時に切り殺せると思ったんだが…」
声が子供っぽいが男子の声に近い。口調も男っぽさがある。
「ええー、あなたがいることには気がついていましたがー、存外俊敏だったものでー、驚きましたー」
「気づいていたのか!?」
「はいー。私が兵士を吹き飛ばした時に息を呑んだ気配が頭上からしたものでー」
アナは暗に、未熟者と罵った。
「ちっ」
「ふん、仕留め損ねるとは、使えん奴だな。その女はいい、向こうの小娘を捕らえろ」
「……はっ」
「さーせるとおもいますか?」
「っ!?アナ殿!!」
口調が変化したアナにトルムがやめろと呼びかける。
前かがみになり、首をゴキゴキと鳴らし始める
「なんだ?気味の悪い女だ。ラム、さっさとしろ」
ラムがアナを警戒してか、少し避けるようにアイの元へ駆け出そうとした。
アナはラムが自分の右をすり抜けようとした瞬間、右手を振り上げてラムの脇腹に手の甲をめり込ませた。
「えっ?」
アナが只者ではないことは確信していたはずなのに、ほんの少し警戒しただけでそのすぐ脇を通り抜けようとした。いや、通り抜けた。
自分の頭が壊れたかと思った。どう考えても油断しすぎな行動である。いつもの自分ならこんなミスはあり得ない。むしろそれ以上に、生物として自分より強いか同等の実力の敵の脇を無警戒に近づくなんて。
「おいラム。なにをしている」
「この子を責めないであげてくださいー。私の術中にはまっただけですからー」
口調の戻ったアナはいつもどおりニコニコしていた。
「術だと?やはり悪魔の類か。ラム!いつまで寝転がっている。さっさとこいつを殺せ」
ラムは嫌な汗をかきながら立ち上がろうともがく。
………簡単に言ってくれる。ただの打撃かと思いきや内臓を攻撃する技だったらしい。破裂はしていないが内臓の配列が狂わされているのか違和感と異物感で最高に気分が悪い。
「動くと余計立てなくなりますよー。それと一度吐いたほうが楽になりますよー」
「吐く?余の前でそんな汚らわしい真似をしてみろ。貴様の姉がまた苦しむことになるぞ?」
姉?人質をとられているのでしょうかー?まあ我々には関係ありませんけどー、可哀想ですねー。
「それと魔女よ、貴様は極刑だ。火刑台に送ってやる」
男が言うが早いか、道の向こうからゾロゾロと兵士たちが集まってくる。吹き飛ばした兵士が起き上がって仲間を呼んできたらしい。
「またゾロゾロとやってきましたねー」
「おいお前たち。この女は魔女である。捕えよ。それとそっちの小娘は余のものだ。傷つければ処刑台送りであるぞ」
「いや、残念ながらその子もその女中も俺のものだ。お前にはくれてやらん」
兵士の中からアルノが顔を出して、男に忠告した。
「ん?なんだ貴様。この者たちの主人か?この者たちは余に無礼を働き、不遜な態度をとった。余が処罰する。そのまま口を閉じて立ち去るがよい」
「全く、噂通りのバカだな」
「貴様……、この者も捕えよ」
男が兵士たちに命令するが兵士たちは動かない。
「なんだ逆らうつもりか?お前たち全員……」
「このバカモンがああああああ!!!!」
「ぐっ!?」
兵士たちの中から踊り出てきた立派な白い髭を蓄えたたくましい老人が男の頭に鉄拳を叩き込んだ。
「この方は王族会議に出席されるエルト国の国王であるぞ!!無礼を働くでない!!」
「何をする!!父といえど皇帝である余を殴るなど許されんぞ!!」
