始まり
同性愛表現がございます。
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俺はただ好きなだけだ。何処の誰とも変わらない、ただ一人の人を愛しているだけなんだ。
彼の声を聞く度癒され、彼の姿を見る度自然と笑みが零れた。彼だけが俺の全てだった。それなのに、
「辞めてよ、気持ち悪い。」
絞られた様に彼から放たれた声は、俺の知らないものだった。
彼から紹介したい人がいるからと言われ、向かった先には街で一番可愛らしいと噂されている女性がいた。嫌な予感がした。彼女は顔を赤らめ、俺に交際を申し込んできた。交際は当然のものだと思わせるような自信ありげな中に、ほんの少しの羞恥を交えた表情で、そして甘えるような作られた声で。俺にはどうでもいいことだ、しかしその反面、俺は絶望を得た。俺の想い人である彼は、俺を自身以外の別の、それも女と交際して欲しいという思いを知ったからだ。
どうすることもできない不安に駆られた俺は彼女との交際を断り、彼の元を訪ねた。絶望に溺れる俺とは裏腹に彼はとても幸せそうに笑って、好奇心丸出しの表情で俺を見ていた。現実に喘ぐ俺は彼を押し倒し、彼に好きだと告白した。すると先程の言葉が俺に向かって放たれたのだ。俺のこの感情は気持ちが悪いものなのか。ただ周りの人間と同じように、人間を、彼を愛しているだけだというのに。現実から逃れたいがために俺は彼を抱いた。否、強姦した。気持ち悪い、止めろ、親友だと思っていたのに、裏切り者、死ね、沢山の刃が涙と共に俺に突き刺さった。当然の報いなはずなのに、胸が痛かった。
俺はただ愛しあいたいだけなんだ。彼の薄い唇に口付けてみたいだけなんだ。互いに支えあえる仲になりたいだけなんだ。何故分かってくれない。何故許してくれない。何故俺を苦しめる。何故、好きになってはいけないんだ。俺には分からない。
何処かで俺が同性愛者だと知った俺の両親は、世間からの非難を恐れた。俺の育った街は同性愛は禁忌だということを俺はその時まで忘れていた。地下に一生閉じ込められるか、それとも今ここで殺されてしまうのか、そうしたら俺は彼には会えなくなる。ただそれだけが怖かった。
街の人々が寝静まる頃、俺はこれまで育った家を追い出された。一枚のチケットを渡され、二度と此処には帰らないことを約束され、俺はこの地を去ることを強制的に選ばされた。
彼に別れの言葉も謝罪の言葉も言えないまま、俺はこの地をさったのだった。