始まり2
チケットを見せ言われるがまま進んでいくと、街があった。俺の住んでいた街とは全く違う雰囲気だ。どうやらアジア系の人々が住んでいるらしく、先程から自分達とは全く違う人種の俺を、物珍しそうに見詰めていた。
「貴方がヴァルター=エメリッヒさんで、間違いないのかな? 」
後ろから声がしたので振り返ると一人の少年がいた。綺麗な黒髪に、それが映える白い肌、所謂美少年と呼ばれる部類だろうか、どこか儚げで電子書類で見た大和撫子なんて呼ばれそうなそんな少年が俺を見詰めていた。
「・・・綺麗だな。」
「・・・えっ」
無意識で溢した言葉がどうやら聞こえていたらしい。彼は少しだけ動揺したようだ。
「すまない、ヴァルター=エメリッヒは俺であっている。君はこのチケットに関係があるのか? 」
先程俺の名前を呼んでいるから関係があるのだろうと思いチケットを見せてみた。すると彼は一瞬寂しそうな表情をしたが、また笑顔を作って関係者であることを告げた。
彼が目的地まで案内してくれるらしいので着いていくことにした。今の俺にはこの綺麗な少年しか頼れる人はいないのだから。
「そういえば、僕の紹介まだしてなかったよね? 僕は安条楸です。長い間になるか短い間になるか分からないけど、取り合えずよろしくね? 」
「・・・ああ、よろしく。」
気になることは山ほどあるが、目的地に着けば分かるだろうという軽い気持ちで、俺は彼の後を追った。彼の背中は何だか物悲しく見えた。
「あの、さ。」
彼が突然口を開いた。
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから寄り道しない? 」
彼の目元が滲んでいる。何故かは分からないが、何かから怯えているように見えた。
「どこに行くんだ? 」
無意識に彼に答えている自分がいた。このままでは彼が消えてしまいそうなのを本能で察したようなそんな気がした。たかが十数分前に出会っただけの相手だというのに。
行き着いた先は広場のような場所だった。
「ここはね、海だった場所なんだって。でもほら、科学が発達しすぎて今じゃ科学が政権を決めるなんてそんな時代でしょ?だから綺麗だった海がどんどん汚れてきちゃって、人に害を及ぼす可能性があるってことで埋めちゃったんだって。今は何も建ってないけど、あと一年もしたら娯楽施設が建つって噂があるみたい。」
「・・・海。」
僕も綺麗な頃なんて見たことないんだけど、そう言うと彼は寂しそうに笑った。海を思わせる物は何一つなかったが、彼が言っているのであれば多分間違いはないのだろう。
「安条。」
「ひさって呼んで? ヴァルターさんは特別だから。」
「そうか、じゃあ俺のことも好きなように呼んでくれ。」
じゃあヴァルって呼ぶねと言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。出会ってから一番綺麗な笑顔だった。
「ひさ、そろそろ行こうか? 遅くなるのは相手に悪いし、何よりひさの帰りが遅いと心配するんじゃないか? 」