「黙れえい!!仕事もせずにフラフラと遊び呆けて他国の王のお連れの方々に無礼を働きおってどの口が言う!!」
「あらあらー、やっぱりミーミアスの皇帝陛下であらせられましたかー」
ミーミアス皇国 第50代目皇帝セルト
この男こそが、この皇国の最高権力者。ミーミアス皇国現皇帝である。
「あまつさえ他国の王に対してまで横柄な態度をっ……!他国の王の顔さえ記憶しておらんのかっ!!」
「エルトなどという小国の王など記憶しておくまでもないわ」
「………もうよい。貴様は部屋で自粛しておれ。会議が終わるまで部屋から出るでないぞ」
「なっ……!おい父よ!!余に向かって何を……!!」
「連れて行け」
「「「はっ」」」
セルトは兵士たちに縛り上げられ、連行されていった。
「不快な思いをさせてしまい、どうかお許しを」
現皇帝に鉄拳制裁を施した男 前皇帝イネミスがアナ、アイ、トルムに向かって頭をさげる。
「いえいえー私はべつにー」
「特に怪我をしたわけではありませんしね」
「がうっ」
「ありがとうございます。ところでその子が例の?」
「ああ、おとなしいし、基本いい子だ」
「そのようですな」
イネミスがアイに朗らかな優しい笑みを見せた。
「がう?」
アイがイネミスのたくましい髭に親近感を覚えた。
夕刻
これはさすがに予想外であった。一週間はかかるであろうと予測していただけに、まさか初日で各文明の王族が揃うことになるとは。
地中海、エーゲ海、黒海を渡ってきたエジプト文明代表 ジョセル王
黒海を南側から馬でやってきたメソポタミア文明代表 シャーヒーン王
飛行船でやってきたインダス文明代表 モーハン王
気がついたらいつの間にやってきていた中国文明代表 婦好女王
自動車とかいう機械でやってきたアンデス文明代表 ステファニー女王
もはや何故空を飛んでるのかすらわからない円盤らしき飛行物体で派手に現れたメソアメリカ文明代表 リチャード王
主要人物が全員揃ったため、早速今夜から会議を始める運びになってしまった。
6大文明とエルトとゼリーンを含めた8人の王が集結したミーミアス大聖堂の本会議場
「ねえモーハン、お前んとこカレーが禁止されたって噂聞いたんだけど本当?」
「は?どこから聞きつけたのその話?」
「モーハンよ、噂では無いのか、その言い草だと」
「そうしようと思ったんだがな?バカ言ってんなって言われたんだぜ?官僚たちにだぜ?」
「僕あれ好きなんだけど、なんで禁止しようとしたの」
「辛いからに決まってるだろ?」
「ちょっと待てよインド人」
「辛いで思い出したが婦好よ。お前が土産として持ってきたキムチという食べ物、美味であったぞ」
「それはよかったアル」
「また持ってきてくれんかの?妾の国では話題沸騰中じゃ」
「任せるアルよ」
「おめぇさ、そのいらんキャラづくりいつまでヤる気なんだよ」
「でも日本人ってみんなこうゆうイメージ持ってるアルのよ」
「おめぇが日本人のイメージ通りにキャラを作る必要性はないだろぅ?」
「リチャード?お前の喋り方もなんとかならないん?英語の訛りがすごいよ?」
「モーハンよ、貴様はむしろ何故疑問系で喋るのだ?この前まではカタコトだったからマシにはなっているが、逆に難しいのではないか?」
「あまり緊張感がないですわね」
「無さすぎだろ…一応世界的な問題なんだぞ………」
