Ⅰ.発狂したうさぎ
……赤黒い花が咲いた床を見つめる
「こんなはずじゃ……なかった……」自分の記憶を塗り替えるように、何度も何度も繰り返し続ける。どんどん唾液がなくなっていき、唇がくっついたまま固まってしまったとたんに、全身の力が抜け、壁に腰かけてしまっていた。早くこの部屋から抜け出して、誰もいないところに逃げなくちゃいけないのに。
今ある力を振り絞って、震える足を手で押さえながら立った。固まった唇と唇を思いっきりはがして呟く。「行かなきゃ______
プシュー……プシュー………
私が呟いたと同時に、ドアの向こうから空気が漏れる音が生々しく聞こえた。
ッッ!?„鬼”が近づいてくるッ!!
そう思った時には遅かったらしく、ガチャッ…ガチャガチャガチャッ!!!!ドアノブが激しく上下に揺れ始めた。鬼はもうすぐ近くに来ていたのだ。
鍵をかけたつもりなのだが、鬼には鍵のかかったドアは藁の家のような物だ。最初から分かっていたことでしょう?しばらくすれば、こじ開けられてしまう、と。
部屋に唯一ある大きな窓の窓ガラスを盛大に割って、ガラスの破片など気にせずに外の世界へと飛び込んだ。
飛び込む瞬間、ふと後ろを向いたとき…鬼は微かに笑っていた。