主催であるイネミス前皇帝がまだやってこないので、みんなして思い思いにおしゃべりしていた。
疑問系になってしまう褐色肌の男モーハン。一人称「僕」の少年ジョセル。微妙に偉そうな口調の派手な兄ちゃんシャーヒーン。「アル」が語尾につく暑そうな民族衣装を着た婦好。こちらは本当に偉そうな若干露出過多なステファニー。時々キーの下がった喋りかたをするド派手な男リチャード。
「しかしイネミス殿はまだ来ないのか……会議開始時刻はとっくに過ぎているぞ」
「そういえば、なにやら医者を呼べだのと騒いでおったな?誰か倒れおったのじゃろうか」
「はい、イネミス様はただいまぎっくり腰でお医者様に診てもらっておられます」
会議室の扉を開閉音を一切立てずに入ってきた幼い少女がそう言い放った。
「うおっ!?いつの間に入ってきたんだ!?」
「あら?あなたもしかしたら、教皇殿ですの?」
「はい、私がサン・テレサ教の教皇、エルル3世です。どうぞお見知り置きを」
エルル3世がぺこりと会釈した。
「で、イネミス殿は欠席かい?別に僕たちだけで進めてもいいけど、主催国の代表が欠席はまずいんじゃないの?」
「はい、ですので、セルト殿が代わりに出席いたします」
セルトの名前を聞いた瞬間、王たちが露骨に嫌そうな反応をした。
「大丈夫なのか………。まともな噂を聞いたことがないのだが……」
「私が進行を務めますのでご安心ください」
安心した者は一人もいなかった。
アルノ、アリン、王たち、そしてミーミアスの皇帝セルトとエルル3世の10人が円卓に座り、会議が始まった。
「それでは第999回王族会議を始めます。司会進行は私、エルルが務めさせていただきます」
「記録はどうした?表向きの会議であろう」
会議には記録係がいるものだが、民衆には知らせずに会議を行う場合は記録係がいない。しかし逆に、祭りにまで発展させた会議に記録係がいないというのは異例である。
「イネミス様は今回はできれば王族だけで話したいことがあるとの事でしたので、会議が終わり次第私が必要な部分だけを記録いたします」
「当のイネミス殿がいないのでは仕方がないのでは?」
「セルト殿がイネミス様より話の内容を仰せつかっておられるとお聞きしましたが……」
エルル3世がセルトを横目で見る。
「仰せつかっただと?まるで私が父の下僕であるかのような言い方だな?」
「いいえ、他意はございません」
エルル3世がめんどくさそうに言い訳する。彼女もセルトの相手はしたくないのだろう。
「常々思っていたことだが、何故余は『殿』で父が『様』なのだ?余が父より下だと申すか?」
「いえそのような事は………」
「さっさと始めろぃ。内輪揉めは他所でやれゃ」
「失礼しました」
エルル3世は素直に謝罪したが、セルトは忌々しそうにリチャードを睨んだ。
「では、先月より出現する謎の生命体についての議論を始めます。まず、各国の被害状況からご報告ください」
「まずは俺からでいいか?」
モーハンが軽く挙手しながら同意を求める。
「ではモーハン様より時計回りでお願いいたします」
「確認だが、魔獣共の発生原因はみんな知ってるな?」
「サン・テレサ教の宝具とやらだろ」
「そうだな?エルトに『白い靴』があったんだよな?じゃあ、他の4つは見つけた者はいるか?」
「メソポタミアに燭台があった」
「中国には乳母車だ」
「アンデスに銀のペンダントじゃ」
「手鏡はまだ見つかっていないのか……」
「よし、ではおそらくだが、エジプトとインダスの魔獣はメソポタミアの燭台から生まれた、と仮定して話を進めるがいいな?」
「ああ」
「まずインダスに現れた魔獣だが?複数体の水棲生物かな?蛇のようなものや、犬のようなもの?幾つかの動物をつなぎ合わせたような生物で、海岸に多く現れてな?多くの船を沈められたんだぜ?死者は400人以上いたかな?」
複数の生物をつなぎ合わせたような生物。アルノはそれを聞いて、サソリ女はもちろん、アイも人間と狼を掛け合わせたような姿をしているなと、そう思い、なんとなく嫌な気分になった。
「女の上半身に犬と魚の尾ひれの下半身の魔獣はいなかったか?」
「僕も聞きたいことがある、琴を奏でる女や、巨大なカニ、水上を駆ける馬なんかもいなかったかい?」
「いや、なにせ数が多くてな?甲羅を背負った獅子や、牙が以上に鋭いシャチなどは確認できたが?」
どうも仮説とやらは正解かもしれない。エジプト文明、メソポタミア文明、インダス文明の被害と魔獣の性質がかなり似通っている。
「何匹か捕らえてわかったことだが、人間の形をしているものや、人間の頭を持つものはどうも知能が高いらしい?」
「なるほど、シャーヒーンお前のところは?」
「被害はインダスと似ているが、陸に上がって来たものがあってな、死者数は1000人を超える。追い返しはしたが、またいつ戻ってくるか」
「僕のところも同じだ。ただ砂漠地帯だからね、陸に上がるのはキツイのか被害が海上に集中している。死者は200人ほどだ。海岸沿いの町は内陸に避難させている」
水棲生物だから砂漠は暑すぎたのか、それとも他に理由があるのかはわからないが、エジプトの方は今の所は大丈夫そうだ。
「では妾の番であるな。アンデスにあらわれたのは飛行する生物じゃ、巨鳥はもちろん蛇、馬、翼の生えた人間じゃ。死者も100人近く出ておるが、むしろ家畜の被害が凄まじい。一晩で1000頭近い羊が全滅していたという報告もある。今は大量に仕入れた機関銃や対空砲?とやらで警戒している」
「聞ぃた限りだと俺んとこと似ているな。メソアメリカの魔獣もアンデスの銀のペンダントから生まれた可能性が高ぃな。俺んとこは死者は相当数出ていて数え切れなぃ。予測では5000人は超えているんじゃぁねえか」
「5000人だと!?逆に家畜の被害はどうだ?」
「家畜の被害もかなりのもんだがよぉ、それ以上に自然界への影響が酷くてなぁ。ほとんどの魔獣がロッキー山脈に住み着いちまったようでよ、付近の動物たちが軒並み殺されちまってんだよ」
「お前のところが一番被害が大きいようじゃの」
「いや、こっちも被害は相当アル。ヒマラヤ付近は奴らのたまり場になってしまっていて、近隣の村々が幾つも壊滅させられてるアル。死者は最悪でも4万人を超えてるアル」
「4万人だと!?」
「それは、相当やばいのではないか?」
「いや、ヒマラヤの付近を縄張りにしたらしく、近づかなければ襲ってくる事はないアル。それと魔獣だけど、どうも報告を聞いた限りでは伝説や伝承に残っている『妖怪』と実によく似ているネ」
「妖怪というと、例えば?」
「どうにも日本の妖怪の報告が多いネ。中国の妖怪の報告もあるアルが」
何故中国で日本の妖怪が現れる?そもそも何故伝説に則った生物が生まれるんだ?付近の生物に影響を与えて、それを変化させるという力ではなかったのか?
「聞いてもいいか?その乳母車よ?どこにあったんだ?」
「あ、そうアル。あれは日本の琉球にあったアル」
なるほど。日本の妖怪が多い理由はわかった。ならば何故海を渡ってヒマラヤに………。高山なら日本には富士山があったはず。
アルノはそこまで思考して、自分が報告する番であることに気づく。
「最後に俺だな。ゼリーンは被害がでていないからな。魔獣は2体。死者は50人もいない。サソリと女をつなぎ合わせたやつと、狼と少女を掛け合わせたやつ。狼の方は捕獲して、教育している」
「教育?」
「ああ、今この祭りに連れて来ているぞ」
「はあ!?」
「バカではないかえお前!?」
「落ち着け、力は強いがほとんど人間だ。ペットか子供みたいなものだ」
案の定、ひんしゅくを買ったが報告しない訳にはいかない。
「待てエルト王よ、まさかあの小娘か?余の国にそんなものを連れ込んだのか?」
だんまりだったセルトがさすがに食いついてきた。
「貴様、魔獣を飼いならし、余の国を攻撃するつもりであろう」
そう言うだろうと思っていた。
「力が強いといっても知能はまだ幼児のようなものだし、戦闘能力自体はむしろ俺の方が高いくらいだ。それにちゃんと躾ている」
確かにアイは力や俊敏性、感覚器、タフネスは凄まじいが非常に動物的な戦い方をする。つまり動きが単純なため、戦闘能力自体は非常に弱いのだ。
「余に無礼な態度を取っておいて、何がちゃんと躾ている、だ。笑わせるでない」
「危害を加えようとしたのはお前だろうが」
「余の服を汚したのだぞ。弁償するのは当然であろう」
「ならば正式に賠償請求すれば良いものを。奴隷船に載れと言ったそうだな」
アルノがそう言うと、他の王たちの目が鋭くなる。
「奴隷船だと?国際法を破ればどうなるか知らない訳ではないだろうが?」
「それが事実ならばお前の立場から考えて、この国が丸ごと責任を取ることになるぞ」
「国の領地は一番近い文明に隷属、ということになるね。ルーマニアだから、僕のところかメソポタミアに吸収ということになるよ?」
王たちが次々に責め立てる。国際法違反は個人ならば処刑ものだ。ましてや王ともなれば国ごと責任を取らされる可能性が高い。無論、セルトは処刑。それだけでなくイネミス前皇帝も処刑される可能性まである。もしもミーミアスが反抗すれば戦争になってもおかしくない。
「ふん、エルト王の妄言など信じるのか貴様らは?常に警備の者が付く余に、そんな真似ができるわけがなかろう」
セルトは当然否定してきた。
「そうだな、では聞かなかったことにしてくれ。俺も話を聞いただけだからな」
アルノも言わなかったことにした。不安定なサン・テレサ教に余計な刺激を与えては戦争になるかもしれないと、そう思ったからだ。奴隷船の有無はあとで密偵を出して探らせるとしよう。
「………ではその言葉、信じよう。さて、話を戻すがアルノ、その子からわかったことは?」
「特に何もない。宝具に触れさせてみたりしたが何も起こらなかった」
「そうアルか……」
そこで若干話が詰まる。
「………あの、気づいた事があるのですが……」
が、エルル3世が眉に皺を寄せながら話を切り出した。
「今皆様のお話された魔獣の外見なのですが、前に読んだ文献に出てきた怪物とよく似ている気がするのですが………」
「妖怪のことアルか?」
「いえ、他にもです。お話を聞く限り、『オデュッセイア』のスキュラやケルピーやローレライ、ペガサスやハーピーなどの怪物に似ているような気がしまして」
「それは……、どうなんだ?」
「なんとも言えないね、確かに似ているとは思ったけれども、いろんな奴がいたからね。伝承や伝説に出てくる怪物と似ているものがいても不思議ではないと思うよ」
「いや、しかし妖怪たちはほとんどが伝説に残っているようなものばかりだったアルよ。ぬりかべや一反木綿、鬼に天狗に河童、絡新婦に猫又に鵺に雪女。有名な妖怪のオンパレードだったアル」
「たしかにサンダーバードやロック鳥やフェニックスらしきものもおったのう………」
「待てよ?もし他の全ての魔獣どもが、伝説に則って生まれたものだとしたらよ?相当やばい奴が何十体もいるぞ?もしも能力なんかが伝説どおりだとしたら、目を合わせただけで即死する奴や、天候を操る奴なんかがいるぜ?」
魔獣が伝説の怪物と同じという仮説に、王たちが若干の動揺を見せた。だが
「待てよ、だとしたらエルトの魔獣はどうなんだ?サソリ女やアイのような怪物を聞いた事があるか?」
そうアルノが切り出す。
「アイ?」
「ああ、すまんさっき言った狼のことだ」
「サソリ女の方は思いつかないが、狼の方はワーウルフではないのか?」
「だが月を見て変身するわけではないぞ?」
「実際ヨーロッパの伝承ではワーウルフは月を見て変身したりはしないらしいぞ」
「しかしあれを見たらワーウルフとは言えないような、最初見たときは尻尾の生えた人間としか思わなかったしな」
あれがワーウルフ、狼男の類かと言われると微妙なところだ。どちらかと言うと獣人である。
「……………魔女」
「ん?」
今まで口を閉ざしていたアリンが急に口を開いた。
「宝具について全員が承知の上だったようですけど、つまり皆様のところにも『偽ウィッカ』の方がいらしたんですわよね?」
「え?」
エルル3世が素っ頓狂な声を上げた。
「うぬ?エルル3世よ、ミーミアスは違うのか?」
「待てステファニー、先にアリンの話しを聞こう。アリンよ、その通りだそれがどうした?」
「我々のところにはアリス・カイテラーという方がいらっしゃいましたわ。皆様の所へはなんという方がいらっしゃったんですの?」
「妾のところにはクレオパトラという錬金術師を名乗る者が来たのう」
「えっ?錬金術師でクレオパトラって、コプト夫人と名乗っていなかったかい?」
「うむ、コプト夫人クレオパトラと言ったか」
「知っているのかジョセル」
「1世紀頃の女錬金術師だよ。ウロボロスをシンボルマークにしているんだ」
「ああ、そういえばウロボロスの首飾りをしとったの」
ジョセルが動揺を見せる。ジョセルは試すような口調で自分の元へやってきた魔女の説明をする。
「………ぼくのところにはイレアナという女性がやってきたが……」
「イレアナですか?イレアナ・シムジアナかイレアナ・コスンツァーナと名乗りませんでしたか?」
「!?あ、ああ。お好きな方でお呼びくださいと、その二つの名前を……」
「教皇よ、イレアナというと『勇士ペトレア』のか?」
「はい、ルーマニアの民話に登場する魔女です」
なんだ?妙に不穏な空気になってきたぞ?
「俺のところは確か?ソルビョルグと言ったか?預言者だと言っていたぜ?」
「ソルビョルグならグリーンランドの民間伝承の『赤毛のエイリークのサガ』に出てくる予言者だな」
「私のところへは、ラ・ヴォワザンというのが来たアル」
「フランスの毒薬作りの魔女ですわ」
「俺んところはぁ、確かイザベル・ガウディ、っつたなぁ」
「スコットランドの魔女だな、確か」
「メソポタミアにはシプトンなる者がやってきたな」
「マザー・シプトンか。そいつもイギリスの予言者だ」
全員の話しを聞く限り、全ての魔女が記録に残っている者たちだ。
「……いやなぜお前たちそんなに詳しいのだ?」
「うちに来たアリス・カイテラー侯爵夫人について調べていたら、魔女に関する文献を見つけてな」
「アリス・カイテラーも魔女狩り時代に実在した人物でしたの」
「魔女狩り?」
エルル3世が初めて聞く言葉に首を傾げた。
「あっ」
「馬鹿…」
アリンがしまったというような顔で、アルノに非難された。
「あの、魔女狩りとは一体」
「ふむ、魔女全員が歴史上に記録がある存在だとすれば、魔女たち自身も、宝具によって生まれた魔獣である可能性があるな」
シャーヒーンがエルル3世の言葉を無視して話しを進めた。
「あぁ、逆にそれが本当だとすれば、魔獣共が伝説を基にして生まれたっつぅ仮説も信憑性を帯びてくるな」
「まあ、だとしたらなぜ魔女たちが我々に魔獣に対する警告をしたのか、など謎は尽きないアルが」
アリス・カイテラーを含む魔女たちは、誰も自分たちの目的を明かさなかった。アリス・カイテラーも、アルノたちに言いたい事だけ言ったら、アルノたちの目の前で煙のように消えていったのだ。
「それでエルル3世?『偽ウィッカ』の者が来たのでは無い的な反応をしていたな?では誰が来たのだ?」
「えっ!?いやその……はい。ルスヴン卿と名乗る銀髪の男性でした。魔獣が現れる一週間ほど前に、宝具が暴走して恐ろしい化け物が現れる、宝具を回収して破壊しろと仰ってました。『偽ウィッカ』という名は聞きませんでした」
質問を無視された上、急に話しを振られたエルル3世が慌てながら、ミーミアスへやってきた者の話しをする。
「ルスヴン卿………?」
アルノはその名前に聞き覚えがあったが、思い出せない。だが魔女では無いのは確かだ。魔女ではないのに聞き覚えがあるということは、魔女以外の存在として宝具から生まれた存在だろう。
「ふむ、お前たちでも知らないようだな。しかし情報が少なすぎるな。真相究明にはまだ時間がかかりそうだ」
シャーヒーンがやれやれと首を振る。
「さて、被害報告から随分と話が逸れたな。謎が多いが情報は出揃った、とりあえず今後の方針を決めよう」
「そうですわね。では『偽ウィッカ』への今後の対応。宝具の処遇についてと言ったところですわね」
魔獣自体は各国でそれぞれ対応しているようなので、魔獣の大元を先に処理してしまおうという事になった。
「『偽ウィッカ』については今のところは味方のようだし、要警戒ということでいいアル」
「何が目的かはわからないけどな?何も事態が動いていないのに手のひら返してくるとは思えないからな?」
「では宝具については?」
「それについては余から本国への返還を求める」
無言を貫いていたセルトがいきなり口を開いた。
「となると、ミーミアスは各国が受けた損害の賠償をするということじゃな?」
「何?何故そうなる?余は我々の物を返せと言っただけであるぞ?」
「なぁにを馬鹿な事言ってんだぁ?宝具の劣化具合から見て、宝具を隠したのは何百年も前のミーミアス人かサン・テレサの信者どもだろぅよ。だから今のミーミアスには何の責任も無ぇ、宝具はこっちで勝手に処分する。だがよ、それを返せと言うなら話は別だ。所有物だと主張するんなら所有者としての責任をとってもらわねぇとなぁ?」
リチャードがど正論を吐く。王たちは皆同意するように頷く。
「ふざけるなよ貴様何を……」
「払わねぇってんなら攻撃とみなすぜ?」
リチャードが冷たい眼差しでセルトを脅しかける。
「っ……!」
「返して欲しけりゃ賠償金。それが嫌ならこっちで処分する。どっちだ?まぁ、この国のもん全部売っぱらっても微塵も足らねぇと思うがなぁ」
「それでは宝具の破棄はお願い致します」
エルル3世が宝具の破棄をリチャードに依頼した。
「教皇よ!貴様何を勝手にっ……!」
「国が破綻しますよ。そんな多額の賠償金など一体どこにあるというのです?宝具を返還されてもその宝具も賠償金の一部になってしまうだけです。微塵の得もありません」
エルル3世がセルトを黙らせた。セルトは悔しそうに唇を噛んでいたが、何も言い返せなかった。
「じゃぁ、宝具は全部俺に預けてくれ。太陽にでも捨てさせる」
「お前のところの謎技術そろそろ妾のところにも売ってくれんかの?」
「賠償金の比じゃなぃぜ?」
リチャードが卒倒しそうな金額を口にすると、ステファニーの目から光が消えた。
「じゃあ今日はこれまでにしよう。明日は各国の協力体制について綿密な計画を練る」
「明日以降から、おそらく付近の王族もやってくるだろうし、ローマ帝国から新兵器の発注もしておいたほうがいいですわね」
「日本は来るのか?日本刀仕入れたんだけど?」
「日本は中国文明じゃないアル」
王たちがそれぞれ明日の会談に向けて確認を取っている間、セルトがイラついた表情で王たちを睨みつけているのに気付いたのは、アルノだけだった。
続く